LILI LIMITにとってポップとは何なのか? メインコンポーザーの2人に訊く

動画
インタビュー
音楽
2016.5.11
LILI LIMIT(L→R:牧野純平 Vo&G、土器大洋 G)/ 撮影=西槇太一

LILI LIMIT(L→R:牧野純平 Vo&G、土器大洋 G)/ 撮影=西槇太一

画像を全て表示(3件)

多くの音楽ファンが、彼らの登場に心を躍らせている。その名前は、LILI LIMIT。緻密で洗練されたサウンドワークも、声に出して口ずさみたくなる歌詞も、実にポピュラリティに溢れているのだが、それだけではない。2016年要注目バンドと目されるLILI LIMITにとって、ポップとは何なのか? 今年1月にリリースした2ndミニアルバム『#apieceofcake』を軸に、バンドのメインコンポーザーである牧野純平(Vo&G)と土器大洋(G)に話を訊いた。


僕たちのことを求めてくれる以上は、価値ある夢を与えたい。

――2ndミニアルバム『#apieceofcake』が1月にリリースされて、各方面からの反響も様々届いている頃かと思うんですが、それを受けて、率直に自分たちの置かれている状況をどのように感じていますか?

牧野純平(Vo&G/以下、牧野):ありがたいことに、いろいろな場所で「2016年のニューカマー」というふうに取り上げていただいて。同世代のバンドのみんなと一緒に(ライヴに)出させてもらう機会も増えているのですが……だからこそ、なおさら“もっと頑張らないとな”という気持ちになっています。

――LILI LIMITはすごく勢いがあるように見えますし、実際に評価も高まっていると思うんです。でも自分たちとしては、その実感よりも負けん気の方が強いと。

土器大洋(G/以下、土器):注目していただいてるという話はよく聞くんですけど、メンバーには実感はあまりなくて。もちろんライヴに来てくれる人やリスナーの人たちのことを考えながら曲は作っているんですけど、とはいえ、やっていることは相変わらずで。音楽好きな5人がスタジオに入って演奏してるっていう(笑)。実感がないというよりも……正確には、そういう評価の声に対して、自分たちが思い描いているようなスターにはまだ全然なれていないという感覚かもしれないです。

――現時点のモードは、周囲の声に応えたクリエイションをするというよりは、バンドが鳴らしたいものを主眼に置いている感じですか?

牧野:それは両方ですね。

土器:そうだね。求められるポピュラリティも模索しながら、同時にふつふつと、自分たちが刺していきたい、忍ばせていきたい音楽っていうものも湧き上がっていて。

――そういう模索の最新アウトプットが『#apieceofcake』だと思うんですけど。あらためて前作の『Etudes』と比較してみて、どういう変化を感じますか?

牧野:1stミニアルバムの『Etudes』は、僕らは“こういうバンドなんだよ”と伝えるのが役割だと思っていたんですよ。その中でできるポップなミュージックを作ったし、当時の僕らには、「『Etudes』はたくさんの人に届けられるものになったな」っていう自信もあったんです。でも、自分たちが思っているような捉えられ方をしなかったというのは、正直にいうとあって。それがちょうど、『#apieceofcake』を作ろうという時期だったんです。そこで、“バンドが好きな人だけではなくて、もっとたくさんの人に届けるにはどうしたらいいんだろう?”という考えになっていったんです。

――“自分たちの想定とは違う捉えられ方”というのは、具体的にはどういう声があったんでしょうか。

牧野:例えばですけど、“オリジナリティがすごい”とか“エゴが強い”っていう。

――アーティストとして、独創的である、個性が強いというのはこれ以上ない賛辞だと思うんですが……。

牧野:僕の中で“独創的”という表現は、もっとアンダーグラウンドであったり、先鋭的なところで活躍されている方を指す言葉なんです。それと、“オリジナリティがすごい”という表現をされるものって、両極端になると思うんです。本当にそれが好きな人と、逆についていけない人と。僕は、広い世界で音楽をやっていきたい人間だから……。

――土器さんにも、そういう感覚はありました?

