第2回「名古屋演劇杯」終幕。栄冠を手にしたのは…

レポート
舞台
2015.12.17
 左から・【劇団賞(大賞)】を受賞した、劇団「放電家族」主宰・作・演出家の天野順一朗、【俳優賞】を受賞した川本麻理那

左から・【劇団賞(大賞)】を受賞した、劇団「放電家族」主宰・作・演出家の天野順一朗、【俳優賞】を受賞した川本麻理那

【劇団賞】は劇団「放電家族」、【俳優賞】は川本麻理那と長沼日登美に

9月に当サイトで紹介した「名古屋演劇杯」の【劇団賞(大賞)】と【俳優賞】が決まり、去る12月8日、審査員による講評会がG/pitで行われた。舞台上には、今回審査にあたった刈馬カオス(「刈馬演劇設計社」代表、劇作・演出家)、小島祐未子(編集者・ライター)、吉田光佑(昨年の受賞団体「room16」演出家)の3名と、G/pitのオーナーが登壇。主催者を代表して松井真人が司会を務めた。

講評会の様子

講評会の様子

審査方法は、【劇団賞(大賞)】【俳優賞】ともに1位5点、2位3点、3位1点という審査員3名の投票による得点制で、事前に行われた審査会(非公開)に於いて授賞団体と授賞者を決定。【俳優賞】のみ同点になった場合は複数授賞とし、得票のあった俳優はノミネート者として発表する形式で、いずれも講評会前に公式サイトで発表。結果は以下の通りだ。


◆名古屋演劇杯大賞  ※総得票10点/15点満点
劇団「放電家族」第拾弐回放演『すくえ! ヨシムラちゃん!』
作・演出/天野順一朗
出演/さとうあやな、川本麻理那(劇団あおきりみかん)、中内こもる(劇団中内(仮)/クリアレイズ)、不動湧心、ヤマモトアヤ(フリー)、長沼日登美(劇団いがいと女子)、天野順一郎、吉田汐美、結城ゼミナール

◆最優秀俳優賞  ※総得票8点/15点満点(同点につき2名受賞)
川本麻理那(所属:劇団あおきりみかん 出演作品:劇団「放電家族」)
長沼日登美(所属:劇団いがいと女子 出演作品:劇団「放電家族」)

◆最優秀俳優賞ノミネート
臼井亜鶴(所属:フリー 出演作品:劇団中内(仮))
戸谷託也(所属:赤いスリッパ企画 出演作品:赤いスリッパ企画)
元山未奈美(所属:演劇組織KIMYO 出演作品:演劇組織KIMYO)


受賞作の『すくえ! ヨシムラちゃん』は、大人になることをやめ、奇跡を起こし続ける女子高生姿の“吉村ちゃん”を教祖に据えた宗教団体の顛末を描いた作品で、【俳優賞】を受賞した川本麻理那は吉村ちゃんを、長沼日登美も同作で平和活動家の恋人を演じた。講評会では、参加11団体(詳細は公式HPまたは関連サイトを参照)の上演作品について約3時間に渡り詳細な意見が述べられ、G/pitのオーナーによる特別賞「オーナー賞」の発表も。こちらは、赤いスリッパ企画に授与された。

川本麻理那と並び【俳優賞】を受賞した長沼日登美

川本麻理那と並び【俳優賞】を受賞した長沼日登美


 

【劇団「放電家族」上演作品『すくえ! ヨシムラちゃん!』講評】

刈馬●劇団の力量を考えると少しもの足りない作品ではあるが、平均点以上を出して他を制した、地力の強さが大賞に結びついたと思う。教団の様子が具体的で、儀式…“おっこちょさん”とか、教祖のことを「吉村ちゃん」と“ちゃん付け”で呼ぶあたりは気が利いていて、ごっこ遊びがそのまま教団化したような幼稚さと、教団の規模自体は成熟しているということが同時に存在している。それが、制服姿で学生時代と変わらない容姿を保ち続ける吉村ちゃんの姿と重なり、何かと引き換えにした業のようなものを感じられた点が鮮やか。ただ、現在と過去を行き来する場面は、あそこまで入り組んだ構成にすることが効果的だったのかは疑問。もっとシンプルにした方が物語を追いやすく、劇的効果も高まったのでは。現在に起きている問題が終盤まで判然とせず、破滅に至るところが唐突な印象。牙彫山(吉村ちゃんの側近で教団の実質的指導者)と吉村ちゃんの関係性がもっと強く書かれた方が単純に感動するな、とも。川本さんが堂々と主演を張って素晴らしかったが、吉村ちゃんの苦しみや悲しみ、葛藤がもっと見えてくると良かった。
 
小島●私だけ、実は票を入れておりません。まず、役者がみんな出っぱなしで(演技者以外は舞台脇の椅子に座っている)、いわゆるメタ演劇みたいな「これは演劇ですよ」ということを強く見せる形になっているが、戯曲の性質から言うと作家の主張が非常に強いので批評性や客観性には乏しかったと思う。もう少しストレートな演出の方が良かったのでは。社会的メッセージが強い作品だけに青臭いものも感じ、照れやはぐらかすようなところもあって、中身の重さとあまりバランスが良くなかった。ある限られた雰囲気の中でのやり取りを見ているようで、観客は自分の問題として受け止めにくい。終盤あたりで天野さん演じる牙彫山が大上段からの演技を展開するが、そこまでのノリとかなり違うので観客は置いてきぼりをくらう。登場人物それぞれの七転八倒の末にそこへ行き着いてほしいと思うが人間が書ききれていない。劇作家には「この人は何を言うだろうか」という登場人物の声を聞きながら書き進める作業が必要では? <書いている人>と<書かれている人>の関係をしっかり見つめ直して、戯曲を推敲した方がいいと思います。
 
吉田●今回は、パンフレットを読んでから上演を観ようと思って全部を見ました。(放電家族は)圧倒的にパンフレットの情報量が多かった。正直、前半は芝居に粗さが見えたが、パンフレットを読んだことで人物紹介や関係性、設定が補足され、パンフレットも含めて公演として考えると、受け取りやすく見えて良かった。小島さんの話と近いが、所どころ作家自身が見え隠れするようなところを感じ、そこがどうしても説教臭くなってしまう要因になっているところがあった。これは、思い切り出しきって自分をぶつけてカリスマのような作品にするか、もう少しひとつの事象に対して客観性をもって描いた方が良かったと思う。全体的には政治的なことや思想的なことを軽妙に見せ、すごく取っつきやすい感じだと僕は思ったので、面白く観させてもらいました。今回、この作品に出ていた役者2人が同時に俳優賞を受賞しましたが、感動度合いが一番高かった作品だったので、役者の方たちも舞台上で良い演技をしていたと思う。それは、粗さがあるとはいえ、やはり作・演出の実力があって俳優が良く見えているのかなと思いました。


全会一致の得票とはならず厳しい意見も投げかけられたが、見事大賞を獲得した劇団「放電家族」。受賞後第一作はどんな作品になるのか、期待が込められた苦言をバネにこれからどう飛躍していくのか、また【俳優賞】を獲得した両名の今後の活動にも要注目だ。


「名古屋演劇杯」公式サイト:http://nagoyatrouper.com/cup/

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