カフェがまるで歌劇場に!オペラ歌手 田村麻子登場 第九回 “サンデー・ブランチ・クラシック”1.10ライブレポート
田村麻子(ソプラノ) 撮影:平田貴章
昨年秋をからスタートした「サンデー・ブランチ・クラシック」だが、早くも九回目を迎えた。ここで、ひとつ朗報が!会場であるLIVING ROOM CAFE(リビングルームカフェ)by eplusに、待望のグランドピアノが導入された。これからますます、良い環境で皆さんに音楽に親しんで頂けるだろう。
そんな新年一発目の開催となった1月10日(日)に登場してくれたのは、オペラ歌手田村麻子。”輝くソプラノ”と称される歌声を持つ田村は、国際的に高い評価を得て、世界各国のオペラに出演している。日本を代表するオペラ歌手である田村の歌声を一声聴こうと、カフェにはいつも以上に多くの方が訪れていた。(よい席を確保したい!という方は、開演の30分ぐらい前の入店がおすすめだ)
田村麻子(ソプラノ) 撮影:平田貴章
期待に満ちた拍手の中、登場した田村は一礼後にすっと背筋を正し客席を見渡した。この日の1曲目に選んだのは、J.S.バッハ=グノー作曲『アヴェ・マリア』。伴奏を務めるピアニスト・直江香世子の演奏に乗せて、美しい声が鼓膜を震わせる。その一声一声に、空気が澄み渡っていくようであり、思わず食事をする手を止めて聴き入ってしまう人が続出していた。
田村麻子(ソプラノ) 撮影:平田貴章
歌いあげると田村はにっこりと笑顔を浮かべ、マイクを手に取った。「新年のご挨拶をするには、少し遅くなってしまったかと思うのですが・・・皆様、明けましておめでとうございます」と挨拶し、新年早々のライブながら、多くの人が足を運んでくれたことに感謝の念を示した。
続けて、2曲目に歌われたのはカッチーニ作曲『アヴェ・マリア』。そして3曲目には、シューベルト作曲の『アヴェ・マリア』と、なんとも”アヴェ・マリア”づくしなプログラムが展開した。「(アヴェ・マリアを)ステージで歌うのが大好き」と明かす田村。普段歌うことが多いオペラの楽曲は、その登場人物としての感情が乗せて歌うが、『アヴェ・マリア』は自分自身としての祈りの気持ちを込めて歌えるのだと、この日もまったく表情の違う2曲に、それぞれ想いを込めて歌い上げた。
田村麻子(ソプラノ) 撮影:平田貴章
一息置いてから、田村は「昨年は皆さんにとってどんな1年でしたか?」と問いかけた。自身にとって2015年は「たくさんの新しいことをさせて頂いた年だった」という。まず一つ目の大きな出来事としては、大リーグの始球式でアメリカ国歌を独唱したことを挙げた。これは、昨年4月にアメリカ・ワシントンで行われた大リーグのナショナルズ対ヤンキースのオープン戦での出来事である。田村は、着物姿でこの大役を務めた。大リーグで、日本人の歌手が国歌斉唱をするのは大変異例なこと。田村は、「年齢を重ねていくと、初めて行うことは少なくなっていくものですけれども、その中で経験させて頂けることを光栄に思い、一つ一つに感謝を捧げていきたい」と振り返った。
もう一つ挙げたのが、2枚のCDのリリースについて。田村は、2015年に2枚のCDをリリースしている。その1枚が、収録曲すべてを”アヴェ・マリア”のみで構成された「Jewels of Ave Maria」だ。こちらには、冒頭で歌われた3曲の『アヴェ・マリア』ももちろん収録されている。そしてもう1枚が、日本の心の風景と言える曲をばかりを集めた「ノスタルジア-日本の歌-」。誰もが親しんできた心に残る美しいメロディを、田村の澄み渡る声で紡ぎあげた作品だ。
田村麻子(ソプラノ) 撮影:平田貴章
かつて、オペラ歌手を志す過程で日本人に生まれたことを後悔したことがある、と田村は口にした。ニューヨークの音楽院で学びながら様々なオーディションに挑戦していた頃、最も高評価を受けたのに、東洋人というだけで結果は「ノー」。その頃は、日本の歌をあえて歌わず、髪を染めたり、名前を改名しようかと考えたという。しかし、「日本に生まれてよかった」と再び思わせてくれたのも、また音楽だったそうだ。田村は、昨年11月にスミソニアン美術館でリサイタルを行い、熱狂的なステンディングオベーションを受けた。その光景に、「日本の歌を大切にしていきたいと、改めて感じた瞬間でした」と語る。
この日は、その時歌われた編曲バージョンで『朧月夜』と『千の風になって』を披露してくれた。遠くに見える山、一面に広がる田園風景、ゆっくりと朱から藍に変わっていく空の色、ぼんやりと霞む月の光。会場に視線を巡らせながら、田村がカフェの隅々まで投げかけた歌声は、聴く人それぞれの”日本の心の風景”を呼び起こしたのではないだろうか。
