奈良・天理で想いをひとつにーー地域密着フェス『CoFuFun FES.』の幸せな余韻、主宰・辻本美博とつないだ音楽のバトンを振り返る
『CoFuFun FES. 2023』
『CoFuFun FES. 2023』2023.10.14(SAT)-15(SUN)奈良・天理駅前広場コフフン
2023年10月14日(土)・15日(日)、奈良・天理駅前広場コフフンにて『CoFuFun FES.』が開催された。2020年のコロナ禍での中止を経て、3年ぶりの開催となる今年は、初日に大西ユカリ、BLACK BOTTOM BRASS BAND、NakamuraEmi、花*花、辻本美博 with Neighbors Complainが出演。2日目は、ADAM at、きいやま商店、THEイナズマ戦隊、BimBomBam楽団 feat. 元晴、POLYPLUSと、辻本とゆかりのある豪華アーティストが集結。SPICEでは、地元と音楽を愛する人々がひとつになってイベントを盛り上げ、たくさんの笑顔の花を咲かせたイベントの模様を振り返る。
同イベントは、奈良・天理市のPR大使も務めるインストセッションバンド・POLYPLUSのリーダーでありSax&Clarinet奏者の辻本美博が主催を務め、2019年にスタートした地元密着フェス。「天理の街でいつか音楽祭をやって欲しい」という天理市長の呼びかけに応える形で実現した、辻本と天理市、そして町の人たちが一丸となって開催している音楽イベントだ。ちなみに主催に天理市の名も並んではいるが、資金等の支援を得ているわけではなくあくまでも場所等の協力に限る。あくまでもやグッズの売り上げ、クラウドファンディングや地域の方の協賛といった支援で企画・運営にこだわり、みんなで作り上げているイベントであるところがポイントだ。
俯瞰でみた奈良 天理駅前広場コフフン(2021年撮影) 写真=福家信哉
会場となる奈良・天理駅前広場コフフンはJR・近鉄天理駅のすぐ目の前にあり、東京五輪の聖火台も手がけたデザイナー・佐藤オオキによる個性的な空間が特徴。開放的かつ古墳をモチーフにした造りがユニークで、地域の人たちの憩いの場として親しまれていて、『CoFuFun FES.』の期間はお祭りムードの賑わいに。事前インタビューで辻本も語っていたが(https://spice.eplus.jp/articles/322482)、コフフンならではの独特なパワーが感じられるスポットで、初めて訪れたようには思えないほどの居心地の良さがある。
コフフンから一本道路を挟んだ東側には、昔ながらの立派な商店街があった。少し早く会場に着いたのでふらっと散策してみると、あちらこちらに『CoFuFun FES.』のポスターが貼られていて街をあげてのお祭りであることが伝わってきた。喫茶店に入ってみても、お客さん同士が「今日はつーじーのイベントやね!」「ようけ人が来てたね。雨も降らんでよかったよかった」「何時ごろいくの?」といった会話が聞こえてきた。きっとこのお店だけでなく、街中でイベントを応援して気にかけている人たちの間で、話題に上がっているのだろうなと想像ができて朝から心があたたかくなった。
写真=SPICE編集部
そんな商店街や周辺の飲食店が多数出店しているコフフンには、早くから美味しい匂いが立ち込めていた。「からあげ すぎ乃」のジューシーかつボリューミーなからあげや「韓国屋台 좋아요(チョアヨ)」のキンパ、「La cielo」のピッツァとバラエティに富んだラインナップ。駅前の広場ということもあって、『CoFuFun FES.』の来場者はもちろんのこと、無料エリアになっているので地域の人たちや駅を利用する人たちも気軽に立ち寄って楽しんでいた。広場には遊具もあるためファミリーも多く、また部活帰りか学生たちも集まっていたりと、みんなでお祭り気分を味わっているところも印象的だった。
「あすなろ」美鈴ママの「CoFuFun Kitchen Car」 写真=SPICE編集部
辻本が学生時代からお世話になっている大恩人で『CoFuFun FES.』の立役者のひとりだと語っていた、「あすなろ」の美鈴ママも「CoFuFun Kitchen Car」で出店。辻本の写真が大きくあしらわれたキッチンカーでは、「天理バーガー」と辻本をイメージした「天恋カレー」(大きなバケットにたっぷりのカレーが詰まっている)など素材にこだわった個性的なメニューを提供。連日行列で大忙しにもかかわらず、お客さんはもちろん出店者同士やアーティスト、通りすがりの地元の人たちと会話を交わし、そしてライブが始まればしっかりと楽しんでいる姿を何度も見かけた。常に笑顔でだれよりも楽しく過ごしているのを見ているだけでも明るい気持ちになる。
「CoFuFun Kitchen Car」の「天恋カレー」 写真=SPICE編集部
さて、ステージでは辻本と親交の深い、吉本新喜劇所属でFM大阪でもDJを勤めている桜井雅斗がMCで登場。ライブに先駆けて、オープニングセレモニーが行われ、初日は主宰の辻本のほか、天理市の並河天理市長、天理市市議会大橋議長が登壇。コロナ渦を耐え抜いてきたこと、そして今回の開催の喜びを伝え開会宣言!
