井上道義が語る〜鎌倉、ブルックナーvol.1

インタビュー
クラシック
2016.3.9
(右から)井上道義、柴田克彦 (Photo:M.Terashi/TokyoMDE)

(右から)井上道義、柴田克彦 (Photo:M.Terashi/TokyoMDE)

 井上道義指揮、NHK交響楽団による「かまくらプレミアム・オーケストラ・シリーズNHK交響楽団『いざ、鎌倉への道』」が3月12日、ブルックナーの交響曲第8番で最終回を迎える。
 2011年から毎年ブルックナーの交響曲を届けてきた、井上道義とNHK交響楽団。最終回を前に、去る2月6日、鎌倉芸術館でプレ・イベントとして井上道義のトークショー「崇高なる魂、ブルックナー」が開催された。

 2013年6月のプレ・イベント「ブルックナーってどんな作曲家!?」に続く今回のトーク・イベントには、熱心なファン100名ほどが集まった。司会進行は音楽評論家の柴田克彦。

 イベントは、柴田による解説を受けて井上が語る形で進められた。内容は、「鎌倉への想い」「ブルックナーの生涯」「ブルックナーへの井上の想い」「交響曲第8番の聴きどころ」など。

以下、おもに井上の発言をまとめた。
(Photo:M.Terashi/TokyoMDE)

◆鎌倉のこと

 鎌倉に来られるのは、いろんな意味で、ほんとうに嬉しいこと。14歳のとき、指揮者になろうと思って、ピアノの山岡優子先生に習っていた。それが鎌倉との出会い。うまく弾けなくて手を叩かれ、帰りのバスで悔し涙を抑えたこともあった。

 そのバスの車窓から、七里ヶ浜の朽ちかけたバレエスタジオが見えた。エリアナ・パヴロヴァ(日本にクラシックバレエを紹介し、バレエを根付かせた)が日本で初めて作ったバレエの稽古場だった。僕はバレエを習っていたこともあったが、先生だった島田廣(新国立劇場舞踊部門初代芸術監督)、服部智恵子(日本バレエ協会初代会長)の先生がパヴロヴァ。

 そんな記憶もあって、NHK交響楽団との「いざ、鎌倉への道」の1回目(2011.10/2)には、チャイコフスキーのバレエ音楽セレクション(選曲:井上道義)とブルックナーの交響曲第1番を組み合わせて演奏した。

 僕にとって、バレエ音楽とブルックナー(あるいはそれ以外の作曲家でも)は一緒にやっても違和感のないもの。けれども、ブルックナーを聴きたい人はブルックナーだけ、バレエ音楽を聴きたい人はバレエ音楽だけ・・・だから、その後バレエ音楽とブルックナーをいっしょにやるのはやめた。

井上道義 (Photo:M.Terashi/TokyoMDE)

井上道義 (Photo:M.Terashi/TokyoMDE)

◆ブルックナーを指揮するということ

 世間の僕に対するイメージはマーラー、ショスタコーヴィチだと思う。ブルックナーについては???というイメージ。それはしかたない。確かに「異端」である自分にとってマーラーは心情的に身近だ。
 けれども、僕はブルックナーを指揮するのはうまいと自負している。妻の珠世も「あなたブルックナーを指揮しているときが一番自然。あってる」って言う。

 ブルックナーの音楽は長い。マーラーは派手だけど、ブルックナーはそうじゃない。だから、テレビなどで紹介するのも難しい。だいたいテレビなどでは、ちょっと聴くだけで耳に残るものしか扱われないし、流行歌はだいたい3分くらい、CMに至っては15秒。

 ブルックナーの音楽はバックグランドとしてオルガン音楽がある。だから響きが大事だけれど、日本は家が小さいし、教会もそんなに大きくない。だから、日本人はブルックナーの音楽を受容する環境をあまり経験していない。

 幼いころ、毎週母に連れられて教会に行った。そこでいろんなミサ曲やレクイエムなどを聴いた。そのことが、のちの音楽の勉強にも役立った。

 ブルックナーは努力して指揮する(聴く)のでなく、その世界に自然に入っていけるかどうかだと思う。

 病気をしたあと、復帰公演をブルックナーの交響曲第9番(「いざ、鎌倉への道」Vol.4 2014.10/11)でやれたのは幸運だったと思う。すばらしく救われる曲。あの公演のあと、死んでもいいとさえ思った。

(続く)


■かまくらプレミアム・オーケストラ・シリーズVol.26 
井上道義×鎌倉芸術館 NHK交響楽団「いざ、鎌倉への道」Vol.5

2016年3月12日(土)16:00
鎌倉芸術館
ブルックナー/交響曲 第8番 ハ短調(ノヴァーク版/1890年)
問合せ:鎌倉芸術館センター TEL: 0120-1192-40
http://www.kamakura-arts.jp/
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