「下手でも良い」松本梨香が語る演技の真髄、道頓堀が舞台の『大阪は踊る!』で"人間らしさ"をさらけ出す
松本梨香
「ある日突然、道頓堀に石油が湧いた!?」奇想天外な発想による高遠響の小説『大阪は踊る!』を原作に、江頭美智留の脚本、川浪ナミヲ演出により初の舞台化が実現。個性豊かなキャラクターたちが織りなす、笑ってhappy! 踊ってhappy! な物語だ。大阪を舞台にした笑劇エンタメ・ファンタジーが、10月4日(土)〜12日(日)という『大阪・関西万博』開催期間に上演。さらに劇場は、2026年5月公演をもって衝撃の閉館となる大阪松竹座というのは、運命めいたものを感じる。今回は出演者が勢揃いした取材会の模様をお伝えしながら、熱い想いを語った松本梨香への個別インタビューの様子をお届けする。
⚫︎大阪愛に満ちた作品で「街の力」を届けたい
取材会には、演出を手掛けた川浪ナミヲ、主演・浜中文一のほか、有沙瞳、松本梨香、前田耕陽、海原はるか、曽我廼家寛太郎とバラエティ豊かなキャストが登壇し同作の魅力を語った。川浪が「街の力や街の幸せとは何かを考えたり、自分達の街のこれからに思いを馳せるきっかけになったら良いな、と考えています」と語った松竹創業130周年『大阪は踊る!』。
まさに街のパワーがひしひしと伝わる同作。舞台となっているのは、大阪ミナミの道頓堀。ある日突然、道頓堀に石油が湧いた!? 大阪市長による「道頓堀油田開発計画」が始動すると、商店街では次々に便乗商品が発売されお祭り騒ぎに。そんな最中、巨大利権を大阪だけに保有させたくない政府による油田の差し押さえ計画が勃発。守るべきは油田か、大阪人の誇りか。道頓堀はクライマックスを迎える……!といったストーリーである。
主演は、大阪出身で20年以上前から大阪松竹座に出演している浜中文一。大阪市役所「どないしょう課」勤務の前田拓郎役を演じる。浜中は同作について「約1年ぶりにホームと感じている大阪松竹座に帰ってくることができて非常に嬉しい。お世話になってきた川浪さんとのタッグも楽しみです」と期待をみせる。また個性的なキャストが集まっている中で座長としての心構えを問われると「みんなをまとめるなんて無理です(笑)。まとめようとも思わない」 と話し、「演出の川浪さんにお任せしたい」とユーモアたっぷりに話した。
そう、同作はとにかくバラエティ豊かなキャストが揃っているのだ。テレビリポーター役の麻生直美役は元宝塚歌劇団娘役スターの有沙瞳。「世の中に本当の真実の部分を分かって欲しいという想いが、彼女の生き方に繋がる。直美のように芯が強くて、明るく周りを元気にするような女性を演じられたら」と意気込みを語った。
左から海原はるか、前田耕陽、有沙瞳、浜中文一、松本梨香、曽我廼家寛太郎
内閣官房長官・藤木玲子役の松本梨香と内閣総理大臣・村井賢次郎役の前田耕陽は役どころとして「アンチ大阪チーム」となる。松本は「冷たい印象を与える役かもしれませんが、心のどこかで大阪に憧れていたり、大阪が好きと感じているところが垣間見えたりする。役を通して、大阪の人々の人情だったり温かさが際立ってくるように役に正面からぶつかっていきたい」と話した。前田は「大阪を嫌っている役柄だが、みんなに好かれるような総理大臣を演じられたら」と語り、それぞれ大阪松竹座初出演への喜びの声も大きく届けてくれた。
「最初から最後までとにかく元気に! 一生懸命に!」快活に宣言したのは、道頓堀商店街組合の会長・柳田浩介役の海原はるか。「観てくれる人が、楽しいお芝居やな、良い街やな、大阪は。そういう気持ちが伝わればありがたい」とすでに商店街組合の会長の器にふさわしいコメントを残した。
松竹新喜劇の曽我廼家寛太郎は、大阪市長・館山修役を演じる。「大阪市内で生まれた自分が、まさか大阪市長の役を演じるなんて! 大阪をこよなく愛し、反面弱い部分も描かれている。そういう人間臭さみたいなところが表せたら良いな」とにこやかに話した。
終始和やかな空気の中、取材会は進行。このキャスティングだからこそ生まれる熱がある、それぞれが輝きを放つ大阪愛に満ちた作品がさらに楽しみになった取材会であった。
⚫︎松本梨香の表現の真髄に触れる「舞台は原点」
松本梨香
松本梨香への個別インタビューでは、同作の魅力について、また‟表現者”として軸にしている在り方についても伺った。
――笑劇エンタメファンタジー小説初の舞台化。内閣官房長官・藤木玲子役という役柄についてはどう感じられていますか?
