尾上松也が花形俳優たちと挑む『岩戸の景清』~歌舞伎座1月公演『壽 初春大歌舞伎』への意気込みを語る

レポート
舞台
2021.12.30
尾上松也

尾上松也

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歌舞伎座では、2022年1月2日(日)に新年の興行『壽 初春大歌舞伎』が初日を迎える。開幕に先駆けて、第三部『難有浅草開景清(ありがたや はながたつどう あけのかげきよ) 岩戸の景清』に出演する尾上松也が、取材会に出席した。

「安心して暮らせるまでには至らない中、今年1年歌舞伎公演ができ、来年もお正月から舞台に立たせていただき、ありがたく思います。皆様に、希望に満ちた1年を送れそうだと思っていただけるよう、我々も勤めてまいります」

2021年は、1月の歌舞伎座公演にはじまり、4月の歌舞伎座で『勧進帳』の富樫左衛門を勤め、コクーン歌舞伎『夏祭浪花鑑』や自主公演『挑む~完~』、10月歌舞伎座公演、さらに歌舞伎以外の場でも活躍を見せた松也。この1年と来年への思いを、『岩戸の景清』の見どころとともに語った。

■花形俳優が集う『岩戸の景清』

本作は、河竹黙阿弥の『難有御江戸景清(ありがたや おえどのかげきよ)』をもとにした演目だ。本興行で上演されるのは、1978(昭和53)年の国立劇場以来となる。

「前回、羽左衛門さんがなさった形を踏襲しつつ、お正月らしさを感じていただける構成を考えています。この演目は松竹さんよりご提案いただき、今回初めて映像で拝見しました。独特な世界観ですね。歌舞伎のヒーローたちが大集結し、名のりから始まり、だんまりがあり、六方もご覧いただく予定です。お正月に若手で挑戦させていただくにはもってこいの、豪華な演目になると思います」

松也が勤めるのは、悪七兵衛景清。江の島の岩戸にこもり、源氏への復讐を狙う。景清によって世界が暗闇となったため、源氏方の大名たちが神楽を奉納すると、岩戸から光がさして……。

「景清は、(歌舞伎十八番にもあるように)やる人を選ぶ役という印象があります。僕自身がいつか景清をやることがあるとは想像していませんでした。ダークヒーロー的な役でもあり、大きさも求められます。荒事の中でも、陰と陽の面をもつ非常に魅力的なキャラクターだと感じています」

■チームで盛り上げる、新年の歌舞伎座

タイトルには「浅草」と入り、「はながたつどう」と読む。秩父重忠に中村歌昇、北条時政に坂東巳之助、朝日に坂東新悟、江間義時に中村種之助、衣笠に中村米吉、和田義盛に中村隼人、千葉介常胤に中村莟玉。

「2021年に続き2022年も、お正月恒例の新春浅草歌舞伎の開催が叶いませんでした。そのご連絡を受けた際、『ならば来年の1月も歌舞伎座で一幕、若手にがんばらせていただきたい』と早い段階からご相談し、その機会をいただけることとなりました。非常にありがたく、やりがいを感じます。皆でアイデアを出しながら作るのが、チーム浅草。稽古の中で、新しいアイデアにもトライし、皆でいいものを作っていきたいです。尾上菊之丞先生に振付していただいています」

松也が、興行の中心を初めて担ったのが、2015年の新春浅草歌舞伎だった。

「非常に嬉しかったのと同時に、責任を感じたことを覚えています。当時、自分を取り巻く環境がめまぐるしく変化していた時期でもあり、戸惑いながらスタートしました。その中でも心強かったのが、後輩の中村歌昇くんや坂東巳之助くんが、『盛り上げるために何でもします』、『何でも言ってください』と、積極的に連絡をくれたことでした。自分が引っぱらなくては、という思いが強かったのですが、『僕だけじゃなくていいんだ』と。これからの僕らが作る新春浅草歌舞伎は、後輩先輩関係なくチームで作っていこう、という思いに至りました」

「新春浅草歌舞伎を応援してくださっていた皆様は、まだまだ拙い僕らが、先輩方の教えのもとで懸命に勤める姿や、それぞれの成長を楽しんでくださっていたと思います。1月の『岩戸の景清』では、ふたたび浅草でやらせていただく時までの、僕らの成長も楽しんでいただけたらと思います。浅草は、どこよりも日本のお正月らしさを味わっていただける街。浅草公会堂で、お正月恒例の歌舞伎を続けてきたことを忘れないでいただき、次に繋げていくためにも、応援いただけたら嬉しいです」

