<2015年末回顧>小田島久恵のベスト・オーケストラ2015
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
2015年 私のベスト・オーケストラ
第一位 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 (11月)
第二位 ロンドン交響楽団 (9月)
第三位 ハンブルク北ドイツ放送交響楽団 (6月)
第四位 ラハティ交響楽団 (11-12月)
第五位 読売日本交響楽団 シルヴァン・カンブルラン指揮「トリスタンとイゾルデ」 (9月)
同五位 東京交響楽団 ジョナサン・ノット指揮「ブルックナー交響曲第7番」 (6月)
今年来日した海外オーケストラはいずれも「オーケストラとは何か?」という本質的な問いにアップデイトした回答を与えてくれた。グスターボ・ヒメノ指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団は、日本ではほぼ無名のグスターボ・ヒメノが、予想外の(!)名指揮を披露。来日ツアーではいくつかのプログラムが組まれたが、筆者が聴いたのはチャイコフスキーのピアノ協奏曲第二番(ピアノ:ユジャ・ワン)と交響曲第6番『悲愴』というチャイコフスキー・プロ。オーケストラのもつ歴史的蓄積と、芸術家の心の温かさ、高潔さを熱のこもった演奏で聴かせた。「指揮者というブランド」が既に旧態依然としたものに感じられる衝撃の名演だった。
巨匠ベルナルド・ハイティンク率いるロンドン交響楽団は、一糸乱れぬアンサンブル力で聴かせたブルックナーの交響曲第7番(ノーヴァク版)が卓越していた。ミューザ川崎の若々しい空間に、偉大な音の文字が書き込まれていく感慨があった。ブルックナーが直観的につかんでいた「唯一にして巨大な宇宙エネルギー」を初めて経験した…という個人的感慨を得た。サントリーではマーラー交響曲第4番を披露。こちらもハイティンクの気品とオケの真剣さが伝わってくる極上の演奏で、両ブログラムの前半でモーツァルトのピアノ協奏曲第24番を演奏したマレイ・ペライアの真摯な取り組みにも感動した。
賛否両論が見事に分かれたトーマス・ヘンゲルブロックのマーラー交響曲第1番(花の章つき)は、ハンブルク北ドイツ交響楽団のずば抜けた指揮者への献身力に驚かされた。従来的なマライマックスのカタルシスを排した、交響曲ファンにしてみれば肩透かしな(?)演奏だったが、スコアの原点を探る忍耐強い考察と、「解釈というものはアップデイトされなければならない」という指揮者の使命感には喝采を禁じえなかった。自由かつ質実剛健な最新のマーラーだった。
11月から12月にかけてはシベリウス生誕150周年を記念して多くのシベリウスの演奏会があったが、中でも評価が大きく分かれたのがオッコ・カム指揮ラハティ交響楽団。プレイヤーの自発性を追求した演奏に「リハーサル不足」との評もあったが、これはオケという集団の新しい可能性だと思われた。筆者が聴いた最終日(交響曲5.6.7番)はスタンディング・オベーションで聴衆は涙にむせび、その熱狂の余韻はなかなか収まらなかった。
在京オケでは、読売日本交響楽団の首席指揮者のシルヴァン・カンブルランが満を持して振った演奏会形式『トリスタンとイゾルデ』が光っていた。トータルで5時間近いボリュームながら、読響の集中力は素晴らしく、ソリストたちの実力もずば抜けていた。在京オケでもうひとつ同点として挙げるなら、2025年まで任期延長を決めた首席指揮者ジョナサン・ノットが東京交響楽団と振ったブルックナーの7番で、東響のポテンシャルの高さ、ノットとの相性の良さを感じさせる忘れがたい演奏会だった。