「ALL TIME BEST 矢沢あい展」レポート 300点もの展示と、青春時代がよみがえる1ページ
「ALL TIME BEST 矢沢あい展」 (C) 矢沢あい/集英社
漫画家・矢沢あいの原画展「ALL TIME BEST 矢沢あい展」が、2022年7月20日(水)、東京・新宿高島屋(正式表記ははしごだか)で開幕した。
『天使なんかじゃない』、『ご近所物語』、『下弦の月』、『Paradise Kiss』、『NANA』など、数多くの人気作を世に送り出してきた漫画家・矢沢あい。本展では、これまで作者が描いてきた原画やイラストなど貴重な資料の数々を “ALL TIME BEST” というコンセプトのもとに展示。本展の総監修を矢沢自身が行なっており、それだけでも見逃せない展覧会である。本記事では内覧会の様子をレポートしよう。
※展示内容に触れているため、ネタバレを避けたい方はご注意ください。
究極のベストアルバム、ここに誕生
「ALL TIME BEST 矢沢あい展」の会場となるのは、新宿高島屋の11階特設会場。会場入口でまず目に飛び込んでくるのは、バイクにまたがる『天使なんかじゃない』の晃と『NANA』のナナが描かれたイラストだ。
本展のキービジュアルでもある本作。公式サイトやポスターなどで既に目にしたことはあったが、会場入口に大きく展示されているのを見ると、改めて「こんなコラボを見られる日が来るなんて!」と興奮してしまう。
会場入口 (C) 矢沢漫画制作所/集英社
本展の展示は作品タイトルごとにTrack0からTrack5まで分けられている。エリアごとに1つずつ作品をたどる構成になっており、Track0は「STREET TRAD」だ。
(C) 矢沢漫画制作所/集英社
(C) 矢沢漫画制作所/集英社
ここでは、2018年に刊行された書籍『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』(佐藤誠二朗・著/集英社)のために描きおろされたイラストを展示。イラストはもちろんのこと、展示エリアのデザインにグッと心を掴まれてしまう。少し黄ばんで色褪せたような加工をしたイラストがレンガの壁に貼られ、ヴィンテージ感を漂わせる。奥には街灯と、見慣れたアーティストのポスター。そして見覚えのあるフレーズと細い路地が現れ、Track1へと続いていく。
(C) 矢沢あい/集英社 (C) 矢沢漫画制作所/集英社 (C) 矢沢漫画制作所/祥伝社
(C) 矢沢漫画制作所/祥伝社
Track1「Paradise Kiss」では、レンガの壁から濃いブルーへとモードが変わる。シックで統一感のあるその展示は、まるでウィンドウショッピングをしているかのよう。アトリエやファッションショーなど印象的なシーンのイラストが展示されるなか、驚くのは、その数だ。
全てのTrackに共通して言えるのだが、とにかく展示数が膨大で、こんなに見せていただいていいんですか……? と不安になるほど。作品原画はもちろんのこと、実際に紙面に掲載されたイラストと、隣り合わせには下絵が展示されるなど、作業工程が垣間見えるのもうれしい。
(C) 矢沢漫画制作所/祥伝社
(C) 矢沢漫画制作所/祥伝社
(C) 矢沢漫画制作所/祥伝社
Track2は「ご近所物語」。先ほどのシックな装いとはうって変わって、ポップないでたちだ。色が付いたカラフルなイラストが多く見られ、自然と気持ちも明るくなっていく。
(C) 矢沢漫画制作所/集英社
(C) 矢沢漫画制作所/集英社
(C) 矢沢漫画制作所/集英社
『ご近所物語』は矢澤芸術学院(通称ヤザガク)の服飾デザイン科に通う幸田実果子を主人公に、彼女を取り巻く友人たちとのエピソードが描かれる。ヤザガクの生徒たちはどれも個性溢れるキャラクターばかりで、その個性を活かしたファッションにも注目が集まった本作。色鮮やかな原画の数々は「りぼん」(集英社)を熱心に読んでいた当時の記憶もよみがえってくるようだ。
(C) 矢沢漫画制作所/集英社
(C) 矢沢漫画制作所/集英社
(C) 矢沢漫画制作所/集英社
Track3は「天使なんかじゃない」。淡い水色の背景はどこか優しく、印象的なエピソードの数々は、翠たちの高校生活を振り返る卒業アルバムのようにも見える。
(C) 矢沢あい/集英社
(C) 矢沢あい/集英社
このエリアは原画の展示だけでなく、壁のいたるところに名シーン・名ゼリフが散りばめられているのが印象的だった。展示を見進めるごとにグッときてしまうのだが、ここで泣きそうになったのは、筆者だけではなかったようだ。
(C) 矢沢あい/集英社
(C) 矢沢あい/集英社
矢沢作品は、私たちのバイブル
同日行われたオープニングセレモニーに登場したのは、タレントの横澤夏子。展示会場を回った感想を聞かれると、「最高でした。青春が詰まっていました。見れば見るほど、色褪せないあのときの気持ちがよみがえってきて。これを読んだときにこういう気持ちだったな、これを読んで成長してきたんだな、育ててもらったんだなって、矢沢あい先生への感謝の気持ちが溢れてきました」と語った。
当日はスタッフ数名と一緒に鑑賞したそうで「一人だったら泣いちゃったかもしれない」と振り返る。「矢沢あい先生の作品は、一番大事な青春時代に色々と教えていただいた、人生や恋愛のバイブル。展示を見ていると、あのときに戻ったかのようでした」と溢れる想いを述べた。
横澤夏子
学生時代(小中高)と生徒会に所属していた横澤。小中は生徒会長、高校では副会長を務めたそうで、「(高校では)モロ翠ちゃんじゃんって思っていました。もちろん晃もタキガワマンもいませんでしたけど」と笑いを誘った。ほかにもたくさんのシーンに影響を受け、当時、友人たちと作中のフレーズを真似していたそう。実際にどんなシーンを真似したのかと聞いてみると、「やらせていただいていいんですか……?」と謙遜しつつも、「わざとだよ?」と熱演。『NANA』に登場する幸子が、終電を逃したあとに章司に向かって言ったセリフだ。
名シーン・名ゼリフの数々と、よみがえる記憶
さて、展示に戻ろう。Track4は「下弦の月」。作品の雰囲気さながら、ミステリアスで少しダークな雰囲気を纏う。このエリアもカラーイラストが多く展示されている一方、先ほどまでのカラー作品とは異なる色合いに、その世界観に一気に引き込まれてしまう。
(C) 矢沢漫画制作所/集英社
(C) 矢沢漫画制作所/集英社
(C) 矢沢漫画制作所/集英社
(C) 矢沢漫画制作所/集英社
そしていよいよラストとなるTrack5は「NANA」。ナナとハチの出会いから、彼女たちの日々、ライブシーンにいたるまで、名シーンの数々が一気に押し寄せてくる。壁にはいくつもの印象的なセリフが綴られ、感情が揺さぶられる。そうして進んだ先では、まるでナナがそこにいるかのような感覚にさえなった。
(C) 矢沢漫画制作所/集英社
(C) 矢沢漫画制作所/集英社
(C) 矢沢漫画制作所/集英社
オープニングセレモニーで横澤が「真似をした」と話していた幸子と章司の場面も。あなたの思い出に残っているシーンもきっとあるはず。
(C) 矢沢漫画制作所/集英社
「ALL TIME BEST 矢沢あい展」は2022年8月8日(月)まで、東京・新宿高島屋にて開催。その後、大阪、横浜ほか各地への巡回も予定している。
文・撮影=SPICE編集部