井上芳雄「許される限りやり続けたい」~ミュージカル『ダディ・ロング・レッグズ』が開幕へ
ゲネプロ(ジルージャ・アボット役は上白石萌音)を観た。
ミュージカル『ダディ・ロング・レッグズ』ゲネプロより
ミュージカル『ダディ・ロング・レッグズ』ゲネプロより
孤児院に暮らす18歳の少女ジルーシャ・アボットは、ある夜、「大学への進学と勉学を保証する」という思いもよらない手紙を受け取る。条件は月に一度手紙を書くこと。手紙の送り主は、その夜に見た車のヘッドライトに照らされる足長蜘蛛“ダディ・ロング・レッグズ”のような影。影でしか見たことのない相手だが、ジルーシャは心を躍らせ、手紙を送り続けた。影の正体であるジャーヴィス・ペンドルトンもまた、知性ある手紙を送ってくれる彼女に惹かれていく。そして、ついにジャーヴィスは、影の正体であることを隠して、ジルージャの前に現れて——というストーリー。
ミュージカル『ダディ・ロング・レッグズ』ゲネプロより
ミュージカル『ダディ・ロング・レッグズ』ゲネプロより
舞台上には、上手と下手に大きな窓が二つ。そして中央奥には蔵書がずらりと並ぶ本棚と机がある書斎。トランクなど小道具の活用はあれど、大きな舞台転換はない。物語もほぼジルーシャが“ダディ・ロング・レッグズ”に宛てた手紙の内容だけで進んでいく。
ミュージカル『ダディ・ロング・レッグズ』ゲネプロより
ミュージカル『ダディ・ロング・レッグズ』ゲネプロより
たった2人の俳優がおよそ2時間40分(途中休憩あり)にわたって物語を紡ぐ。そのシンプルさゆえに、観客はジルーシャやジャーヴィスの言葉や感情の揺れに集中できるし、まるで自身が手紙を受け取ったかのように、想像力を刺激されるのだろう。全体的にリプライズがよく効いた楽曲は、美しく耳心地が良いものばかり。大人数で合唱的に歌ったり踊ったりする大ナンバーも豪華でいいが、旋律と俳優同士の阿吽の呼吸を味わえるシンプルなナンバーをこれまた高い歌唱力で聴く贅沢さがある。
ミュージカル『ダディ・ロング・レッグズ』ゲネプロより
ミュージカル『ダディ・ロング・レッグズ』ゲネプロより
井上芳雄のジャーヴィスと上白石萌音のジルーシャ。会見の中で井上本人が話していたように、設定に近い年齢差の2人。その年齢差がいい意味で物語にリアリティを生み出した。井上のジャーヴィスは初演時からハマり役だったが、より円熟味が出てきたように感じる。最初はジルーシャの手紙を“大人の楽しみ”として読んでいたのに、気がつけば嫉妬したり、彼女を操りたいと思ったりと心乱される様は何とも滑稽で、可愛いらしい。上白石のジルージャは、まさに等身大のジルージャといった感じで、孤児院にいた彼女が学びを深め、少女から大人へと変わっていく様は非常にナチュラル。もともと本作の大ファンだったという上白石だが、上白石にしかできないジルージャ像を見つけてきたのではないだろうか。
ミュージカル『ダディ・ロング・レッグズ』ゲネプロより
ミュージカル『ダディ・ロング・レッグズ』ゲネプロより
東京公演は2026年1月2日(金)まで。ぜひお見逃しなく!
取材・文・撮影=五月女菜穂
公演情報
編曲:ブラッド・ハーク
翻訳・訳詞:今井麻緒子
脚本・演出:ジョン・ケアード
製作:東宝
井上芳雄、坂本真綾・上白石萌音(Wキャスト)
日程・会場:2025年12月12日(金)~2026年1月2日(金)東京 シアタークリエ