MOROHAアフロの『逢いたい、相対。』第二十七回目のゲストはカネコアヤノ 自分の嫌いな部分を見つめ直したら、自分を肯定できるようになった
MOROHAアフロの逢いたい、相対:カネコアヤノ 撮影=森好弘
MOROHAアフロの『逢いたい、相対。』第二十七回目のゲストは、シンガーソングライターのカネコアヤノ。曲作りとは、今まで生きてきた中で目にした景色、生きてきた中で感じた感情を楽曲に昇華する作業。いわばメロディという名のフレームに、歌詞という名のパズルをはめていくことなのかもしれない。今回は2人がどのような幼少期や青春時代を過ごしてきて、それがどのように音楽に作用しているのかが分かる内容となった。そんな2組は9月4日(土)に広島クラブクアトロにて開催されるMOROHAのツアーで対バンすることが決定している。ライブ開催前に、ぜひチェックして欲しい。
●子供の頃のことは、忘れないように歌詞にする●
アフロ:高円寺ですれ違ったのが最初の出会いだったよね。
カネコ:私が古着屋さんで買い物をしていて、お店を出たら知り合いと遭遇し「あー、久しぶり!」なんて話をしていたら、隣にアフロさんがいて。
アフロ:そうそう。それが俺とカネコさんの初対面。
カネコ:高円寺に住んでいたんですか?
アフロ:うん、西友の近くに住んでた。高円寺には8年くらいいたかな。
カネコ:私は4年ぐらい阿佐ヶ谷に住んでました。近いので古着を買うのもそうだし、遊ぶ時も高円寺に行くことが多かったですね。
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アフロ:阿佐ヶ谷もいい街だよね。でも中央線沿線に住んでると売れないというジンクスをよく聞くよね。居心地が良すぎるということなのかな。
カネコ:分かります! 不思議と中央線臭が出ますよね。
アフロ:あれは何なんだろうね?
カネコ:やっぱり磁場というか気が強い。私、スピリチュアルとかではないけどそういうのを感じる時もあります。高円寺で買い物をしていてお手洗いに行きたくなったら西友にお借りしていたのですが、あのスーパーはなんか不思議な空気感ありますね。
アフロ:あのパカパカの扉の?
カネコ:そう! あそこのエスカレーターがやけに遅くて、待ってる間に妙にザワザワして「やっぱり高円寺は何かあるわ」と思った。
アフロ:それこそ俺は、高円寺の西友に毎日行ってたの。割引シールが貼られる時間をチェックして、商品を取られたくないからシールが貼られるまで腕組んで待ってた。
カネコ:ハハハ、なんか怖い。
アフロ:俺と同じように待っているおじさんがいて、しょっちゅう会うの。高円寺を引っ越す時、最初に心に引っかかったのは「あのおじさんと会えないんだ」ということだったね。
カネコ:あー、確かに。引っ越しをする時は、街を離れる寂しさもあるけど、顔馴染みの人と会えなくなる寂しさもありますよね。私の場合は、大家さんと大家さんの飼っている猫のミーちゃんに会えなくなるのが心残りでしたね。
アフロ:音楽をやってることは大家さんに言ってた?
カネコ:言ってないけど、家でワーワー歌ってたから、何となく察していたんじゃないかな。
アフロ:もしかしたら、大家さんがラジオでカネコさんの曲を耳にして「まさか、あの声は……」と驚いてるかもね。
カネコ:そういうの良いですよね。小学校で全然喋らなかった子とか、何かのキッカケで私に気づくことがあるのかなと想像したりします。
アフロ:どんな子供時代を過ごしていたの?
カネコ:1人で遊ぶタイプでしたね。部屋にこもって漫画を読んだり折り紙をしたり、放課後は寄り道をせず自宅に帰って1人で出かけたり。
アフロ:勉強はどうだった?
カネコ:全然出来なかったです。もはやバカです。
アフロ:それはめちゃめちゃ意外だね。なんか静かに勉強してるイメージある。
カネコ:昔から頭が良さそうとか、本をすごく読んでそうと言われるんですけど、自分としては「違うんだ! やめてくれ!」と思ってました。
アフロ:それこそ、俺もよく1人で遊ぶことがあって。覚えているのが、鼻の穴に小石を入れることにハマってたのね。
カネコ:私も鼻にティッシュ詰めて取れなくなったことある。
アフロ:やべえな、クソバカ2人だな! 似たようなことをやってんじゃん!
