「今もまだ、昭和の時代が続いていたら……」 『おそ松さん』ワールドがつくる、昭和90年の音楽シーンとは
『おそ松さん』ワールドがつくる、昭和90年の音楽シーンとは
その挑戦的でカオスな作風から、現在メガヒット巻き起こしているテレビアニメ『おそ松さん』。ファンの間では、全国各地で「推し松談義」が繰り広げられるまでになった作品ですが、その人気を支える音楽シーンはどのようにしてつくられているのでしょうか。
今回は、アニメ専門チャンネルを運営するAT-Xにて数々のアニメ作品やバラエティ番組の制作を担当し、『おそ松さん』で初めてオープニングの音楽プロディーサーを務めることとなった南寛将さんにお話を伺ってきました。
取材・文:臼井照人
◼︎楽しさを求めて飛び込んだアニメ業界
━━音楽プロデューサーを務めるのは初めてということですが、南さんはもともとアニメの仕事をしていなかったと伺っております。ゲーム番組なども制作されていて、ゲームが大変お好きなようですが。
南寛将(以下、南):そうですね。昔からゲームが大好きで、なかでも格闘ゲームをよくプレイしていました。ゲーセンが大好きで、学生の頃は年間365日ゲーセンに行き、年越しもゲーセンで過ごしたこともありました (笑)。
前職は、一般的なシステムエンジニア(以下SE)として働いていたんですけど、あるとき動画投稿サイトで、大勢の人たちが秋葉原で踊っている動画をたまたま見たんです。ちょうどアニメのOPに合わせて踊る動画を投稿するのが流行っていた頃でした。
SEの仕事もすごく楽しかったのですが、このダンスを踊っている彼らのほうが人生を楽しんでいるだろうなと思い、それがきっかけでアニメの業界に興味を持って、何もわからない状態で今の会社に飛び込みました。
最初は前職と同じように今の会社でもSEとして働いていたのですが、SEの仕事がある程度形になったときに、アニメの仕事や実写番組の制作に携わらせていただけるようになりました。
━━今ではアニメのお仕事も20作品近く担当されていますよね。
南:今までも製作委員会に参加して様々な経験をさせていただいていたのですが、今回の『おそ松さん』では、オープニング音楽プロデューサーという立ち位置で参加させていただくことになりました。ただ、プロデューサーという肩書きではあるものの、とても実力のある作家とスタッフ陣にご協力頂けましたので、僕は真ん中で調整していただけですけどね(笑)。
◼キーワードは「昭和90年」︎。新しい挑戦を
━━それでも初めてのオープニング音楽プロデューサーを担当されるなかで、苦悩や葛藤なんかもあったのではないかと思います。今回、曲を歌う「A応P」さんが第1クールで歌った「はなまるぴっぴはよいこだけ」は、どのようにしてつくられたのでしょうか。
南:アニメのオープニング楽曲を担当するのは初めてだったので、何からつくればいいんだろうと、いろいろ悩んだのですが、まずどんな歌を歌わせたら「A応P」らしさが出るかということを考えました。
「A応P」は「アニメ”勝手に”応援プロジェクト」から生まれたユニットですので、アニメを生き甲斐にし、アニメを応援しているユニットが歌うのでしたら、曲も最大限にアニメ本編と一体感を持ったものをつくりたい……という話になりました。
なので、アニメの監督とプロデューサーに『おそ松さん』が求めるオープニング楽曲についてヒントを頂くため、直接アニメ制作スタジオの「ぴえろ」へ伺いました。
そのときはまだ、『おそ松さん』の映像はでき上がっていなかったので、脚本やキャラクター、設定などからどんなイメージの曲がよいのか、いくつかキーワードをいただきました。
━━それはどんなキーワードだったんでしょうか。
南:まずは「昭和」です。もともと『おそ松くん』という原作があったので、昭和を感じさせる要素は入れようと。
ただ、アニメ自体は昭和テイストを残しつつも新しいものをつくろうと挑戦している作品なので、昭和と言っても単に古いものを並べるだけではおもしろくないなと。
そうやって突き詰めて出た答えが「現代版の昭和」である「昭和90年」というキーワードでした。もし今も昭和が続いていたら今は昭和90年くらい、というのがすごくしっくりくるキーワードだなと。
━━「はなまるぴっぴはよいこだけ」で意識した昭和90年はどういったところなのでしょうか。
南:今回、歌詞やメロディーに直接「ザ・昭和」と呼べるようなものを出したつもりはなく、全体を通してどこか昭和を感じさせるといいますか、そういったことを意識してつくり始めました。
そして次に、このイメージを持って以前より「A応P」の楽曲をゲームに使用してくれていたコナミに話を持っていきました。
コナミには「アニメのオープニングを担当させて頂く機会は貴重なので、是非やらせてください」と言っていただき、「ゆくゆくはアニメファンとゲームファンをクロスオーバーさせるようなことができるとおもしろいですよね」という話になりました︎。
そこから作曲の96さんに元となる楽曲を何曲かつくってもらったんですが、そのどれもがすごく良い曲でしたので、今度はその楽曲を引っ提げ、コナミの作家陣と一緒に改めて監督に会いに「ぴえろ」を訪問しました。
監督にはどれも良い曲だと言って頂けて、選択に悩んでいらっしゃったのですが、「強いて言うならコレが好き!」と、選ばれたのが今の「はなまるぴっぴはよいこだけ」でした。その後、監督と作詞のあさきさんと一緒に歌詞を詰める作業に入りました。
■カッコよすぎないように、可愛すぎないように、みんなでワイワイして欲しい
━━96さんとあさきさんがいたので、何でコナミなんだろうなって思っていたんですが、そんな制作秘話があったんですね。他にはどのような要素が盛り込まれているんでしょうか。
南:女の子たちが歌う曲なので、可愛いものにしようとつくっていたのですが、キラキラとした可愛いさではなくて、ちょっと鈍臭い感じの、残念な可愛さが出るように意識しました。
アニメが女性にも好きになっていただける作品になると思ったので、曲がリリースされたら、女性ファンのみなさんが、カラオケで楽しんで歌ってもらえる曲にしたかったんです。
━━忘年会シーズンにカラオケでワイワイできるような曲という感じでしょうか?
