高木裕和インタビュー スウィングを経験し今改めて思う「劇場をみんなが安心して楽しめる場所に」/『ミュージカル・リレイヤーズ』file.11

インタビュー
舞台
2022.6.24

「あのとき、自分の舞台人としての鼻をへし折られました」

――USJは2006年の1年間で卒業されたようですが、その後は?

オーディション情報をいただいたので、USJのオフの日に東京まで受けに行ったんです。オーディションの合格をきっかけにUSJを卒業しました。それがミュージカル『モダン・ミリー』(2007年・フジテレビ主催)だったんです。

――2022年9月には東宝製作の『モダン・ミリー』にも出演予定ですよね。当時のことは覚えていらっしゃいますか?

大人になってから商業ミュージカルに出演するのは2007年の『モダン・ミリー』が初めてだったので、嬉しい反面めちゃくちゃ緊張していました。ついこの間まで客席から観ていた人たちと一緒にお稽古をするのは、とっても不思議な感覚でしたね。紫吹淳さん、川崎麻世さん、岡幸二郎さん、樹里咲穂さん、今陽子さん、前田美波里さんなど錚々たる方がいらっしゃいました。

特に影響を受けたのは、演出・振付をしていたジョーイ・マクニーリー。世界でも限られた人しかできない『ウエスト・サイド・ストーリー』の演出も経験されている方です。明確に世界観を持っている人だからイエス・ノーがはっきりしていて、かなりストレートな演出でした。当時の『モダン・ミリー』では踊りがすごく重視されていて、ダンスは僕にとって芯の部分でもあるから「彼の求めてくるものに負けたくない!」と必死でしたね。最初は先輩方を前に緊張していたのに、気付いたらそれどころじゃなくなっていました(笑)。15年ぶりに『モダン・ミリー』に出演できるというのは、とても感慨深いです。

――2008年以降は『ラ・マンチャの男』『ラ・カージュ・オ・フォール』『マイ・フェア・レディ』といった歴史あるミュージカル作品への出演が増えていきます。

東宝作品の中でも座組が大きい作品に20代前半のペーペーがポンッと入る形になったので、先輩方にかわいがっていただきました。最初は製作の方にとっても、大勢いるアンサンブルキャストの中の一人という認識だったと思うんです。それが『ラ・カージュ』に出演したのをきっかけに、僕個人を認識していただけるように変化した感じがありました。

――『ラ・カージュ』がご自身にとって転機になったということでしょうか。

そうなりますね。日本初演から30年以上シングルキャストで出演し続けているモリクミさん(森公美子)やマジーさん(真島茂樹)はもちろんすごいんですけど、2012年までシングルキャストでデルマを演じていた石丸貴紫さんもすごいんですよ。

デルマはゲイクラブのダンサー(レ・カジェル)の一人。僕にとって最初の『ラ・カージュ』の稽古に、石丸さんは2週間程遅れて参加することになったんです。その間に僕が稽古場代役でデルマの枠に入ることになり、石丸さんにしっかり引き継ぎしなきゃと張り切って臨んでいました。初演からデルマを演じていらっしゃるとはいえ、前回公演から9年ぶりの再演だったので、抜けているところもあるだろうなと思ったんです。

いよいよ石丸さんが稽古場にいらっしゃったので準備万端で待っていたら、来て早々に「とりあえずやる?」と一言。どういう意味だろうと思ったら、みんながリハーサルしている中にいきなり入ってできちゃってるんですよ。カンカンのシーンも踊りながらポジションを確認していました(笑)。あのとき、自分の舞台人としての鼻をへし折られましたね。これが何十年と本番の舞台に立って踊り続けてきたダンサーなんだなと。同時に、僕もこういう先輩になりたいと強く思いました。そのデルマの二代目を、2015年から僕が演じさせてもらっています。

――市村正親さんと鹿賀丈史さんのゴールデンコンビが誕生した2008年から2022年まで、『ラ・カージュ』にずっと出演されているんですね。

こういう再演作品って、大抵は続投する人が同じ枠で、欠員枠に新しい人が入るんです。でも『ラ・マンチャの男』と『ラ・カージュ』に関しては、僕は入るたびに役が違いました。徐々に出番が増えてすごくありがたいことなんですけど、毎回パートが変わるというのは大変な面もあります。再演のときに同じ曲を別のパートで歌ったり踊ったりするのって、慣れていないと結構混乱するんです。でもそこでいろんなパートを務めることで、作品への理解度や愛着が深まっていくことを肌で感じました。実はこの経験が、スウィングをやったときにすごく役に立っていたんですよ。

>(NEXT)作品・カンパニーにとってのスウィングの役割とは? 経験を踏まえ今思うこと

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