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カネコ:この前、姪っ子が鼻水が止まらなくなったから「ティッシュを詰めときな」と言ったら、うちの親が「この子はティッシュが取れなくなって、病院へ行ったことがあるんだからやめなさい!」と慌てて阻止してました。
アフロ:姪っ子ちゃんは何歳?
カネコ:4歳です。
アフロ:うちの姪っ子と同じくらいだ。
カネコ:もう可愛くて可愛くて。子供に対してはこう言う言葉遣いや言い回しは傷つけてしまうな、とか考えすぎず、ある意味フラットに話すことができる。「ちんちん」とか「うんち」とか、彼らはなんの疑いもなく今、面白いことを素直に爆笑できるところも好きです。
アフロ:子供は「ちんちん」好きだよねー。しかもでかい声で言いたがるよね。でも「やめなさい」と過剰に反応したら、子供は余計に言いたくなるんじゃないかなと思うんだよね。
カネコ:そうそう! あとは子供言葉で接するのはいけないと思います。
アフロ:そうだよね。自分も子供の頃に子供扱いされてすごく腹を立ててたもんな。
カネコ:よくないですよね。年齢に関係なく、ちゃんと1人の人間として接した方が良い気がする。
アフロ:でもさ、そういう子供の頃の感覚は油断すると少しずつ忘れていかない?
カネコ:忘れますね。だからこそ姪っ子と接するのが好きなんですよ。フラットに向き合うことで子供だった自分を思い出せるから。それで「自分が子供の頃はああいうふうに感じていたな」とか「どんな理由で泣いてたな」と思ったら、忘れないように歌詞にします。なんか、忘れていくことが怖いんですよね。
●シャムキャッツがいてくれたおかげで自分も頑張れた●
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アフロ:忘れたくないのは何歳までの感覚なの?
カネコ:高校生ぐらいまでのことは全部です。特に、嫌だったことは忘れたくない。なんであんなに腹が立っていたのか、その時の記憶と感情を忘れたくないんですよ。
アフロ:高校生の頃はイラついてた?
カネコ:周りの人間全員をゴミくそと思ってましたね。とにかくムカついてました。
アフロ:ヤンキーではないでしょ?
カネコ:ヤンキーではないですね。カーストで例えるなら、真ん中のちょい下みたいなところにいて。大人しくて根暗みたいな感じだったとは思いますけど、そんな微妙な位置から「全員クソだな」と思ってましたね。
アフロ:その頃には、すでに歌を始めていたの?
カネコ:まだやってないです。ただ、ライブハウスにはよく行ってて「ステージに立っている人はカッコ良い」と憧れてました。ステージに立っている人を見て憧れつつも、なぜか嫉妬もしていて。その理由がわからなかったです。
アフロ:まさか自分が歌をやりたくて、そうなってるとは思わなかった。
カネコ:思わなかったですね。授業で先生に当てられると、全身が震えちゃうような人間だったんです。発表会なんてもってのほか。とにかく人前が苦手だったので、そんな自分が音楽をやりたいとは夢にも思わず、湧き上がるこの気持ちが何なのかもよく分からないし、みたいな。
アフロ:ライブハウスはどこに行ってたの?
カネコ:下北沢とか高円寺が多かったですね。
アフロ:その頃に見ていたバンドは、今も活動してる?
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カネコ:ほぼ活動してないです。最後の最後まで活動してくれて、この人たちがいてくれたおかげで自分も頑張れたな、という存在はシャムキャッツでしたね。
アフロ:前に、夏目(知幸)さんと一緒にライブ(『カネコとナツメ』)をやってたよね?
カネコ:そう! 高校時代からずっと観ていたバンドだったから、すごく嬉しかったですね!
