大賞は山本正典(コトリ会議)、佳作はピンク地底人3号(ももちの世界)が受賞した「第27回OMS戯曲賞」授賞式&公開選評会レポート

2021.1.7
レポート
舞台

「第27回OMS戯曲賞」佳作を受賞したピンク地底人3号(左)と、大賞を受賞した山本正典(右)。 [撮影]吉永美和子(このページすべて)

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関西在住の劇作家の、実際に上演された新作を対象とした「OMS戯曲賞」の、第27回目の授賞式&公開選評会が、12月15日に開催された。来場する人数を制限したり、ライブ配信が行われるなど、コロナ禍ならではの状況で行われた授賞式と、今回も熱いコメントが続々と飛び出した公開選評会の模様をレポートする。

今回の応募総数は54作品。その中から最終候補に残ったのは、以下の9作品だ(作者名50音順・()内は上演団体)。

植松厚太郎『夕夕方暮れる』(立ツ鳥会議)
小栗一紅『愛しのクマちゃん~くじらの日々~』(くじら「本」会議)
キタモトマサヤ『空のトリカゴ-Birdcage In The Sky-』(遊劇体)
棚瀬美幸『これ から の町』(南船北馬)
中村ケンシ『ステインド  グラス』(空の驛舎)
橋本健司『わたしは家族』(桃園会)
ピンク地底人3号『カンザキ』(ももちの世界)
山本正典『セミの空の空』(コトリ会議)
横山拓也『あつい胸騒ぎ』(iaku)

 

大賞は、第25回・第26回の連続で佳作を受賞した、山本正典(コトリ会議)の『セミの空の空』。佳作は、今回が最終候補初ノミネートとなった、ピンク地底人3号(ピンク地底人/ももちの世界)の『カンザキ』が受賞した。

『セミの空の空』で大賞を受賞した山本正典(コトリ会議)。

受賞式で山本は「この公演に関わってくれた、すべての皆様に感謝申し上げます。今回の公演は神戸・東京・久留米で上演しましたが、神戸公演で3号さんという方から(笑)『いつまでこんなことをやってるんだ!』という風に叱咤激励いただきまして、そこから死にもの狂いで書き直して、東京公演に挑みました。(受賞は)そのおかげだと思います」と、意外な裏話を明かした。

一方、思いがけず山本に塩を送る形となった3号は「僕と山本君は年も一緒で、どちらも20代では全然芽が出なくて(笑)、ずっと意識してきた作家さんは山本君だけ。だから彼が大賞を取ったのは、素直におめでとう、という感じです。僕は別の戯曲賞で彼に勝っているので、これで一勝一敗。また別の所で出会えたらと思います」と山本に祝辞を述べるとともに、「いろんな人の力で書き上げた作品でした」と、同作の関係者に感謝の言葉を送った。

『カンザキ』で佳作を受賞したピンク地底人3号(ピンク地底人/ももちの世界)。

授賞式に引き続き、全選考委員がそろった公開選評会が行われた。今回の選考委員は、佐藤信(劇団黒テント/鴎座)、鈴木裕美佃典彦(劇団B級遊撃隊)、土田英生(MONO)、樋口ミユ(Plant M)と、前回と同じ顔ぶれだ。

最初に「今年応募した方たちは、実はすごく不利(笑)。いつもだったら、大賞でもおかしくない作品ばかりだった」(佐藤)「どの作品も、どこか絶対面白いという感じでレベルが高かった」(鈴木)との言葉があった通り、今年は取り分けハイレベルな戯曲ぞろいだったとのこと。特に山本と3号のどちらを大賞にするかで、これまでにない長丁場の討論が繰り広げられたそうだが、結果的に山本が僅差で競り勝つ形になったという。

戯曲賞選考委員。(左から)佃典彦、土田英生、佐藤信、樋口ミユ、鈴木裕美。

『セミの空の空』は、人工の2つ目の月が誕生して、昼と夜が曖昧になった世界で、自殺をした人、まもなく亡くなろうとしている人、それを見送る人など、死をめぐる様々な人間模様を描き出した、SF調の群像会話劇だ。選考委員からは、その独創的な物語世界の発想と、死生観の描き方に称賛の声が集まった。

佐藤:選考委員が一致したのは、作者が作った新しい世界が、そのディティールまで大変独創的なこと。佳作・佳作・大賞というのが、いかにその力がコンスタントかということを示している。この視線をもう一つ外に向けて、私たちがコロナをきっかけに出会った今の世界のことを、山本さんの世界として再構築した作品が読みたい。

鈴木:これまでの作品は、読む時にチューニングを合わせるのが大変だったけど、今回は長―い電車のSE(効果音)とか、セミが(両親の)頭に付いてることなど、いろんなものを「楽しんで大丈夫だ」という感じで味わえた。核がすごく明快になったと感じた。

