東京にこにこちゃん新作公演『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・バルコニー!!』木乃江祐希×細井じゅん×髙畑遊×萩田頌豊与インタビュー 「ロミジュリ×朝ドラで、ハッピーエンド確約の喜劇に!」
写真左から髙畑遊、萩田頌豊与、細井じゅん、木乃江祐希 写真/吉松伸太郎
2022年7月21日(木)より下北沢・シアター711にて東京にこにこちゃんの新作公演『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・バルコニー!!』 が開幕する(7月24日まで上演)。
主宰の萩田頌豊与が作・演出を手がけ、公演毎に外部から個性豊かな客演陣を集めるスタイルで活動を続ける劇団員なき劇団・東京にこにこちゃん。恋愛シュミレーションゲームを舞台に、選択肢にない答えを選んだ主人公の掟破りの純愛を眩しく切り取った前作『どッきん☆どッきん☆メモリアルパレード』は連日満員、大きな反響を呼んだ。
「日本一が取れる劇団」といった自虐的キャッチコピーが早くも揺るぎつつある東京にこにこちゃんが新作で挑むのは、恋愛悲劇の金字塔。シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』を原作に、計10名の可笑しくも愛おしいキャラクターたちが新たな物語の上を縦横無尽に駆け回る。出演はインコさん(実弾生活)、尾形悟(マグネットホテル)、加藤睦望(やみ・あがりシアター)、木乃江祐希(ナイロン100℃)、澁川智代(右マパターン)、髙畑遊(ナカゴー)、てっぺい右利き、細井じゅん(コンプソンズ)、モリィ(NATURE DANGER GANG)、四柳智惟。
世界的悲劇に朝ドラ要素を掛け合わせ、笑いあり、そしてまたもや笑いありのハッピーエンド大喜劇に仕上げるという異例の本作。その創作について、主宰の萩田頌豊与と出演の木乃江祐希、細井じゅん、髙畑遊に話を聞いた。
■世界的悲劇をにこにこ喜劇に大改編?!
――今回『ロミオとジュリエット』が原作というわけですが、みなさんが初めて台本を読んだストレートな感想は?
木乃江 とにかくロミオがすごくおバカというか、話の要領を全然得なくて、それにジュリエットが半ばイライラしているっていう始まりで……。仮死薬を飲むにもロミオには「仮死」の意味がわからず、とにかく「なんで!どういうこと!」ってテンパるので、めちゃくちゃ説明が必要なんですよ。「もしロミオがバカだったら、こんなに一つ一つが大変なのか」と思いつつ、今後の展開を楽しみにしながらやっています。
萩田 木乃江さん、本当に絶妙な塩梅でイラつかれていて……。物語とか役者の芝居とかそういうのではなく、純粋にロミオそのものにガチギレされてるんですよ。もはやあんまり経験がないタイプの怒りだと思うんですけど、ちゃんとそういう感情も入るんだ!って僕はしみじみ感動して。すごく嬉しかったです。
もしかしたら、ロミオとジュリエットにもこんなやりとりがあったかも?!
木乃江 じゅんくんがすごく上手なんだと思う、イライラさせるのが!
細井 それ、素直に喜んでいいんですかね……(笑)。
萩田 そもそも僕が「ロミオってもしかしてバカなのかもしれない」と思って、色々想像しながら原作を読んでいたんですよね。僕はそっちの方が感動できるというか、バカだからこそできることっていっぱいあると思っていて……。そういう意味でも冒頭からおバカで可愛らしいロミジュリになっていると思います。
ジュリエット役の木乃江祐希
ロミオ役の細井じゅん
細井 東京にこにこちゃんでロミジュリを原作にやると聞いた時に、正直跡形も残らないだろうなというか、絶対違う方向に行くだろうと思ったんですよ。もはや原作読む必要あるかなと思うくらい……(笑)。でも、一応読んでから稽古に入ったんですけど、意外と根幹で繋がっている部分も見えてきたりして、発見が楽しいです。
萩田 なんか、ちょっとロミジュリっぽくなってきたよね? じゅんくん演じるロミオと木乃江さん演じるジュリエット以外全員架空のキャラクターなんですけど。ちなみに髙畑さんはチューシーという使用人役で思いっきり暴れていただきます。
髙畑 面白い役柄ですよね。尾形悟さん演じるゾイと絡むところが多いんですけど、尾形さんがまた可愛くて可愛くて。稽古やりながらずっと愛おしくなっちゃう。そんなオリジナルキャラクターの個性もあって、最初はもはや全く別の物語として面白く読んでいました。でも、読み進めていくうちに、物語の流れというか、最後にかけて盛り上がって押し寄せてくるものに感動しちゃって……。読後感にはロミジュリ感があったかも。観終わった後に残るものとしてもそんなラストをつくれたらいいなと思っています。
使用人・チューシー役の髙畑遊
――そもそも、今回の原作や題材に『ロミオとジュリエット』を選ぶに至るのはどんな背景があったのでしょうか?