いつも明るく元気な役や三枚目の役が多いので、「私がこの役を!?」って新鮮に感じて貰えると思います。この役に全身全霊で向き合うことで、大阪の人たちの人情だったり、想いが際立ってくると思うんです。一生懸命に頑張ります。
――取材会で川浪さんもおっしゃっていましたが、松本さんは横浜生まれでありながら大阪的な空気も纏ってらっしゃる。なんだか松本さんとお話しさせていただくと安心するんです。お姉ちゃんとお話ししている感覚に(笑)。
とっても嬉しいです! 私、大阪が大好きなんです。人をひとりぼっちにさせない感じがあって。だから「梨香姉ぇ」って呼ばれると親しみを感じて嬉しいので、ぜひ‟梨香姉ぇ”って呼んでくださいね! 松本梨香、改め「梨香姉ぇ」にしたいくらいですから(笑)。
――とても嬉しいです! りか姉の魅力が舞台で存分に感じられると思うのですが、今回、大阪松竹座初出演。舞台『大阪は踊る!』をここ大阪、それも『大阪・関西万博』開催期間ラストスパートに上演されます。
凄いことですよね。それに松竹創業百三十周年のタイミングで、私自身も今年デビュー40周年なんです。一緒に周年を迎えられるっていうのもすごく縁を感じています。
――なんだかシンパシーも感じますね。
そうなんです。藤山寛美さん(昭和の喜劇王とも呼ばれ、長年に亘り松竹新喜劇にて活躍)が大好きだったので、今回は自分の節目の年に、大阪松竹座に初めて出演できるなんて、感慨深いです。大阪松竹座に出演するのが夢でしたから。
――梨香姉ぇのお父様も大衆演劇の座長をされていたんですよね?
はい、中村雄次郎といいます。父もきっと天国で喜んでいるんじゃないかな。いろんな思いが複雑に自分の中を駆け巡っています。父の影響もあって、幼い頃から様々な芸事を習わせてもらいました。三味線、ピアノ、日本舞踊、英語など。
――それほどたくさん表現の道を磨かれ、声優としてご活躍されて。様々な表現をされてる中で、舞台はどういう場所ですか?
