『ボストン美術館展 芸術×力』レポート “国宝級”の里帰り絵巻や権力者が愛した数々の品々を通じて古今東西の芸術と力の歴史を辿る

レポート
アート
2022.8.15
『ボストン美術館展 芸術×力』

『ボストン美術館展 芸術×力』

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2020年に開催が予定されていたものの、新型コロナウイルス感染症拡大の余波によって延期になっていた『ボストン美術館展 芸術×力』が7月23日(土)に東京都美術館で開幕した。権力者と芸術との関係に着目した本展には、“美の百科事典”とも呼ばれるボストン美術館から約60点の作品が来日。古今東西の権力者が自らの力を示すために作らせたもの、あるいは自らの手元に置いて愛でたものなどが多数展示されている。日本にあれば国宝といわれる《吉備大臣入唐絵巻》《平治物語絵巻 三条殿夜討巻》も揃って里帰り。絵画、彫刻、ジュエリーなど、数々の名品を通じて古今東西の芸術と力の歴史を辿る内容になっている。

世界の百科事典的なコレクションから約60点の名品が来日

歴史上、各地で隆盛を極めた権力者たちは、自らの権力を示すために芸術をうまく利用した。古代エジプトの王であっても日本の中世の貴族であっても、権力を得た者が共通して「美しいもの」に魅せられていたというのはとても興味深い。権力者が求めた芸術の中には趣味として自らの手元に置かれたものはもちろん、他国との親睦を深めるために贈答品として使われるものもあった。一方で彼らは芸術家たちのパトロンの役割を果たすこともあり、芸術家も権力者の要求に応えた。

展示風景 手前:セーヴル磁器製作所《壺》フランス、1812–1813年

展示風景 手前:セーヴル磁器製作所《壺》フランス、1812–1813年

アメリカ・マサチューセッツ州のボストン美術館から貴重な品々が来日している本展では、全体を「姿を見せる、力を示す」「聖なる世界」「宮廷のくらし」「貢ぐ、与える」「たしなむ、はぐくむ」という5つの章に分けて古今東西の権力者たちと芸術との関係に迫っている。古代エジプトからヨーロッパ、アジア、アメリカまで、まさに世界の百科事典的な幅広いコレクションを擁するボストン美術館だからこそ届けられる意欲的な企画といえる。来日している作品はそれぞれ別の場所、時代に作られた。よって、鑑賞者は本展を一周することで古今東西の文化に触れることができる。

芸術と力の関係を象徴的に伝えるナポレオンの肖像画

最初に我々を待っているのは《戴冠式の正装をしたナポレオン1世の肖像》だ。写真がなかった時代、権力者は自らの肖像画を宮殿などに飾り、その力を誇示した。とりわけ血統ではなく力で皇位を手に入れたナポレオンにとって、こうした肖像画は自らが正統なフランス皇帝の後継者であること示すのに特に重要なツールになったと考えられる。

ロベール・ルフェーヴルと工房《戴冠式の正装をしたナポレオン 1世の肖像》1812年

ロベール・ルフェーヴルと工房《戴冠式の正装をしたナポレオン 1世の肖像》1812年

縦約2.5メートル、横約1.9メートルの巨大なキャンバスに描かれた姿は、コルシカ島生まれの一軍人から皇帝にまで成り上がった男のカリスマ性、そして頂点に立って得た富と威厳を後世を生きる我々にも伝える。

《龍袍》清、乾隆帝時代、1736–1796年

《龍袍》清、乾隆帝時代、1736–1796年

続く一角には、清朝を最盛期に導いた乾隆帝のためにつくられた《龍袍》が展示されている。「袍」とは祭事や祝宴の際に着た装束のこと。乾隆帝は中国の芸術を発展させた功労者として知られている。精巧な刺繍が施された輝かしいこの袍も芸術を愛した皇帝にそぐう美しさが印象的だ。

