大衆演劇の入り口から[其之拾参]前編・こんな世界があったのか!「劇団天華」への招待 GWは大阪公演
澤村千夜座長(左)・沢村ゆう華さん(右)(2016/1/16)
澤村千夜座長(左)・澤村神龍副座長(右)(2016/2/14)
あ! と “驚く喜び”。
華やかな洋風のドレス、コミカルなショー、宙づりを組み込んだアクロバティックな演出―大衆演劇はそんなこともできるんだ!定番のお芝居に新しい息が吹きこまれ、まったく違う切り口で迫って来る―このお芝居にはそんな見方もあったんだ!
「劇団天華」の客席に座るときは、まるで行き先のわからないキラキラ派手な車に乗り込むような気分。まっすぐの道でも突然右ハンドルを切ったりする。次はどこへ連れて行ってくれるのだろう?次はどんな風景に出会うのだろう?
斬新な舞踊ショー
“天華”の劇団名のごとく、まず、華やかで多様な舞踊ショーが見所のひとつ。
宙づりを取り入れたラストショー。(2016/1/17)
全員の揃った姿がきれいなラストショー。(2015/12/20)
左から澤村悠介さん・澤村神龍副座長・澤村丞弥さん(2016/2/14)
思わず息を飲む空中での妙技をはじめ、昔ながらの大衆演劇のイメージとは一味違ったショーも多い。昨年秋の東京公演でファンになったという女性は、大衆演劇自体ほとんど観たことがなかったという。
「篠原(演芸場)が家から近かったから偶然来てみたら、みんなすごく元気で華やかで、あ、ここ楽しい!って」
数多くの劇団の中でも、舞踊ショーの艶やかさ・奇抜な発想には定評がある。では、芝居はというと…
型を超えて―千夜座長の芝居
「おなじみの演目を、ひとつひとつ独自のやり方でやるのが面白いでしょ?」
と話してくれたのは、地元の健康センターで20年、毎月入れ替わる劇団を観てきて、昨年劇団天華が乗ったときには通い詰めたというファン。昔から決まった筋・型が受け継がれている定番演目も、澤村千夜座長の芝居では新しい風景に出会えることがある。
澤村千夜座長(2016/1/17)
たとえば『お里沢市』。目の見えない沢市と、妻・お里の夫婦愛の物語だ。もともとは約140年前に書かれた浄瑠璃で、歌舞伎や浪曲に広がった。大衆演劇でも古典の演目として複数の劇団が持っている。その中で昨年10月の浅草木馬館、千夜座長の誕生日公演として披露された『お里沢市』は…。
「なあお里、わしはこんなめくらじゃゆえ、愛想をつかされても仕方はないが、他に男がおるならば、はっきり言うて下されぬかえ」
「沢市さん、いかに卑しき私じゃとても、現在お前という夫がありながら、他に男を持つような、そんなおなごじゃと思うてか」
沢市(千夜座長)とお里(澤村悠介さん)のハイテンポのセリフのやり取り。一般的には浪曲や義太夫節の音源が流されるところも、自分たちで書き起こしたセリフで演じられる。
「このままわしが生き永らえても、そなたにただただ苦労をかけるばかりであろう…」
沢市が盲目の身に絶望し、自ら死のうとする場面。膝の上で拳を握り、悲痛にしぼり出す言葉が観客に突き刺さる。
「見える、開いた、目が開いた!観音様、ありがとう、ございます…!」
観音様のご利益で目が見えるようになった場面。眼前で手を震わせ、千夜座長の全身に喜びがはじける。私たちの言葉に近いセリフの中に、私たちに似た生々しい喜怒哀楽がいっぱいに満ちる。だから、古典の舞台が遠くない。物語の切り口がざらりと開いて、登場人物の悲しみも喜びも、肌に落ちてくる。
また、座長の芝居の細かな仕草を見ていると、何もないところに風景が開くようだ。たとえば会話をしながら怪訝な表情で空を見上げ、持っている傘をかたわらの娘に差し掛ける。舞台には雨の景色が生まれる(『花かんざし』)。口のきけない男が地面に文字を書く。舞台をごしごしこすって、前に書いた文を“消して”から次の内容を書く。舞台の板は土に見えてくる (『峠の残雪』)。本筋を汲んだ上で、従来のやり方に寄りかからない。いきいきとした芝居は観客の目の前で創り上げられていく。
あなたが惹かれるのは?一人一人の個性
澤村神龍副座長(2016/1/16)
精悍でクールな澤村神龍副座長。けれど芝居中、他の人がセリフを言っているときにふと副座長を見ると、じっと真剣に聞き入り、時折目が潤んでいたりする。感情たっぷりの姿に毎回泣かされているというファンの方もいた。二枚目役、女性役、子ども役…どんな役でも、ぽん!と役に飛び込む自然さに驚かされる。
澤村丞弥さん(2016/1/16)
花形・澤村丞弥さんの女形は少女のように愛らしい。一方、芝居で老け役のときは老いた体つきになり、悪役のときはしたたかな喋り方になり…その役らしく見せようとするまっすぐな演技が誠実だ。お客さんへの接し方がとても優しく、人柄を褒める声もたくさん耳にする。
澤村龍太郎さん(2015/11/22)
すらりと舞台に映える180cmの高身長は、若頭・澤村龍太郎さん。刀を差した侍姿や、槍を抱えた袴姿は迫力だ。いずれの役も熱をこめて演じる様子や、舞踊ショーで客席を盛り上げようとする姿に、温かい人間味が現れる。
澤村悠介さん(2015/11/26)
満面の笑顔がチャーミングな生徒会長・澤村悠介さん。一方でまだ24歳ながら、“渋み”や“侘び”を持っている役者さんだ。『お里沢市』のお里役では、セリフ回しも滑らかに、情が燃えるような見事な女性像を見せてくれる。
沢村ゆう華さん(2016/1/17)
女優陣も個性豊か。きちんとした演技の形をいつも崩さない沢村ゆう華さん。
喜多川志保さん(2016/2/13)
一本の芝居のような舞踊世界を展開する喜多川志保さん。
沢村鈴華さん(2016/2/14)
はにかみも初々しい17歳の沢村鈴華さん。これを読んでいる方も、きっと「私はこの人が好き!」というお気に入りの役者さんに出会えることと思う。
来たる5月、劇団天華の公演先は大阪・高槻千鳥劇場。天華未体験の大衆演劇ファンの方、大衆演劇自体初めてという方、ゴールデンウィークの行き先のひとつに加えてみてはいかがだろうか。
⇒≪後編・聞かせてください、お芝居の話!澤村千夜座長(劇団天華)インタビュー!≫に続きます!
会場:高槻千鳥劇場
期間:5/1(日)~5/30(月)昼の部
●「阪急高槻市駅」より徒歩3分
●名神高速「茨木IC」より15分