アフロ:俺、夏目さんとは3回くらいしか会ったことないんだけど、俺の音楽人生のターニングポイントとなる日に(夏目さんが)いたの。下北沢のBAR? CCOというライブハウスがあって、そこで俺らのライブを曽我部(恵一)さんが観てくれていて、のちに曽我部さんのROSE RECORDSから2010年に1stアルバム(『MOROHA』)を出すことになるんだけど、その日に夏目さんもいて。
カネコ:へー! すごい話ですね。
アフロ:その時、『TOKYO NEW WAVE』(※新宿MARZとMotionで開催されたライブイベント。シャムキャッツの他にandy mori、SuiseiNoboAz、SEBASTIAN Xなど、トーキョー・オルタナティブシーンのネクストジェネレーションと呼ばれるバンドが多数参加した)というイベントが生まれたけど、そこに参加していたバンドは割と同世代なのよ。ただ俺たちは入れなくて、いいなと思ってた。
カネコ:懐かしい! 確かに、MOROHAはそこじゃないイメージだった。
アフロ:やっぱり始めたての20代前半くらいに近い場所でライブしていたその人達は、俺にとっては今でもちょっとだけ特別な存在なの。SNSとかフライヤーとかで名前を目にすると「やってるな」と思って、不思議と背筋が伸びるというか。
カネコ:うんうん、分かります。自分も続けていたいなとすごく思うし、励みになりますよね。
●俺は、片想いが惨めで辛いと思っていた●
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アフロ:そもそも楽器を触ったタイミングはいつだったの?
カネコ:ギターは中学生くらいから触れていたんですけど、コードが弾けるくらいで練習は全然してなかったです。意識して弾くようになったのは、大学生になってからなんですよ。大学へ行ったら、初めて同い年で同じようなマインドの友達が沢山できて。そしたら、友達の1人が「お前も曲を作っているなら聴かせろ」みたいに言ってきて。思い切って聴かせたら「天才だ!」と言ってくれて。そしたら、その子のお父さんがエンジニアをやっていたので「俺のお父さんにも聴かせる」という話になり、私、友達、その子の父親の3人でレコーディングをしたのが音楽活動の原点です。今も、そのエンジニアさんにずっと録ってもらっているんです。もはやお父さんみたいな存在ですね。
アフロ:静岡に住んでいらっしゃる方だよね?
カネコ:そうです、そうです。
アフロ:どこかのインタビューで読んだ! ちなみにカネコアヤノのバンドセットメンバー全員で話している記事も読んだけど、すごい楽しそうで羨ましかったなー。メンバー全員が漫画みたいなビジュアルだよね。
カネコ:キャラクターみたいですよね。
アフロ:ラッパーが必要だったら言ってね。
カネコ:あ、分かりました!
アフロ:……ダメだ。カネコさんにはもうすげーのがいるわ。
カネコ:ハハハ(笑)、(KID)FRESINOさん。
アフロ:そういえば、カネコさんがLINE CUBE SHIBUYAでワンマンライブ(『カネコアヤノ TOUR 2021 “よすが”』)の客席で、俺の隣に座った人がさ「FRESINOさんが来てる」とボソッと言ったの。そんでパッと横を見たら8席隣くらいに本当に座ってて。本当だ!FRESINOだー! と俺のハート、大フィーバーよ。でもその一方で、FRESINOに気づいたその人は、俺の存在にも気づいてくれるんじゃないかと思ったのね。そこから精一杯オーラを出してみたんだけど、全然気づかれなくて。でもライブ終わった後にようやく「あの!」と声をかけられたの。それで「うお! きた!」と思ってカッコつけてゆっくり振り返ったら「これ、落としましたよ」と。
カネコ:うわー! 思ってたのと違う!
アフロ:その時点で恥ずかしいじゃん。しかも、手渡されたのがうまい棒よ。
カネコ:え、なんで!?
アフロ:いや、こっちが聞きたいよほんと。俺、うまい棒なんて落としてないもん。多分その人はうまい棒を拾った時に、周りで持ってきてそうな奴に声かけたのよ。
カネコ:キョロキョロ見渡して「この人だー!」と。
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アフロ:でもそういう時に自分自身が何者なのか痛感するよね。ステージに立てばスポットライト当ててもらって、今日だって撮影して自分なりのキメ顔して写真を撮ってもらってるけど……所詮、うまい棒を渡されちゃうわけじゃん。それを受け止めて、勘違いしないで、そんな人間だからこその言葉、ラップをしないといけないなと思う。
カネコ:そうですね。そんな自分もちょっと好きになれたりしますよね。
アフロ:なるし、そうならなきゃやっていけないように思えてきたね。それこそ俺は、片想いが惨めで辛いと思っていたのね。それは高校時代に彼女がいなかったことも関係しているんだけど……ちなみに高校生の時に彼氏はいた?