《ホルス神のレリーフ》エジプト(エル・リシュト、センウセレト1世埋葬殿出土)、中王国、第12王朝、センウセレト1世治世時、紀元前1971– 紀元前1926年

《ホルス神のレリーフ》エジプト(エル・リシュト、センウセレト1世埋葬殿出土)、中王国、第12王朝、センウセレト1世治世時、紀元前1971– 紀元前1926年

《メーワールのラージャ、 ビーム・シングの死後の肖像》インド北部(アンベール、ラージャスターン 地方)、ムガル帝国時代、1640–1650年頃

《メーワールのラージャ、 ビーム・シングの死後の肖像》インド北部(アンベール、ラージャスターン 地方)、ムガル帝国時代、1640–1650年頃

そのほか、古代エジプトで王の象徴とされた《ホルス神のレリーフ》や、今のインドがムガル帝国だった頃の王子を描いた《メーワールのラージャ、ビーム・シングの死後の肖像》など、権力者の象徴となった品々が大陸と時空を越えて一堂に展示されている。

海を渡った二点の国宝級絵巻が里帰り

ボストン美術館はお雇い外国人として来日したアーネスト・フェノロサが初代部長を務めた日本美術部を擁し、アメリカに渡った岡倉天心が迎えられるなど、明治時代から日本と縁の深い美術館である。本展にも同館が所蔵する日本美術からいくつかの作品が“里帰り”で来日している。

その中でも目玉展示といえるのが、日本にあれば“国宝”といわれる二大絵巻である。

二大絵巻の片方である《平治物語絵巻 三条殿夜討巻》は、平治元年(1159)に起こった平治の乱を描いた合戦絵巻だ。東京国立博物館の《平治物語絵巻 六波羅行幸巻》が国宝に指定されていることから、本品も同様の価値があるといわれている。

《平治物語絵巻 三条殿夜討巻》の展示風景

《平治物語絵巻 三条殿夜討巻》の展示風景

平治の乱は、絶大な権力で院政を敷いた後白河上皇のもと、側近だった信西と藤原信頼が対立し、平氏と源氏を巻き込んで起こった権力闘争である。本作には信頼側に付いて後白河上皇に反旗を翻した源氏が、京都の御所だった三条殿から上皇を拉致する場面が描かれている。貴族と武士が入り混じった大混乱の様相は非常に迫力があり、特に燃え盛る三条殿の場面からはことの凄まじさが伝わってくる。

もう一方の《吉備大臣入唐絵巻》は、遣唐使として唐に渡った吉備真備の活躍を描いた物語絵巻だ。

非常に優れた学者だった真備は入唐時に現地の唐人たちからその力を恐れられ、一度入ったら二度と出られないという高楼に閉じ込められてしまう。そんな窮地を迎えた真備のもとに現れたのは一人の鬼。それは、かつてともに遣唐使として海を渡り、日本に戻ることなく没した阿倍仲麻呂の霊だった。仲麻呂の助けを得た真備が唐人の裏をかく行動に出て、相手を負かしていく……というのが、この巻物の大まかなストーリーである。

《吉備大臣入唐絵巻》の展示風景

《吉備大臣入唐絵巻》の展示風景

戦いを描いた《平治物語絵巻 三条殿夜討巻》から打って変わって、こちらは真備と仲麻呂という天才コンビの活躍が痛快に描かれていて楽しく鑑賞できる。特に高楼を飛び出して宮殿に飛んでいく場面や、宮殿で室内の様子を盗み聞きする場面に描かれる二人の姿にはコミカルな愛らしさすら感じられる。

どちらの絵巻も広い空間を使って展示され、場面ごとにわかりやすい解説が添えられているので、生で見られるこのチャンスにしっかりと鑑賞しておきたい。

増山雪斎《孔雀図》江戸時代、享和元年(1801)

増山雪斎《孔雀図》江戸時代、享和元年(1801)

