曽根麻矢子が導くチェンバロの世界、ヨーロッパの貴族たちの音色をカフェで聞きながら

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曽根麻矢子(チェンバロ) (撮影=原地達浩)

曽根麻矢子(チェンバロ) (撮影=原地達浩)

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チェンバリスト・曽根 麻矢子がチェンバロの世界への扉を開く。第29回“サンデー・ブランチ・クラシック”6.5ライヴレポート

6月最初の日曜日。LIVING ROOM CAFE by eplusには、一台の見慣れぬ楽器が・・・。ピアノに似ているけれども鍵盤が二段あり美しい装飾がほどこされ、どこか優雅な気品を漂わせるその楽器は、“チェンバロ”だ。この日のサンデー・ブランチ・クラシックには、チェンバロ奏者として幅広い活動を行っている曽根 麻矢子が登場してくれた。

大きな音を出す楽器ではなく、環境に左右されやすい楽器のため、あまりバーやカフェでチェンバロの演奏は行われていない。曽根自身、カフェでの演奏は初めてということで、この日のライヴは大変貴重な機会となった。

チェンバロの魅力を説明する (撮影=原地達浩)

チェンバロの魅力を説明する (撮影=原地達浩)

大きな拍手で迎えられた曽根は、「皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます。このチェンバロという楽器は、音が大変小さい楽器なので、今日はマイクの力をお借りしてお届けしたいと思います」と挨拶し、1曲目にスカルラッティ作曲「ファンダンゴ」を曽根が編曲したバージョンで聴かせてくれた。

この曲は、曽根がスペインの演奏家たちとコラボする際に、フラメンコの要素を取り入れたアレンジをし、さらにそれを一人で弾けるように編曲したのだという。かつて、ヨーロッパの貴族の間で楽しまれていたチェンバロの音色は、劇的で荘厳な気持ちにさせてくれる。曽根は「ベルばらの世界と言えばわかりやすいかな?」と言っていたが、まさしく、その音色はカフェを貴族のサロンのような雰囲気に染め上げた。

自身初のカフェでの演奏 (撮影=原地達浩)

自身初のカフェでの演奏 (撮影=原地達浩)

お客さんを身近に感じながら (撮影=原地達浩)

お客さんを身近に感じながら (撮影=原地達浩)

1曲目を弾き終えると、「(皆さんの様子が)想像と全然違いました・・・!」と驚きの声を上げた曽根。カフェなので、もっと賑やかな空間を想像していたそうだが、「こんなに真剣に聴いていただけて・・・。このような雰囲気で聴いていただけるのなら、静かな曲を弾いてもいいかな」と急遽プログラムを変更し、2曲目にはラモー作曲「やさしい訴え」を演奏してくれた。この曲は、ラモーの作品の中でもしっとりと繊細な小品だ。

2曲を終え、曽根は「チェンバロについての説明を少ししたいと思います」とトークを聞かせてくれた。まず、二段ある鍵盤について「これは上下でちょっと音色が違うんですね」と実践しながらその違いを説明、上段の鍵盤を内側に押し込んだ状態で、下段の鍵盤を弾くと上段の鍵盤も一緒に鳴る仕組みになっているため「一つの音に二つの鍵盤の音が鳴っている」状態になる。また、ピアノと違い、音量ではない繊細な表現も、音色の魅力のひとつだという。

上下2段に分かれた鍵盤 (撮影=原地達浩)

上下2段に分かれた鍵盤 (撮影=原地達浩)

続く3曲目もラモーの曲で「一つ目の巨人」。先ほどの曽根の説明を思い返しながら聞くと、だからこう聞こえるのか、という発見があった。

「さて、皆さん。ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、今私は、7月1日に向かって生きております(笑)。そう、チェンバロ・フェスティバルですね」。曽根は、2011年にスタートした『チェンバロ・フェスティバル in 東京』の芸術監督を務めている。今年7月には、浜離宮朝日ホールに会場を移し約2年ぶりに開催されるという。日本屈指のチェンバリストが一堂に会し、7月1日(金)~3日(日)に取り組むテーマは『J.S.バッハ』。

曽根は、1日目にバッハの「平均律クラヴィーア曲集第2巻」の抜粋を演奏するそうで、「私、今まで弾いたことがなかったんです。すごく難しいんですけど、チャレンジ精神が湧いてきちゃって(笑)。弾くことにしました。なので今がんばってます!」

「今日は、久しぶりにバッハじゃない曲を弾いています」と、続いて演奏してくれたのはロワイエ作曲「スキタイ人の行進」。“行進”をイメージさせる力強いリズムから、ダイナミックにうねるメロディへの変化、短調から長調への変調、そしてまた“行進”・・・と、1曲の中でチェンバロの音の魅力が存分に味わえた。

