松坂桃李×広瀬すずインタビュー 映画『いのちの停車場』の現場で見た“命との距離感”と未来への希望
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左から、松坂桃李、広瀬すず 撮影=iwa
5月21日より公開中の映画『いのちの停車場』は、『サイレント・ブレス』や、NHKのドラマ『ディア・ペイシェント』原作小説で知られる南杏子氏の同名小説を映画化した作品だ。大学病院に勤めていた救命救急医がある事情から父の住む実家へ戻り、在宅医療を通して患者と向き合う姿を描いている。本作で主演をつとめる吉永小百合は、実際に在宅医療を行う“つるかめ診療所”の鶴岡優子氏、鶴岡浩樹氏や、東京女子医科大学・救命救急センター長の矢口有乃氏に医療指導を受け、自身初となる医師役=白石咲和子を演じている。メガホンをとったのは、『孤高のメス』や『八日目の蝉』などの成島出監督。
“咲和子先生”とともに、患者たちと向き合うことになるのが、松坂桃李演じる元大学病院事務員・野呂聖二と、広瀬すず演じる訪問看護師・星野麻世の二人だ。まほろば診療所を舞台に、在宅医療だけでなく、終末医療や老老介護など、様々な現代医療の現実を映し出す本作で、松坂と広瀬は何を感じ、何を得たのか。
在宅医療の現場を演じること
松坂桃李 撮影=iwa
――現代医療の実情や、死生観にも触れるセンシティブな作品だと思います。最初に脚本を読まれた際には、どう臨もうと思われたのでしょう?
松坂:野呂は、咲和子先生の後をついていって、その背中を見て、在宅医療の患者の方々と向き合っていく役柄なんです。だから、作品の中で、野呂自身が段階を経て、どう成長していければいのか? ということを考えて臨みました。
――在宅医療については、何かしらリサーチなどされたのでしょうか?
松坂:いただいた資料を読んで、あとはリハーサルで確認して、現場に臨みました。「この題材だから気をつけよう」と隔てて考えないことで、より問題提起も出来る作品になるんじゃないかな、と。
(C)2021「いのちの停車場」製作委員会
――広瀬さんはどうでしょう?
広瀬:登場するどの家族のかたちも、誰でも何かは共感できるというか、「遠くない世界」という感覚は、台本を読んだときに受けました。こんなにも年齢がバラバラで、それでも“勝てないもの”があったり、待つしかなかったり……そういった心情に触れたのが、私は初めてだったので。現場に行って強く感じたのは、イメージだけではお芝居が出来ないな、ということです。
広瀬すず 撮影=iwa
――「イメージだけではお芝居が出来ない」とは?
広瀬:柳葉(敏郎)さんのエピソードで、私が「心拍数がわかりません」と言うシーンがあるんです。イメージだけだと、最後の1本(心拍をとるの)をもうちょっと粘りたいと思って、焦っているわけではないですけど、ちょっと早口で、「THE医療の現場」というイメージで演じていたら、監修について下さった鶴岡(優子)先生に「在宅は、そこでは焦りません」と指摘されました。「そこは待つんです。わかっていてこうなっているから、そのテンションじゃないです」と言われて、「なるほど」と思いました。
松坂:それは確かに、「なるほど」だね。
広瀬:「血圧が測れません!」というニュアンスではなくて、「もう(状態が)ここまできていますという、報告の意味を持つセリフにしたほうがいいと思います」と言われて、感心しました。関われば関わるほど、医療のことは難しかったですね。
――成島監督の現場は初めてとのことですが、印象的だったことはありますか?
松坂:急に撮り方を変えたりするところとかでしょうか。それこそ、ラーメン屋で会話するシーンがあるんですが、そこではほぼレンズに向かって芝居をしました。ほぼレンズだけと向かいあって芝居をして、それをカットバックで繋ぐ、みたいな。出来上がりを観ると、それまでのカメラワークとは違う空気が出来上がっていたので、「これはすごい」と思いました。
松坂桃李 撮影=iwa
――野呂と麻世が向かい合うシーンは多かったですね。松坂さんは、とても泣く場面が多かった。
松坂:成島監督には、「“泣き虫野呂くん”でいてくれ」と言われました。
――独特の泣くタイミングは、脚本から読み取られたものなのでしょうか?
松坂:そうですね。台本のト書きから、「なぜこうなるのか」という理由を整理して、「こういう感情が積み重なるのか」を理解して、あとは現場に入ってからどう感じるか、です。
――広瀬さんは松坂さんの泣く姿を見て、何を思われていらっしゃったのでしょう?
広瀬:野呂っちは、人の感情を超えていくくらいのものを受け取ってくれるので、ラーメン屋さんのシーンは、ちょっと冷たい言い方になるかもしれませんが、自分のことを話しているからこそ、こちらはいい意味で冷めるんですね。だからこそ話せて、受け取ってくれる野呂っちに、想いを素直に言える。その距離感が絶妙すぎて、あんまり覚えていないんです(笑)。その瞬間のものでありすぎて、感覚があまりなくて、映画をあらためて観てから、「ああ……こうだったな」と思い出しました。
広瀬すず 撮影=iwa
――わりと、入り込んで作っていく芝居だったんですね。
松坂:そうですね。ただ、もちろんリハーサルもありましたし、テストも何回かやりました。
――広瀬さんのお芝居はかなり感情を抑えていて、野呂とは対照的に細かな仕草を見せているように思えました。何か監督から指示があったのでしょうか?
