黒田育世再演譚 Vol.3『YSee』 黒田育世インタビュー~数万年後に向け放たれた創作の「矢」、その光陰を共有して頂けたら

インタビュー
舞台
2023.11.7
『YSee』 Only Skin (photo:関暁)

『YSee』 Only Skin (photo:関暁)

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黒田育世再演譚 vol.3『YSee』が、2023年11月9日(木)~12日(日)、KAAT 神奈川芸術劇場 大スタジオで上演される。 2022年3月のvol.1「春の祭典」「病める舞姫」、2023年3月のvol.2「波と暮らして」「ラストパイ」に次ぐ“黒田育世再演譚”の第三弾は、アメリカのハープ奏者でシンガーソングライターでもあるジョアンナ・ニューサムの代表アルバム「Ys」に黒田育世が振付をおこなったダンス小作品集だ(初演:2021年8月@セッションハウス) 。出演は、黒田が敬愛し、日本を誇るダンサーである加賀谷香、イデビアン・クルー主宰で個性派ダンサーとしても注目を集める井手茂太、舞踏による身体法を基本に持ちコンテンポラリーの振付家作品にも数多く出演する奥山ばらばに加え、黒田の主宰するBATIKが久しぶりにカンパニーらしい群舞で出演。黒田自身がBATIKメンバーと踊るのも近年では珍しいことだ。さらに今回、黒田の愛娘、松本野々花が初出演し、親子共演が実現するのも注目のひとつだ。そんな黒田に話を聞いた。

黒田育世 (photo:関暁)

黒田育世 (photo:関暁)


――ご自身の作品を新たな舞踊家、アーティストと共にリ・クリエーションする「黒田育世再演譚」も、『Ysee』で第三弾となります。上演し続けるため〝創作を重ねる〟ことに、黒田さんはどんな意味を見出していらっしゃるのでしょうか?

作品を創り始めた当初から、自分が再演にこだわる振付家だという自覚がありました。それはダンス、舞踊作品が、お客様に一度観ていただくだけでは容易に伝えきれないものを内包した表現であり、分野だと考えているからです。

私たちの稽古場での創作時間は、1時間が通常の1時間ではなく、時にはその間に1万年を過ごすような濃密な体感を得ることもあります。また逆に1時間を1秒に感じる瞬間もあり、そんな自在に在りようを変化させる創作の時間、そこで得た成果である舞踊を、1回の上演で全てお客様にお渡しするのはとても難しいのです。

だから再演という機会をつくり、そこで再び作品と、創作の過程の時間をつくり手である私たち自身がかみ砕き直し、さらに深く理解することはお客様と私たちの両方に大きな意義・意味があると考えています。

――今作は、アメリカのハープ奏者でシンガーソングライターのジョアンナ・ニューサムの楽曲との出会いが始まりにあります。はじめは「ONLY SKIN」という曲による小品だったものが、楽曲やメンバーを増やしながら創作を重ねていく。その過程はどういうものだったのでしょうか。

始まりは2021年春、神楽坂のセッションハウスでのワークショップでした。受講生の方たちとの創作を、どういう楽曲で発表公演に持っていくかを考えた時、私自身大好きだったジョアンナの楽曲ならば、私が考える〝舞踊にとって大切なもの〟をお渡しできると考えたんです。ただ、その時はコロナ禍の影響で、オンライン配信のみになってしまいました。私自身はお客様を迎えての上演を熱望していたので、「いつか必ずライブで上演する!」という想いに火がつき、同じ年の8月に、「ONLY SKIN」を含め5曲を収めたジョアンナのミニアルバム「Ys」の全曲を使い、今回もご出演下さる加賀谷 香さん、奥山ばらばさんも迎えたカンパニーで『YSee』を創作・上演しました。ジョアンナには「Ys」に連なる「The Ys Street Band EP」という3曲入りアルバムもあり、こうして「Ys」の楽曲と共に継続的に創作できるのも何かのご縁と感じ、「再演譚」版『YSee』は「The Ys Street Band EP」も加えた全8曲で構成することにしたのです。

『YSee』 (photo:関暁)

『YSee』 (photo:関暁)