ドラマ『半沢直樹』の怪演で大きな評判を呼んだ、佃典彦(左)と土田英生(右)も、前回からそろって選考委員を務めている。

佃:この2つ目の月を、僕は勝手にスマフォと解釈して読んで「これはすごい」と思いました。今の現実を絵本みたいに書いてるのが、この作品の好きな所。「命を設定する」という考え方も、死者と生きている人間との距離感をぼやかせる……生きている人間が悲しまなくて済む装置だと思って、いいなと思いました。

土田:読んでてかなり笑ったけど、こういう抽象的な世界で人を笑わせるのはなかなかできない。笑いって価値観のズレなんで、頼るもの(価値観)がないと笑えないから。山本さんの世界は「これは何のメタファーだろう?」と考え出すと整合性が付かないし、昨年の作品は破綻があったけど、今回は必要最小限のアイディアと工夫で一気に書き切ったと思う。

樋口:見えないものを見ようとする行為を、一貫して続けていらっしゃって、それがすごく尊い行為だと思う。会話の一つ一つがとても愛しくて、魂は愛しい人、愛しい場所へと帰っていくという物語だと思って読みました。

第27回OMS戯曲賞 公開選評会の様子。

一方の『カンザキ』は、関西の小さな家族経営の会社を舞台に、暴力と圧力がはびこるブラック企業の実態と、そこに入社したトランスジェンダーの青年の過酷な運命を描いた会話劇。キャラクターや風景の描写の卓越具合と、LGBT問題の扱いについて、特に言及する評が目立った。

佐藤:登場人物を上から見ないで、同じ視線に立つ、あるいは下から見上げるような視点で一人ひとりに寄り添っている。その視点によって、トランスジェンダーを一方的に救ったり糾弾するわけではなく、ある限界の中での一人の人間の有り様として描けた、とても優れた作品だと思う。その視線を維持しながら、今執着している場所から離れて、自分の知らない場所や新しい人間を見つけて、作品を書いていただきたい。

鈴木:まったくなじみのない場所なのに、そこの匂いや音、質感が手に取るようにわかるし、登場人物も知り合いかと思うように、生き生きと描けてるのが素晴らしい。トランスジェンダーや隠れゲイも、出すことが目的みたいになっておらず、その場にきちんとその人のように存在していることも、なかなかできることではない。(主人公の)遥の存在の解釈や、ラストシーンの是非に対して、ああだこうだという愉快な会話がみんなでできたのも、これが素晴らしい戯曲だからだと思います。

佐藤信(劇団黒テント/鴎座)。

佃:僕は3号さんの大ファンで、場所の空気感の生々しさや、登場人物の魅力が、全部匂いになって感じられる所が好きなんだなあと思ってます。今の時間と過去の時間を行ったり来たりしながら、本質に迫っていく作劇術も面白いけれど、今回はそのスパンをもっと長くした方が良かったかなと思う。

土田:正直、登場人物が5人以上出る本は(読むのが)しんどいと思うけど(笑)、3号さんの作品は一人ひとりのキャラクターが立っているし、しかも細部までブレていない。世界を再現する解像度がすごく高い、圧倒的な技術です。ただ佃さんが指摘したように、(時間の)スパンが短いと、割と途中で先が読めてしまうので、ドキドキ感がちょっと薄れた気がします。

鈴木裕美。

樋口:私たちが知らず知らずのうちに作り上げている「男性像」というものを、男の人が冷静に批評性を持って書いている作品を、私はあまり見たことがなくて、そこでハードルを上げてしまったかも。この2020年の現在に、物語の中でトランスジェンダーの人を死なせなくてもよかったのではないか? というのがどうしても引っかかった。これだけの批評性を持っているなら、死を使わずとも、きっとそれが描けると思います。

また他の作品に関しては、以下のような言葉が送られた。

『夕夕方暮れる』:「シースルーレイヤー」と勝手に名付けたんですけど、(違う日にちの)同じ時間の出来事を、全部同時に舞台に上げるという。このアイディアは面白いけど、結局は一人の人間が同時には存在できない……「演劇にはこういうことができない」という結果になるので、逆に演劇の可能性をせばめてしまったのではないか。もっと人間関係の描写に力を注いだら、もう一展開いったのでは。(樋口)

佃典彦(劇団B級遊撃隊)。

『愛しのクマちゃん』:今回唯一、読みながら泣けた作品。芝居でドキュメントを書くと、こういう作業になるんだなあと。ただ僕は、大竹野(正典)さん(注:本作の題材となった劇作家。2009年逝去)の作品を演出したことがあり、少しこの人のことを知っているから感動したのかもしれなくて、大竹野さんとまったく無関係でこれを読んだ時にどう思うのかが想像できなくて、推すことができなかった。(佃)