土器:同じことを、メンバー全員が考えていたと思います。5人が全員一致で『Etudes』は素晴らしい作品が完成したと思ったんです。具体的な部分なんですが、『Etudes』は各曲の繋ぎにノイズやSEを入れて、全てが繋がるような構成にしたんですね。それは、僕らからすると、より楽曲に入り込んでもらうための扉だったんですけど、逆にそういうコンセプチュアルな部分が、入る妨げになった部分もあるのかもしれない、と。だから『#apieceofcake』はもっとシンプルなものにしないと、って。まずドアから部屋の中に入ってもらわないと意味がないので。

――確かに、『#apieceofcake』はすごく風通しがいいアルバムという印象があります。どの曲からでもLILI LIMITに入っていけるというか。

牧野:『#apieceofcake』の歌詞では、毎日のコンディションによって聴こえ方が変わるような作詞をしたい、ということは意識したんです。実際に歌詞を書く作業は、1日また1日と歌詞を書いて、翌朝見直して“違うな”って思ったらゴミ箱に捨てたりして。それを1か月半くらい繰り返して、理想的な抽象性のある言葉までいけたんじゃないかと思っています。

――土器さんから見て、牧野さんの歌詞はどんな点が特色だと思いますか?

土器:誰もが知っている場所や入ったことがある建物だったり、みんな知ってる言葉だったり……難しい言葉がないのがまず特徴だと思いますね。小学校に通っていれば8割くらいは意味が取れる言葉っていうか(笑)。作曲家としての目で見ると、牧野の言葉はかなり響きを重視しているのを感じます。口に出して面白い言葉というか。「seta gaya」とかは特にそれが表れているんじゃないかなと。あの曲のBメロは最強だと思ってますし、サビなんて小学生でも何も考えずに歌えるんじゃないかっていうくらいで(笑)。

――ひとつ、とてもお聞きしたかったことがあって。LILI LIMITは、曲先なんですか? それとも詞先なんですか?

牧野:音が先です。「Festa」と過去曲はちょっと違うんですけど、まず僕が1番まで作ったものを土器に投げて、土器が広げてくれたものをメンバーと僕に返してくれて。僕はそこに歌詞をつける作業に入って、他のメンバーは各自のフレーズを詰めていく流れです。


 

――最初に僕が驚いたのは、LILI LIMITの楽曲は、いわゆるポップス的なフォーマットから外れているものが多いということなんです。メロとサビっていう構成の点でもそうですし、各パートの中でも、メロディの起伏やフレーズの対称性をあえて度外視しているんだろうなと。で、そうなる理由としては、何よりも牧野さんの言葉ありきだからじゃないかと思っていたんです。外れましたけど(笑)。

牧野:(笑)。まず気持ちいいメロディを考えるんですけど、後でそこに言葉を敷き詰めていくので、それによってさらにまたメロディが変わるんです。それがおっしゃるような曲になる理由かもしれないです(笑)。

土器:牧野って、ヒネくれるつもりはないけど、結果的にヒネくれてしまっていることがよくあって。それは僕も似た部分なので共感できるんですけど(笑)。だから、形式だけ見るとポップス的ではない曲が出てくることもあるんですけど、それでもなおポップという部分からは外れていないと思っていて。

――あくまでポップネスからは逸脱しないというのは、LILI LIMITの武器だと感じます。でも、それって決して簡単なことではないと思うんですよ。どうしてそのバランスが成立するんでしょう。

牧野:そもそも、“ポップである”っていうことは“エンタテインメントである”っていうことだと思うんです。ってなると、“どうやって喜んでもらおう?”っていう発想がないといけなくて。音色ひとつを選ぶにしても、その意識は持って臨みたいと考えていて。それが結果的に僕らの音楽のポップさに繋がっていたら嬉しいですね。

LILI LIMIT(L→R:牧野純平 Vo&G、土器大洋 G)/ 撮影=西槇太一

LILI LIMIT(L→R:牧野純平 Vo&G、土器大洋 G)/ 撮影=西槇太一

――“ポップとはエンタテインメントである”って、根本的な部分ですよね。その意識は初期から強かったんですか?