カネコ:いないです。
アフロ:もうそれは取り返しつかない切なさなのよ。俺もカネコさんも。お互いにゆずの「夏色」を真っ直ぐ聴けないはずなの。アレは高校生の歌じゃん。20代になって彼氏や彼女の隣で聴くのとは響き方が違うわけよ。
カネコ:分かる! そもそも曲に出てくる2人は制服ですもんね。それか制服姿の子の休日の私服。
アフロ:俺たちは、駐車場であくびをしてる猫のポジションで過ごした青春時代よ。
カネコ:「ふわぁー……良いですねぇ」みたいなね。
アフロ:俺はずっと、彼女がいなくて片想いしてた高校時代を恨んでるのよ。だから音楽を始めてからも同業者に対して、こっちは好きなのに相手が俺を知らなかったりするのがめっちゃ嫌だったの。凄く惨めだと思ってた。それこそ「FRESINOすげー!」と思っていても、こういうふうに対談で名前を出すことは出来なかった。でも最近はもし仮に片想いだとしても、自分が感動した、好きになったということ自体を誇れたら、もうそれで良いというか。
カネコ:うん。絶対にそうだと思う。
アフロ:ただそうは思いつつ、それによって俺がこれまで歌詞にしてきた悔しさが消えちゃうとしたらそれも寂しいんだよね。だから片想いに対しては「ちきしょー! でもめっちゃ好きだぜ! でもちきしょー! でも好きー!」みたいなダサくても素直な叫びをあげていきたいと思ってるのよ。そう思えたのは、2年前くらいからかな。
カネコ:結構最近ですね。
アフロ:それこそ高円寺で初めて会った時は「あ、カネコアヤノだ!俺は知ってるぞ! ……そっちはどう?」というアウトサイドなスタンスだったと思う。
カネコ:そうなんですか! 逆に、私のことは知られてないと思ってました。そういう感じの会話もしなかったし。
アフロ:いや知ってたよ! 俺が臆病だっただけよ。
カネコ:というか全てのアーテイストの方に対して「私のことなんか知らないでしょ?」と思っちゃうんですよね。
アフロ:そういえばさ、すごく前に新宿タワレコからカネコアヤノ×MOROHAの対バン企画を持ちかけられたことがあったんだよ。
カネコ:あ! ありましたね!
アフロ:だけど当時の俺達が「まだカネコアヤノのライブを見たことないのでやれないです」と断ってるの。それで時を経て、今回のツアーは俺からオファーを出しているわけでしょ。先見の明なさすぎ。もう赤面よ。さくらんぼくらい顔を赤くしてオファー。
カネコ:それは筋が通ってるじゃないですか。ちゃんとライブを観ていただいて、オファーをもらえるのは嬉しいですよ。
●自分の意思でやりたい音楽を決めたら、高校生までのイライラしていた自分も愛せるようになった●
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アフロ:ちなみに初めてCDを作った時はどうだった?
カネコ:最初に作ったCDたちは当時在籍していた事務所のアドバイスに違和感を感じているのに作ってしまったところがあり、どうしても愛しきれていない自分がいて。その後に作った「hug」という作品から今の私が始まったと思っています。初めて、わがまま全てを詰め込んだ作品です。
アフロ:じゃあ、最初の事務所では自分の思うような作品作りが出来なかったんだ。
カネコ:当時の私は意思が弱く、何がなんだかわからない状態で事務所に入ってしまいました。正直ぬるま湯状態でした。4年ほど私もその環境に甘えたまま時が過ぎ、ある日突然事務所を辞めることになって。当時の私の感覚としては急にポイと捨てられた、と思っていたけど、そんなぬるい人には当たり前に与える席なんかなく、一人になってしまいました。その時、はじめて人生について考えましたね。私は頭も悪いし、バイトもなかなか続かない。だけど音楽に対して好きと言う気持ちはずっと確かだったので、唯一続いてるこれを腹括ってやるぞ! と。所属していた事務所の当時のマネージャーが言っていた「続ける信念、確信犯であれ」みたいな言葉の意味をようやく理解しようとしたし、しつこく言ってくれたことをありがたく思えた瞬間でもありました。「私の好きなことは何だろう」「どういう歌詞を書きたいのか」「そもそも好きな音楽はなんだっけ?」と全部を考え出したら、やっと歌いたいことがクリアになって。「私はこういう音楽をやっていこう」と自分の意思で決めていけたのを機に、マインドが変わりましたね。あとは自分のどこが嫌いなのか見つめ直して、相手とちゃんと話せないことや、素直に笑えないことや、写真を撮られることが嫌いだったり、そういうのも全部変えようと思った。そこからは、出来るだけ相手の目を見て会話をするようにしたし、笑うのが苦手だけど無理にでも笑ってみようと。そしたら自然とできるようになって、本当に全部が変わりました。変わっている部分も愛したいし、高校生までのイライラしていた自分も愛せるようになった。現在と過去の両方を肯定できるようになりましたね。
アフロ:変化を愛するかぁ。ちなみに「私のことをみんな知らないと思ってる」と言ってたけど、状況がもっと変わったら「みんなが私のことを知ってくれている」というマインドになるのかな?
