MOROHAアフロの『逢いたい、相対。』第二十九回目のゲストは呂布カルマ 聴き手に一番刺さる「本当のことを言う」ことの難しさ
MOROHAアフロの逢いたい、相対:呂布カルマ 撮影=森好弘
MOROHAアフロの『逢いたい、相対。』第二十九回目のゲストは、ラッパーの呂布カルマ。約10年前、アフロは面識のなかった呂布に「俺たちのライブを観に来てほしい」とDMで誘ったのがきっかけで両者の関係は始まった。それから13年、17年、19年とMOROHAのツアーや自主企画でたびたび対バンをするようになる。HIPHOPシーンのど真ん中を歩いたというよりも、ロックシーンのリスナーによって注目されるようになったMOROHA。一方、MCバトルで名を上げて現代のジャパニーズラッパーの代表格になった呂布カルマ。一見、メディアの出方や方向性も違うように見えるが、一体どこに惹かれ合っているのか。お互いの印象や、これまでのドラマを紐解いていく。
●俺は、HIPHOPの内側にいる人間に向けて歌ってないけど、ラッパーであることには、めっちゃこだわってる●
アフロ:(7月23日(金)に行われた『UMB2021 THE CHOICE IS YOURS Vol.5』での)優勝おめでとうございます。お祝いにシャンパンを買ってこようと思ったんですけど、置いてなくて手ぶらですみません。
呂布カルマ(以下、呂布):ハハハ(笑)、大丈夫だよ。
アフロ:優勝した瞬間は脳汁ブワーッみたいな、興奮がやっぱあるんすか?
呂布:自分で言うのもなんだけど、俺はMCバトルにおいて日本一なんだ。勝って当たり前だと思っているから、優勝したときは興奮よりもホッとしたね。
アフロ:なるほど。挑戦者じゃない立場ならではですね。ライブしているときとMCバトルのときで、気持ちの違いはあるんですか?
呂布:曲は自ら推敲した見せたい姿。MCバトルに関しては喧嘩してるところを見せるわけだから、極端に言えばみっともない姿というかさ。やっぱり全部を見せれば良いというわけではないじゃん。曲は余計なところは見せないようにコントロールが出来るし、見せたい部分だけ出せるから、恥ずかしくない自分。だから、本当は曲だけで判断してもらうのが俺としては嬉しいよね。
アフロ:見せたくない部分というのは、どういうところですか?
呂布:弱いところだったり、過剰にエモくなっちゃったりとか。他にも褒め合いみたいなバトルがあるじゃん? 最悪の奴になってしまうことがあるから、それは見られたくないね。
アフロ:呂布さんのバトルを見て、ありがちな友情ごっこみたいな感じに思ったことはないですけどね。
呂布:もちろん気は遣ってるけど、それでも俺の中では「うわぁ」となる瞬間がある。
アフロ:お客はそこにグッときたりするんでしょうけどね。自分の恥部をバトルが引き出してくれたと思って、嬉しくなることはないですか。
呂布:全然ないね。
アフロ:曲では出せなかったけど、フリースタイルだとこんな自分を引き出せるんだ、みたいな。
呂布:ないかな。曲で出せないというか、それは意図して出さないようにしてるから。そこがポロッとフリースタイルの弾みで出ちゃっているに過ぎないから、そういうときはキツイね。
MOROHAアフロの逢いたい、相対
アフロ:なるほど。自分の人間性の全部を曝け出したい! ということではないんですね。
呂布:曝け出したい欲は全くないね。作品でそれをする必要はないかなという感じ。
アフロ:バトルで出ちゃうから?