土器:“東京に来たからには!”っていうのはあったよね、なんか。

牧野:(笑)。そう、東京に来たからには、僕らの音楽で満足してくれる人を増やしたいし、そういうことがしたいから全員でこっちに出てきたので。

――その重みというか、責任感というか。

牧野:エンタテインメントって、お金とそれに対して得られるものっていうか……2500円の代をいただいて、それをいかに2500円以上の価値のあるものにするのか? っていう。音源だったら、2000円以上の価値があるものを出すとはどういうことか? ということを、よく考えるようになりました。

土器:牧野はよく「価値あるものでないと、お金はもらえない」っていうようになりましたね。その意識自体は、バンドを始めた瞬間からあったと思うんですけど。

牧野:僕らのライヴに来てくれるお客さんは、2500円とかのお金を払って、わざわざ会場まで来てくれるんです。これって、よっぽどのことじゃないですか。そこまでして僕たちのことを求めてくれる以上は、価値ある夢を与えたいと思いますし、生活の中にありえないような空間を作り出して、“あぁ、明日も頑張ろう”って思ってもらわないといけないんだなって。

――生活の中ではありえない空間を感じてもらうという意識は、ライヴだけでなく音源についてもいえることなんですよね?

牧野:はい。昔は“日常的なことを描こう”と思っていたんですけど、今はそれにプラスして、フィクションを描くようになってきました。

土器:その話で思い出したんですけど、お客さんのツイッターで僕らのことを「日常エンタテインメント」っていってる人がいて。それがすごく面白い表現だなと。

牧野:それ、僕は今初めて聞いたんですけど、めっちゃ嬉しい!

――その言葉、確かにLILI LIMITの音楽を端的に言い当てていますよね。歌詞にしても、日常にありそうな光景でありながら、リスナーの気持ちというフィルターや解釈が加わることで、彩りが加わるという。

牧野:そうですね。ただ、実は僕、歌詞がどういうふうに生まれてきたかって聞かれると、あまり覚えていなくて。あと、スタジオに入ったりした時、『Etudes』の歌詞が飛んでしまって。これまで歌えていたのに、全く歌えなくなった時期があって。その時に思い当たったのが、“『Etudes』の時と考え方が全く変わっているからだ”っていうことなんです。

――それはどういう変化なんでしょう?

牧野:見え方が変わったというか。なんだろうな……優しさっていう部分だと思うんですけど。人に対する考え方とか……これまでは、そういうことを言ってこなかったんですけど。会いたい人には会いたい時に会いに行くべきだし、友達は大切にしないといけないし、家族も事務所の人も、バンドメンバーも……。以前から自分は情が深いと思ってたんですけど(笑)、それがより深くなっちゃったんです。歌詞についてはその変化がすごく大きいです。

――以前の自分なら出てこなかった言葉は、例えばどの曲に顕著ですか?

牧野:「vanilla ice claim」ですね。これは、昔の自分だったら、もっともっと毒々しい言葉を使っていたと思うんです。最終的に、守りたいと思う人がいるなら、どんな目にあっても、他人からどう思われても守れよっていうだけの曲なんですけど、以前の僕だったらこういうふうには歌えなかったと思う。あと、楽曲のアレンジによる歌詞の変化もあったりして。「nnmnd」もそうだし、「seta gaya」なんて特に、アレンジのおかげでこういう歌詞になったんだと思うし。