南:そうですね。歌ってもらいたいとか言っているわりに、実はこの曲歌うのがとても難しいんですけどね(笑)。それでも女の子たちがカラオケで楽しんで頂けるような曲ができたら成功だなって思いました。
━━南さんが「はなまるぴっぴはよいこだけ」の歌詞に、「ここだけは取り入れたい!」と求めたところはどういったところでしょうか。
南:基本的にはあさきさんに任せつつ、「シェー」とか、「おそ松さーん!」と、みんなで叫んだりするポイントは絶対に取り入れたいというお願いをしました。
「おそ松さーん!」っていうタイトルを叫びたかったんですよね。
━━それはご自身が?
南:そうです。みんなで叫びたかったんです(笑)。
ライブやイベントで歌ったときに、お客さんと「おそ松さーん!」って一緒になって叫んでみたかったんです。それが最初にお話した作品との一体感という部分にも繋がるんじゃないかとも思ったので。安直ですが(笑)
他にも「うっとり」や、「わぁー」と合の手が入れられるポイントもあるので、いつかライブでお客さんと一緒に叫べたらと嬉しいです。
━━コールアンドレスポンスがあると、お客さんも乗りやすいですよね。曲調とかメロディー進行とかの部分でお願いしたことって何かありますか。
南:ギャグアニメなので、カッコよくなりすぎないとか、気取って可愛くなりすぎないようにというお願いはしました。この曲、ちょっとうるさいなって思ってもらえるくらいが、聞いていて楽しいと感じたので、レコーディングする際もメンバーの個性がバラバラな部分をあえて残して、整えすぎないようにしました。
━━歌い方の部分で、「A応P」のメンバーに出した要望は何かありましたか。
「A応P」には、要望というよりも、この曲を感じたままに歌って欲しいという思いがありました。でもみんな真面目なので、最初は丁寧に、綺麗に歌ってくれようとしていて。
「はちゃめちゃな曲なんだから、頭のネジの1個や2個飛ばして、もっと感じたままに歌ってみて」と話したら、みんなすごく困っていました(笑)。
━━メンバーのなかで、一番ネジを飛ばしていた子は誰でしたか?
南:あえて言うのであれば、「水希蒼」ですね。彼女はまだ新メンバーで、レコーディングもこの曲が初めてだったので、人一倍丁寧に歌おうとしてくれていたんです。
それをもっと壊して歌ってください、もっとはっちゃけて歌ってくださいと、どんどん崩してしていったんですけど、最後は本人も「もう自分の歌声じゃないみたいです」と話していました(笑)。でもそれが明るく元気な歌声になり、みんなの歌声と重なってとても楽しい雰囲気に仕上がったと思います。
はちゃめちゃな収録にみんな苦戦していましたね。でも最終的には音楽ディレクターがまとめてくれまして今の形になりました (笑)。
■「ぴっぴ」をもらえるのはよい子だけ?
━━ところで楽曲タイトルの「はなまるぴっぴはよいこだけ」にはどういった意味が込められているんでしょうか?
南:それがあさきさん以外、僕を含め他のスタッフさんも誰一人として知らないんです。あさきさんのところに行って、どういう意味か聞いてみたことがあるんですけど、「教えません」って言われました(笑)。
この歌詞には複数のストーリーがあって、ちゃんと物語にもなっているらしいんですけど、ふんわりとしかおしえてもらえなくて(笑)。
━━あさきさんワールド全開な歌詞ですよね(笑)。この曲名の「ぴっぴ」の意味って、南さん的にはどのような解釈をしていますか。
南:A応Pの間でよく話しているのは、テストで100点をとって、はなまるをもらったときって、点数の下の線に「ピッ、ピッ」って線がつくことがあるじゃないですか。その線が「ぴっぴ」なんじゃないかっていう予想をしていました。あさきさんにそれで合っているのか聞いてみたのですが、「それでも良いですよ。」って言ってました(笑)
━━「100点を取れるのはよいこだけだ」みたいな?
