“演劇界の暴れん坊”流山児祥がコロナに吼える!~「『表現したい』をどう実現させるか、本気で考えようぜ !!」

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2020.8.16
 『ジャパンデミック 〜13人のイカれる作家たち〜』より「政治家」

『ジャパンデミック 〜13人のイカれる作家たち〜』より「政治家」

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誰が言ったか“演劇界の暴れん坊”こと、劇団「流山児★事務所」を率いる流山児祥。コロナ禍でも、感染には細心の注意を払いながら、またずいぶんとせわしなく動いていた。コロナ禍で構想した流山児★事務所×コラボニクス自主製作映画 『ジャパンデミック 〜13人のイカれる作家たち〜』、国境を超えて行き来できないためにオンラインでやり取りした流山児★事務所(日本)&阮劇団(台湾)国際共同制作公演『道-The Road-』、2020年8月20日から始まる高取英メモリアル『寺山修司―過激なる疾走―』の3作品をほぼ時期を同じくして制作していた。自身も寺山に憧れ、「少なくとも精神的にはアナーキストでありたい」と語る流山児。こういう破天荒なオジサンは、時にとても頼もしい。

『寺山修司―過激なる疾走―』稽古場より

『寺山修司―過激なる疾走―』稽古場より


 

――お元気ですか?  コロナ禍では自粛されていたんですか?

流山児 元気ですよ。いわゆる世間的なジシュクはしてなかったから、メチャ忙しい。もちろん、ほとんど外には出てなかったよ。会議はzoomだし。今、いろんなことがあぶり出されて面白いよね。貧しい者は貧しく、富める者は富み。ただ人は等しく死ぬというリアルなフーケイ。俺もいい歳ですから、恐怖はあるけれど、なんなんだろうね、コロナの時代って、シンプルに言えば面白い。でも「3.11」以降、あれだけ考えようと言ってたのに、ここまできてしまった。「3.11」以降、俺たちはずっと「非常事態宣言下」なんだよ。「改ざんと隠蔽と忘却の日本」がコロナ禍で右往左往している、嗤えない喜劇。俺も50年演劇をやっているけど、表現ってなんなのか、なぜ演劇は必要なのか、日々ジシュクし、本気でアナーキーなこと、考えてるよ。

――その話題から行きますか !

流山児 俺はこの20年間、何カ月か海外で過ごしていて、最近の4年は台湾と付き合っていた。時々、日本の演劇人って何を考えているんだろうと思うわけ。実は、6月下旬が、台湾との共同制作作品『道-The Road-』の公演の初日の予定だった。今は行き来できないからオンラインで作品づくりをしているけれど、逆に言えばコロナは国境をぶっ壊してしまったね。そういう意味では、何をもってつながるか、国境や境界の意味はなんなんだってことを問われているんじゃないか。この200年の資本主義は霧散する可能性がある。全世界で石鹸自粛国家、石鹸警察国家が生まれてきている。そこではみんなが「清潔」でいなければいけない。「人類の末路」を見ているようで実に面白いよね。

――なるほど……

流山児 これからどういう演劇が必要なのか? 誰のために演劇をやっているのか考えないと、本気でヤバイと思っている。俺は牧歌的でアホだから、こんなときこそ「面白いこと」やれねえかな?  みんなで面白いことをいっぱい考えようよと思うんだよね。

 演劇人はさ、誰かとつながりたいという思いが根っこにあるじゃん。その先にお客さんがいると思うんだよ。モチロン、表現は「誰か」のためにあるんだけど、いちばんは先ず「自分たち」だよね。俺なんて50年も劇団をやっているからさ、自分たちの「表現の場」には恵まれている。最近の演劇人は「集団」をつくろうという発想を持ってないからね。「集団」でつくって、それを持って、集団で移動していく……“河原乞食”だよね。俺はこの「原点」を、まだまだ持っていたいなあ。だから、コロナ禍での俺の老いた身体を映像や舞台作品に遺そうと思って好き放題やってるんだよ。

とにかく「流山児祥の老いた身体を見せればいい」

――そうそう、それが本題なんです。流山児さんは13人の劇作家さんに一人芝居を依頼したとFacebookで拝見しました。

流山児 流山児★事務所×コラボニクス自主製作映画 『ジャパンデミック 〜13人のイカれる作家たち〜』というタイトルに決まったよ。外に出られない、人と会うこともできないというジシュク状況=非常事態宣言下で、自分が、自分たちがやってきたことを見つめ直す時間ができた。そのときに映画製作なんて発想が生まれたわけ。いろんな人にコロナを描いてほしい、中途半端な一人芝居の記録映像ではなくて、映画として遺そうってね。まず天野天街に相談して、2、3日かけて片っ端から電話したよ。天野、佃典彦、佐藤茂紀、山崎哲、秋之桜子、詩森ろば、ケラリーノ・サンドロヴィッチ、大西弘記、わかぎゑふ、ラサール石井、鹿目由紀、しりあがり寿、中村ノブアキ。「コロナを嗤え」というテーマで「黒い笑い」を書いてください、すみませんがノーギャラで(笑)とお願いしたら「流山児だから仕方がない」と全員、笑諾!!!(笑)。

