英国を代表する音楽誌「NME」が9月よりフリーペーパー化。WEBバージョンの日本版もスタート。
英国を代表する音楽誌「NME」が9月よりフリーペーパー化。また、WEBバージョンの日本版もスタート。
1952年から続く英国の老舗音楽雑誌として、英国国内のみならず世界的に大きな影響力を誇るNMEが、9月からフリーペーパーとして発行形態を変えることを7月6日付けのWEB版で発表した。
発表によると、9月から30万部を駅や大学、各種ショップなどを通じて配布するとのこと。
この流通の変化に合わせて、内容にも大きく変化が見られる。あくまでも音楽を中心として他の分野には踏み込んでこなかったNMEだが、フリーペーパー化以降はあくまでも音楽を中心に据えながらも、映画やファッション、そして政治にまでカテゴリーを広げると発表。
この発表がなされたFacebookには、「セレブのニュースには興味はない」とか、「Rolling Stoneになりたいのか?」などといいうコメントが多くついており、歓迎一色ではない点が大変興味深い。また、それのみならず、このフリーペーパー化のニュースリリース直後の7月10日に、NME JapanのWEB版が正式にスタートして、日本においても本国のNMEの精神を受け継いだニュース発信を開始している。
政治などのカルチャー以外のカテゴリーで思い起こされるのは、先のコメントでも出てきていた米国雑誌のRolling Stoneだ。Rolling Stoneは1967年に創刊された雑誌で、音楽を中心としながら政治色も濃く、政治特集も多いのが特色だ。本国以外にも世界各国で現地版が多く発行されており、ここ日本でも雑誌とWEB版が存在するが、本国版と比較してその影響力は非常に限定的な範囲にとどまっている(日本版は創刊と廃刊を繰り返しており、現在のものは3代目となる)。
このRolling Stoneとの前例からも、NMEの日本版はどこまで成功を収めることができるかは未知数といえる。ただ、洋楽のマーケットの縮小にともない、海外からの情報も現地メディアに頼らざるをえなくなっていた現状を考えると、こうやって日本版が始まることは日本のシーンの活性化の面からも歓迎したい。
NMEのフリーペーパー化のニュースから、紙媒体の限界を想像する向きも多いだろうが、私は少し異なる見解を持っている。というのも、NMEは紙媒体としては異例ともいえるほど早い1996年にWEB版をスタートしており、現在は週に360万ヒットを超える存在として定着している。そして、その歩みの過程で英国の音楽誌の双璧といわれたライバル誌のMelody Makerを買収し、事実上の独走態勢を見せている。WEB化にも力を入れながらもライバル誌を手中に収めるほどの勢いを持ちつつ、同時に誌面をフリーペーパー化するという前のめりな姿勢は興味深い。欧米の主要都市にはライブ情報などを掲載したフリーのカルチャー情報誌が定着しているケースが多い(ニューヨークのVillage Voiceや、ロス・アンジェルスのLA Weeklyなど)が、そこにNMEというブランドがどこまで食い込めるのかという勝負は見ものだ。
また本国のNMEは、NMEアワードを開催しその年に活躍したアーティストに賞を授けたり、最近ではNMEアワードツアー2015という名前で若い英国のバンドを複数組み合わせて米国ツアーをさせるなど、イベントに非常に力を入れている。NEM Japanでもその傾向は継承されるようだ。現在までに、NME Japan主催でThe Jesus and Mary Chainの来日公演が11月に決まっており、この後もこの様な招聘事業が行われるとのこと。日本でもメディアがフェスやイベントを主催することが珍しくなくなってはいるが、洋楽で初めてに近いケースとして歓迎されるだろう。
NMEの影響力は本国のみならずにここ日本にも力が及んでいた(特に2000年代前半までは)。NMEの影響力を表す例としては、毎年暮れに発表される年間ベストアルバムのチャートだろう。ここに選出されることで翌年にブレイクすることも少なくなく、97年にベストアルバムに選出されたSpiritualizedは、その直後から急激に注目されるようになり、翌年、まだ新宿にあったリキッドルームで行われた初来日公演は早々に完売し、異様な熱気の中でのライブとなったことはその一例だ。それ以外にも、The Strokes、White Stripes、MGMT、TAME IMPALAなども年間ベストアルバムに選出されたことで世界的なブレイクの一因となったと言えるだろうし、昨年のベストアルバムを受賞したSt.Vincentはまさに世界的な注目を集めるきっかけとなった(日本でも、今年2月に行われたHostess Club Weekenderでの来日公演は、Thurston Mooreを抑えてのトリでの出演し、堂々たるステージングでその実力を如何なく発揮して見せた)。
NEMのフリーペーパー化は英国シーンにどのような影響をもたらすのか。そして、NME JapanのWEB版のスタートは日本の停滞した洋楽シーンの起爆剤となるかどうか、今後、要注目だと言っていい。
THE JESUS & MARY CHAIN “PSYCHOCANDY” 30th Anniversary Japan Tour
11月24日(火) umeda AKASO
開場 18:00 開演 19:00
スタンディング 8,800円(1ドリンク代別・税込)
11月25日(水) EX THEATER ROPPONGI
開場 18:00 開演 19:00
アリーナスタンディング 8,800円 指定席 9,800円(1ドリンク代別・税込)