高木裕和インタビュー スウィングを経験し今改めて思う「劇場をみんなが安心して楽しめる場所に」/『ミュージカル・リレイヤーズ』file.11

インタビュー
舞台
2022.6.24
高木裕和

高木裕和

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「人」にフォーカスし、ミュージカル界の名バイプレイヤーや未来のスター(Star-To-Be)たち、一人ひとりの素顔の魅力に迫るSPICEの連載企画『ミュージカル・リレイヤーズ』(Musical Relayers)。「ミュージカルを継ぎ、繋ぐ者たち」という意を冠する本シリーズでは、各回、最後に「注目の人」を紹介いただきバトンを繋いでいきます。連載第十一回は、前回丸山泰右さんが、「この人の悪口は聞いたことがないというくらい、本当にみんなに愛されていて、彼自身が愛の人」と紹介してくれた高木裕和(たかぎ・ひろかず)さんにご登場いただきます。2021年には4作品でスウィングを務めた高木さん。その経験もたっぷりとお話いただきました。(編集部)

 

「いろんな意味で僕たちは一人じゃ舞台に立てないんだなと、今改めて思うんです」

子役時代、USJ時代を経て商業ミュージカルの世界へと舞台人の道を歩んできた役者、高木裕和。

『ラ・マンチャの男』『ラ・カージュ・オ・フォール』『マイ・フェア・レディ』といったミュージカル作品の舞台に立ち続け、2021年には4作品でスウィングを経験。2022年9月に『モダン・ミリー』、12月に『スクルージ』の出演が控えている。

物心つく前から慣れ親しみ、生活の一部のような存在となったミュージカル。そのミュージカルの舞台に立つことを仕事に選んだのは、必然だったのかもしれない。彼の言葉を聴けば聴く程、そう思えた。

部活感覚から仕事へ〜USJでの出会い〜

――高木さんは、2歳からミュージカルスタジオに入っていらっしゃったそうですね。

そうなんです。母がスイミングやそろばんといった習い事の体験にいくつか連れて行ってくれたそうなんです。その中で「どれが一番やりたい?」と聞かれた2歳の僕が選んだのが、ミュージカルスタジオだったと(笑)。笹本玲奈ちゃんのお母様(元宝塚歌劇団の四季乃花恵さん)が主宰するスタジオで、ミュージカルを教えるスタジオ自体が珍しかった当時、たまたま近所で学ぶ機会に恵まれました。スタジオには僕以外女の子しかいなくて、一人だけブルーのレオタードを着て踊っていたそうです(笑)。子どものときはこれを仕事にしようなんて全く考えていなくて、部活のような感覚でレッスンに通い続けていました。

――10代の頃はアルゴミュージカルやミクロコスモスで子役として舞台に出演されていますね。

10歳のときのアルゴミュージカルが初舞台でした。そのあとすぐに声変わりして、しばらくは演技することや歌うことがすごく嫌になっちゃったんですよね。身長が伸びるのも早い方でした。技術や中身は子どもなのに身長だけ大人になってしまうと、子役として活躍する場ってなかなかないんです。ただ、子どもの頃からオールドタイプのミュージカルが好きだったのもあって、その頃は踊ることにのめり込んでいきました。

――そんな高木さんが本格的に舞台を仕事としようと思ったきっかけは?

高校生のときに改めて「自分が興味あることってなんだろう」と考え始めたら、学校への興味がどんどんなくなっちゃったんです(笑)。当時はモヤモヤしていましたねえ。高校卒業後は大学には進学せず、子役時代からお世話になっていた事務所のレッスンにひたすら通っていました。そんなときスタジオの先生からオーディション情報をいただいて受けたのが、USJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)の『Wicked』でした。この連載にも登場していた可知寛子、福田えり、森加織、後藤晋彦たちと出会った場所でもあります。そこで合格して初めて「あ、これが僕の仕事になるんだな」って。

『Wicked』は海外キャストと日本人キャストが半々くらいのカンパニー。そこで出会った海外キャストたちの価値観は自分の人生にないものだったので、すごく刺激的でしたね。まだまだ自分のことをわかっていない僕に「あなたは十分立派なパフォーマーだから、自分のやっていることにもっと自信を持てばいい」「私はあなたのやっていることをとても誇りに思う」といった、自分自身を肯定してくれる言葉をくれたんです。彼らからは、パフォーマーとしてすごく大きな影響を受けたと思います。

――USJ時代に“Booちゃん”というあだ名を森加織さんが命名したそうですね。由来を教えていただけますか?

海外キャストが日本人のフルネームを覚えるのは大変だから、あだ名をつけようという話になったんです。大抵は下の名前で呼び合っていたので、「裕和だからヒロかカズでいいよ」と言ったんです。そうしたら海外チームからまさかの大ブーイング! 日本人男性の愛称でヒロとカズは多過ぎるって言うんですよ(笑)。あまりに「No More Hiro ! No More Kazu !」と訴えてくるので、どうしようかなと思っていたときに森加織が「高木だからBooとかでええんちゃう?」って(笑)。日本人なら高木ブーさんを知っていますが、海外キャストにとっての“Boo”はハロウィンのときに驚かす言葉だったりスラングだったりするので、なぜその言葉を選ぶのだろうと思ったでしょうね(笑)。でもそれが定着してしまい、その後の現場でも“Booちゃん”が浸透しています(笑)。

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