ロロ・三浦直之インタビュー〜"いつ高シリーズ"の世界観をスケールアップした新作本公演『ここは居心地がいいけど、もう行く』

インタビュー
舞台
2022.7.12
ロロ 主宰 三浦直之  (稽古場写真:伊原正美)

ロロ 主宰 三浦直之 (稽古場写真:伊原正美)

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87年生まれの三浦直之が作・演出を手掛ける劇団、ロロ。三浦は古今東西のポップ・カルチャーに通暁しており、あまたある先行作品を攪拌したような作風は、演劇界でも異彩を放っている。そんな三浦が2015年に始動したのが『いつだって可笑しいほど誰もが誰か愛し愛されて第三高等学校』(以下、いつ高)。高校演劇のルールをベースにしている為、仕込みで10分以内、本編で60分以内という制約の上で作品が創られた。その作風はロロの本公演のようなギミックやトリックはなく、オーソドックスな会話劇で成り立つ。三浦にとっても新境地だったのではないか。

そのいつ高シリーズは6年間で10本を上演し、完結したが、この度上演される『ここは居心地がいいけど、もう行く』は、再びいつ高のキャラクターたちが登場。連続ドラマの映画版のような位置づけで、「いつ高の世界観そのままスケールアップさせ、ロロの新作本公演として上演する」とのこと。ロロ主宰の三浦に新作の狙いや意図を訊いてきた。

三浦直之 (写真:三上ナツコ)

三浦直之 (写真:三上ナツコ)


 

――高校演劇のルールに則った「いつ高シリーズ」(以下、いつ高)は6年間で10本の作品を上演しました。今思うと、連続ドラマや連作短篇小説みたいでもありますね。

そうですね。それを演劇でやれないかなって当初から思っていました。ひとつの作品だけで世界観が完結するのではなく、作品が外側に広がっていくものを作りたいなって。ロロの本公演では時間や空間が行ったり来たりするし、リアリズムから逸脱したファンタジーの世界が舞台だったりする。一方、いつ高では今いる我々と地続きの世界で物語を作ろうと思いました。あと、自分の好きなものを、肩の力を抜いて書く場所としても貴重でしたね。『ここは居心地がいいけど、もう行く』は、いつ高に出ていた高校生たちのその後が含まれていて、連続ドラマの劇場版みたいな位置づけです。

――いつ高っぽさのひとつに、固有名詞を台詞に入れ込む趣向があると思います。

いつ高は、「自分の好きなものについて語る」というシリーズだったから、その当時自分がハマっているものがそのまま物語のテーマになっていました。例えばvol.4の『いちごオレ飲みながらアイツのうわさ話した』に短歌の話が出てくるのは、僕がその時短歌を読み漁っていたから。Vol.3『すれ違う、渡り廊下の距離って』だったら、『フリースタイルダンジョン』を見まくっていたから劇中にラップが出てくる。vol.8『心置きなく屋上で』は、その時僕がクイズにハマっていたのでクイズの話にもなる。そういう風に好きなものの固有名詞を挙げることで、それまで接点がなかったお客さんと繋がれればいいなと思っていました。

――ただ、その固有名詞が分かる人とそうじゃない人で、温度差が生まれることもありますね。

ある固有名詞を知っているか知らないかで分断が生まれたら嫌だなって思ってはいました。あと、過去作を見ている人とそうでない人の間で、知っている情報量に差が生まれる。それが原因で作品が閉鎖的になったらつまらないし、もったいないとは思っていました。で、その解決策として、固有名詞の脚注的な文章が載っている冊子を配りました。固有名詞が劇中で完結するんじゃなくて、開かれているといいなと思っていて。あと、僕自身の経験として、ある作品を見て、それをきっかけにまた別の作品に出合うってきたから、いつ高もそうしたかったんです。

新名基浩 (稽古場写真:伊原正美)

新名基浩 (稽古場写真:伊原正美)

――いつ高に出る俳優さんが、脚注的な冊子に文章を寄せていますね。俳優が演技以外で作品に寄与するという意味で、面白い方策だと思いました。

そうですね。僕も俳優が何らかの言葉を発信する場所があればいいなあっていうのがいつ高を始めた頃からあったので。それは意識して作りましたね。

――ただ、vol.9やvol.10は固有名詞がぐっと減っています。それは今回の作品もそう?

今回は固有名詞はなるべく使わないようにしようと思っています。いつ高シリーズだと、出てきた固有名詞が物語のモチーフと結びつくことが多かったんですけど、今回はそういう使い方はしない。もし固有名詞があっても、ただそれが出てくるというだけです。物語に寄与する形では使わないっていうのは最初から決めていましたね。

――本公演はそこまでじゃないけど、いつ高はすごく好きっていう人もいますよね。複雑な心境では?

びっくりしましたね。まず、僕がいつ高みたいな話を書く能力があるって思われてなかったみたいで(笑)。最初は反応が良くて嬉しかったんですけど、会う人会う人「いつ高好きです」って言われるから段々悔しくなってきて(苦笑)。本公演より反応が良かった回もあるし……。

大場みなみ (稽古場写真:伊原正美)

大場みなみ (稽古場写真:伊原正美)

――でも、いつ高シリーズの成果が本公演に反映されてるじゃないですか?

