UA 6年ぶりのCD発売、『Are U Romantic?』制作プロセスと現在の音楽観とは? 「生きていくにはロマンが必要でしょ」

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2022.5.30
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UAから新作EP『Are U Romantic?』が届けられた。
前作アルバム『JaPo』(2016年)から6年ぶりのCDリリースとなる本作には、岸田繁(くるり)、Kj(Dragon Ash)、永積 崇(ハナレグミ)、JQ(Nulbarich)、マヒトゥ・ザ・ピーポー (GEZAN)、中村佳穂が参加。“NEO POP”をテーマに掲げた、奔放にして上質なポップアルバムに仕上がっている。「生きていくにはロマンが必要でしょ」と笑顔で語るUAに、本作の制作プロセス、現在の音楽観などについて訊いた。

私のこれまでの作品のなかでも際立ってポップだと思います。ただ、それがどれだけ巷のポップに食い込んでいるかは、よくわからないんですけど。

――2021年はAJICOや『Cure jazz』(UA×菊地成孔)など、多彩な活動を行いました。今振り返ってみると、どんな1年でした?

2018年くらいから、去年、今年の動きをイメージしていたんですよね。そのためにプランを立てて、それに沿って活動するっていう。そういうふうに取り組むことって今までなかったし、あまり得意ではなかったんですけど、一つひとつの活動が終わっていくにつれて、自分のなかに充実感が満ちて。コロナの御時世にも関わらず、お客様と直に触れ合う機会も多かったし、生きている実感もすごくありました。達成していく喜びっていうのかな。たぶん、いい感じに年齢を重ねてきたんだと思います(笑)。

――あらかじめ決めたプランに沿いつつも、自由に音楽を表現できた?

あ、そうですね。誰からも操作はされてないし、自分ですべて組んだ、自発的な活動なので。

――30代の頃は、“決められた時間に歌うだけでもストレスを感じる”と仰ってましたが、そういう感覚はもうないですか?

その頃は自律神経が狂ってたんでしょうね(笑)。今もちょっと油断するとすぐおかしくなっちゃうんですけど、商売柄、仕方ないところもあるじゃないですか。特にライブのときは、自分でスイッチを入れることもあるし、ちょっと不自然というか。いまだに違和感はあるんですけど、高ぶってる緊張感はむしろ必要だと思うんですよね。緊張はいいサインでもあるし、ある程度の高ぶりは快感でもあるので。

――最近のステージを拝見すると、緊張、興奮、リラックスがいい感じで混ざってる印象があります。

確かに自分を俯瞰しているようなところもありますからね。経験と言いますか、キャリアとともに慣れてくるところもあるし、決して若くはない肉体とせめぎ合ってるんでしょうね。まあ、決してラクではないですけどね。

――今年1月には大阪、東京でワンマン公演『UA 25th→→→30th Anniversary  Live』を開催。シングル、アルバムのリード曲などを中心としたセットリストでしたが、あれほどベスト的な内容のライブは初めてでは……?

まさに仰る通りで、これまではそういう考えに至らなかったし、アイデアが出ることもなかったんです。それもすべて、アニバーサリーが大きかったと思います。どうやってみなさんに感謝を表わせばいいのかな?と考えて、出てきた答えの一つと言いますか。あと“ポップとは何だろう?”というお題が常にあって、音楽と向き合っていたんですよね。それは今回のEPのモチベーションにもつながってますね。

――なるほど。新作EP『Are U Romantic?』はまさに現在のUAさんの“ポップ”が体現された作品ですね。

ありがとうございます。そう、私のこれまでの作品のなかでも際立ってポップだと思います。ただ、それがどれだけ巷のポップに食い込んでいるかは、よくわからないんですけど。

――ポップを志向した理由は何だったんですか?