南:そうかもしれません。僕がふんわりと聞いたのは「よいこだけが存在する世界が果たして正解なのか?」っていう意味があるとかないとか。つまり『おそ松さん』に登場する6つ子って、とても100点とは言えないんですが、彼らみたいな存在も世界にとってはまた正解なんじゃないかっていうこと・・・ですかね?(笑)。
他にも何人かあさきさんに意味を聞き出そうとしたスタッフがいるんですけど、返ってきた答えがみんなバラバラで。
なので、それぞれが感じ取ったもの全てが「はなまるぴっぴ」なんじゃないかという、一番ズルいやつです(笑)。でもそういった、ファンの方々の想像を掻き立てるような部分も、今回上手い具合に働いてくれたんじゃないかと思います。
━━妄想するって、いろいろな意味でファンの方たちにとっても、楽しみの一つですからね(笑)。
南:そうですね(笑)。作品自体も、すごく挑戦的な作品なので、そういう意味ではオープニングでも一つ挑戦できたんじゃないかと思います。
96さんとあさきさんも、アニメのオープニングを担当するのは初めてということだったので、スタッフ陣含め本当にいろいろと初めてのことばかりでした。
■アニメと楽曲、セットで楽しんでもらいたい『おそ松さん』ワールド
━━すでに第2クールの放送も終盤にかかり、歌も引き続き「A応P」で『全力バタンキュー』という楽曲になりますが、こちらはどんな曲に仕上がっているんでしょうか。
南:基本的に第1クールのテイストは踏襲しつつも、「昭和90年」というキーワードや、可愛さの表現の仕方をまた違ったアプローチで盛り込みました。
今回は、制作に入る時点で『おそ松さん』という作品が、どういうものかわかっている状態だったので、アニメのイメージを元にコンペを開いて、楽曲を集めさせていただきました。
いろんな楽曲が集まったなかで、「おそ松さん」の世界観を踏襲しつつも、聞いてくれた方がまた違った楽しみ方ができそうだなと思った曲が、今回の「全力バタンキュー」です。あとからわかったのですが実はこの曲、作詞作曲を担当された方が「A応P」のメンバーと同い年くらいの女性の方でとても驚きました(笑)。
━━「全力バタンキュー」で第1クールのテイストを踏襲した部分ってどんなところなのでしょうか。
南:同じく昭和を感じさせるようなメロディーであったり、言葉選びの部分であったり。昭和にしてはカッコよすぎるなとか、逆にこれはちょっと古すぎるから違う言い方にしよう、といったことを意識してつくりました。あとは、「おそ松さーん」という掛け声も引き続き使っていて、そういった遊び心も残しています。
今回作詞作曲を担当されている方が平成生まれということもあるのですが、アニメを応援してくれている方々も平成生まれの方が多いと感じましたので、ファンの方が昭和的なフレーズを聞いたときに、逆に新しいって思ってもらえるように意識しました。
タイトルの「バタンキュー」という言葉も、今となってはあまり聞かないじゃないですか。けどそれを現代の子たちが聞いたら、新鮮に感じるんじゃないかなと思って。
━━確かにバタンキューって今あまり聞かないですね。「おそ松さーん」という掛け声が残っているということは、カラオケで楽しめる曲というところも、「はなまるぴっぴはよいこだけ」に似ているのでしょうか。
南:そうですね。そういう合の手を入れられる部分は前回以上に多いです。なので、ライブで披露する機会があったら、さらに一体感が出る曲になっていると思います。いろいろありすぎて、みんな覚えられるかなって心配な部分でもあるんですけど(笑)。
━━是非ライブで聞いてみたいです。最後にこの曲を皆さんにどのように聴いてもらいたいかお聞かせ下さい。
南:「全力バタンキュー」は、すでに『おそ松さん』という作品が動き始めてから、制作した楽曲なので、より作品と一体感を持った曲になっていると思います。
なので、この曲を単体で楽しんでいただくのも良いですが、、カッコよくて可愛い6つ子の映像と一緒に楽しんでいただいたり、A応Pのライブイベントで一緒に声を出しながら楽しんでいただきたいです。「はなまるぴっぴはよいこだけ」も、『おそ松さん』のアニメ映像が加わって、完成した楽曲なので、曲と一緒に『おそ松さん』の世界をもっともっと楽しんでいただければと思います。
━━ありがとうございました!
おそ松さん公式サイト:http://osomatsusan.com/
A応P公式サイト:http://aopanimelove.com/
A応P公式Twitter:https://twitter.com/AOP_animelove