田村麻子(ソプラノ) 撮影:平田貴章
続いて歌われたのは、プッチーニ作曲の歌劇《ラ・ボエーム》から『ムゼッタのワルツ~私が街をあるけば』。この曲を歌うムゼッタは、「私が街を歩けば、男も女も、老いも若きも、犬も猫もみーんな私を見るの!」という実に明るく奔放な性格。「私の性格とはかけ離れているんですけど・・・」と話しながら、一瞬で雰囲気を変え田村はあっという間にムゼッタに変身。自信に満ちた生き生きとした表情で、ソプラノを響かせコケティッシュな曲を歌い上げていく。
さらに驚いたことに、田村ムゼッタはライブスペースを飛び出し、客席へ!テーブルの間を縫うように練り歩き、ライブスペースから遠い席の観客の傍まで足を運ぶ。そのそも、オペラ歌手が演じ歌う姿を、こんな近くで観る機会なんてそうそうない。時折、観客の肩に触れたりしながら蠱惑的に歌いかける田村ムゼッタに、会場はみんな釘づけ!まさに”私がカフェを歩けば”状態となり、ブラボーの声が飛び交った。
田村麻子(ソプラノ) 撮影:平田貴章
興奮冷めやらぬ中、アンコールに応えもう1曲披露してくれたのが、冬季トリノオリンピックのフィギュアスケートエキシビジョンで、金メダリスト荒川静香選手が使った『ユー・レイズ・ミー・アップ』。田村は再び客席の間を回り、深々と頭を下げ、「今年もいい年になりそうです、本日はありがとうございました」と締めくくった。
興奮冷めやらぬ中、ステージを終えた田村に今日の感想を伺ってみると「お話を頂いた時には、果たしてどんな風になるのか全然つかめなかったんですけれども、今日終えてみて感じているこの充実感と余韻を顧みると、やっぱりやってよかったなと思いました」という答えが返ってきた。もちろんクラシック専用のホールのようにはいかないが、声の響きもなかなかいいと、このカフェによい印象を持ってくれたようだ。
田村麻子(ソプラノ) 撮影:平田貴章
「もっとコンタクトを取りたくて、客席に飛び出しちゃったりしたんですけど(笑)クラシックも、他のすべてのアートと同じで、”生”で体感して頂かないと本当の真価がわからないものなので、みんなが足を運びやすいこういった場は、クラシックに親近感を持ってもらえるいいきっかけになると思います。こういう場所が、日本にももっと増えたらいいなと、今日やってみて改めて思いましたね」と振り返った。
田村麻子(ソプラノ) 撮影:平田貴章
最後に、2016年はどんな年にしたいかと聞くと「人生って有限。年を重ねるごとに、時間の大切さをひしひしと感じます。2016年は、自分の本当にやりたいことにフォーカスしていくことを、より心がけようと思っています」とのこと。円熟期を迎え、田村のソプラノはより一層輝きを増すに違いない。今後の活躍にもますます注目だ。
「サンデー・ブランチ・クラシック」も、いよいよ次回で第十回目。回を重ねるごとに観客も増え、客席からの反応にも変化が感じられる。2016年もLIVING ROOM CAFE(リビングルームカフェ)by eplusが目指すクラシック・ムーブメントにご期待頂きたい。
ライブの模様
田村麻子(ソプラノ) 撮影:平田貴章
田村麻子(ソプラノ) 撮影:平田貴章
田村麻子(ソプラノ) 撮影:平田貴章
田村麻子(ソプラノ) 撮影:平田貴章
田村麻子(ソプラノ) 撮影:平田貴章
田村麻子(ソプラノ) 撮影:平田貴章
■日時:1月10日(日)
■会場:「LIVING ROOM CAFE by eplus」
■出演:オペラ歌手(ソプラノ)田村麻子
田村麻子
■公式サイト:www.asakotamura.com
山田姉妹(山田華 山田麗)/ヴォーカル&川﨑龍/ピアノ
第1部 13:00~13:30
第2部 15:00~15:30
MUSIC CHARGE: \500
1/31(日)
麻衣/ヴォーカル&大坪純平/ギター
第1部 13:00~13:30 / 第2部 15:00~15:30
MUSIC CHARGE: \500
柏木広樹/チェロ
第1部 13:00~13:30 / 第2部 15:00~15:30
MUSIC CHARGE: \500
反田恭平/ピアノ&上野耕平/サクソフォン
第1部 13:00~13:30 / 第2部 15:00~15:30
MUSIC CHARGE: \500
La Dill
第1部 13:00~13:30 / 第2部 15:00~15:30
MUSIC CHARGE: \500