松本幸四郎構成・演出で46名の日本舞踊家が舞い踊る~「第4回未来座=祭(SAI)=『夢追う子』」

レポート
舞台
2021.6.5

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2021年6月4日、第4回日本舞踊未来座=祭(SAI)=『夢追う子』が国立劇場小劇場で開幕した(公演は6日まで)。「SAI」は、「Succession and Innovation(継承と革新)」の頭文字。日本舞踊の伝統をつなぎながら、未来への光を放つ公演でありたいという思いが込められた企画公演だ。日本舞踊協会が主催し、今回が第4回となる。構成・演出は松本幸四郎、振付は水木佑歌、西川大樹、若柳里次朗、花柳大日翠。初日の前日、マスコミ向けに公開されたゲネプロ(総通し稽古)の模様をレポートする。

⬛︎魂を込めて、体を動かす

日本舞踊未来座は、2018年に“裁(SAI)”と題してオペラ『カルメン』を、2019年には“彩(SAI)”と題して『ピノキオ』を日本舞踊で上演した。

そして今回は、“祭(SAI)”。『夢追う子』は、オリンピック選手になることを夢見る1人の少年が、神ゼウスから与えられる試練を経て青年へと成長していく物語。本来、オリンピックは神にささげられた競技祭であり、そこに、日本の祭りを重ね合わせているという。

「祭りとは神に捧げる舞。舞とは、魂を込めて体を動かす姿。そのためには修練が必要。互いに競いながら、分かち合いながら強い心を養っていく。養う心の支えに夢を持つ。夢を抱く日本舞踊家の今の心をエネルギッシュに踊ります」(公式コメントより)

■日本舞踊をベースに、日本舞踊のイメージを拡げる

「人、ひたすらに走る」

そんな言葉で幕があく。舞台に舞踊家たちの姿が現れる。プロローグを含めて全7シーン。舞踊家たちの群舞が中心となる。神話の世界ではじまり、扇子や神楽鈴を使う舞踊からコンセプチュアルなものまで、舞踊のバリエーションは豊富。振り、音楽、ステージング、照明デザインまで、従来の日本舞踊のイメージを覆すダンスパフォーマンスだ。バシッと決まったときの形の美しさに、「あ、日本舞踊公演だった!」と我に返る。そして舞踊家たちの身体能力に驚かされる。

音楽も、和の要素がつまった楽曲、エモーショナルなインスト曲、洋の東西も時代も超えて響くプリミティブな太鼓のリズム、小鳥がさえずりとともに行き渡る深呼吸したくなるような明るいナンバーと様々。祭囃子に舞踊家たちの力強い足音が重なり、心を揺さぶる。

美術は、五輪を思わせる5色の紗幕。中央に3本、上手と下手に1本ずつ、帯状のものが上部からふわりとたらされており、古代ギリシャの神殿にそびえるエンタシスの柱にも見えた。かと思えば、演者たちの手により、まとめられ、ねじられ、表情を変えていった。

■スタイリッシュに、力強く

特筆したいのは、本作全体を通して特定の主人公らしい主人公がいないこと。台詞もない。構成・演出の幸四郎も、"1/46"に徹していた。スチール席ではカメラのレンズが、群舞の中から幸四郎の姿を探しだそうと右往左往する瞬間もあったほどだ。

それでいて、全員に役名が当てられている(公式サイト参照)ことも興味深い。46人全員にアイデンティティがあり、ドラマがあるということだろうか。全体を通して、1つのエネルギーの塊がぶつかってくるような力強い作品だった。しかし一人ひとりに意識を向けてみると、表情にも振りにも個性が感じられた。生態系でも、社会でも、一企業でも、多様性がある集団は、強いという。流派を越えたメンバーが集まったからこそのパワーを感じる。

これまで日本舞踊と接点がなかった方には、純粋に圧巻のステージパフォーマンスとして楽しめるはず。それを培った日本舞踊に興味がわくだろう。ふだんから日本舞踊に親しんでいる方は、きっと舞踊家たちのふだんとのギャップも含め、一層楽しめるのではないだろうか。

最後に公演初日に向けてよせられた、松本幸四郎のコメントを紹介する。

いよいよ明日、2年越しの公演『夢追う子』が開幕いたします。多くの流派の日本舞踊家の集合体「日本舞踊協会」が、「踊りたい」、「観ていただきたい」との思いを力に50名以上の方々とリモート稽古から公演に向けて前進し、その集大成を皆様に御披露する日がついにやってきました。日本舞踊家が夢に向かって舞い踊る力強いエネルギーを、ぜひ劇場で受け取っていただきたいです。皆様の未来への希望や勇気となりますように。心より御来場をお待ちしております。

取材・文・撮影=塚田史香

公演情報

第4回日本舞踊 未来座 =祭(SAI)=『夢追う子』

■会場:国立劇場小劇場
■日時:2021年6月4日(金)~6日(日)
6月4日(金)15:30/19:00
6月5日(土)11:00/14:30/18:00
6月6日(日)12:00/15:30
■料金:全席指定 8,000円(税込)

■構成・演出:松本幸四郎
■振付:水木佑歌、西川大樹、若柳里次朗、花柳大日翠
■出演:
松本幸四郎
泉秀彩霞、岩井寛絵、尾上博美、尾上紫、勝見嘉之、中村光都靖、西川一右、西川扇里治、西川扇重郎、花ノ本寿、花柳曄小菊、花柳喜衛文華、花柳邦秀雅、花柳秀衛、花柳寿之真瑠、花柳輔悠奈、花柳寿々彦、花柳寿万籠、花柳寿美柚里、花柳摂月華、花柳雅あやめ、花柳真珠李、花柳基はるな、坂東扇弘、坂東信兎音、藤蔭里燕、藤間勘楚恵、藤間晃妃、藤間皓也、藤間翔央、藤間笙三郎、藤間扇里、藤間涼太朗、松島昇子、松本幸雅、松本幸凜、水木歌蓮、水木紅耶、水木都亜歌、水木佑阿、吉村輝洸、若見匠祐助、若柳杏子、若柳弥天、若柳佑輝子、若柳勒彩(50音順)


■公式サイト:https://www.nihonbuyou.or.jp/performances/detail/351
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