フジロックと二人のロッカー、甲本ヒロト&真島昌利
FUJI ROCK FESTIVAL
初めてロックに触れたのは小学校5年生か6年生の時。ザ・ブルーハーツというバンドの「リンダリンダ」だった。
当時の社会現象と同様に、教室内には光GENJIが浸透していて、クラスにいた女子はみな「私はかあくん派!」とか「あっくんがいい!」とか言っていた。そして男子の多くは「リンダリンダ」を大声で歌いながら、テレビで見たヒロトさんのように両足をめいいっぱい上げてジャンプして、誰が一番高く飛べるかを競っていた。昭和がちょうど終わる頃の話である。
クラスの中ではカセットテープを廻し貸しするのが流行っていて、レパートリーは光GENJI、少年隊、WINK、キョンキョン(小泉今日子)、中森明菜、おにゃんこクラブ、バービーボーイズなど。その中にザ・ブルーハーツの『THE BLUE HEARTS』があった。
THE BLUE HEARTS
当時こどもだった自分には、その歌は誰が歌っているのかとか、誰が弾いているのか、叩いているのかなんてどうでもよかったし、考えもしなかったけれど、聴いていて楽しくて元気が出るからそればっかり聴いていた。特に“未来は僕等の手の中”というフレーズが好きで、テープを巻き戻して聴くたびに、未来は自分の手の中にあるんだと自分の手のひらを見つめ、よくわからないながらも想像してワクワクした記憶がある。
それから約10年後の1997年、第1回目のフジロックが富士山のふもとで開催された。当時は学生だったので、皆でこぞって聞き慣れない‘ロックフェスティバル’とやらを初体験すべく、を手に富士山へ意気揚々と向かった。
結果として、嵐がやってきたせいで、日本で初のロックの祭典は散々たる状況となった。正直、死んじゃうんじゃないかと思う瞬間さえあった。無論それは自分の知識不足からの軽装備や心構えのなさから生まれたものであったのだが、いろんなことでへこたれていたオーディエンスを救ってくれたのがTHE HIGH-LOWSだった。
今でこそ、野外フェスで雨対策は最重要課題と心得られてはいるが、当時はカッパさえ持って行かなかった人も多くいて、あの日はまだ昼間だというのに降りしきる雨のせいで体はもちろん、心も冷え切っていた。そんなオーディエンスの状態を察してか、THE HIGH-LOWSは皆の知るタテのりの曲を連発して体と心を十分すぎるほど温め、ロックで満たしてくれた。
あまり語られていないが、後に伝説として語られるこのフジロックの第1回におけるTHE HIGH-LOWSのライヴが日本のロック・バンドとして大きな役割を果たしていたことは間違いない事実。実際現場を目にしていた人の心には深く刻まれていることのはずなのだが、本人たちは何も言わないし、彼らのファンも何も言わない。いかにもパンクらしくて、そこも丸ごとカッコいい。
それから5年後の2002年。澄みきった青空が広がる苗場において、グリーン・ステージに立つTHE HIGH-LOWSを観た。初回の嵐とは真逆の、見事なまでの晴天に向かって彼らの音が突き抜けるように響いていた。そしてヒロトさんは客席に向かってこう語りかけてきた。
「ロックを好きなのは僕だけだと、ずっと長いこと思っていた。けれど、ロックを好きな人が自分以外にもこんなにもいっぱいいたと知れて嬉しい。ありがとう、フジロック」
ザ・クロマニヨンズ/FUJI ROCK FESTIVAL '06 撮影=Yasuyuki Kasagi
14年前のことなので一字一句が正確ではないが、彼は目の前にいる人々とロックに賛辞を送り、そしてフジロックに感謝していた。思いがけずそんな言葉を聴けてしまって、迂闊にも号泣してしまったのだが、周囲のいかついお兄さんも、セクシーなお姉さんも、好青年ぽい少年たちも、みんながみんなオイオイ声を上げて泣いていたので、泣いた自分もそのままに、「日曜日よりの使者」の大合唱に加わった。
その後も甲本ヒロトと真島昌利という二人のロッカーは、ザ・クロマニヨンズを結成し、2006年、2008年、2014年とフジロックに参加し続けている。
ザ・クロマニヨンズ/FUJI ROCK FESTIVAL '08 撮影=Yasuyuki Kasagi
今年で開催20周年を迎えるフジロックに、ザ・クロマニヨンズが出演するというアナウンスを聞いて、ほっとした。日本のロックの祭典が20年を迎えるというのに、彼らが、ヒロトとマーシーがいなければ始まらないだろう。始めちゃだめだ。20年もの間、同じミュージシャンを、ロックを、自然溢れる特殊空間の中で観て感じるという場を維持し、提供し続けてくれているフジロックに感謝して、今年の7月23日もザ・クロマニヨンズのステージを大いに盛り上げようではないか。
そして、顔も知らない、名前もしらないときから、なんかかっこいい、なんか元気が出る、なんか好きだと感じて、テープが擦り切れるまで何度も聴いて口ずさんでいた音を作った人たちを、こうして30年経った今も観ていられることは奇跡のようなことだ。二人にはいつまでもステージに立ち続けて欲しいし、まだ観たことのない人は‘日本の生きる伝説のロッカー’である彼らのステージを観られる時に観て、感じておいた方がいいだろう。
写真=Yasuyuki Kasagi、柴田恵理 文=早乙女‘dorami’ゆうこ
ザ・クロマニヨンズ/FUJI ROCK FESTIVAL '14 撮影=柴田恵理
日時:2016年7月22日(金)・23日(土)・24日(日)
会場:新潟県湯沢町苗場スキー場
<2次先行販売> 受付中〜6月3日(金)まで