呂布:いや、私生活で出せているから。
アフロ:あー、音楽で出さなくて良いということですね。
呂布:うん。私生活で伝えれば良いから、わざわざラブソングを歌いたいと思わないし、子供に対しての曲も歌いたいと思わない。あとはラップを始めたての頃は、ラップのことを歌うラップをしちゃうじゃん。ほっとくと、ひたすらラップのことばかりを歌ってる。フレーズごとに出るのは良いけど、「曲全体でラップとかシーンのことばっかり歌うのは、もういいっしょ」というのはあるかな。
アフロ: 俺のラップを聴いてくれ! と既に聴いてくれてる人に叫んでる感じっすね。今はシーンの外に向けて歌ってるんですか。
呂布:うん。HIPHOPの主な世代は10代後半から20代前半。俺は40歳手前なわけで、今さらそこに向けて目線を下げてまで歌うようなことは正直ない。HIPHOPの中に30代後半とか40代のリスナーがどれだけいるの? と言ったら、ちょっとじゃん。そこにアプローチしてもしょうがないけど、「日本語が分かる人」まで視野を広げていったら30代とか40代でも全然いるから、その辺に向けてやってるね。
アフロ:となると、HIPHOPリスナーがターゲットではないですね。
呂布:そんなのはどうでも良い。俺は正直気にしてないし。
アフロ:俺も近いことを考えた時期がありました。俺は「ラッパーがするラップ」では勝てないなと思ったんです。ラッパーであることより先に、人間であり生活者だということが伝えられないと、俺の場合は勝ち目がないなと。だから所謂「ラッパーの服」を着てラップをすることから、抜け出さなければと思いました。
呂布:B-BOYのファッションとかじゃなくて、マインドのことだよね。
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アフロ:そうです。ラッパーであることよりも、自分の存在を刻まないといけないと気付いたタイミングがありましたね。
呂布:俺は、HIPHOPの内側にいる人間に向けて歌ってないけど、ラッパーであることにはめっちゃこだわってるな。やっぱHIPHOPを聴かない層に向けてラップをして、明らかにその人たちが触れたことのない肌触りの中で「これは何?」となったときに「これこそが日本のラップです」と言いたい。
アフロ:それはマイクを通す言葉の節々からいつも伝わってきます。シーンを背負うという意識はありますか?
呂布:それは全然ない。「ラップってダサ。幼稚だな」と思ってる人は、単に良いラップを聴いてないだけじゃん。しかもチェケラッチョで止まっている人も、めちゃくちゃいるんだよ。そいつに「ラップを誤解してたわ」と気づかせたいよね。
アフロ:今の言葉は「シーンを背負っている」に限りなく近いニュアンスだと思いますけど。逆に「ラップは好きじゃないけど、呂布カルマは好き」という反応もあると思うんです。そこについてはどう思いますか?
呂布:嬉しい反面「いや、カッコイイラッパーはほかに全然いるから」と思う。だから俺で止まるのは勿体ないよというのはあるね。
アフロ:愛情あるなぁ。呂布さんは、ちょっと父性みたいなところがありますよね。
呂布:ラップシーンが盛り上がって、スターがいっぱい出てきたら面白いし、結局自分にも返ってくるじゃん。そういう意味で、盛り上がらないよりも盛り上がった方が良いに決まってる。どう考えても自分に損はないからさ。
アフロ:今の表現こそが呂布さんらしいと思う。「シーンが盛り上がれば良い」というのはみんな口にするけど、「それが俺のためになるから」と言えるかどうか。これは俺にとってのラッパーの服を脱ぐということの1つの真意な気がします。例えばライブで「客席の皆を仲間だと思ってる」というのはラッパーの服を着ている言葉。でも、その服を一枚脱がして「その仲間からきっちり入場料を頂いてる俺達は……」に続けたら、仕事に対しての誇りの話が出来たり。
呂布:要は建前だよね。その建前にも意味があるんだけど、理解せずに使っちゃっている人がいて。建前を言うなら、ちゃんと分かった上で言うべきだよね。
アフロ:ライブで多用されている決まり文句が続いているのには理由があるよということですよね。
呂布:そうそう。今は、あまりに便利すぎて定型文になっちゃってる。その言葉を使うなら、もっと噛み砕いて言うと、同じことでもちゃんと人の心に響くんじゃないかなという気がするね。
●呂布さんが「おいガキ、そこで座ってたらお前の前に人が立てねえだろ。立て」と、マイク通して言ったんですよ●