BLACK BOTTOM BRASS BAND
トップバッターは、学生時代の辻本が「こんなスタイルもあるんだ!」と吹奏楽の新たな可能性を感じるキッカケとなったという大先輩・BLACK BOTTOM BRASS BANDが務めた。会場の外から、辻本や市長、一般の参加者も一緒になってパレードをしながら入場。さっそくみんなで声を出しながら盛り上がるお祭り騒ぎで、結成30周年のグルーヴで席巻。
花*花
花*花は、乾杯の音頭をとるなど朗らかなMCから、じっくりと聴かせるステージで観客を魅力・「さよなら 大好きな人」など大ヒット曲はもちろん、どの楽曲も心に沁みて力強い歌声が胸を打つ。秋空が気持ち良く、聴き入っているとついつい涙が溢れる人たちも……。「季節のせいにして温め合おっか」と慰めながら、美しいハーモニーを届ける。そして「あ〜よかった」では辻本とクラリネットでコラボも。(辻本は2日間通して、このあとも全ステージでコラボを果たす。それぞれのステージで鳴らす音の変化、スキルフルなセッションの数々に改めて驚嘆することになる)
大西ユカリ
今度は、ナニワが誇る“平成のゴッドねーちゃん”こと大西ユカリは、踊らずにはいられないステージングで観客の心を鷲掴みに。MCで大笑いさせられたかと思えば、ソウルフルな歌声で圧倒され、気づけばみんなでご機嫌に踊りっぱなし。「やばい……」「最高!」とあちらこちらで声が漏れるほど、凄みあるブルーズに魅了されてしばらくあっけにとられてしまった。全てがキレッキレでカッコイイ。
NakamuraEmi feat. 辻本美博
大西ユカリは謙虚にバトンを渡していたが、「あんなにトークが上手かったら逆にやりづれえわ!」と笑顔でツッコミを入れていたNakamuraEmi。ファンクでメロウでヒップホップに、日常の葛藤や苛立ちをぶつけていき、パワフルな歌声が大空に突き抜けていく。決意と覚悟を歌った「スケボーマン」、そして最後は辻本と「YAMABIKO」でセッションで、万雷の拍手で見送られた。
辻本美博 with Neighbors Complain
初日のトリは、辻本美博 with Neighbors Complain。たっぷりとNBCPの演奏を聴かせつつ、辻本が入って音を重ねていき観客の心を弾ませる。気づけばNakamuraEmiもフロアに混ざり、みんなで心地よく揺れる至極の時間に。MCではNBCPとの出会いが語られ、吹奏楽部の頃にたくさん演奏していたという『宝島 - T-SQUARE』をリスペクトを込めてセッション。辻本にとってはもちろん、この日居合わせたみんなにとって、天理でこの曲がインストで演奏されたこと、そして街中に響き渡ったことはとても特別な時間になったはず。
拍手喝采のアンコールでは、この日の出演者一同がステージに立ち、みんなで中島みゆきの「糸」を届ける。途中、小雨が降り天候が心配されたが、音楽のちからで雨も止み大団円に。そして、2日目へとバトンが送られた。(ちなみに終演時間は17時。新幹線や飛行機ならどこから足を運んでいても帰れる時間設定なのもうれしい)
ADAM at
2日目は、ADAM atで幕開け。辻本がADAM atが地元の浜松で開催しているフェス『INST-ALL FESTIVAL』に影響を受けて、『CoFuFun FES.』が生まれたという。ピアノバンドの熱を喰らって、早くもフロアは手が上がり揺れる盛り上がりに。途中、「痛い!」という声が聞こえて、手首に巻いているのがギブスだと気づく。なんと、骨折していたらしい。そんなハンデも笑いに変え、ケガを感じさせないほどアグレッシブなステージで、2日目の『CoFuFun FES.』の熱気をグングン高めていった。
きいやま商店
続いて、おそろいのハットにネクタイをしめた石垣島出身の3人組・きいやま商店が登場。ギター&三線に指笛が鳴り響く、ハッピーでピースフルなライブを展開。少し肌寒くなってきた季節だが、気持ちはいっきに常夏に。子どもからお年寄りまでタオルを回す、沖縄ロックンロールで思わず笑顔に。会場を巻き込むご機嫌なエネルギーでその名とリズムを観客の心に刻んでいった。
BimBomBam楽団 feat. 元晴 、辻本美博