原点ですね。板の上に立っていることがすごく好きです。生で演じてこそ、お客さんが居てこそだと思ってます。お客さんの熱量や笑顔、その一つひとつが舞台を作るものだと思っています。
――生物(なまもの)、ということですね。
一緒にその時間を共有できるって奇跡のようなこと。その日は終わると二度と来ない。導かれて集まったといっても過言じゃないんです。いろんな縁で立たせてもらえることに、この役に向き合わせてもらえることに感謝の気持ちでいっぱいになります。
――今作は、2009年同名小説の舞台化。時を経て、情勢も変わりコロナ禍も経て、また人の温かみも一段と感じられそうですね。
今だからこそ、家族だったり、大切な人と一緒に観てほしいです。人と人との繋がり、愛、素直な気持ち、いろんなものを感じ取ってもらえると思います。私の役柄は内閣官房長官ですが、肩書よりも‟ひとりの人間”としての部分を表現できればと思っています。舞台を観た人に「大切なことを思い出した。こういうこと忘れちゃいけないよね」って感じてもらえたら嬉しいです。
――声で表現することについても、今回伺いたかったんです。インタビュアー田中麻希はラジオDJでして、声に気持ちをのせること、自分自身をのせることの難しさを感じる瞬間もあり……。
届けようという気持ちがあれば、上手くしようとする意識は無くても大丈夫な気がします。上手いって人によって全然捉え方が違うので、「裸のまんまの言葉」を出せば伝わります。お芝居もそう、上手くやろうなんて思ったら、届かない。技術はもちろん必要だけど、裸のままの自分をさらけだすことが大事なんじゃないかな。「何かあった時に、全部私が受け止めるよ!」っていう、そういう逃げない気持ち。
――ありのまま、裸の自分でいようと思いました。
いきなり裸になれなかったら、「びんぼっちゃま」くらいでいいんじゃないかな(笑)(漫画『おぼっちゃまくん』(小林よしのり)に登場するキャラクター。後ろ半分が裸というスタイル。アニメでは松本が声を担当)。あとは全部完璧にやろうとしなくて良いと思います。全部きっちりやろうとしながらも、遊びの部分を作ってあげるのが良いと思います。相手に委ねるってことも必要かな。
――少しの余白と言いますか。
そう、想像力とか、いろんなものを、みんな持ってるから。見てる人に「みんな、自由に感じて!」と委ねてしまえば良いのだと思う。そうすると表現の幅も自分の中でゆとりがでるから、リラックスして出来るんじゃないかなと思います。あとは自分の中で揺るがないものをちゃんと持っていたい。
――梨香姉ぇにとっての軸って何でしょうか?
嘘をつかないことです。“言魂”ですからね。喉仏ってあるじゃないですか。みんなの喉には仏様がいるんですよ。そこから出している言葉だから、正直で、綺麗な良い言葉を使いたいですよね。どんなに拙くても「本気の言葉を出している」ということは伝わるんです。歌も同じで、上手いだけではなく、その曲のワンフレーズの中にどんな気持ちを込めて、みんなに伝えたいかということが大切だと思います。
――梨香姉ぇの言葉に胸がいっぱいです。今回の舞台は歌もあるんですよね?
歌もダンスもあります! 一人で歌うところもあるので、嬉しいなです。
――バラエティ豊かなキャストのみなさんとの共演も楽しみですね。
今日の取材会でも思いましたが、みなさん個性豊か。自分の想いや軸がしっかりあって、それを大切にして生きてきた方たちなんですよね。役的には、前田耕陽さんとのシーンが多いので、どんなお芝居をされるのか楽しみです。
――舞台『大阪は踊る!』10月大阪でお会いできるのを楽しみにしています!
観に来てくれる人たちみんなに愛があるんだと思います。そんなお客様に支えられながら公演できるのが楽しみです。
取材・文=田中麻希(FM802) 撮影=井川由香
公演情報
・“どないしょう課”勤務 前田拓郎・・・・浜中文一
・大阪市長秘書 篠原匠・・・・・・・・・竹下健人
・拓郎の同僚 山本華子・・・・・・・・・堀くるみ
・拓郎の上司 広瀬康夫・・・・・・・・・長江健次
・大阪市長 館山修・・・・・・・・・・・曽我廼家寛太郎
・道頓堀商店街組合の会長 柳田浩介・・・海原はるか
・乾物屋の二代目 高山隆平・・・・・・・真丸
・「たこつぼ」の女店主 小路やすえ・・・・春やすこ
・テレビリポーター 麻生直美・・・・・・有沙瞳
・イケメン評論家 河本渉・・・・・・・・田村ツトム
・内閣官房長官 藤木玲子・・・・・・・・松本梨香
・内閣総理大臣 村井賢次郎・・・・・・・前田耕陽
・アメリカ合衆国国務長官 エリザベス・フォックス・・・大鳥れい
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