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アフロ:2014年に岡崎で一緒にライブしたとき、呂布さんのライブ中に子供がフロアの真ん中で体操座りしていたの覚えてます? 俺、微笑ましいなと思って見てたんです。そしたら呂布さんが「おいガキ、そこで座ってたらお前の前に人が立てねえだろ。立て」と、マイク通して言ったんですよ。一気にフロアが凍りついたんだけど、確かに正論で。あの場面が物凄く記憶に残っているんです。あの日、俺らがバチっと完璧な演奏をしたとて、お客の脳裏に残るのはあのシーンだったんだじゃないかと思うんです。
呂布:でも、今はそういうふうに言えないと思う。立たせるけど、その子供に直接言うよりは、その子の親に言って子供をどかす。あの子は知り合いの息子で、結構俺に懐いていたけど、あのイベントの後から一切近づいて来なくなった。
アフロ:優しくなってる! でも、それも素敵っすね。近い話なんですけど2マンツアーでご一緒した般若さんのライブも印象的で。般若さんのライブ中、動画を撮っている子がいたんです。それを見て般若さんが笑いながら「俺さっきのMCでスベッちゃってるから、その映像が拡散されたら商売上がったりだわ。だから撮るの止めてくんねえかな」と言ったんです。でもユーモアも交えた分、その子は許可をもらったと勘違いをしてしまって。そのまま撮り続けている彼に「お前! さっき撮るなって言ったよな! 俺は芸能人じゃねえからよ!」と般若さんが遂にブチギレて。
呂布:みんなが写真や動画を撮って、それをSNSで発信するマーケティングの仕方もあるやん。撮るのが当たり前になっているし、止めさせるのは難しいところだよね。「これはライブだから、何が起きてもみんなと俺の内緒だよ」みたいな約束がマジで通用しなくなってる。TOKONA-XとかM.O.S.A.D.はライブをしているときにカメラを向けられたら、ステージ上から携帯をひょいっと取り上げて、半分に折って捨ててた。そんなの何回も見ていたけど、今は違うもんね。般若さんはやっぱりストロングスタイルだね。
アフロ:うわー! すげえ話だな。そういうのも醍醐味だったんすね。話を戻すとその日、般若さんの後に俺達が出て行くんですけど、やっぱりまだフロアが浮足立ってるというか、ちょっとドキドキしてる感じで。だからちょっと和ませたいなと思って当時Galaxyのナレーションをやっていたので、叱られちゃったお客に「さっきの携帯がGalaxyだったら、俺も般若さんのところへ行って一緒に謝ってやるよ」とMCでひと笑いとったんです。
呂布:ハハハ(笑)、ずりい。
アフロ:その場はいい感じにまとまったんですけど、帰り道に「いやいや! まとめてどうするよ、俺!」と。呂布さんのときと同じく、印象に残るのは般若さんのあの場面だと思うんです。般若さんが凄いのはラッパーのドキュメントとして長い目で見たときに、あそこでちゃんとキレることによって語り継がれる「ラッパー般若」のストーリーになれるところで。
呂布:確かにそうだね。そこで般若さんがいつも通りの良いクオリティのライブをしていたら、この場で話題にならないもんね。
アフロ:俺はそういうの憧れちゃうんすよね。
呂布:ありそうだけどね。
アフロ:ロックスターの気質がないというか、パチンと切れてどこかへ行っちゃうみたいなことができない。
呂布:般若さんは計算してないわけじゃないと思うよ。ブチギレすることで「さすが般若!」と思う人が、一定数いるのは分かっていると思うけどね。
アフロ:そうかなぁ。だとしても、計算に見せないところが凄いっすよね。呂布さんもそうだけど。
呂布:そもそも客と対等だと思ってないからね。完全にこっちが上だから、俺に不快な思いをさせる奴がいたら言う。
アフロ:その姿勢はずっとブレないですよね。
呂布:うん。観にきてる奴とは全然違って、こっちは魅せる側だから。
●俺は、呂布さんにぶっ刺して欲しいんだよな●
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アフロ:ここまでマインドや姿勢の話をしてきましたけど、仮にみんなが呂布さんと同じに考え方に染まってきたら、きっと逆のことを言いたくなりますよね?
呂布:多分そうだと思う。天邪鬼な部分があると思うんだよね。
アフロ:呂布さん同士の2マンがあったとしたら、後攻の呂布さんは同じこと言うにしても真逆の言い方をすると思う。俺も多分そう。
呂布:先攻の俺を、後攻の俺が振りに使うとかね。
アフロ:結局どの角度が一番刺せるのかを探してる感じがします。
呂布:そこまで意識的にやってないけど、常に2択じゃん。そのときに良さそうな方を選んでいるに過ぎない。持ち時間によってライブのやり方は変わるけど、2マンだと自分の空気を作れるから、1曲目に前の流れをリセットするような曲を持ってきたりするから、あんまり気にしないけどね。
アフロ:呂布さんがライブで後攻だったら、先攻がライブで放った言葉を、自分が拾って昇華させようとか考えたりしますか?