辻本にとって憧れの存在によるコラボ、BimBomBam楽団 feat. 元晴。サックスからジャジーに、鍵盤、ギター、トランペット、ドラム、ウッドベースと音を練り上げていく。フロアから自然と湧き上がる歓声や拍手が重なり、音で会話するように空気を作っていく圧巻のステージング。血をたぎらせるような力強い演奏としっとりと聴かせるムーディーな展開の緩急にうっとり。ラストは辻本も参加して、息が続く限りセッション。憧れのダブルヒーローと天理で共演できた喜びを音に変えてエモーショナルに届けた。
THEイナズマ戦隊
「この1日を大切にしようぜ」と語りかけたのは、THEイナズマ戦隊。のっけから拳が突き上がるロックンロールなステージにフロアは沸騰。MCでは、上中丈弥(Vo)が若くして亡くなった父が奈良県吉野郡の黒滝村出身であることに触れ、「お父さんに会いたいなと思って作った曲」だと「33歳」へ。この曲が奈良で歌われたことにどれだけ特別な意味があっただろうか。辻本のサックスが重なり、より心揺さぶられる。丈弥から「ありがとうとか、愛してるって気持ちは、言えるうちに言ったほうがええから!」と投げかけられ、涙を堪えられるわけがない。ラララの大合唱からラスト「応援歌」まで心が震えっぱなしだった。
POLYPLUS
そしていよいよ2日間を締めくくるべく、POLYPLUSが登場。2日間を通して、盟友や憧れの先輩たちと数々のステージを共にし駆け抜けてきた辻本の目は勇ましく、気迫が伝わってきた。夕日が美しい照明となり、バンドの演奏がダイナミックにうねりをあげ観客と一体に。ドラマ『クロステイル~探偵教室~』のメインテーマとして制作された「close tail」など次々と投下。バンドのアジテーションでフロアはみるみる熱を帯びて弾む盛り上がりに。
POLYPLUS
MCでは、最高の音のバトンを受け繋げてきたと語り、「ひと組でもかけてたらこのフェスになってなかった! だから応えたい! POLYPLUS、ラスト命燃やしていくから!」と叫んでラストスパートに。観客も総立ちで応え、天理に、奈良に、日本中に、世界へと届ける気概で音を鳴り響かせる。全てを出し切るようにのけぞって、ラストは限界突破の「limiter」。メンバーひとりひとりが個を突出させ、グルーヴを生み出していくステージで釘付けに。
POLYPLUS
POLYPLUS
アンコールでは、出演者総出で、きいやま商店が作詞作曲した『コフフンフェスに行こう』を全員で合唱することに。並河天理市長も駆けつけ「ここが世界で一番かっこいい場所!」だと宣言し、5年後に日本武道館でのライブを目標に掲げるPOLYPLUSに「武道館の1週間後にはぜひ天理で凱旋ライブを!」とオファー。
コロナ禍で断念した過去を振り返りながら「この場所であのとき、歌いたかった!」と叫びながら、みんなで演奏して歌う『CoFuFun FES.』のテーマソングの感慨深さはひとしおだった。最後は「またここで会おうね!」と約束して、2日間の幕を閉じたのだった。
2日間を通して感じたのは、気持ちをひとつにして生まれたエネルギーの大きさは計り知れず、可能性に満ちていたこと。そして集まった人たちはみんな笑顔で、心が満たされるハッピーな空気で包まれていたことが印象的だった。辻本を筆頭に、志を同じくした出演者たち、スタッフ、集まった観客や天理の街の人たち、ひとりひとりの想いが、ステージで繰り広げられたセッションのように重なり、共鳴して『CoFuFun FES.』ならではの特別な時間と充実感を生み出していた。
自分の地元でもこんな素敵なお祭りがあると幸せだなと少し羨ましく思いつつも、また来年も天理に来れば、この日のように特別な時間を過ごせるかな……なんて早くも次回が恋しくなった。地元でなくても、地元のような居心地を感じさせてくれた天理の街と人に少しの名残惜しさを感じつつ、そんなふうに来年の開催に期待しながら駅を出た人も多いはず。
「またここで会おうね!」の約束を果たせる日を、早くも心待ちにしたい。
取材・文=大西健斗 写真=『CoFuFun FES.』
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