――加賀谷さん、奥山さんに加え、イデビアン・クルー主宰の井手茂太さんをゲストに迎えるほか、BATIKメンバーの群舞、娘さんである松本野々花さんとの共演など、出演者だけでもトピック満載です。BATIKは昨年20周年を迎えましたが、今のBATIKは黒田さんにとってどういう存在でしょうか。

先にお話ししたように、BATIKは再演を多く行うカンパニーなので、作品によってダンサーも私自身も育ててくれたことで今日まで続けてこられたと思っています。作品が、メンバーの中で「文化」として共有されており、だから人の入れ替わりがあってもBATIKの核となるものは変わらずにいられる。そんな「BATIKという文化」を共に築いてくれたこれまでのダンサーと、その継承を体現してくれている現在のメンバーの両方に、心から感謝しています。

――そこに、娘さんの野々花さんが加わることも興味深いところです。

こんな日が来るとは思ってもみませんでしたが(笑)、子役がどうしても必要だったんです。野々花は今9歳ですが、0歳から稽古場で過ごしているので舞踊をつくる場所や時間を、言葉を覚えるのと同様、呼吸するように身に沁み込ませていて。今回も最初は子ども特有の空間把握の幼さなどありましたが、驚くほど手はかからず順調に稽古しています。一つの目標に真っ直ぐ向かう子どもの姿をお見せすることで、お客様に明るい「光」を感じていただけたらな、と。まだまだしごきますが、純粋に、一緒に踊れることが楽しみです。

『YSee』 Emily (photo:関暁)

『YSee』 Emily (photo:関暁)

――客演のお三方についても伺えますか。

加賀谷さんは心から尊敬できる〝日本ダンス界の宝〟ともいうべき方。何度も私の作品に出演していただいていますが、表現から自己主張が切り離されていて、作品に必要ない無駄なことは一切なさらない。その表現は非常に清く厳かで、そんな稀有な踊りをお客様にお届けしたいのはもちろん、共に踊るBATIKのダンサーたちや、来場くださる若いダンサーの方たちにも大きな学びや財産になると考えています。

加賀谷香 (photo:大洞博靖)

加賀谷香 (photo:大洞博靖)

ばらばさんは今回4作も踊ってくださるのですが、どんな役回りでもパシッとはまる踊りをしてくださる。作品ごとに柔軟に形を変える「器」のような方で、〝作品をどう生きるか〟を純度高く追及し、時には自分を無化して臨んでくださる。非常に稀有な存在であり、同じ年なのですが非常に尊敬しています。ダンサーの質としては加賀谷さんとばらばさん、お二人は何か共通するものを持っていらっしゃるのかもしれません。

奥山ばらば

奥山ばらば

井手さんが、他の振付家の作品を踊るのは学生時代以来なのだとか。謙虚な方なので最初は不安そうにしていらっしゃいましたが、稽古ははじめから素晴らしく、本当に美しい姿、踊りを見せてくださっています。とてつもなく貴重な機会になることは確実ですので、ここでは多くを語りません。是非、公演を目撃してください。

井手茂太

井手茂太

――最後に、お客様へのメッセージをお願いします。

要素の多い8つの作品から成る『YSee』は、受け止めるためのエネルギーも必要な作品かも知れません。ですが、観てすぐに意味などわかる必要はないので、まずはお気軽に観にいらして欲しいと思っています。

ジョアンナは歌詞を書く際、わかりやすく説明する言葉よりも、敢えて核心から回り道をする、聴く人を意味から切り離すためカムフラージュするような言葉を選んで紡ぐそうで、『YSee』もそれを踏襲した振付・構成になっています。それは、「わかりやすくすると失われてしまうもの」を抱きしめるための、敢えての選択です。それらは一見わかりにくい、難解なものとされてしまいがちですが、観聴きした人の中に深く沈み、ある時不意に甦ることがある。そもそも私が考える創作・作品は、「何万年も先に向けて放った矢」のようなもの。そんな遥かな時間を想定した作品は、いつでも記憶の中で甦り、色褪せることなく反芻されながら、その人と共に在り続けるはず。『YSee』は私にとってそんな時を超えるものであり、その経験を一人でも多くのお客様と分かち合いたいと強く思わせる作品です。