萩田 タイトルも模しているんですけど『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』というタランティーノの映画がロミジュリ以前のきっかけでした。ある「事件」をきっかけに、<そうはならなかった世界>が哀愁に乗って終わる、という部分にすごく惹かれていて、「こういうことを演劇でもやりたい」ってずっと考えていたんです。ただ、「事件」を題材にする場合の「調べなくては分からない状態」が演劇ではネックというか難しい部分だなと思っていて。その過程なく、誰もが共通認識として結末を知っている事件や物語を考えた時にロミジュリが思い浮かんだんです。悲しいものがハッピーエンドになった時の儚さを体現するにあたってもぴったりだと思いました。
東京にこにこちゃん主宰で作・演出を手がける萩田頌豊与
■稽古はテンポよく、手札は多く
――タイトルにはそんな秘話があったのですね。今のお話を聞いて、チラシのビジュアルにも納得がいきました。稽古が始まって二週間ほどですが稽古場の様子や進捗はいかがですか?
木乃江 すごく独特で楽しいです。稽古の中で頌豊与さんの「こうやってみよう」っていう提案や演出がすごくライトな形で入ってくるんです。で、やってみて違ったら他の方法でまたやってみる、っていう風に短く軽快なターンでトライ&エラーを繰り返していくような感じで……。自分がやっている時も楽しいけど、人の稽古のいろんなパターンを見るのもまたすごく楽しくて! 見入っちゃってます。アイデアが出て、トライして、作品に反映させていくまでのテンポがとにかく速い!
細井 木乃江さんが仰るように、テンポが特徴的な楽しい稽古場ですよね。僕は自分が所属しているコンプソンズのメンバーや親しい仲間がたくさんにこにこちゃんの過去作に出ていたりする中で「自分だけ呼ばれないなあ」ってずっと思っていたんです……(笑)。
萩田 出た! こういうこと言うんですよ、彼ってば。そんな理由で今回呼んだみたいに思われるのも嫌だよ!(笑)。純粋に機が熟したんです。ロミジュリで行こうってなった時、真っ先にロミオはじゅんくんだって顔が浮かんだんだよ。
細井 それは素直に嬉しい! 東京にこにこちゃんは地蔵中毒やコンプソンズと同世代で劇団同士も仲はいいけど、演出のアプローチとか作風も全然違うんですよね。本当にその違いが面白いです。にこにこちゃんの稽古は自分に合っているとも思いますし、進め方とか方法が新しくて興味深く感じたりもしています。
交錯するやりとりの要所要所に仕込まれる、速くて熱い笑いの数々
萩田 僕は演劇をはじめてからずっと憧れている俳優が髙畑さんだったんですよ。大学の時にナカゴーを観て「こんなに面白いものが世の中にあるんだ!」って興奮したのが演劇の原体験としてもあって……。地蔵中毒の大谷くんと「絶対出てほしいよね」「でも、きっと難しいよね」なんてずっと話していて……。まあ、大谷くんに先越されたんですけど(笑)。でも、今回そんな念願が叶って出演いただくことになって。雲の上の存在だったので、オファーの時はめちゃくちゃ緊張しました。
髙畑 なんだ〜もっと早く声かけてくれたらよかったのに〜!(笑)。「面白そう」っていう直感は感じていたんですけど、萩田さんが「絶対ハッピーエンドにします!」って力強く仰っていたのが何より印象的でした。で、実際に稽古場に行ったら、そういうハッピーな作品をつくる人たちの集まりだなっていう雰囲気をすごく感じたんです。全く喧々してないし、和やかで、朗らかで、可笑しい。作り方の段階からそういうものを目指している人たちの集まりで、本当に優しい稽古場です。
投げられる言葉と置かれる言葉、身体の力の入り方から抜け方にまで”反応力”の高さが光る
■絶対、ハッピーエンドの方がよくないですか?
――私も過去作を観させていただく中で、萩田さんが物語の登場人物一人一人に「お前のこと絶対幸せにするからな!」って抱きしめているように感じる瞬間があって、そこにすごく心を動かされました。ちなみに、「ハッピーエンド」というポリシーを掲げるにはどういう経緯があったのでしょうか?