気品にあふれるチェンバロを巧みに演奏する曽根 (撮影=原地達浩)

気品にあふれるチェンバロを巧みに演奏する曽根 (撮影=原地達浩)

「1曲だけバッハの「プレリュード」を弾こうと思います。どうしようかな・・・、じゃあ、ハ長調の曲を」と、軽く手を回しながら準備をする曽根。今まで時折周囲を見回したり、軽快な演奏姿を見せていた曽根だが、すっと表情が変わる。チェンバロの楽曲は、音数が多くテンポが速い曲が難しいように思えるが「実はバッハの方が100倍も1000倍も難しい」と言う曽根。演奏を終えると、「このあとに、「フーガ」が続くわけですが・・・、続きを聴きたい方はぜひフェスにいらしてください(笑)。本番まであとちょっと、がんばります!」とアピールしていた。最後に、アンコールとしてもう1曲演奏し、曽根初のカフェライヴは大盛況に終わった。

2部では、モーツァルト作曲「きらきら星変奏曲」、クープラン作曲「神秘的なバリケード」、バッハ作曲「チェンバロ協奏曲 第1番 ニ短調」の一部も披露された。

終演後のインタビューでも、カフェの雰囲気について「想像していたのと全然違った~(笑)」と笑っていた曽根。「でも、昔はこういった、食事や飲み物と一緒に音楽を楽しんでいたんですよね。曲が作られた当時の親密な空間や親密な距離を考えてみると、この(カフェの)雰囲気とか空間は、わりと近いところがあるんじゃないかと思います」と振り返ってくれた。

インタビューの模様 (撮影=原地達浩)

インタビューの模様 (撮影=原地達浩)

チェンバロの魅力をもっと多くの人に知ってほしいという曽根。「(チェンバロの音色に親しむ)きっかけが、皆さんあまりないんだと思うんですよ。でも、聞いてみたら“いいでしょう?”“素敵でしょう?”って、思ってもらえると思うんです」。

そんなチェンバロの魅力をたっぷり味わえる3日間が7月に迫っている。第4回目となるチェンバロ・フェスティバルについては、「今日もちょろっと弾いた曲もやりますので、気になっていただけたらいいな。過去のフェスでは、10人の出演者が10台のチェンバロで一斉に演奏するという前代未聞の取り組みとかもしてみたんですけど(笑)。今回は、4人の出演者によるコンチェルトなども演奏しますので、相当ゴージャスな音色をお届けできると思います」と聴きどころを語ってくれた。

MCでも、今回のフェスのテーマとなっている“バッハ”の難しさを語っていたが、「バッハは、ほかの作曲家と比べものにならないほど、曲の構成が緻密です。だから、きっとバッハを弾いている時は顔つきが変わっちゃうと思います(笑)」と現在も格闘しているそう。

最後に、曽根は「今日はマイクを通した音を聴いていただきましたが、ぜひ、生の音も浴びてほしいです。チェンバロって、環境によってすごく印象が違うんですよ。生音は、CDともまた違います。ぜひ、フェスで体験していただけたら。そこでは、“チェンバロの世界へようこそ!”とすごく大きな扉を開けながらあなたを待っているので!お待ちしています」とメッセージをくれた。

ちなみに、チェンバロ・フェスティバルでは、直接チェンバロに触れる機会も設けられているという。ぜひ開かれた扉に飛び込んで、チェンバロの魅力にどっぷりつかっていただきたい。

曽根麻矢子 (撮影=原地達浩)

曽根麻矢子 (撮影=原地達浩)

“サンデー・ブランチ・クラシック”で、新たな音楽との出会いを。次回もお楽しみに!