カネコ:それは怖いというか、一番避けたいところですね。
アフロ:これから気付かれる回数が増えたら、避けられなくなりそう。
カネコ:だとしても、帽子を被ってバレないようにするなんて嫌だな。ただ、そういうところが人間らしいと思ったりしますけど。
アフロ:その変化を歌えないでどうするよ、と自分に思ったりするなあ。抗うにしろ、受け入れるにしろ、状況の変化を見て見ぬふりして歌うのは豊かじゃないような気がするね。
カネコ:それはありますね。確かに、全部を歌にしたいとは思います。それで言うと、この前、公園を歩いていたらスケボーに乗った人がおそらく気づいてくれて。顔を確認するために何回も追いかけてきて。「すみません、私なんかが」と思いつつ、私も普通に暮らしてるので複雑な気持ちになりましたね。
アフロ:ああ、スケボー少年の無邪気さだねぇ。これはMOROHAの場合なんだけど「MOROHAは知ってるけど全然好きじゃない層」が結構いるの。やっぱりアコギとラップという特異な編成もだったり、俺のラップスタイル自体が一般的なHIPHOPの文脈とはだいぶ違うから。まずビートがないでしょ。そして不良じゃないしストリートでもない。俺らのことを知ってても「MOROHAだ」と半笑いで指差して笑ってることもあって。まあ、それはそれでいいのよ。
カネコ:どうして良いんですか?
アフロ:そこに対しても諦めず歌うことが、MOROHAを信じてくれた人への筋だから。でもそもそも俺もこんなはずじゃなかったのよ。ストリートをレペゼンしたかったの。
カネコ:そういう願望があったんだ。
アフロ:長野県の青木村というイノシシが出るような村で生まれ育ったんだけど、その村でファッション誌を見ながら「いつかあっち側に絶対行くんだ」という夢を持ってた。農道じゃなくてストリートで生きるんだ、みたいな。
カネコ:そんな夢を持っていたのは意外ですね。
MOROHAアフロの逢いたい、相対
アフロ:ところで自然は好き?
カネコ:好きですよ。
アフロ:俺、世間はちょっと自然を過大評価してるんじゃないかと思ってて。
カネコ:え、ウソ!?
アフロ:だって山なんて、ただそこにあるだけよ! それに比べて東京のビルなんて全部人が作ったんだぜ。すげえよ! ビルの方がすげえ!
カネコ:じゃあ、ずっと都会にいたい?