先日逝去された中村吉右衛門への思いを問われると、2018年の新春浅草歌舞伎で『双蝶々曲輪日記 引窓』の濡髪長五郎を教わった時を振り返る。

「憧れの先輩のおひとりでした。濡髪をご指導いただいた時は、その情熱、本気度に感動しました。普段の温厚な吉右衛門のおじさまと、芸を伝えてくださる時の熱心なお姿のギャップが、印象に残っています。非常に残念ですが、先輩方の思いを受け継ぎ、後輩たちに繋ぐのが歌舞伎。歌舞伎の伝統・伝承は、芸はもちろん、魂や僕らが肌で感じた情熱も受け継ぐことが大事だと思っています。感謝を忘れず、伝えていけるよう精進します」

■「父と僕」の赤胴鈴之助

2021年の松也の活躍の中で、注目したいのが、8月に下北沢・本多劇場で10日間に渡り上演した『挑むVol.10 〜完〜』の新作歌舞伎『赤胴鈴之助』。2022年1月8日(土)深夜からは、『まったり! 赤胴鈴之助』(BSテレ東・テレビ大阪)の放送も開始する。

「赤胴鈴之助は、父(尾上松助)が、幼少期に生放送ドラマで演じたキャラクターです。その後、歌舞伎として上演された記録もあります(1958年8月新宿松竹座、1959年2月新橋演舞場)。鈴之助というキャラクターは、映画やドラマなどで他の俳優さんも演じられていますが、僕にとって、鈴之助は父の役というイメージが強いです。歌舞伎には、それぞれのお家の演目、お役が存在する中、私も父もその意味でのご縁には恵まれないところで育ちました。2005年に父が亡くなった時、“父と僕のものだ”と言える何かを作れないかと考えるようになり、赤胴鈴之助が、まさにそれでした」

以来、舞台でも映像でも、何かしらの形にしたいと考えていたという松也。

「テレビドラマについては、4年ほど前から企画され、放送は来年に決まりました。それとは別で、『挑む』を10回目の今回で最後にしたいのだけれど何をやろうかと相談し、偶然にも、『赤胴鈴之助』が良いのではという話になりました。今年が“赤胴イヤー”になるとは想像していませんでした(笑)。1年でふたつも、夢ともいえる目標が叶いました。やりきった時には、父も、さすがに喜んでくれるのではないでしょうか」

■全三部、それぞれの色と華

歌舞伎座は、2020年8月以降、客席を収容率50%におさえて販売してきた。1月からは、間隔を空けた2席並びを原則とする配置で、およそ68%での販売となる。

「他の多くの劇場が、100%の収容率で公演をはじめている中、歌舞伎座はお客様の安全を第一に、状況を見定めています。我々としては、早く100%になってほしい気持ちがある一方、歌舞伎座のスタンスに誇りを感じます。1月からようやく50%より少し増え、その分、お客様の熱気と厚みが増すと思います」

歌舞伎座の『壽 初春大歌舞伎』は、2022年1月2日(日)から27日(木)までの公演となる。

「歌舞伎、演劇の良さは、日常を忘れられるということ。トリップ力とでもいうのでしょうか。その点において、歌舞伎は非常に強いパワーがあると思っています。1月は、第一部、第二部、第三部とも、お正月らしさがふんだんに織り込まれ、それぞれに色、華のある演目。我々も、第三部チームとして、全力でお正月盛り上げてまいります」

1月10日、16日には、『岩戸の景清』出演者たちの第12回「歌舞伎家話」がStreaming+で配信される。

1月10日、16日には、『岩戸の景清』出演者たちの第12回「歌舞伎家話」がStreaming+で配信される。

第三部は『岩戸の景清』とあわせ、『義経千本桜』「四の切」が上演され、市川猿之助が宙乗りによる狐六法を披露する。歌舞伎座で、客席(花道上)の宙乗りはコロナ禍以降初。第一部は、中村勘九郎の『一條大蔵譚』、中村獅童の長男・小川陽喜が初お目見得の『祝春元禄花見踊』、第二部では、中村梅玉、中村魁春、中村芝翫が天下泰平と五穀豊穣を祈る舞踊『三番叟』と、中村又五郎と中村鴈治郎の『萬歳』、さらに松本幸四郎がユーモラスな夢物語を描く『艪清の夢』が上演される。