前作(アルバム『JaPo』2016年5月発売)から6年経ってるので、いろんな心象風景の移り変わりがあって。一つは日本を離れて、カナダに移り住んだことが大きかったですね。小さい子どもがいるので、ラジオなどのメディアから聴こえてくる音楽のなかで、彼らが何をキャッチして、何を口ずさんでいるかを間近で見ていて。やっぱりポップなものに反応するんですよね。あとは東京のシーンへの興味ですね。息子(俳優の村上虹郎)が25歳になって、彼のつながりで若い人たちと触れ合う時間もあったおかげで、今の東京の音楽は面白いなって。

――いろんなことが重なっているんですね。

本当にそうですね。前作の『JaPo』は私が沖縄で感じたことを表現しているんですけど、あのアルバムで、やりたいことはとりあえずやり切った感覚もあったし。あとは何だろうな……これまでの25年間は、自分がやりたいことを優先して、自分のためにやってきてしまった気がして。でも、お客さんが確実に喜んでくれるのは、今年のライブでやったような曲なんですよ。そのことを改めて実感したし、みなさんが聴いてくれたから、今も歌っていられる自分が確実にいるんだなって。

――『Are U Romantic?』には、岸田繁さん(くるり)、Kjさん(Dragon Ash)、永積 崇さん(ハナレグミ)、JQさん(Nulbarich)、マヒトゥ・ザ・ピーポーさん (GEZAN)、中村佳穂さんが参加。本当に素晴らしい曲ばかりですね。

嬉しい。私もめちゃくちゃ気に入ってます。マスタリングのときも、感動して泣いちゃいました。

 

――1曲目の「微熱」は、マヒトさんの作詞・作曲。

この曲はこちらからオファーしたというより、突然のギフトのように送られてきたんです。マヒトさんと知り合ったのは2019年の『りんご音楽祭』のときなんですけど、その翌年、とあるパーティで再会して、2曲ほどセッションさせていただいて。そのときに“曲のアイデアが湧いてきた”“曲が聴こえる”って仰ってたんですよ。“UAの25周年のために曲を書いてみるよ”って言ってくれて、その年の春に送られてきたのが、「微熱」のデモ音源だったんです。最初のデモは彼がアコギで弾き語りしていて、もっとゆっくりしたテンポのフォーキーな感じだったんですよ。メロウでノスタルジックなラブソングで、その時点でめちゃくちゃ感動して、家で何度も歌ってたんです。ただ、アルバムのテーマが“ポップ”ということもあって、アレンジは私に任せてもらえますか、と。その後、アレンジャー荒木正比呂くんといろんなサウンドを試したんですよ。たっぷりと大きいビートもやってみたんですけど、最終的にもっとテンポを速くして、3分くらいの曲にしたんです。歌入れ当時までギリギリまで悩んでたんですけど、シングルのイメージに当てはめたくなったというのかな。

――《かわらないであなたは 街や時代がかわっても/ずっとそのままで 綺麗なまんまでいて》など、歌詞も素敵で。

ドラマティックですよね。《わたしまた恋をして/違う誰かの女になって》なんて私からは絶対に出てこないし、どこか演じながら歌ったところもありました。同時に心のなかを覗かれてる感じもあって、マヒトさんは名監督だなと。

――「微熱」という題名もそうですが、UAさんの初期の代表曲「情熱」につながっているところもありますね。

タイトルはずっと迷ってたんですけど、意図せずオマージュみたいな感じになりました。ここ数年、リバイバルが流行ってるじゃないですか。子どもたちと一緒に車でラジオを聴いてると、ちょっと懐かしい感じのダンスチューンがヒットしていて。その流れもどこかで意識してたのかもしれないですね。

――永積 崇さん(ハナレグミ)との共作「お茶」も気持ちいいダンストラックですね。作詞はUAさん。《そこでお茶 コーヒーよりも渋いカフェイン》というフレーズもありますが、実際、コーヒーよりもお茶派なんですか?