アフロ:うん。俺は東京の人になりたい。
カネコ:久々にそういう人に会いました。
アフロ:都会で無理なく生きて、サマになっちゃう人達に憧れるよ。自分には出来ない生活の息継ぎをしてる感じがする。
カネコ:それこそFRESINOさんがそうですよね。表参道とか銀座にいても違和感なくて、仮にビーサンとかだとしても、かっこよく見える。
アフロ:俺からすればカネコさんもそうだよ。
カネコ:本当ですか!? 私、まだ杉並を引きずってると思いますよ。愛ゆえに自分の意思で引きずってるところがある。10代から通ってるから杉並は皮膚の一部みたいですもん。
アフロ:連想トークみたいだけど、「布と皮膚」という曲はタイトルからして最高だよね。
カネコ:嬉しい! なんか、私は布と皮膚で生きてるなと感じるんですよ。アレぐらいの生活レベルを歌っていきたいですね。この前も電車に乗っていたら、スーツ姿の人のベルトがほつれていて、そこを見ながら「オシャレでほつれてるのか?」とすごい考えちゃう。そういうのを見逃したくないと思いますね。一番生々しいじゃないですか。それを歌詞に書き留めておきたいと思う。
●俺とカネコさんは切り取っている景色が違うんだよね●
MOROHAアフロの逢いたい、相対
アフロ:小説家の朝井リョウさんが「旅行へ行くと楽しかった場面を写真に収めがちだけど、僕が書きたいのは2人で旅行へ行ったとき、1人の携帯に電話がきて席を立ったら、もう1人は席に残される。その時に暇だから目の前にあるカフェオレの氷をかき混ぜたりするよね、そういう場面を描きたいんです」と言っていて。カネコさんにも同じようなものを感じたの。
カネコ:まさに、私が歌いたいのもそれです!
アフロ:逆に、俺はクライマックスを歌詞にしがちなの。バンジージャンプとか、ケーキのロウソク消す瞬間とか。だから俺とカネコさんは切り取っている景色が違うんだよね。それが2マンとなったらさ、その場面の前後が繋がったりするじゃない。お互いの曲の景色の隙間を一晩だけ補完し合うというか。そういうことが起こるから2マンは好きなんだよね。
カネコ:私も対バンをするなら2マンが好きです。
アフロ:印象的な2マンはある?
カネコ:曽我部さんと広島でご一緒した時はすごく嬉しかったですね。弾き語りをしている方の中で、曽我部さんのことはすごい尊敬してるので。
アフロ:曽我部さんのライブは本当に背筋伸びるよね。どんなとこに惹かれてる?
カネコ:いつも150%を出しているし、今もなおキラキラしている反面、ずっとキレてるようにも見える。前にフェスで一緒になった時に、弦が5本切れていて本当にヤバいと思いましたね。やっぱり全身で感情を飛ばしているのが好き。あとはずっと恋をしてそうで好きです。
アフロ:曽我部さんから聞いた話で素敵だなと思ったのが「アルバムを作る時に、まずは前作を否定するところから始める」ということ。
カネコ:そうなんだ! やっぱり常に自分と戦っているんですね。私、その感じが好きなのかも。曽我部さんを見てると、こなしちゃいかんなと思わされる。
アフロ:曽我部さんのすごいところは、こっちが先行でグーを出したらパーを出すんじゃなくて、真っ向からグーを出してくる感じ。
カネコ:わかる!
アフロ:やっぱり2マンは後攻が有利ではあるじゃん。情報を拾って相手が言ったことを上手に返しやすいけど、よりよいあいこを目指そうとしてる。
カネコ:フラットにしようとする。それが気持ちいいですよね。
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アフロ:この前、くるりとの2マンがあったの。俺達が先行だったんたんだけど、やっぱりくるりを意識して腕ブン回して行くわけ。MCでも対抗意識バチバチ、セトリも超攻めて臨んだのよ。でもくるりはいつも通り、MCもあっさりしていて。UKのギターを褒めてくれたくらいで。
カネコ:アフロさんのことは触れられず。
アフロ:でもね、俺の言葉の過激さに付き合わず、演奏と歌の力で魅了したくるりを見て俺の好きなくるりはこれだなと思ったの。多分その感覚はお客を含めて皆が共有していて。そんなくるりが浮き彫りになったのは、俺が殴りに行ったからこそだったんじゃないかなと。違うかも知れないけど! でも俺はそう思えたから胸張って帰れたの。そういうのも含めて、2マンは良いよなと思う。触れてなくても作用しあっているの。俺の希望的観測なのかもしれないけど。
カネコ:そう考えた方がいいですよね。MOROHAとやる広島の2マンも、何が起こるのかすごい楽しみ。
アフロ:その日はMCするの?
カネコ:しないかな。基本的にいつもMCはしないんですよ。
アフロ:だけど、俺は今日ここで喋った情報があるから。「やっぱり喋りませんでしたね。対談でも「喋らない」と言ってましたわ。言った通りの女でしたわ」って。
カネコ:フリじゃないですか! 当日はよろしくお願いします。
文=真貝聡 撮影=森好弘