――アレンジ面で気にかかったのは「Boys eat Noodle」で、この曲だけ際立ってザラついたサウンドにミックスされているなと感じて。

土器:この曲は、パートごとにフォーカスされる楽器が違うっていうふうにしたくて。確かに歪み感もあって、その質感も加わってイビツな質感になっているなと思います。

牧野:「Boys eat Noodle」は、デモ状態でライヴ会場リリースしたことがあって。それを聴き直したら、“何か足りないな”って思ったんです。それで、ラストに追加したパートを歌ってみたら、しっくりきて。

土器:「morning coffee」もそれで完成したような曲ですね。ずっと前からあった曲なんですけど、冒頭とサビ前の歌詞は存在していなくて。でも、今回それが入ったことで、やっと完成した気がする。

牧野:新しく加わったパートによって、前からあった部分もあらためてフィーチャーされると思うし。

――過去のLILI LIMITと現在進行形のLILI LIMITが相互作用を起こすという。楽曲の作り方しかり、本当に5人の持っているものが反響しあっているというか。何度聴いても、発見があるものすごく素敵な作品だと思います。

牧野:ありがとうございます。

――ライヴについてはいかがですか?

土器:僕らはよく“謎が多い感じ”っていわれるんですけど、ライヴでは“イメージとギャップがある”っていわれて(笑)。ライヴではかなり人間的なところも出るというか……我ながら思うんですけど、音源と全然違うんですよ(笑)。音源を聴いて好きになってくれた方にも、さらに新しいものをお見せできると思うので、ぜひ一度見てほしいです。

牧野:僕らは5人編成で、見せ方もこだわりながら実験的なこともしていて。でも、対バンイベントなどでの30分くらいの時間では、なかなかやりたいことのすべてを表現できないもどかしさがあったんです。だからワンマンでは、よりLILI LIMITというエンタテインメントをお客さんに提示できたらと思っていて。来てくれた人が、今後のLILI LIMITに期待を持ってくれるようなライヴをしていきたいと思っています。


撮影=西槇太一 インタビュー・文=矢野裕也

LILI LIMIT(L→R:牧野純平 Vo&G、土器大洋 G)/ 撮影=西槇太一

LILI LIMIT(L→R:牧野純平 Vo&G、土器大洋 G)/ 撮影=西槇太一

ライヴ情報
『high water』
2016年5月14日(土)名古屋  ell.FITS ALL

『ヤングライオン祭’16』
2016年5月21日(土)大阪城音楽堂 

『VIVA LA ROCK 2016』
5月28,29日(土,日)さいたまスーパーアリーナ
開場8:30 / 開演10:00 / 終演21:00予定
※LILI LIMITの出演は5月28日(土)になります。
 
『Eggs presents SAKAE SP-RING 2016』
2016年6月4,5日(土,日)※HOLIDAY NEXT NAGOYAにて15:00~

『AIR-G’ Sparkle Sparkler presents スパクル☆ナイト Vol.3』
2016年6月11日(土)札幌Sound Lab mole

『mol-74 presents「4cast tour」』
2016年6月19日(日)Live House Osaka BRONZE

『Ivy to Fraudulent Game pre.”行間にて” release tour -宇都宮にて-』
2016年6月25日(土)HEAVEN’S ROCK 宇都宮 VJ-2

『LILI LIMIT presents PUNCTUM』
2016年7月12日(火)青山・CAY

『WILD BUNCH FEST. 2016』
2016年8月20日(土)・21(日)山口きらら博記念公園
※雨天決行(荒天の場合は中止)
※LILI LIMITの出演は8月21日(日)
時間:各日 10:00開場 / 11:30開演 20:30終演予定

 

 

リリース情報
2ndミニアルバム『#apieceofcake』
2016年1月20日発売
LACD-0267 ¥2000+税
<収録曲>
01.Festa
02.Boys eat Noodle
03.N_tower
04.morning coffee
05.seta gaya
06.vanilla ice claim
07.lycopene
08.nnmnd
シェア / 保存先を選択