去年、コーヒーをやめてたんですよ。AJICOのツアーのときに腰を痛めたのがきっかけだったんですけど、コーヒーをやめてみたら、お茶の種類の多さに気付いて、“これはありがたいな”って。だからこの曲を書いたわけでもないんですけどね(笑)。この曲も永積さんから、ギター1本と簡単なリズム、“ラララ”で歌ったメロディのデモが送られてきて。私としては、カリフォルニアっぽいディスコティックな曲にしたかったんですよね。あと、ギターの逆回転の音もフックになっていて。荒木さんの他の曲のデモで使われていたフレーズなんですけど、音色が気に入って、この曲にハメてもらったんです。永積さんも一緒に歌ってくれて、嬉しかったですね。

――“踊れる曲にしたい”という意図もあった?

私にとってのポップチューンは、“泣きながら踊る”というイメージだったんですよね。ミラーボールが回っていて……。

――煌びやかな光のなかで、涙を流しながら踊る。

そうそう。自分の声や歌の特徴としても、100%ハッピーというより、切なさやサウダージ、“今はもういない”という感じが合うのかなと。「お茶」の歌詞は、もういない人を振り返っているのではなくて、年齢を重ねた人間――男でも女でも――のレイヤーみたいなものを描きたかったんですよね。日々、いろんな偶然があって、開いていい扉と開いちゃいけない扉があるっていう。

――それが“コーヒーの刺激よりお茶”につながったのかも。刺激の取り過ぎ、注意しないと(笑)。

アディクトってありますからね、ホントに。人間は依存しちゃう生き物なので。

 

――そして先行配信「アイヲ」は、UAさんが作詞、岸田繁さんが作曲。EPのなかでもかなり個性的なサウンドですね。

かなりチャレンジしてますね。岸田くんの素晴らしいメロディが骨になってるから、思い切ったことがやれたところもあります。何をやっても大丈夫な器の大きさがあったというか。

――低音を活かしたトラックメイクも印象的ですが、この音像はどういうアイデアが入り口だったんですか?

ビリー・アイリッシュを聴いたことが一つのきっかけだったかな。私、わりと最近まで彼女のことを知らなくて。東京の息子の部屋にレコードがあって、それを聴いてみたら、すごいクオリティだったんですよ。エクソシストみたいなジャケットもイケてて。

――デビューアルバム(『ホエン・ウィ・オール・フォール・アスリープ、ホエア・ドゥ・ウィ・ゴー?』)ですね。

で、岸田くんに“ビリー・アイリッシュいいよね。ビリー・アイドルやないで”なんて話してたら(笑)、“同じBならビートルズやな”なんて仰ってて。それでデモを作ってくださったんですけど、私としてはやっぱりビリー・アイリッシュの感じでやってみたかったんですよね。ポイントとしては、ベースがめっちゃ攻撃的なことかな。ギターのエフェクターを使って弾いてもらったんですよ。

――厚みのある、尖った音ですよね。

そうなりましたね。「アイヲ」とカタカナで書いたのは、これをスローガンにしたかったからなんです。こんな世界ですけど、何を信じたいかといえば、やっぱりそれ(愛)なので。ラブソングというより、赤い旗を掲げるような強いサウンドが合うんですよね。《次の信号が黄色なら/すぐにブレーキを踏んで》とか《歌で世界は救われない》もそうだけど、はっきりしたメッセージも含んでるし。しっとり歌うイメージはなかったです。

――《アイヲ止めないで/永遠に微調整して》というフレーズにもグッときました。

そのフレーズは私もアルバムのタイトルにしようかと思ったくらい、気に入ってます。政治学者で歴史学者の中島岳志さんが『中村屋のボース(インド独立運動と近代日本のアジア主義)』という本のことを話している映像を見てたら、「“歴史が一夜で変わった”という言い方があるけど、そんなことはあり得ない。変えるためには微調整を続けるしかないんです」と仰ってて、かっこいい!と思って。それ以来、私も微調整を続けています(笑)。

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