呂布:俺の琴線に触れるようなことを言われたら拾うけど、わざわざ意識して拾ってやろうと思ってないかな。
アフロ:俺が呂布さんの後にやる場合は、呂布さんの言葉の矢印に乗っかって更にその先を目指すみたいな感じなんです。
呂布:やってるよね。だいたいアフロが後攻じゃん。俺の先攻の出方を見てMCをしてるのは分かる。
アフロ:先に出た言葉に対してアングルを増やすみたいな。そういう意味ではMCバトルの後攻に出るような感覚なんですよね。
呂布:それはそうかもね。2マンは基本的に俺が招かれる側だから、俺が後攻を取ることがそもそもない。いつも先攻だね。
アフロ:いつかは俺達が先攻やりたいなあ。拾ってもらえるかな。
呂布:ハハハ(笑)、お前らの後か。MOROHAのライブは客のメンタルを振り回して、最後はクタクタにさせるじゃん。その後は難しいな。
アフロ:そうっすか?
呂布:MOROHAの後と、クリトリック・リスの後はしんどいな。
アフロ:確かに、スギムさんの後はフロアがなんかソワソワしてるからな。でもスギムさんの曲の笑えちゃう部分は、すごく切なさが含まれてるじゃないですか。俺はお客が気付いてないその部分を拾って、自分の曲に繋ぎたいっすね。
呂布:そんなに中身をしっかり考えてライブをする人なんて、少ない気がするけどね。
アフロ:呂布さんをもってしたら、俺の歌詞の隙を突こうとしたらいくらでもやれるじゃないですか。お互いに刺し合いをしたら……。
呂布:それは不毛過ぎるな。特に、MOROHAとの2マンはMOROHAを好きな人がいる前提だから、そこに刃を刺したところで誰も喜ばない。
アフロ:呂布さんにぶっ刺して欲しいんだよな。痛い、痛いと言いながら帰りたい。
呂布:別に、アフロが言ってる内容が違うと思うことがないからね。俺と言い方が異なるだけで、そこまで極端に違うとは思わないから、わざわざ刺す必要を感じないな。
●本当のことを言う練習をしていかないと大変●
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アフロ:刺すという話で言えば、新譜「Be kenja」も平熱の鋭さが呂布さんらしかったです。
呂布:狙ってやる過激さはサムいと思う。究極さ、チンポを出せば誰でも過激になるじゃん。だから過激に振ることは結構簡単にできる。ただ、俺が言ってるのはパンクスみたいな過激さじゃないんだよね。火炎瓶投げろとかではない。わざとらしくない、普通に触れる過激さというかさ。
アフロ:「NEW VALUE」の<やたら不安煽るのは下品なビジネス>というリリック。あれにも考えさせられたんです。というのも、生きてくということに対して真剣に歌詞を書こうと思うと、俺は現実の厳しさばかりが浮かんでくる。厳しい言葉ほど鋭利に刺さるんですけど、それは下品なビジネスになっていないだろうか? という不安がやってきて。過激なフレーズや出来事を探して凶器にしようとしてるんじゃないか、ショッキングなものにばかり嗅覚が鋭くなっているけど、それは刺さっているんじゃなくて脅かしてるだけなんじゃないかと。
呂布:それはどっちとも言えるけどね。そもそも俺は、人生は楽勝だと思っているタイプだから。歌ってるだけで飯が食えているわけだから、そんなの楽勝じゃん。例えば「後々のために積み立てをしておかなきゃ」とか「保険に入らなきゃ」とか、結局お金を使わせたいから言ってるだけでさ。実際は、生活保護になっても生きていける世の中だから超余裕じゃん。「こうじゃなきゃいけない」「あれがなきゃ不幸だ」みたいに言うから出来ていない人が不幸に感じる。「年に1回の海外旅行に行けてない私は不幸だ」とか「ファミリーカーを持ってない私は不幸かも」とか。別に、そんなことはないじゃん。そういう意味でこれを知っておかなきゃいけないとか、これはしなきゃいけないと煽るのはすごい下品だと思う。一番刺さるのは本当のことだからね。