取材・文・撮影=塚田史香

公演情報

『壽 初春大歌舞伎』
日程:2022年1月2日(日)~27日(木) 【休演】11日(火)、19日(水)
会場:歌舞伎座
 
■第一部 午前11時~
 
一、一條大蔵譚(いちじょうおおくらものがたり) 
檜垣
奥殿
 
一條大蔵長成:中村勘九郎
吉岡鬼次郎:中村獅童
鳴瀬:中村歌女之丞

お京:中村七之助
常盤御前:中村扇雀
 
二、祝春元禄花見踊(いわうはるげんろくはなみおどり)
 
真柴久吉:中村獅童
山三:中村勘九郎
阿国:中村七之助
若衆雪之丞:中村橋之助
同 月之丞:中村福之助
同 花之丞:中村虎之介

同 松之丞:中村歌之助
奴喜蔵:小川陽喜(獅童長男)
 
■第二部 午後2時30分~
 
一、春の寿(はるのことぶき)
三番叟
萬歳
 
〈三番叟〉
翁:中村梅玉
三番叟:中村芝翫
千歳:中村魁春
 
〈萬歳〉
萬歳:中村又五郎
才造:中村鴈治郎
 
三世桜田治助 作
山田庄一 演出

邯鄲枕物語
二、新玉の笑いで寿ぐ艪清の夢(ろせいのゆめ)
 
艪屋清吉:松本幸四郎
横島伴蔵/盗賊唯九郎:中村錦之助
清吉女房おちょう/傾城梅ヶ枝:片岡孝太郎
お臼:中村壱太郎
貸物屋六助/杵造:大谷廣太郎

下男太郎七/捨金番福六:中村吉之丞
八百屋女房おみね:澤村宗之助
米屋勘助:中村松江
安藝の内侍:市川高麗蔵
紺屋手代黒八/番頭作左衛門:大谷友右衛門
家主六右衛門/鶴の池善右衛門:中村歌六
 
■第三部 午後6時~
 
河竹黙阿弥 作
難有浅草開景清
一、岩戸の景清(いわとのかげきよ)
 
悪七兵衛景清:尾上松也
北条時政:坂東巳之助
江間義時:中村種之助
和田義盛:中村隼人
千葉介常胤:中村莟玉
衣笠:中村米吉
朝日:坂東新悟
秩父重忠:中村歌昇
 
三代猿之助四十八撰の内
二、義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)
川連法眼館の場
市川猿之助宙乗り狐六法相勤め申し候

 
佐藤忠信/忠信実は源九郎狐:市川猿之助
静御前:中村雀右衛門
駿河次郎:市川猿弥
亀井六郎:市川弘太郎
局千寿:市川寿猿
飛鳥:市川笑也
源義経:市川門之助
川連法眼:中村東蔵
 

配信情報

歌舞伎夜話特別編『歌舞伎家話』第12回
 
〈上ノ巻〉
■配信日時:2022年1月10日(月・祝)14時00分~ 生配信 ※配信時間は90分程度を予定
■配信場所:イープラス「Streaming⁺」
 
■出演者:尾上松也 中村歌昇 坂東巳之助 坂東新悟
:2,000円(税込) 発売中
は1月16日(日)20:00まで発売。
※配信開始後・終了後に購入の方も1月16日(日)23:59までアーカイブ視聴ができます。
 
〈下ノ巻〉
■配信日時:2022年1月16日(日)14時00分~ 生配信 ※配信時間は90分程度を予定
■配信場所:イープラス「Streaming⁺」
 
■出演者:尾上松也 中村種之助 中村米吉 中村隼人 中村莟玉
:2,000 円(税込)  発売中
は1月22日(土)20:00まで発売。
※配信開始後・終了後に購入の方も1月22日(土)23:59までアーカイブ視聴ができます。
〈上ノ巻〉、〈下ノ巻〉セット券3,600円(税込)
※セット券は1月16日(日)20:00まで発売。
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