大衆演劇の入り口から[其之拾参]後編・聞かせてください、お芝居の話!澤村千夜座長(劇団天華)インタビュー!
澤村千夜座長(2016/2/13)
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舞踊ショーが華やか、艶やか…観る前、劇団天華についてそんな評判は聞いていた。けれど実際に目にすると、一人一人が誠実に役に寄り添う芝居にも驚いた!とりわけ澤村千夜座長。心に刺さるあのセリフはどんな風に出て来るのだろう?4月中旬、滋賀・あがりゃんせ公演中の千夜座長にお時間をいただくことができました!
本番でひょこっと出てきたセリフ
―― お忙しい中、ありがとうございます。今日(4/16)のあがりゃんせの芝居『ヘチマの花はおちょこさんの嫁入り』、楽しい芝居でしたね。
※『ヘチマの花はおちょこさんの嫁入り』…器量の良くない女の子の嫁入りをめぐる、涙あり・笑いありの芝居。
澤村千夜座長(以下、千) この芝居に関しては、お師匠様(千代丸劇団・澤村喜久二郎総座長)がやってるものがそのままです。セリフもほぼそのままで、アドリブはほぼないですかね。ただ、その日その日で、いつもやってる芝居でも、あえて一部変えたりすることはあります。師匠と同じことしたくないんで、今日はやり方変えてみようとか。
―― そういえば『丸髷芸者』は、観るたびセリフがかなり違います。
※『丸髷芸者』…江戸の芸者が田舎の商家に嫁いでくるが、思いがけない事実に直面する。
千 『丸髷芸者』こそ、ほぼアドリブですね。
―― 千夜さんの一人語りの長―いセリフがあって、聞いていると主人公の芸者のそれまでの人生が想像できるような。
千 あれもほぼ、その場その場です。その場で勝手に作っちゃいます、役のヒストリー的なものを。芝居の構成的に許される範囲でね。
―― こないだ観た回では、「自分たち姉弟は小さい頃から親戚の家を流転流転してきた」というセリフがあって、丞弥さんの演じているお義父さん役への情が濃くなっていました。
千 どこに焦点を当てるかで、見方も毎回変わって来るんで。だから毎回セリフは違います。
―― その場で作る…といえば、『三人出世』で非常に印象深かったのが千夜さんと神龍さんのやり取りです。神龍さんが「泥棒になってしまったのは世間のせいだ」と言い、千夜さんが「いや、足のない人、腕のない人、目の見えない人でも、飛脚やったりあんまさんやったりしてる、なのに足も腕もあって目も見えるお前が仕事を見つけられないはずがない」、そういう説得をする場面です。
※『三人出世』…同じ村出身の三人の男が江戸で出世競争をする。一人は役人、一人は金貸しになるも、一人は道を踏み外して泥棒になってしまう。
千 うん、あれはアドリブかなぁ。あそこは変えたとこですね、お師匠様から教えてもらったところから…いつか、舞台上でひょこっと出て…。僕的には何の気なしに言ったセリフで、言ったり言わなかったりする日もあるし。本来、僕が教えてもらった『三人出世』では、あの場面は俺は“アホや、アホやけど悪いことだけはせんかったぞー”って言うだけなんですけど。やっぱそれじゃ足りないかなーと思いながら。
澤村千夜座長(左)・澤村神龍副座長(右)。二人の息の合ったやり取りは多くの芝居で観ることができる。(2016/2/13)
―― 今までの役者人生で一番お好きな芝居は『峠の残雪』だっておっしゃっていましたね。
※『峠の残雪』…悪者によって兄(千夜座長)は言葉を話せなくなり、弟(神龍副座長)は目が見えなくなる。それでも兄弟は力を合わせて母の仇討ちをする。
千 うん、けっこうね、好きかなぁ。最初にやったときに、喋らずに自分の思いをお客さんに伝えるっていうのが難しくて、全然ダメダメで…(笑) かといって、ホントにまじめにね、手話を習って、手話をするのは違うなと思ったんですよ。あの時代で的確に手話をするっていうのは不自然だし、役柄的にもね、あの人がちゃんとした手話をやるのは違うなと。だからあえて手話を習わず。
―― そしたら“喋らないで思いを伝える”というのは、どういう風に練習していったんですか?
千 練習したわけじゃないですけど、他の役者さんはどうか知らないですが、僕は寝る前とか暇なときに、静かなところで目をつぶって、頭の中で想像するんですよ。ハイ、チョン、幕が開きました、みたいな感じで想像しながら、セリフを言いながら、動きとかも考えながらやる。ちょっと時間があるときに。明日芝居何やったかな、この芝居どうしようかな、というときに。レーサーのイメージトレーニングに近いかなーと思うんですよ。
―― そういうことを繰り返して、実際にやってみて、あ、うまくいったなーとか…
千 うん、よく芸人さんで“降りて来る”とかいう言い方があるんですけど、本番出てから思いついたこととかもけっこうあったりするので…。ホントに役に入って1時間その人になりきれば、この人ならこういうときどうするだろうっていうのが、勝手にできることもあったりするんで。逆に、あのお兄さんになりきってれば、何をやろうと間違いなわけじゃないし。
―― 最初、お客さんに感情が伝わらなかったっておっしゃいましたが、伝わったなって思ったのってどんなときですか?