アフロ:一番刺さるのは本当のことか。その通りっすよね。最近、子育て中のお母さんに「子育て大変ですよね」と軽い気持ちで言っちゃって、その後「お前に何が分かるんだよ」と自分自身に対して思ったんです。そう言っておけば世の女性に責められることはないと、保身に走ってるんですよね。こういうことの積み重ねで本当のことが言えなくなっちゃりするのかなと。この前、リリー・フランキーさんがラジオ(リリー・フランキー『スナック ラジオ』)で「本当のことを言う練習をしていかないと大変だよ」とアシスタントの女の子に言ってたんです。
呂布:言い得て妙だけど、確かにと思うよね。
アフロ:自分の彼氏のことを友達が好きになってしまって、恋人関係だってことを知らず相談されたときどうする? という話だったんですけど。アシスタントの女の子が「私が付き合ってるんだ! ごめんね!」が言えずについ「頑張って」とか言っちゃうかもと話したんです。そこでリリーさんが「気持ちはわかるけど、本当のことを言う練習をしないと取り返しがつかなくなっちゃうよ」とサラッと話したんです。それ本当に必要なことだなと思った。
MOROHAアフロの逢いたい、相対
呂布:ラッパーはリアルでなんぼと言うからね。ただ、そうじゃない人もたくさんいるし、それで売れている人もたくさんいるから、一概にどっちが正しいとは言えないけど。
アフロ:本当のことを言うことの難しさで言うと、昔レゲエのイベントに出たんです。レゲエは同性愛に対して否定的なフレーズが多く出てくるじゃないですか。その日もそういったフレーズが多発していて、自分の出番で「それはつまらねぇと思う」と強めに言ったんです。そしたら会場が物凄くしらけてしまって。
呂布:仮に本当だとしても、言う必要がないことがあるんだよ。例えばバディマン(※ジャマイカ周辺のカリブ海諸国で使われていた土語で男性の同性愛者を指す)のことをライブ中に少しだけ触れたところで、どうこうなる問題じゃない。もし本当に変えたいのなら、しっかり腰を据えて話さないといけない。話すタイミングとか話し方とかあるよね。
アフロ:ちゃんと伝わる状況をつくれてなかったんですかね。
呂布:それもあるし、向こうが複数人だと「お前の方が間違っている」と強情になっちゃう。だけど1対1だったら伝わることもあるし、それは言うことを曲げるわけじゃなくて、タイミングとかシチュエーションが大事になってくるよね。
アフロ:例えば、頭の中でパッと浮かんでしまったらどうします? 持ち時間は30分しかなくて、その短時間ではこの大きな問題の根底の部分を話し合えない。そしたら自分の中で言いたい気持ちを押し殺すことはできます?
呂布:我慢できない場合は、変な空気になっても気にしない。冷や水をぶっかけてやろうと思って言うことがあるからさ。それこそ、エモい人たちばっかりのイベントに呼ばれることがあるのよ。だけど、種類は全然違うよと思う。カーテン越しの柔らかい日差しとか、温かい毛布のエモさじゃなくて、俺のは下痢便をぶっかけられる側のエモさ。「それもエモーショナルだから」とイベントで話したりすると、やっぱりみんな引くね。嫌われてもいいと思うから、それは引かせたままにする。福岡で実際にあったんだけど「女々しいことは言わねえ。下痢便をぶっかけるのが俺のHIPHOPだ」と言って楽屋に戻ったら、どこかのバンドマンが「……自分たち、女々しかったすか?」と聞いてきたから「女々しいと思うよ。自覚ないの?」と言ったね。
アフロ:女々しいのは良いんだけど、女々しさの伝え方が甘いよということでしょ?
呂布:そうそう。男が愛情を歌ったり寂しさを歌うことは全然良いんだよ。ただ、伝え方が女々しいのはお前……みたいなさ。「歌にするくらい自覚してるなら、さっさと直せや」と思う。
●ちゃんと社会に暮らしている者として、見えている景色を歌う●
MOROHAアフロの逢いたい、相対
アフロ:その現場にもし居合わせたらどんな顔したらいいんだろ。でも、その話を聞いたら尚更MOROHAなんて刺し放題だと思うんすけどね。
呂布:出会い方だと思うんだよね。MOROHAはライブで知り合ったから。
アフロ:10年くらい前、俺が呂布さんに「ライブに来てください」と連絡したんですよね。
呂布:うんうん。そこはデカイよね。
アフロ:どこのライブハウスで観てくれたんでしたっけ?