それはありますね。僕、台詞を書くのってそこまで得意じゃなかったんですけど、『ハンサムな大悟』(15年)『あなたがいなかった頃の物語と、いなくなってからの物語』(16年)に関しては納得のいくモノローグが書けたなと思っていて。でも一方で、ちょっとダイアローグが弱いなというのを自覚していたんです。で、だったらモノローグがなくても成り立つ、ダイアローグに特化した作品を作ろうと思って。それがいつ高シリーズに繋がったというのはありますね。だから、いつ高で培ったダイアローグの描き方を本公演にも応用してみようと思って。初めにそうやって作ったのが『BGM』(17年)です。あれはロードムーヴィー的な物語で、過去と現在を行ったり来たりするけど、劇中の会話はいつ高をやってきた成果がフィードバックされていると思いますね。

――高校演劇と同じ60分という制限があるからこそ、生まれるものもありますよね。制約が多いほうが逆に作りやすい、という人もいますし。

ああ、僕は完全にそのタイプです。60分っていう縛りが面白い方向に転がっていく。僕の尊敬する演出家の中野成樹さん(中野成樹+フランケンズ主宰)が、いつ高シリーズの『校舎、ナイトクルージング』を見に来てくれた時に、「60分くらいの作品っていっこパンチラインあるといいんだよね」と言っていて。パンチラインと言っていたのかちょっと曖昧なんですけど、確かにこれが長編になるともう少し色々な仕掛けが必要ですよねって。だから、いつ高シリーズが終わってからも60分くらいの作品は上演していきたいですね。見る人もハードルが下がるだろうし。

大石将弘 (稽古場写真:伊原正美)

大石将弘 (稽古場写真:伊原正美)

――今回、いつ高シリーズのその後も描かれていますね。以前高校生だった役の「その先」を表現するのが難しかったのでは?

いちばん最初はベタに同窓会ものにしようかなと思っていたんです。大人になったいつ高のキャラクターたちが、同窓会で再会するみたいな。ただ、あまりノスタルジックな方向の作品にしたくなくて。思い出話をするのは本公演の『ロマンティックコメディ』でやったから、また同じ話するの?って思っちゃったんです。で、大人の物語と高校生の物語、どっちもある作品にしようって思って作りました。

――舞台は高校の文化祭ですが、踊り場を舞台にしたのは何故でしょう?

まずタイトルが『ここは居心地がいいけど、もう行く』だから、最初は居心地が良くない場所にいて、そこに段々馴染んでくる話にしたかったんです。で、文化祭で居心地よくないけど人が集まる場所ってどこだろうと思った時、踊り場だと。今作の踊り場は屋上から降りたり登ったりする時に通る場所だから、人の出入りが激しい。それで演劇にしやすいというのもありました。

島田桃子 (稽古場写真:伊原正美)

島田桃子 (稽古場写真:伊原正美)

――今年、ロロ本公演の『ロマンティック・コメディ』を上演されましたが、あの作品との連続性は意外とあるのでは?

今回、『ロマンティックコメディ』からスパンなくやるし、俳優も引き続き出てもらう人が多いんです。会話を中心にして物語が進んでいくっていう意味では、構造も似ていますし。だから、どこかで差異化をしなきゃと思っていて。『ロマンティックコメディ』は、問題を解決しないことを大事にしたいと思って書いた作品で。あれは、何か問題があるけれど、それがずーっと解決されないまま時間だけが過ぎていく話でした。でも、今回はちゃんと問題を設定してそれが解決されるっていう物語になっていますね。

――あと今回、18歳以下は無料で入れるんですよね。

高校生に見て欲しかったんです。というのも今回、これまでのいつ高シリーズといちばん違うのは、スタッフ・ワークなんです。いつ高は60分上演で仕込み10分という形式だったから、制限が多くて。仕込みの時間的に使える舞台美術も限られてくるし、60分だから複雑な脚本にもしづらい。衣装は制服オンリー。でも、今回は音響も照明も衣装も、そういう制約を取っ払って考えて、作ったんです。

――裏方の大事さが明確になりそうですね。

高校生の演劇人にいちばん分かって欲しいのは、プロのスタッフ・ワークでやるとこんなにクオリティあがるんだよっていうことで。実際、かなり予算をかけて、プロフェッショナルならではの仕事が見える作品になっていると思うんです。セットは予算をかけただけあって、久々に二階建てですし。高校演劇って表方やりたいってい人ばっかりじゃなくて、裏方希望で入ってくる生徒もいるから、そういう人にも観に来て欲しいですね。

望月綾乃・大場みなみ (稽古場写真:伊原正美)

望月綾乃・大場みなみ (稽古場写真:伊原正美)

取材・文:土佐有明

公演情報

ロロ新作本公演
『ここは居心地がいいけど、もう行く』


 
■日程:2022年7月22日(金)〜7月31日(日)
■会場:吉祥寺シアター
料金:
一般前売り:4500円
U-25前売り:3500円
U-18:無料(枚数限定/一律)
アルテ友の会:4000円
当日券一般:5500円
当日券U-18:4500円

*入場整理番号付全席自由席。
*未就学児はご入場いただけません。
*前売りは、クレジット決済またはコンビニ入金、事前発券が必要です。
*ご予約の変更、の再発行はできません。
*各種割引でご予約のお客様は受付で学生証をご提示ください。
*車椅子でご来場のお客様は事前にお申し出ください。
*アルテ友の会は武蔵野文化生涯学習事業団のみ取り扱い。

 
■脚本・演出:三浦直之
 
■出演:
島田桃子
望月綾乃
(以上ロロ) 
大石将弘(ままごと/ナイロン100℃)
大場みなみ
新名基浩

■STAFF
美術:中村友美/いとうすずらん
照明:富山貴之
照明操作:山内祐太
音響:池田野歩
衣装:神田百実
舞台監督:岩澤哲野
演出助手:中村未希
演出部:桝永啓介
文芸助手:稲泉広平
イラスト:西村ツチカ
デザイン:佐々木俊
当日運営:藤井ちより
制作助手:大蔵麻月
制作:奥山三代都/坂本もも

 
■公式特設サイト:http://loloweb.jp/KK/Schedule/
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