千 伝わったなぁっていう感覚があるのは、だいぶ後ですよ。やっぱりね、初演のときとか、余裕がないんで自分のことでいっぱいで、お客さんの反応とか見えなくて…見え出したのはホントに最近かな。セリフもちゃんと完璧に覚えてるし、大体次はこうするっていうのがわかってるし。で、また相手役が失敗することもあるやろうし、そんなことも計算の上で、一歩余裕ができて一歩下がって…うん、余裕ができて初めてお客さんの反応見れるようになって。あ、今お客さん泣いてくれてるな、とか。
「変わったことを常に考えるようになって」
―― 最近の大衆演劇雑誌のインタビューで、大事にしてることは何ですかっていう質問で、「型破りであること」とおっしゃってましたね。型を破っていくことっていうのはいつ頃から意識されてるんですか?
千 ここ3、4年くらいかなぁ…。やっぱね、特別公演的なことをするときに、なんかそれなりに人目を引くようなことをしなきゃいけない。最初、僕の中で記憶にあるのが、梅南座での『牡丹灯籠』ですね(2011年誕生日公演)。今までお師匠さんから教えてもらったお芝居しかしてなくて、誕生日公演でも初めてオリジナル的なことをしたんです。自分で、師匠に教えてもらった芝居じゃないのを、やった。そのときにすごく達成感があって、お客さんも良かった~って、こんな芝居初めて観たとかいう感想を言ってもらえて、すごく嬉しかったですね。
『牡丹灯籠』の一場面。伴蔵(千夜座長)とお峰(神龍副座長)がもみ合う迫力の場面だ。(DVD『澤村千夜誕生日特別公演2011』より)
―― 5年前、梅南座で観られたお客さんは羨ましいですね。
千 今思えば、あの『牡丹灯籠』こそもっとちゃんとした設備でしたかったなっていう思いもあるんですけどね…。そのあと浪速クラブでもやって、それきりやな~…。
―― いつか再演を観たいです。
千 もう一度やれって言うのも頭が痛くなるんよね…(笑) ホントは円朝の落語の場面が後半ももう一回あるんですけど、覚えられなくて省いちゃったんです、時間の関係もあって(笑) ただ俺の中で、原本にした染五郎さん、勘九郎さん、それと弟の七之助さんがやってた歌舞伎の『牡丹灯籠』では、みんな二役してたんですよ。たとえば染五郎が新三郎と伴蔵の二役やってたり。僕そこは、円朝、新三郎、伴藏の三役やったので!(笑)そういう意味ではあの人たちよりも頑張ってるよっていう自負はあるんですけど。舞台設備的にも芸的にも劣ってる部分はあるかもしれないけど、まあ、俺は三役やってるから!みたいな。
―― 出ずっぱりみたいな感じですよね。この役も、この役もっていう。
千 そう。で、誕生日公演が来るたびに特別的なことをするようになったんですけど、段々段々お客さんが期待するようになって、その期待に応えなきゃいけないというハードルが段々段々上がっていくうちに、今年何しよう、何しよう、て。たとえ変わったことやってても、他の劇団でやってたら、こんなんはあの劇団でもやってたよって言われるわけやし…でもみんながやってないことなんて、もう、そんなにないのよ(笑) オリジナルでお芝居作ったって、こんな似たような芝居どっかであったよねって言われるし…だからホントに変わったこと、変わったことを常に考えるようになって。型破りというか、物珍しいものを。
―― 2015年10月、浅草木馬館での誕生日公演『お里沢市』も二役でしたね。
千 『お里沢市』は、歌舞伎でも大衆演劇でもけっこうよくやってるんです。ただ大衆演劇のも、やっぱり歌舞伎から持ってきたやつなんで、三味線の曲に合わして動くみたいなのが多いんですよ。たとえばうちはお里(澤村悠介さん)が喋ってるところも、三味線の人、義太夫って言うんかな、それに合わせて動くみたいな…。僕らの場合は、生の三味線弾きとか呼べないし、結果それを全部セリフで喋ってやってる。
『お里沢市』の一場面。沢市(千夜座長)はお里(悠介さん)に疑いを向ける。(DVD『澤村千夜誕生日特別公演2015』より)
―― “セリフで喋ろう”っていう発想が最初からあったんですか?