流山児★事務所×コラボニクス自主製作映画 『ジャパンデミック 〜13人のイカれる作家たち〜』


 それでBARBEE BOYSのドキュメントを撮っている40代の才能あふれる映像監督「コラボニクス」と、少しずつ撮っていった。自主規制なし、すべてぶっ壊せばいいというのが俺の発想なんだけど、映像表現はもちろんクオリティと思想が問われるよね。映画人とキチンと付き合うと演劇も変わってくる。今、オンライン演劇で、安易に作品をつくって、垂れ流してるのを時折見かけるけど、何でもかんでも映像配信って何だろうね?  ま、みんな状況を横目に見ながら少しずつ動き出してるんだからしょうがないか。

 『ジャパンデミック 〜13人のイカれる作家たち〜』より「会見」

『ジャパンデミック 〜13人のイカれる作家たち〜』より「会見」

――できてきた脚本はいかがでしたか?

流山児 シンプルに言えばABEの悪口が多かったよ、ま、俺がやるんだから(笑)、アナーキーでシュールでオモシロいよ(笑)。最初は「流山児祥の一人芝居」をお願いしたんだけど、実際は俺の一人芝居は3本だけ。二人芝居、三人芝居のときはソーシャル・ディスタンスを保ってやらなければいけないから、Space早稲田(流山児★事務所の稽古場兼拠点劇場)で10人未満で済むように撮ろうと。最後は劇団員全員出そう、バンドを出そう、じゃあどこかライブハウスとか使ってって。後で見て、ここはあのライブハウスじゃん!   これ本多劇場じゃん? あの劇場だ、あれ、ゴールデン街じゃん、みたいな感じになってる。

 俺はとにかく「老いた身体を見せればいい」と思ってやってた。どこかの「世界の片隅に」こういうジジイがいたんだというのを遺せるかもよ。“現代美術の父”マルセル・デュシャンの言葉に「死ぬのは他人ばかり」というのがあるんだけど、寺山さんはそれを「自分の死を量ってくれるのは、いつだって他人。それどころか、自分の死を知覚するのだって他人」と言った。「死ぬか生きるか」は自分で判断できるけど、「もはや死んでいるのか、それとも生きているのか」は他人の判断によるしかない。われわれは「私」「他者」というものにがんじがらめになるじゃないですか。だからこそ「自」と「他」を、やんわりとつなげるものになればいいなと思うんだよね。

――公開はどうされる予定ですか?

流山児 短いのは2、3分で、長いのは10分。全体で1時間半ぐらいの作品になる予定。ショート・フィルムフェスや海外の映画祭に出したり。昔、若松孝二監督からSpace早稲田を映画館として貸してくれないかと言われたこともあったし、いっそSpace早稲田をミニシアターにして、コロナ禍で定員の半分の30人しか容れられないけど、流山児★事務所のお宝映像をプラスしたりトークショウ付きでやれば案外当たるんじゃないかって「取らぬ狸の皮算用」をしているよ(笑)。1000万のスポンサー募集中です。

 『ジャパンデミック 〜13人のイカれる作家たち〜』より「サインボール」

『ジャパンデミック 〜13人のイカれる作家たち〜』より「サインボール」


 

台湾との共同制作『道-The Road-』、高取英メモリアル『寺山修司―過激なる疾走―』も並行して

――この時期には台湾との共同制作の予定があったんですよね?

流山児 『ジャパンデミック 〜13人のイカれる作家たち〜』は、プロデューサーと出演、台湾との共同制作作品『道-The Road-』は、プロデューサー、芸術監督だからモチロン現場に毎日いたよ。大変だった(苦笑)。日本側は稽古で一人芝居を3本、プラス自宅で1本撮った。台湾側でも3本撮った。もともとSpace早稲田で上演する予定だったから、スタッフも照明、音響、美術、衣裳が日本側で、台湾側は劇作、演出、振付、それから布袋劇という伝統的な人形劇を組み合わせて一つの劇作品をつくる予定だった。でもお互いの国をどうも行き来できないぞということで、3月からオンラインワークショップを始めて、どんどん「戯曲化」して、演出家や映像作家とディスカッションし、最終的にはオンライン演出でつくりあげた。そして最後に舞台映像と布袋劇をミックスさせて一つの作品にする。撮影は終了したけれど、編集して9月26日(土)〜10月2日(金) には字幕付きでオンライン「世界配信」する予定です。

9月26日(土)〜10月2日(金) 字幕付きオンライン配信を予定

9月26日(土)〜10月2日(金) 字幕付きオンライン配信を予定

――すごい勢いですね?