呂布:新栄のキングビルだったと思う。
アフロ:よく来てくれましたよね。
呂布:そんなの言われたら行くよね。会ったことないのに「観に来てくれ」と誘われてライブを観に行ったのは、MOROHAとGEZANのマヒト(ゥ・ザ・ピーポー)だね。あいつも知り合う前に「名古屋へライブに行くから観に来てほしい」と言ってきて、ライブハウスで知り合った。なんか音源で聴くと、MOROHAは味がキツイじゃん。味が分からない状態で食べて、好きじゃねえと思う可能性は全然あるけど、ライブで観ると全然違う。味がどうこうじゃなくて、ここでこれを食わないのは勿体無いでしょみたいなさ。出会い方は絶対に大事だね。
アフロ:終わった後に「ライブで会えてよかった。音源だったら感じ方が違ったと思う」と言われたのを覚えてます。
呂布:そうだね。ライブを観てから音源を聴くと、ライブの感じが思い浮かぶから普通に聴けるんだけど。最初に音源を聴いてたら味がキツすぎたかもしれないな。
アフロ:めっちゃ覚えているのが「勝ち負けじゃないと思える所まで俺は勝ちにこだわるよ」のときに、呂布さんがフロアにいて。<「諦めるなんて格好付けんな お前は飽きただけだろ?」去ってく奴に吐き捨てた唾>と歌った瞬間、腕をガッと上げてくれたんです。それが、すごく嬉しかったんです。でもあの曲、その後のリリックが<本当ごめんな 寂しかったんだ>と続くから、内心は「あー! 強さに着地しないんです! すんませーん!」となりました。
呂布:いや、その弱さはアリだよ。ロックの人は弱さを色気に転換して魅せるのが上手いなと思う。HIPHOPはマッチョイズムだから、魅せ方が全然違う方向というかさ、弱さの魅せ方が一番難しいんだよね。だけど、あの曲は良いなと思ったよ。
アフロ:弱さの見せ方かぁ。とはいえUSのHIPHOPは成功したことを歌えば盛り上がるけど、日本は「成功したぜ」と歌うと妬まれたり素直に拍手を送られない。良く言えば成功してない人を応援するのが好きという一面もありますよね。
呂布:共感だからね。
アフロ:それこそ成功を手にしたときにどうするのという話で。
呂布:さっきも言ったけど、全部を見せる必要はないよね。結局MOROHAは音楽でちゃんと飯を食えるようになったものの、今度は違う憤りがあるじゃん。違うフェーズへ行っても常に憤ってるし、何かに虚しさを感じている。そういうところは全員共通だと思う。ただ、普通のサラリーマンみたいに毎朝起きて、上司に頭を下げてみたいな生活はしてないからさ。そういうことは歌えないんだけど、日本全体に漂っているどんよりとした空気とか、俺は今、そういう歌詞になってる。社会を定点で見てるような感じ。
アフロ:ただ、直接的な表現で社会に物申すという曲ではないですよね。
呂布:違うね。ちゃんと社会に暮らしている者として、見えている景色を歌うという。自分1人ならどうとでもなるわと思っているんだけど、子供や俺の孫のことを考えたら「政治家、しっかりしろや」という気持ちが出てくるんだよね。それは若い頃になかった感覚かもしれない。
●昔から知ってるし、より関係が濃くなってる状態で続けている●
MOROHAアフロの逢いたい、相対
アフロ:先ほど俺達の出会いについて話しましたけど、その後に呂布さんを東京に呼んでせっかくライブをしてもらったのに、飯がすき家の牛丼だったことをずっと悔やんでいるんですよ。
呂布:ハハハ(笑)。すき家はどこで食っても美味いから全然良いっしょ。あのとき(2013年)は渋谷・EARだったかな。
アフロ:残念ながら閉店しちゃって。
呂布:ここよりも狭かったよね(※対談をしたのは4畳半ほど会議室)。
アフロ:2マン(『あなたと渡詩vol.02』)だったんですよね。
呂布:うん。そう考えるとお互いに成長したよね。
アフロ:EARの後が2017年の北海道・札幌KLUB COUNTER ACTION(『MOROHA『其ノ灯、暮ラシ』RELEASE TOUR』)で、次が2019年に長野・伊那GRAMHOUSE(『MOROHA自主企画「破竹」第二十一回』)で、今回の『諸刃 TOUR』は名古屋・NAGOYA ReNY limited。着実に会場がデカくなってますね。
呂布:そうだね。テレビでMOROHAをたびたび観るようになって「うわぁ、めっちゃ出てる。しかも斎藤工と出てるやん」と感慨深い気持ちになるよ。
アフロ:「テレビでたびたび観るようになった」はこっちのセリフですよ。
呂布:良いよね。昔から知ってるし、年を重ねるごとに関係がより濃くなってる。そういう人は、あんまりいないからね。
アフロ:名古屋のライブが終わったら、チーズ牛丼を食いに行きましょう。
呂布:ハハハ(笑)、なんでや。
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文=真貝聡 撮影=森好弘