長船長光《太刀 銘長光》鎌倉時代、13–14世紀

長船長光《太刀 銘長光》鎌倉時代、13–14世紀

そのほか、「文人大名」として知られた伊勢長島藩第5代藩主・増山雪斎の代表作《孔雀図》は、今回が修復後初公開というもうひとつのハイライトとなる作品。また、備前の名工・長船長光による《太刀 銘長光》、奥州藤原氏の初代当主・藤原清衡が中尊寺に奉納した《罪福報応経(中尊寺経)》、狩野永徳の作と伝わる《韃靼人朝貢図屏風》など日米をつなぐ名宝が勢揃いしている。

“全米で最も裕福な女性”が所有した60カラットのエメラルド

豪華な装飾が施された18世紀前半の《ギター(キタラ・バッテンテ)》、東西の交易路が開かれた元の時代の中国で発達した“青花”の磁器《戯曲人物青花梅瓶》、エル・グレコが描いた《祈る聖ドミニクス》など全体通じて興味の湧くものは尽きない。非常に多岐に渡る展示のため、すべてをおしなべて伝えるのは難しいが、最後にジュエリーの展示について少しだけふれておこう。

ヤコポ・モスカ・カヴェッリ《ギター(キタラ・バッテンテ)》イタリア、1725年

ヤコポ・モスカ・カヴェッリ《ギター(キタラ・バッテンテ)》イタリア、1725年

《戯曲人物青花梅瓶》元、14世紀中頃

《戯曲人物青花梅瓶》元、14世紀中頃

いくつかのジュエリーの展示の中でも、特に目を見張るのは《マージョリー・メリウェザー・ポストのブローチ》だ。20世紀アメリカで最も裕福な女性と謳われた彼女が所有したブローチの中心には、なんと60カラットのエメラルドが輝く。周囲を囲むダイヤモンドとエメラルドの装飾も合わさって、その佇まいからは高貴さと贅沢さが“ダダ漏れ”している。

オスカー・ハイマン社、マーカス社のために製作《マージョリー・メリウェザー・ポストのブローチ》アメリカ、1929年

オスカー・ハイマン社、マーカス社のために製作《マージョリー・メリウェザー・ポストのブローチ》アメリカ、1929年

ほかにも、世界一の富豪だったロスチャイルド家にまつわるネックレスや、リンカーン大統領の夫人が愛用したブローチとイヤリングなど、それぞれにドラマが隠れた名品が展示されており、きっと多くの人が、その輝きに魅了されることだろう。

手前:《メアリー・トッド・リンカーンのブローチ》《メアリー・トッド・リンカーンのイヤリング》ともにアメリカ、1860年頃

手前:《メアリー・トッド・リンカーンのブローチ》《メアリー・トッド・リンカーンのイヤリング》ともにアメリカ、1860年頃

約60点という厳選された展示であるが、一点一点の背景に流れるストーリーに想いを馳せるとその数以上の深みが感じられる。延期の末にようやく開幕を迎えた本展。2年待ち望んだ人もそうでない人も、アメリカが誇る世界的コレクションの凄みを感じられる機会になるはずだ。


すべてボストン美術館蔵
文・撮影=Sho Suzuki

イベント情報

ボストン美術館展 芸術×力(げいじゅつとちから)
会場:東京都美術館(台東区上野公園8-36)
会期:2022年7月23日(土)~10月2日(日)
開室時間:9:30~17:30、 金曜日は20:00まで(入室は閉室の30分前まで)
休室日:月曜日、9月20日(火)
※ただし8月22日(月)、 8月29日(月)、 9月12日(月)、9月19日(月・祝)、 9月26日(月)は開室
観覧料:※日時指定予約制。予約枠に空きがある場合、東京都美術館のカウンターで当日券購入可能
一般¥2,000、 大学生・専門学校生¥1,300、 65歳以上¥1,400
主催:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都美術館、 ボストン美術館、 日本テレビ放送網、 BS日テレ、 読売新聞社
後援:アメリカ大使館
協賛:DNP大日本印刷
協力:日本航空、 日本通運、 CS日テレ、 ラジオ日本、 文化放送、 TOKYO MX、 テレビ神奈川
企画協力:NTVヨーロッパ
お問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)
展覧会公式HP:https://www.ntv.co.jp/boston2022/
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