「埼玉でしかやらないことをやろう」コンドルズ主宰・近藤良平が新作『LOVE ME TenDER』について語り尽くす!

インタビュー
舞台
2016.6.5
コンドルズ主宰・近藤良平

コンドルズ主宰・近藤良平

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トレードマークの学ラン姿で、ダンスから映像、生演奏、人形劇、さらにはコントまで、舞台上に多幸感満載のエンターテイメントを展開するコンドルズ。結成20周年を迎え、今や日本を代表するダンスカンパニーに成長した彼らが、6月、彩の国さいたま芸術劇場で新作『LOVE ME TenDER』を発表する。06年、『勝利への脱出 SHUFFLE』からスタートした埼玉公演も今年で10作目。節目の年に、どんなステージが飛び出てくるのか。構成・映像・振付を手がける主宰の近藤良平に聞いた。

■予期せぬ奇跡が生まれる瞬間が面白い

――埼玉新作シリーズも今回で10作目です。まず『LOVE ME TenDER』をタイトルに選ばれた理由からおうかがいします。

それはもうシンプルに10回目(Ten)だから。それだけなんです(笑)。僕たちは決め打ちで台本があるわけではないので。優しさとか、家族とか、タイトルから連想されるキーワードをいろいろ並べて、そこからつくっていく感じになりそうです。

――そもそもコンドルズのクリエイションってどんなふうに進められていくんですか。

結構僕の気分によるところが大きいんですよ。今日は跳ねたい気分だなっていうときは、わりと躍動感のあるものができるし、どんよりした気分のときは、何となく座ってダラダラと話す時間が続くっていう(笑)。もうメンバーもみんなそれに慣れてるからコツを掴んでて。僕のエンジンがかかるのを待つ人は、後ろの方で黙って見守ってる感じかな。

――結構、インスピレーションでつくっていく感じなんですか。

言葉にするのは難しいんですけど、何かアカデミックなものをつくりたいのか、それとも人を愉快にするシーンをつくりたいのか、そのジャッジをして、メンバーの個性を引き出していくような感じかな。たとえば、うちの橋爪(利博)はものすごく転ぶのが上手いんですよ。「大阪の芸人かよ!(笑)」っていうくらい、何度見ても面白い。逆に平原(慎太郎)が転ぶと何でもコンテンポラリーみたいになる(笑)。だから、同じ転ぶでも今回なら橋爪を使ってより滑稽なシーンにしたいのか、それとも平原を転ばせてみんながハッとなるようなものをつくるのか、いろいろ考えながら組み合わせていくっていう。

――勝山(康晴)プロデューサーは「社会情勢を反映したい」とおっしゃっていましたが。

勝山はそういう役割の人なんです(笑)。社会情勢に敏感というか、新聞もよく読んでるしね。僕は何もそういうことは考えずにつくるんですけど、それを見た勝山が上手く今の社会情勢につなげるんですよ。たとえば今なら人が上品な感じで手を振っていたら、「これはサミットだ」とかね。で、それを聞いた僕がさらにインスピレーションを広げて、もっと面白くしていこうって掘り下げていく感じ。最初から何か社会情勢を反映させようとするのではなく、僕らのつくったものがたまたま一致するようなイメージです。今回もたぶんそういうものもいろいろ含まれていくんじゃないかな。

――偶発性というのを大事にされた現場なんですね。

やっていると奇跡みたいなのが起きる瞬間があるんですよ。たとえば音楽なんかもそう。先に音楽を決めて、それに振りをつけてシーンを固めていくやり方もあれば、音は無視して人間関係とか他のいろんな要素でつくっていくケースもあって。うちも最初はまったく別の曲で振りをつくって、ある程度できた段階で別の曲を当ててみるっていう方法をとることは結構ありますよ。どんなに激しい振りでも、そこにゆったりしたクラシックを合わせたら、すごい神々しいシーンに見えたりして。そういう組み合わせの奇跡はわりと好きです。あらかじめ決まったものに向かっていくと、ただそのために一生懸命やるだけになっちゃう。そういう予期せぬ奇跡が起きたときに輝きはじめるものこそ面白い。だから今の段階ではまだ僕もどういうものが出来上がるかまったく読めないんです。