流山児 8月20日から下北沢ザ・スズナリで高取英メモリアル作品として上演する『寺山修司―過激なる疾走―』の稽古も大詰めです。6月は、3つのプロジェクトを時間をずらしながら進めてきた。絶対に「密」にならないように打ち合わせの場所を変えたり、映画も照明の日と音響の日と全部ずらしながらやったよ。検温も消毒だって毎日ちゃんとやって、熱がある日は来ちゃダメだって徹底してやっている。

流山児祥(左)と高取英

流山児祥(左)と高取英

 『寺山修司―過激なる疾走―』は、2018年に死去した、俺と40年を超す付き合いのあった敬愛する友人である月蝕歌劇団の劇作家・高取英が2006年に発表した寺山修司の評論を原作にした評伝劇で、2007年に初演されている。高取は大学卒業後に寺山の取材・出版スタッフとして活動して、劇中では寺山がどのように形成されたかといった伝記的ドラマが、彼のライバルである三島由紀夫の死への道筋と照らし合わせながら描かれている。この高取の代表作を、J・A・シーザーの名曲の数々をぜいたくに散りばめた「音楽劇」につくり替えた。さまざまな感染対策をとって、何とか上演しようと思っている。もちろん、スタッフ・キャスト全員のPCR検査もやりました。劇団経営は危機的状況で、大赤字が必須の公演なんだけど、なんとか、上演できたらと願っている。

『寺山修司―過激なる疾走―』稽古場より

『寺山修司―過激なる疾走―』稽古場より

――“新しい生活様式”のなかでの演劇はどうなると思いますか?

流山児 問題は、お客さんが安心して劇場に戻ってきてくれるかですね。客席を半分にして、それで埋まればいいけれど、さらに来なかったら……。俺は「劇場なんか捨ててもいい」「演劇は他者との出会いのなかにある」という考え方だから「外で気楽に演劇ができる運動やらないか?」という思いが強い。まず公園法や消防法を変えていく、勝ち取っていく。「街中で普通に演劇ができる」、その方が面白い。コロナの時代に一度、みんなで演劇の表現の多様性を話しあおうよ。劇場での公演はもちろんあっていいんだけれど「表現をしたい」という思いをどう実現させるかを本気で考えなきゃいけない。

 この間の文化支援運動を見ていて俺、面白いなあと思うことがあるんだけど、この半年間、演劇人がこれだけ国会議員と会ったことって演劇史のなかでも初めてじゃない?  政治家とフツーにしゃべれる演劇人が増えている。そういう体験をした演劇人は変わると思うよ。それから、ライブハウスやミニシアターといった映画・音楽のジャンルとの文化支援活動での共闘、これも愉しい出会いだと思う。コロナを体験したことで新しい言葉を生み出しつつあると思う。その新しい言葉を手にして、みんなでものを考え、語り会い、シェアしながら、何かを生み出している現場は面白いし、楽しみですよ。これからは彼らによる社会的発言が今までと違う形で出てくるんじゃないかな。

『ジャパンデミック 〜13人のイカれる作家たち〜』より「クランクアップ」

『ジャパンデミック 〜13人のイカれる作家たち〜』より「クランクアップ」

取材・文:いまいこういち

公演情報

流山児★事務所公演
高取英メモリアル寺山修司―過激なる疾走―

 
■日程:2020年8月20日(木)~24日(月)
■会場:下北沢ザ・スズナリ
■作:高取英
■音楽:J・A・シーザー
■演出:流山児祥
■出演:
伊藤弘子 里美和彦 木暮拓矢 鈴木麻理 山下直哉 山丸莉菜 
竹本優希 橋口佳奈 松永将典 本間隆斗(以上、流山児★事務所)
白永歩美 岬花音菜 石津ゆり(以上、月蝕歌劇団)
紅日毬子(虚飾集団 廻天百眼)  霍本晋規(劇団三日月湊)
■特別出演:伊藤裕作
■全席指定(税込)一般4,000円/はじめて割3,500円/学生・U25(25歳以下)・演劇養成所生2,500円/高校生以下1,000円
■開演時間:20・21日19:00、22〜24日14:00
は完売
※8月27日(木)19:00~31日(月)配信あり。詳細は劇団まで。
■公式サイト:http://www.ryuzanji.com​
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