TEAM NACS 森崎博之「後に続くメンバーは大変だと思う尖ったものに」~日本一楽しくて分かりやすい農業ショー『AGRIman SHOW』への意気込み
森崎博之
TEAM NACSの森崎博之・安田顕・戸次重幸・大泉洋・音尾琢真、それぞれが表現したい世界を形にするソロプロジェクトの第2弾『5D2-FIVE DIMENSIONS II-(ファイブディメンションズツー)』。トップバッターを務めるリーダー・森崎博之に、公演の構想や今回のテーマである“農業”への思いをうかがった。
■自分にしかできない、尖ったものを見せたい
ーー今回、「農業」をコンセプトにした理由は。
2011年に『5D-FIVE DIMENSIONS』というイベントを行いました。これはTEAM NACS15周年企画のひとつで、“DIMENSIONS”が次元なので5次元っていう意味らしいんです。TEAM NACSの舞台とはまた違う僕ら五人それぞれの個性を見ていただこうという企画でした。
その時も僕がトップバッターだったんです。2004年にTEAM NACSでやった『LOOSER』をリメイクし、*pnish*という演劇グループと一緒に『LOOSER6』という舞台を作りました。その後、他のメンバーはコントやひとり語り、ワンマンショー、なぜかロックバンドをやるやつもいて、なんじゃそりゃって(笑)。
振り返ってみたら、僕はいつもと同じようなことをやってしまったのかなと思いました。それはそれで評価も高かったし、素晴らしかった。でも、次があるならもっと尖ったことをやりたいと思いました。
そこで今回、大泉(洋)がやったワンマンショーをもじって『AGRIman SHOW(アグリマンショー)』。多分僕は今の日本でトップクラスに農業に精通している俳優ですから、お子さんからご年配の方まで、誰が見ても楽しいイベントをやりたいですね。トップバッターがこんなに尖っていたら後に続くメンバーは大変だというようなものにしたいです。
ーー前回、少しまとまってしまったとのことでしたが、手応えとしてはいかがでしたか?
手応えは非常に良かったです。初めて主演を務めましたし、一世代下の若い方々との芝居も、クセになるくらい楽しかった。
でも、次に繋げる反省点や課題を考えると、一度やった芝居の再演というのは他のみんなと比べて冒険心がなかったなと。やっぱりロックバンドをやった音尾(琢真)って尖ってるなと思いました。今回はそこに勝っていきたい。あいつが今回何を出してこようが、「こっちは農業ショーやってんだから」って(笑)。この12年間で自分が見てきたもの、学んできたものを発揮したいと思っています。
ーー新たな挑戦ということですね。
とりあえず、今やりたいことを全部、遠慮なくアイデアを出しています。
僕は15年前から北海道で農業番組のMCをさせていただいていまして、毎週北海道の各地に行って取材する生活を送っています。その中で生産者さんへの尊敬の念が生まれました。農業の現場をずっと見続け、「食べること」についてすごく考えてきたからこそ、日本一の農業ショーにできるんじゃないかと思いますね。
農業って家族経営がほとんどで、親と子の確執、代替わり、新たに始める人や辞める人、たくさんの物語があります。そしてそのほとんどが美しい話なんです。聞いていて心を打たれる話がたくさんある。
今回、人生初のひとり芝居を何本かオムニバスでお届けしたいと思っています。さらに演出家としてお客さんを飽きさせない工夫を考えた時に、イリュージョンや歌と踊り、料理などを盛り込もうと。ちょっと演出過多ですね(笑)。
森崎博之
■メンバーの活躍にエールをもらっているけど、負けてられないとも思う
ーーメンバーの皆さんとは、お互いどんなことをするか話していますか?
自分からは伝えていませんが、お互いすごく気にしいなので、マネージャーを通して探っています。「あいつ何やるの?」とか。僕もよく探ります。
被らないようにはしますが、先にやったもん勝ちですよね。なのでトップバッターの僕は、ハードルを下げてしまわないようにしたいです。「リーダーなんてものやったんだ、これ俺のハードル上がったぞ」と思わせたい。みんながちゃんと尖って、それぞれの個性を出せる『5D2-FIVE DIMENSIONS II』であってほしいですよね。
ーー前回のソロプロジェクトから現在まで、ご自身やTEAM NACSの変化、成長はいかがでしょう。
それはそれはとんでもない成長を遂げたと思います。やっぱりみんな場数も踏んでいますし、見せないし言わないけど、色々な仕事をする中で悔しい思いをしたこともあると思うんです。身内褒めで恥ずかしいですが、四人は非常に立派で誇れる俳優さんだと思っています。
僕はそことは少し距離を置いて農業応援に打ち込んでいますが、そのぶん誰より多くの取材をして、大地の声を聞き、日本の四季を味わって感受性を育んできました。だから五人でいる時は役者のテクニックではなく、もっとナチュラルなところで勝負していますね。
彼らの仕事ぶりを拝見して、僕自身もエールを受け取っています。やっぱり意識しますし、負けてられないと思いますよね。今回は初めてのひとり芝居で、かなり自分に負荷をかけることになります。大いなる挑戦、ひとりっきりで勝負します!