千 一応、歌舞伎でやってるのと大衆演劇でやってるのと、両方観たんですよ。歌舞伎を観ると、やっぱりほとんど三味線で、チチチンチンって鳴って、なんとかの~なんとかの~とか言いながら、それに合わせて動くっていうのが多いんですけど、お客さんにわかんないんですよ、何言ってるのか。
―― わかんないですね。
千 わかんない、でもそれはそれで良いとこもあるんですよ。で、歌舞伎と大衆演劇の良いとこ取りで。今のお客さんにもわかりやすいように、セリフで喋ったほうがいいんじゃねえかって。まあ、そういう意味ではオリジナルっちゃオリジナルじゃないかと思うんですけどね。
―― 『お里沢市』は時々普段の公演でもやってらっしゃいますよね。
千 ま、やってることはやってるんですけど、ただ、舞台がね、出入りとかする特殊な舞台になるんで、どこでもはできないんで…。あんまり安売りしすぎるとね、今度はいざ特選で『お里沢市』やりますってときに、お客さん呼べなくなるんでっていうのもあるんですよ。
―― 難しいですね…
千 特選もね、あんまやりすぎるとね、ああ、前観た、もう観たになっちゃうんで…
―― ここぞっていうときに置いとかないと…
千 そう、そう。やりすぎるとダメなんですよ。
舞踊『お梶』「5分の間にその感情をどう表現するかじゃないかな」
―― 千夜さんの舞踊でも、時々はっきりした情景があるように思います。たとえば『戻り橋(暮色)』とか…。それぞれの舞踊は、千夜さんの中でこの人はこういう状況にあるって決まってるんですか?
千 いや、あんま決まってないです。踊っても毎回ほとんど変わらないのは、『戻り橋』と『お梶』ぐらいかなー。『戻り橋』と『お梶』はお客様からリクエストされて踊るようになったんですけど、踊ってる人多いじゃないですか。で、期待してる人が多いんで、絶対比べられるんで。そこだけはちゃんと考えて作った感じかな。
※『お梶』…菊池寛の小説「藤十郎の恋」をモチーフにした歌謡曲。人妻のお梶は役者の藤十郎に恋心を打ち明けられるが、実は藤十郎は芸のヒントにするために嘘の恋を仕掛けていた。
―― お梶って千夜さんの中ではどういう人なんですか?
千 どういう人って?
―― どういう感情を抱いてるのか、怒りなのか、悲しみなのか…
千 まあ人間やから、怒ることもあるやろうし、悲しむこともあるやろうし、もうおかしくなっちゃうこともあるやろうし…5分の間にその感情をどう表現するかじゃないかな。どういう人っていうよりも、ま、たかが5分の中やろうけど、色んな歌詞があって色んな情景が出て来るわけじゃないですか。で、お梶は手紙見て、本当のことを聞かされて怒ることもあるやろうし、怒ったあとやっぱりそうじゃないって自分に言い聞かせる場面もあるやろうし、悲しんで…もう泣き狂うときもあるやろうし、そのあとも、気が狂っちゃったような状況になるときもあるやろうし、それでも、もう藤十郎さんのことを好きで好きでたまらないっていうところもあるやろうし…。その人の人間像があるんじゃなくて、その場その場の歌詞と状況に合わせて、感情を表現してるんです。
舞踊「お梶」には、短い曲の中に怒り・哀しみ・愛情、様々な感情が現れる。(2015/11/8)
次の挑戦は?
―― お師匠さん(澤村喜久二郎さん)の教えで、心に残ってることとかってありますか?
千 多すぎて(笑)。お師匠さんは厳しかったですね~…、僕らが弟子っこのときは、すごく。すごい細かい人やったですね。
―― 最初に喜久二郎さんを観られて、大学生だったのを辞められて、役者になられたと聞きました。
千 たまたまバイト先で知り合ったお客さんが大衆演劇好きな人で、休みの日に一緒に連れていかれて、何の気なしに行って、別に全然興味もなかったんですけど…そのまんま、どっぷりですね。
―― そこから20年以上を経て今があるんですね。次、これをやりたいなって思ってらっしゃるのとかあるんですか?
千 もうある程度は決まってるんですけどね…
―― まだ言えない話ですか…?
千 いや、全然大丈夫ですよ。『雪之丞変化』やろうかなーと。
―― そうなんですか!またお誕生日公演で?
千 かなーと思ってるんですけどね…『雪之丞変化』も、まあどっか工夫しながらと思ってます。
―― いつも新しい風景を見せていただけるので、色んな人が期待してると思います。…ってプレッシャーをかけちゃうわけじゃないんですけど(笑)。
千 またなんか、皆さんのご期待に添えるようなものを作っていきたいと思いますので。
インタビュー終了後、筆者があがりゃんせ内のレストランにいると、近くの席で昼の部を観ていたグループがワイワイと入って来た。
「今日、芝居が楽しかったねえ」
「ね、でも最後の方は、なんかすごくジーンときた」
泣きも怒りも笑いも、感情の輪郭がハッキリ伝わる。“天華”の名のごとくなのは、目を引くショーの華やかさはもちろんのこと。お芝居の中、咲く情の華もある。
澤村千夜座長(2016/2/13)
5月の公演先・高槻千鳥劇場は、JR高槻駅から歩いて約5分。にぎやかな商店街を進んでいくと、カラオケ店の上に出現する。公演は5/1(日)より開幕!
高槻千鳥劇場はJR高槻駅から歩いてすぐの商店街にある。
会場:高槻千鳥劇場
期間:5/1(日)~5/30(月)昼の部
●「阪急高槻市駅」より徒歩3分
●名神高速「茨木IC」より15分