ジョアンナの楽曲、特に歌詞については予備知識があればより作品を楽しんでいただけると思いますので、ご興味のある方は是非お目通しの上お越しください。

『YSee』 Sawdust & Diamonds (photo:関暁)

『YSee』 Sawdust & Diamonds (photo:関暁)

取材・構成・文(リード文以外)/尾上そら



【プロフィール】黒田育世 (くろだ いくよ):BATIK主宰、振付家・ダンサー。6歳よりクラシックバレエを始め、97年渡英、コンテンポラリーダンスを学ぶ。 02  年自身のカンパニー BATIK を設立。バレエテクニックを基礎に、身体を極限まで追いつめる過激でダイナミックな振付は、踊りが持つ本来的な衝動と結びつき、ジャンルを超えて支持されている。BATIKでの活動加え、金森穣率いる Noism05 、飴屋法水、古川日出男、笠井叡、野田秀樹、串田和美など様々なアーティストとのクリエーションも多い。2022年3  月「黒田育世再演譚 vol.1」(「春の祭典」「病める舞姫」)を KAAT神奈川芸術劇場大スタジオ、「黒田育世再演譚 vol.2」(「波と暮らして」「ラストパイ」) を2023年3月に森ノ宮ピロティホールとシアターコクーンにて開催。今回、愛娘・松本野々花と初めて共演する。 http://batik.jp/
 

公演情報

黒田育世再演譚vol.3
『YSee』

 
<プログラム>

1Emily
出演:加賀谷香

 
2Monkey & Bear
出演: 井手茂太、奥山ばらば

 
3Sawdust & Diamonds
出演:大江麻美子(BATIK)

 
4 Only Skin
出演:奥山ばらば、黒田育世
大江麻美子、岡田玲奈、熊谷理沙、相良知邑、武田晶帆、政岡由衣子、(以上BATIK)

 
5 Cosmia
黒田育世、松本野々花

 
6 Colleen
奥山ばらば、
大江麻美子、大熊聡美、岡田玲奈、熊谷理沙、相良知邑、武田晶帆、政岡由衣子、三田真央(以上BATIK)

 
7 Clam, Crab, Cockle, Cowrie
出演:井手茂太、黒田育世

 
8 COSMIA
出演:加賀谷香、奥山ばらば、黒田育世、松本野々花

 
■会場:KAAT 神奈川芸術劇場 大スタジオ 
■日程:2023年11月9日(木)〜12日(日)
9日(木)  19:00
10日(金) 14:00 / 19:00
11日(土) 14:00 / 18:00
12日(日)14:00 
※受付開始、開場は開演の30分前
■料金:全席指定
一般 5,500円/U25 3,500円/当日 各+500円 
※U25(25歳以下)当日身分証明書要提示。
※未就学児の入場はご遠慮ください。
※車イスでご来場の場合は事前にかながわまでご連絡ください。 
※開演後のご入場は、自席までのご案内を出来かねる場合がございます。
 
■振付・演出:黒田育世
■出演:
加賀谷香 井手茂太 奥山ばらば
大江麻美子 大熊聡美 岡田玲奈 熊谷理沙 相良知邑 武田晶帆 政岡由衣子 三田真央 (以上BATIK) 
松本野々花 黒田育世

 
<スタッフ>
■照明:森島都絵(インプレッション)
■音響:牛川紀政
■舞台監督:原口佳子(モリブデン)
■舞台美術:松本じろ
■衣装:萩野緑
■振付アシスタント(「Clam,Crab,Cockle,Cowrie」のみ):浜田純平(OrganWorks / LIFULL ALT-RHYTHM)
■宣伝写真:池谷友秀
■宣伝美術:横山彰乃
■記録映像:高橋啓祐
■広報:西原栄
■当日運営:関あゆみ 
■プロデューサー:瀧本麻璃英

 
■助成:芸術文化振興基金
■提携:KAAT神奈川芸術劇場
■主催:一般社団法人黒田育世事務所

 
■KAAT公式サイト:https://www.kaat.jp/d/batik2023
■BATIK公式サイト:http://batik.jp/ysee2023/
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