ーー改めて、ソロプロジェクトの魅力はどこにあるでしょうか。
TEAM NACSだとみんなと色々なことを討論して揉めながら正解を求めるので疲れちゃうんですよね。それが僕らのスタイルですが。それに、素晴らしい俳優さん揃いなのでみんなに見せ場を作りたくなる。他のみんなが光るシーンを作りたいので、自分のことはあまり考えないんです。
今回はある程度自分のための稽古ができるし、自分が輝く話を自分で構築していく。少なからずある役者冥利につきますね。「好き勝手やってやろう、ド派手にカッコよく登場してやろう、俺が目立つぞ!」っていう、普段は中々思わないことをやろうと思っています。
森崎博之
■ひとり芝居やイリュージョンなど、盛りだくさんのショーを
ーーイリュージョンを入れようと思った理由は。
僕は北海道や東京、九州など、様々な場所で講演会を行っています。多い時は年に40〜50講演、北海道の農業について真面目に語っています。ただ、講演会を聞きに来てくれる方は元々興味がある方や農業を学びたい方。これだとちょっとクローズ。もっとオープンに紹介するために、エンターテインメントショーにしたいと思いました。
誰が見ても楽しめるものはなんだろうと考えた時に、例えばですがマジシャンがハトを出すみたいに、僕が人参やキャベツを出したり、美女の切断マジックの代わりに大根の切断マジックをしたらどうだろうと(笑)。プロのマジシャンに稽古をつけてもらって腕を磨いています。
全体的なコンセプトは、「馬鹿馬鹿しくてくだらないけど何かタメになること」。僕が磨いてきたスキルや農業に関するうんちくなどを織り交ぜながら、ずっと集中して見てもらえるエンターテインメントに昇華させたいですよね。そして、ひとり芝居ではグッと心を掴んで、TEAM NACSの芝居では言ったことがないんですが、今回は泣いていただきたいです。
ーー人生初のひとり芝居についてはいかがでしょう。
普段は「この俳優さんにこれを言わせたら絶対大丈夫だろう」と思って台本を書き、配役して演出しています。そしてメンバーが僕の予想を上回る仕上がりにしてくることへの信頼と誇りがある。でも今回はそれらがないので非常に不安です。自分で考えたことを自分ひとりでやると、楽をしちゃうんじゃないかと思って。また、僕は農業熱が熱すぎるので、ドライな感覚が欲しいなと思い、若手の演出家さんに協力してもらうことにしました。お互い遠慮なく言い合いながら、いいものを作り上げたいです。
ーーちなみに、ひとり芝居は実話をベースに書かれたんでしょうか。
実話だけではないですが、そうですね。僕が北海道でやっている『あぐり王国北海道NEXT』という番組がもうすぐ700回。この数字がすごいんじゃなく、北海道の農業、農産物だけで700もネタがあることがすごいと思うんです。
さらに、まだ僕が知らないこと、見たことのない野菜もあって、未だに驚きと感動を与えてくれるんです。僕にとっては北海道の畑自体がエンターテインメント。
ただ、教育になっちゃうと堅苦しいし、僕もそういうのは見たくない。だから目指すのは“日本一愉快な農業ショー”。僕がひとり芝居をするけど、ネタは全部農業というのを目指したいです。
ーーひとり芝居ならではの楽しみはありますか?
僕が見てきたもの、取材してきたものがベースなので、すごく感情が乗るんじゃないかと思います。先程「泣かせたい」という話をしましたが、人が亡くなったとか大病を患ったとかではなく、例えば50年続けた農業を今日でやめるという決断、それを見ていた息子の目線など、そういったものを描きたい。お客さんの感情を引き込めるひとり芝居をしたいんです。難しいと思うけど、農業ならできるんじゃないかと。しっかり舵を握ってその方向に持っていきたいです。
■「農業」の素晴らしさを、たくさんの人に伝えたい
ーーファンの方の中には、TEAM NACSから入って農業に興味を持ったり、逆に森崎さんの活動からTEAM NACSに興味を持った方もいらっしゃると思います。印象的だった出来事など、何かありますか?