■他の公演ではできないことも、埼玉ならできる

――今年でコンドルズ結成20周年ですが、振り返ってみるとこの20年は短かったですか。それとも長かったですか。

やっぱりあっという間だったかなあ。公演ごとに思い出すときも、「これつくったの、そんな前なの?」ってビックリします。家に今までの公演の記録媒体が全部保管してあるんだけど、VHSからHi8、ミニDVにデータともういっぱい。恐ろしい量です。それ見たら、すごい年月やってきたんだなあっていうふうには感じますね。

――埼玉公演も10作目です。コンドルズにとってこの埼玉公演ってどんな意味合いというか位置づけにあるんでしょう。

公演ごとにそれぞれ特色があって。夏公演なら、いろんな地方をまわって、ひとつの大きい作品をつくるイメージだし、以前、京都のアートコンプレックスで年末にやってた公演は、コンドルズが小さい場所でどう見せるかを試せる場だった。じゃあ埼玉はと言うと、やっぱり新作ですよね。埼玉では常に新作だし、挑戦的なものをやってきている。どれも埼玉でしかできない強度のあるものに仕上がっていて。それがお客様の間でも広まって、「年1回、新作のコンドルズを埼玉に観に行こうぜ」という空気が定着しつつある。1年の活動の中で、埼玉で新作をするということは、コンドルズにとってもすごい重要な役割があるなって思います。

――その、埼玉でしかできない強度のあるものができる理由というのはなぜなんでしょう。

どうなんだろうね。上手くは言えないけれど、やっぱり埼玉でしかやらないことをやろうって思うからじゃないですかね。そう思うと、自然と特殊なことになるんですよ。普段だと、他の劇場でも回していくことを想定に入れたりするので、あんまり特殊なことをやりすぎると汎用性が利かなくなる。でも埼玉はそういうことを考えないでいいから、一か八かというか、より趣味嗜好の強いものが生まれてきやすいんじゃないですかね。たとえば12年の『十二年の怒れる男』のときにクイーンの『Bohemian Rhapsody』を使ったんですけど、あれも曲自体がドラマティックすぎて、普通の公演ならやらなかった。今回のタイトルの『Love Me Tender』だって、他の公演だとちょっと恥ずかしかったはず。でも、埼玉ならこの1回だけだし出し切ろうかなってなるんですよね。

――彩の国さいたま芸術劇場という空間そのものの魅力や独自性という点ではいかがでしょう。

やっぱりそれはあの空間の広さですよね。何度でもページをめくっていける感じがするというか。蜷川(幸雄)さんの公演を観ていても思いますが、あれだけ空間があると、いくらでもページがつくれる。あのとてつもない奥行き感っていうのは、やっぱりワクワクするものがありますよ。僕たち男の子って、ヒーローものが好きじゃないですか。あの遠くから走ってくるみたいな感じとか(笑)。

――地平線の向こうからやってくる、みたいな。

そうそう! ああいう感じが好きというか、カッコいいと思っちゃうところがある。彩の国さいたま芸術劇場は、そんな憧れや願望に応えられる劇場。何か特殊な方法を使わなくても、そのままやってそれが本当にできちゃう。そこがすごいですよね。今回もあの空間をどう使うか今考えているところです。この『LOVE ME TenDER』にちょうどいい使い方ができればと思うので、楽しみにしていてください。

プロフィール
近藤 良平(こんどう・りょうへい)

コンドルズ主宰・振付家・ダンサー
ペルー、チリ、アルゼンチン育ち。第四回朝日舞台芸術賞寺山修司賞受賞。NHK教育『からだで あそぼ』内「こんどうさんちのたいそう」、NHK総合『サラリーマンNEO』内「テレビサラリーマン体操」などで振付出演。野田秀樹演出、NODA・ MAPの四人芝居『THE BEE』で鮮烈役者デビュー。NHK連続テレビ小説『てっぱん』オープニング、三池崇史監督映画『ヤッターマン』などの振付も担当。女子美術大学、桜美林大学などで非常勤講師を務める。愛犬家。
 
公演情報
コンドルズ 埼玉公演2016 新作 『LOVE ME TenDER』​

◆日程:
2016年6月18日(土) 開演14:00/19:00
2016年6月19日(日) 開演15:00
◆会場:彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
構成・映像・振付:近藤良平
出演:コンドルズ
◆主催:公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団
◆企画製作:公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団/ROCKSTAR有限会社
◆公演に関する問い合わせ:SAFセンター 0570-064-939(彩の国さいたま芸術劇場休館日を除く10:00~19:00)

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