広瀬:監督には、とにかく「動かないで!」と。「できれば、瞬きもしないで」と言われるくらいでした。私は動くことで感情を濁すというか、そういう芝居をやるつもりで現場に行ったら、「動かないで!」と(笑)。とにかく無駄なことをしないでほしいと言われていました。でも、映像を観たら私、想像以上に瞬きしていて、ちょっと反省しています(笑)。
――(笑)
芝居の距離感、命との距離感
広瀬すず 撮影=iwa
――吉永さんとの初共演は、いかがでした? とても芯の通った役柄を演じてらっしゃいましたが。
松坂:ぼくは、吉永さんのあの空気感で「大丈夫」とか、おっしゃることに不思議な安心感があったというか、「説得力」を感じました。それこそ、柳葉さんの手を思わず握りしめてしまうシーンでも、背中をさすってくださっていたんですよ。そういう、温もりの中にある力強さというか、そういうものを感じていました。
広瀬:背中をさするとか、ちょっとした手のしぐさですよね。最後に私を抱きしめてくれるシーンがあるんですが、吉永さんは段取りやリハーサルのときは、「ポンポン」と背中を押してくださっていたんです。でも、本番ではその数がちょっと変わって、少なくなっていました。お芝居が進むにつれて、どんどんと感情も感覚も変わるから、受け取るものも違ってくる。私も変わっていったし、吉永さんも変わっていったのかな、と。一つひとつのお芝居で、言葉ではないものを、いっぱい送ってくださいました。受けとめるほうが、非常に苦しいというか……一緒にお芝居させてもらって、それが“説得力”なのかと思いました。
――西田敏行さんのお芝居はいかがでした?
松坂:ぼくは、西田さんとは2度目の共演だったんですが、何と言うんでしょう……引き出しの多さがすごい。本当に巧みで、1度目に共演させていただいた時(『マエストロ!』)にも思ったことですが、お芝居の種類の多さに圧倒されるんです。どこか安心感もあって、何でも受け取ってくれそうな、包み込むような力がありますね。
松坂桃李 撮影=iwa
広瀬:私も、西田さんとご一緒するのは2度目です。本編にはないんですが、私が仙川先生の車いすを押して、お姉ちゃんのお墓参りに行くシーンを撮影したんです。その時の空気感と言うんでしょうか……西田さんは何でも受け止めてくれる。たぶん、仙川先生のすべてを明るくしてくれるおおらかな感じに、まほろば診療所の人たちや、そこに通っている患者さんたちみんなが救われているんだろうな、と。だから、「まほろばじゃなきゃダメだ」と言う人がいるのは、そこなんだろうな、と思える。お芝居なのかお芝居じゃないのか、その境目がわからなくなってしまうくらいにナチュラルでした。
(C)2021「いのちの停車場」製作委員会
――西田さん=仙川先生の明るさは、観客にとっても救いになっていると思いました。
松坂:そうですね。
――お二人それぞれに、印象に残ったエピソードがあれば教えてください。
広瀬:私は、やっぱり萌ちゃん(小児がんの8歳児/演:佐々木みゆ)ですね。あの純粋さに、結構やられました。私もまだ22年しか生きていないと思うのに、それよりも数年若い、それくらい短い人生になってしまった……ということには、思うものがあります。
松坂:ぼくはやっぱり、柳葉さんのお話ですね。柳葉さん(の演じた役)が、うちの父親と同い年くらいなので、ちょうどリンクするというか。距離感が似ていたり、「たしかに、そんなに(父親と)しゃべってなかったな」とも思ったり。「ああ、(最期は)こんな感じになるのかな」と、ちょっと思ったりもしましたね。
広瀬すず 撮影=iwa
――野呂と麻世は、“見送る”ことで変化していく、成長していく部分が大きい役柄ですよね。人の見送り方について、何か思うところはありましたか?
松坂:「気づき」というわけではないですが、あらためて思ったのは、人はいずれは死んでいくし、その瞬間をどのように終えるか、ということですね。自分のためなのか、あるいは自分の大切な人のためなのか……もしかしたら、ぼくだったら誰にも迷惑をかけないように生きたい、死んでいきたいと思うのか。あるいは、自分のやりたいようにやって最期を迎えるのか。それは、その局面になってみないとわからないですが、そうしたことを、ふとした瞬間でも考えさせてくれた、と思います。
広瀬:私は、患者さん側、看護師さんや助ける側、どちらの立場になっても、最後の咲和子先生の選択を知ると、一生かけてもその答えは出ないだろうな、と思いました。ダメなことはダメと決められているけど、人を想うことを優先すると、咲和子先生が選んだ結果になってしまうのかもしれない。本当に、その時にならないと正解は出てこないだろうな、と。特に、咲和子先生とお父さんのエピソードからは、そう思いました。
松坂桃李 撮影=iwa
――最後に、この作品が、このコロナ禍の中で公開されることについて、思われることがあれば。
松坂:やはり、命に対しての距離感というものが、多少なりとも縮まったと思うんです。その中で、こういった作品を観てくださった方々がどう感じられるのか、というのはすごく気になります。観ていただけたら、どう解釈して、どう生きていくべきか、どう向き合っていくのか。それをいい方向に、ポジティブに変えていてもらえれば、と思いますね。
広瀬:コロナ禍の状況に限ったことではないかもしれませんが、人を助けるお仕事や、人のためにやる仕事、命と向き合うということは、特に私たちの世代では、そうそうはないと思うんです。だからこそ、それこそ20代の方にも観てもらえて、何か、生きることに対しての希望が生まれればいいな、と思います。
左から、松坂桃李、広瀬すず 撮影=iwa
インタビュー・文=藤本洋輔 撮影=iwa
『いのちの停車場』は公開中。