『空のトリカゴ』:家族の会話が本当に上手で、特に大阪弁をちゃんと音通りに記述するというか、方言の音通りに書いているのも面白かった。ただ、物語を動かす叔父さんとの会話になった途端に、台詞がちょっと説明的になってしまったのが惜しい。演劇を描く時に、作者の意図があまり見えると途端に冷めるけど、「このように理解してください」という作者の方向づけが、そこでハッキリと見えてしまった。(土田)

『これ から の町』:複雑な男女関係を描いている芝居のように見えて、実は今の現実からどうやって、そこから先に飛び出すかという芝居として読ませていただいた。たった6人の関係性を通して、社会全体を書こうという意思は、すごく志が高い。残念に思うのは、地域語と標準語の複雑な仕掛け。独自のルールがあるのがちょっと読み切れないところがあり、やっぱり読者のルールに従って書いてほしかった。(佐藤)

土田英生(MONO)。

『ステインド  グラス』:完成されている作品だけど、取材した情報の中から、戯曲の中に残すべきものは何か? という拾い出しが上手く行ってないのと、地震という仕掛けを上手く使い切れてないのが気になった。同時発語の指定があるけど、それをあえて選択する理由が僕はわからないので、何を求めているのだろう? と。そういうことも含めて、ちょっと情報で作られ過ぎている。中村さんの個性が見える戯曲が読みたい。(佐藤)

『わたしは家族』:よくも悪くも、とても人見知りという印象。デリケートで正直だけど「この世界(の理解)は、あなたが努力してください」と言ってるような感じがしてしまいました。いつもの作品は、人見知りのあまり人前で踊っちゃうような、こっちから近寄りやすい所があるのに、今回は「入って来ないでもらえますか?」感があるなあと。ちなみに、信さんが「手書きの本ってちょっと得してない?」とおっしゃってました(笑)。(鈴木)

『あつい胸騒ぎ』:日常の中にある無意識の「あるある」を拾い上げた、会話の面白さは本当に天下一品。ストーリーにも破綻はないけど、少し目線が上からというか……「こういう事情を出して、こう展開させれば、ドラマになって面白い」という所から作ってるように見えて、そうなるとどうしても一つひとつの物事が題材に成り下がってしまう。題材にどう体重を乗せて、自分のこととして書くか? が大事だと思う。(土田)

樋口ミユ(Plant M)。

また選評会の最後には、佐藤が「歳に免じて聞いていただきたい」と断りを入れた上で、若い劇作家たちに向けて、以下のような長いメッセージを贈った。

COVID-19が起きて、世界がどう動いたか。今は文明史的な出来事が起きた年だと思うし、すごく大事な時代に僕たちは生きていると思うんです。演劇は集団作業だけど、劇作というのは演劇的な行為の中で、たった一人で始められる唯一のセクション。今劇作家は、仕事をするべき時だと思います。

それは芝居を書くというだけではなく、これだけ時間があるから、今のうちにやれることが見つかると思うんです。今起きていることをきちんと記録する。資料をたくさん読む。そうすることで、言葉以前の、言葉にならないものの本質を捕まえるという劇作家の仕事で、ぜひ社会を見てほしい。

演劇は今本当に、役割を問われている時代だと思います。演劇は今までいろんなことがあっても滅んでないし、滅びないというのは確実だけど、多分“市場”じゃない役割を持たないといけない。その最小単位となっているのが劇作家だと思う、ということをお伝えしておきたいと思います」。

2020年度に書かれた戯曲が対象となる、第28回のOMS戯曲賞は、戯曲賞始まって以来初めて「未上演の作品も対象」となった。2020年は、舞台に上げたくても上げられなかった戯曲、発してもらいたくても発してもらえなかった言葉が、どれだけあふれているのかということに思いを馳せずにはいられない。

「そろって受賞できて嬉しい」と口をそろえる、ピンク地底人3号(左)と山本正典(右)。

しかし最後に佐藤が述べたように、この歴史的な非常事態となっている世界の模様を、一人きりでも想像を膨らませて、エンゲキの萌芽を生み出すことができるのが劇作家だ。入賞を果たした山本や3号だけでなく、最終候補に残った作家、さらにはまだ名前は上がっていない未知の才能が、この世界の閉塞感や悲しみを正確にとらえたり、憂鬱を吹き飛ばしたり、未来への道標となるような作品を生みだしてくれることを、心から期待したい。

大賞と佳作作品を収録した戯曲集は、2021年3月に発売される予定。

イベント情報(終了)。

第27回OMS戯曲賞 授賞式・公開選評会

■日時:2020年12月15日(火) 19:00~
■会場:大阪ガス本社ビル 3Fホール
■公式サイト:https://www.osakagas.co.jp/company/efforts/so/oms/

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