そう言っていただけたのが嬉しいですし、すごく響きました。
それこそTEAM NACSのバラつきや個性の魅力なのかな。みんな俳優としてすごくステージアップしていて、大河ドラマで大きな役をやったり仮面ライダーになったり。すごいと思うんですが、そこで与える影響って、「俳優になりたい」とか「自分も紅白の司会をやってみたい」とかだと思います。
僕はそことはちょっと違う場所にいる。そんな中でファンの方が「農業をやってみたい」と言ってくれたら、本当にハグしたいですよね。
このショーとは直接関係ないですが、僕の人生最大の目標は、北海道の子供が「北海道の農家になる」という夢を掲げてくれるように、魅力を伝えること。北海道に生まれて農業をやりたいと思う子供、今は全然いないんです。それは我々大人が良さをちゃんと伝えられていないから。農業ってつらいイメージがあると思うけど、どんな仕事だってつらさはある。それに、農業は食べ物を通してみんなを幸せにできるかっこいい仕事。そういうことを次世代に伝えて日本の食を守っていきたいです。……駄目だ、難しいショーだと思われちゃう(笑) 。こういった話はせず、軽く楽しくやっていきます。
ーーこれも堅苦しいお話になってしまうかもしれませんが、昨今のコロナ禍もあり、農業や食を取り巻く環境は大きく変わっていると思います。
今は中々出口の見えないトンネルにいますよね。
日本で採れたものを食べる、食料自給率のことを少しお話します。テーブルの上に1年間で日本人全員が食べる食料を全部並べたとする。その中に日本で作ったものが何%あるかというのが「食料自給率」。2012年から40%を切って、10年以上低いままなんです。60%近くを輸入に頼っている状態ですね。
「これだと将来世界的に何か起きて輸入が滞ったら大変だよね」と言っていたら、実際に起こり始めている。コロナで中国の野菜が入ってこなくなったり、ウクライナ情勢で小麦などの農作物が入ってこなくなったり。今、世界で一番最初に飢えるのは日本だと言われています。だから、しっかり日本の農業をつないでいくのが国防にもつながると思っています。
そのためには農業の良さをPRしないといけないし、「大きくなったら農家になりたい」と言う子供たちを増やし、守っていく大人や政治が必要です。
そんな中で、もっと農業を身近に感じられるエンターテインメントもあっていいんじゃないか。それが『AGRIman SHOW』の狙いです。僕にできるSDGsのひとつとして、みんなで楽しく農業を知っていこうと。説教臭いことは抜きでショーを作るので、楽しく見てほしいです。
森崎博之
■ コンビニに行くくらい気軽に来てほしい
ーー「農業について何も知らないけど、観に行って分かるかな」と思う方もいると思います。「これさえ押さえておけば大丈夫」というポイントはありますか?
いや、ないですね。もしよかったら、動画配信サービスの「もんすけTV」で『あぐり王国北海道NEXT』の過去放送を見てくれたら嬉しいですけど(笑)。
「農業ショーって難しそう」と思われたら僕のコンセプト負け。だから堅い話はなるべく抜きたい……と思いつつ、今は堅苦しい話もしてしまいましたね(笑)。「森崎博之でしょう? あの人は楽しいショーしかしないから」って信頼感を持っていただけたら嬉しいです。
ネタばらしのつもりで色々お話しましたが、それでも隠したいことがいくつかあります。普通のショーじゃやらないようなことをして、物ではないお土産を持って帰ってもらえると思いますね。観てくれた次の日から食べることがもっと豊かになり、人生ももっと楽しくなるんじゃないかと思います。「果たして自分は何を観にきたんだろう?」と思ってもらえるように、サプライズをたくさん用意してお待ちしています!
ーー最後に、観に来る方はもちろん、悩んでいる方の背中を押すようなメッセージをお願いします。
ここからドカンと五つの花火が打ち上がります。まずはこの森崎が打ち上げる“畑”という花火を観てほしいです。そして残り四つの花火も観ていただき、その後五人の集合体である本公演を観にきてもらえたら。TEAM NACSは沼ですから。みなさんどっぷり肩まで浸かってほしいです。しっかり五つ、順番にご覧ください!
取材・文・撮影=吉田沙奈
公演情報
会場:サンシャイン劇場
会場:COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール
会場:カナモトホール