「スリラー映画として新しいひとつの正解」[Alexandros]川上洋平、捕虜生活から開放された元刑事が猟奇殺人犯を負うミステリー『ヒンターラント』を語る【映画連載:ポップコーン、バター多めで PART2】

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2023.8.22
 撮影=河本悠貴 ヘア&メイク=坂手マキ(vicca)

撮影=河本悠貴 ヘア&メイク=坂手マキ(vicca)

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大の映画好きとして知られる[Alexandros]のボーカル&ギター川上洋平の映画連載「ポップコーン、バター多めで PART2」。今回取り上げるのは、『ヒトラーの贋札』でアカデミー賞外国語映画賞を受賞したステファン・ルツォヴィツキー監督最新作。第一次世界大戦後の捕虜生活から開放され、故郷に辿り着いた元刑事が猟奇的な連続殺人の真相を追う様を描き、多数の賞を受賞したダークファンタジー『ヒンターラント』を語ります。

『ヒンターラント』

『ヒンターラント』

──『ヒンターラント』はどうでした?
 
楽しめました。終始ダークなムードが漂っているんだけど、絵本のような背景が不気味でした。「リトルナイトメア」ってゲームが好きなんですけど、あの雰囲気を思い出しましたね。ティム・バートン的な。
 
──確かにティム・バートン感はありますよね。
 
やっぱりどうしても猟奇殺人系のサスペンスものを選びがちで、正直ファンタジーはあまり好みじゃない。でも『ヒンターラント』のファンタジー味はとてもいい味付けになっていましたよね。冒頭から割とCG感が強かったじゃないですか。亡霊の表現とか。最初は「ちょっと苦手かも?」と思ったけど、以降は大丈夫でした。
 
──確かに、どんどん骨太な感じになっていきますよね。
 
そうそう。ハードボイルドな感じがあった。
 
──全編ブルーバック撮影でVFXが多用された映画なんですよね。
 
そうみたいですね。2021年の作品だから、コロナ禍とかも関係してるのかな?

『ヒンターラント』より

『ヒンターラント』より


 ──監督は「何年もの時間を捕虜収容所で過ごした人々が感じる認知の歪みを、視覚的に表現することが理にかなっていると思った」と話しているみたいです。

そうなんや。確かに街並みが歪んでた。というか、物語が進行するにつれて、歪みが増していった気がする。

──建物が地面に対して斜めに立ってたり、家の床も斜めだったりするので、余計不気味な感じがしましたよね。
 
ね。でもそういうところも好きでした。結構エグいというか、グロ画が連発されるけど、どことなくファンタジーだからちぐはぐしてる。でもそこが良い。
 
──まさにダークファンタジーな。
 
ですよね。あとは歴史背景をほんのりとでも知っておかないと難しいかもしれない。この監督さんは以前『ヒトラーの贋札』でアカデミー賞外国映画賞を獲りましたけど、やっぱり戦争が下地になってる作品が得意なのかもですね。
 
──ジャスティン・ティンバーレイクとかのMVを撮ったオーストリア出身の監督ですが、故郷が第一次世界大戦の当事者ですからね。
 
らしいですね! どのMVなんだろうな……。あと、役者陣も名演技かましてましたね。主役の人のなんか時代に合ってないマッチョイズム全開の感じとか痛快でした。
 
──川上さんは全編ブルーバックでの撮影だとしたら、どうですか?
 
まあ試されますよね。でもできると思いますよ。ただ、やっぱりセットの力は絶大だなと、僕の少ない経験から思います。よく言われてることだけど、カメラに映らないところまで本当に細やかに作られてる。役者さんが入り込めるような配慮がなされてるんですよね。当たり前の話なのかもしれないですが、粋だなあと思いましたよ。だから、それがないブルーバックは技量が試されるでしょうね。

『ヒンターラント』より

『ヒンターラント』より

 ■猟奇殺人事件を追う哀愁漂う刑事ってなると、世代的には『セブン』を思い浮かべる 

全体的には結構わかりやすい話だと思うんですが、僕はオンライン試写で観て、早戻しした箇所がありました。その箇所っていうのが、主人公がロシアの捕虜収容所に入れられた時に受けた十分の一刑っていう刑罰の説明のシーンで。罰を受ける10人の中から1人を選んで、他の9人がその1人に罰を与える。ちょっとわかりにくかったですね。それが物語の結構な肝になっていたので、巻き戻して確認しました。
 
──その罰に倣って、連続殺人犯は被害者の足を19匹のネズミに食べさせたり、足を19本の杭で打ったり。
 
そうそう。いやー、ヨダレ出ちゃうやつですね(笑)。
 
──それぞれの殺人に明確なテーマがある復讐殺人みたいなところが『セブン』っぽいなと思いました。
 
わかる! しかも、主人公は猟奇殺人事件を追う哀愁漂う刑事ってなると、世代的にはそうなりますよね。
 
──復讐心に虚栄心も混ざっているところとか。あと、死体アートっぽさは『ミッドサマー』的でもあって。
 
その辺も趣味嗜好が出てましたよね。でもそれが第一次世界大戦直後ってところが新しかったよね。

『ヒンターラント』より

『ヒンターラント』より

 
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