萩田 絶対、ハッピーエンドの方がよくないですか? バッドエンドとハッピーエンドだったら、ぜってーハッピーエンドの方がよくないですか!って思っているんです、シンプルに(笑)。以前はバッドエンドの作品もやっていて、それが全然売れなかったっていうのもあるんですけど、そもそもバッドエンド側の人間じゃないのに無理して捻くれてやっていたから「これじゃダメだ!」って思ったんですよね。そのターニングポイントになったのが『ラストダンスが悲しいのはイヤッッ』っていう作品でお葬式をハッピーにするお話でした。そこからずっとハッピーエンドを腹に据えながらやっているので、今回も「間違いなくハッピーエンドです」と言い切っています。まあロミジュリですからそれなりのハードルはあるし、解釈も人それぞれ多様なので「どこがハッピーエンドなの?」って意見ももちろんあるとは思うんですけど……。それもこれも受け止める覚悟で、自分の思うハッピーエンドを追求していきます。
瞬発的なアイデアをその場で積極的に演出へと盛り込んでいく萩田
――そんなハッピーを追求する作品に集結した、キャリアも個性も様々な俳優さんたち。みなさんがそれぞれ感じている作品の魅力や見どころをお聞かせください。
木乃江 私、汗かくタイプの演劇がすごく好きなんですよね。せっかくの生の演劇だから、みんなが持ち寄ったパワーを感じてもらいたいっていう気持ちもあって……。初めて演劇を観るという人にもそんなパワーの放出を感じていただけたらと思いますし、きっと楽しんでいただけるんじゃないかと感じています。これだけパワー系の演劇もそうそうないので(笑)。
細井 にこにこちゃんの演劇は確かに観劇が初めての人ものめり込んでもらいやすい気がしますね。僕自身、演劇がもっといろんな人に観てもらえるものになったらいいなあっていう気持ちがあって……。人がそこにいるエネルギーとその魅力を存分に感じてもらえたらと思います。
シーン毎に笑いにおける絶妙な間合いと度合いを追求する俳優たち
髙畑 とにかく、いい歳の大人が「こんなこと普段は言っちゃいけないでしょ?」って言葉を大声で叫んだりしているので、観ている人も一緒にストレス発散してもらえたらいいなって思っていますし、私も舞台上で発散しています(笑)。実際に近くにいたらちょっと困るけど、遠目で見るとみんな可愛いキャラクターばかり。そんな人間の愛らしさも感じてもらえたら嬉しいです。
物語の展開に呼応したダイナミックな動きも見どころの一つ
萩田 「分かりやすいもの」をずっと模索しながらつくっているので、ロミジュリを知らない人も観劇初心者の方も気軽に観ていただけたらと思っています。この劇団名も「とにかくなめられよう、バカにされよう」と思ってつけたんです。なので、前作で「こんな名前の劇団に泣かされるとは」っていう感想をいただいた時はとても嬉しくて、ざまあみろー!って思いました。そのくらい、演劇の敷居を下げたい気持ちがあります。と言いつつ、ダサくしすぎてお客さん来ないって現状もあったんですけどね(笑)。
ヘンテコだけど愛らしい、キャラクター性の高さやそのバリエーションにも注目を!
――東京にこにこちゃん。言っている時も楽しく愛おしくなれる劇団名だと思います! 名前負けしない、楽しいお話をたくさんありがとうございました。最後に、そんな「東京にこにこちゃん」という劇団が今後目指すビジョンや展望についてお聞かせください。
萩田のアイデアや演出を受け、みるみる濃い世界へと仕上げていく出演者たち
萩田 今作の物語やキャラクター性にも通じていくのですが、いろんな創作を経て自分を見つめ直した時に「俺ってすげーバカだよな」って思ったんですよね。だったら、執筆や演出でもバカで恥ずかしいことをやったらいいじゃんって。例えば、最後は全員で舞台に出ようとか、大きな声出して同じ方向見ようとか、そういった「今の演劇の演出で恥ずかしいと思われていそうなこと」を僕は全く恥ずかしいと思わないから。僕はディズニー大好き人間なんですけど、小劇場の世界でそう公言する人ってなぜかあんまりいないじゃないですか? でも、僕はやっぱり素晴らしいと思うし、大好き。ずっとそういう気持ちでいたいです。だから、東京にこにこちゃんでは、大きな声は出した方がいいし、一人一人に爆発的な見せ場を作りたいし、出ている俳優同士全員が一回は絡んだ方がいいし、最後はみんなで舞台に出たいし、結末は絶対にハッピーエンドがいいんです! 大丈夫ですかね、なんかすごいバカみたいなインタビューになってないかな……。まあ、いっか! だって、名前が「東京にこにこちゃん」だからね!
取材・文/丘田ミイ子
公演情報
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・バルコニー!!』
■原作:ウィリアム・シェイクスピア『ロミオとジュリエット』