プロフィール
曽根 麻矢子(そね まやこ)
東京生まれ。桐朋学園大学附属「子供のための音楽教室」を経て、桐朋学園大学附属高校ピアノ科卒業。ピアノを寺西昭子、チェンバロを鍋島元子の各氏に師事。高校在学中にチェンバロと出会い1983年より通奏低音奏者としての活動を開始。
1986年ブルージュ国際チェンバロ・コンクールに入賞。その後、渡欧を重ねて同コンクールの審査員であった故スコット・ロスに指導を受け、1990年より正式にパリに拠点を移す。故スコット・ロスの夭逝後、エラート・レーベル(フランス)の名プロデューサー ミシェル・ガルサンにスコット・ロスの衣鉢を継ぐ奏者と認められ、1991年にはエラート・レーベル初の日本人アーティストとしてCDデビューを果たす。
1992年以降、イスラエル室内オーケストラの専属チェンバロ奏者としての演奏旅行、フランス、イタリア等のフェスティバル参加など国際的に活躍している。また、サンチャゴ・サンペレ(現代舞踊家)とのコラボレーションをパリと東京で開催し、その意欲的内容が好評を博した。2006年にはラジオ・フランス(フランス国営放送)で3時間に及ぶ曽根の特集が組まれている。日本国内でもリサイタル、室内楽と積極的に活動し、その活動は常に注目を集めている。さらに、音楽活動とともにテレビ、ラジオへの出演、雑誌「DIME」でのエッセイ連載、「いきなりパリジェンヌ」(小学館刊)の刊行など多才ぶりを見せている。
録音活動も活発に行い、デビューCD「J.S.バッハ:イギリス組曲」リリース以後、「J.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲」、「情熱のファンダンゴ」、「シネマ・チェンバロ」、「ジュ・レーム」、「J.S.バッハ:フランス組曲」、「J.S.バッハ:トッカータ」、「ラティーナ」、「シャコンヌ」と定期的にCDをリリースし続けている。とりわけ、「情熱のファンダンゴ」は、故スコット・ロスの偉業「スカルラッティ:ソナタ大全集」の遺志を継ぐ追加録音として大きな話題を集めた。
2003年より09年まで東京・浜離宮朝日ホールにて、6年間計12回にわたるJ.S.バッハ連続演奏会を行い、並行して「イギリス組曲」、「フランス組曲」の各全曲盤と「イタリア協奏曲、フランス風序曲」、「平均律クラヴィーア曲集第1巻」(第20回ミュージック・ペンクラブ音楽賞オーディオ部門最優秀録音賞受賞)をエイベックス・クラシックスよりリリース。 2010年から14年まで東京・上野学園エオリアンホールにて、全12回のクープランとラモーのチェンバロ作品の全曲演奏会を行い、好評を博した。
現在、演奏活動の傍ら、鬼才スキップ・センぺの元で研鑚を積んでいる。 1996年「第6回出光音楽賞」をチェンバロ奏者として初めて受賞。1997年飛騨古川音楽大賞奨励賞を受賞。2011年よりスタートした『チェンバロ・フェスティバルin東京』音楽監督。上野学園大学特任教授。 

 

曽根麻矢子 公演情報
チェンバロ・フェスティバルin東京 第4回「J.S.バッハ」 ​

【リサイタル 第1回 曽根麻矢子チェンバロ・リサイタル】
 日時:2016年7月1日(金) 19:15開演
 会場:浜離宮朝日ホール
 出演者:曽根麻矢子(チェンバロ)
 曲目・演目:J.S.バッハ 平均律クラヴィーア曲集 第2巻 BWV870~893

【リサイタル 第2回 鈴木優人チェンバロ・リサイタル】
 日時:2016年7月2日(土) 13:00開演
 会場:浜離宮朝日ホール
 出演者:鈴木優人(チェンバロ)
 ゲスト:三宮正満(オーボエ)
<曲目・演目>
 J.S.バッハ カンタータ 第76番《天は神の栄光を語る》 BWV76より シンフォニア 
 J.S.バッハ イタリア協奏曲 ヘ長調 BWV971 
 C.P.E.バッハ オーボエと通奏低音のためのソナタ ト長調 Wq.135 
 C.P.E.バッハ ヴュルテンベルク・ソナタ 第1番 イ短調 Wq.49/1 
 J.S.バッハ パルティータ 第2番 ハ短調 BWV826 
 J.S.バッハ オーボエとチェンバロのためのソナタ 変ホ長調 BWV1031

【J.S.バッハ チェンバロ協奏曲全曲演奏会 第1回】
 日時:2016年7月2日(土) 16:00開演
 会場:浜離宮朝日ホール
<出演者>
 大塚直哉、鈴木優人、曽根麻矢子、渡邊順生(チェンバロ) 
 チェンバロ・フェスティバル・アンサンブル 
 (ヴァイオリン:戸田薫、ポール・エレラ ヴィオラ:森田芳子、チェロ:武澤秀平
  コントラバス:長谷川順子 リコーダー:宇治川朝政、水内謙一 オーボエ:三宮正満)
曲目・演目
 4台のチェンバロのための協奏曲 イ短調 BWV1065 (I.渡邊 II.曽根 III鈴木 IV.大塚) 
 チェンバロ協奏曲 第4番 イ長調 BWV1055 (大塚) 
 チェンバロ協奏曲 第7番 ト短調 BWV1058 (鈴木) 
 2台のチェンバロのための協奏曲 第2番 ハ長調 BWV1061 (I.鈴木 II.曽根) 
 チェンバロ協奏曲 第8番 ニ短調 BWV1059 (渡邊) 
 チェンバロ協奏曲 第3番 ニ長調 BWV1054 (大塚) 
 2台のチェンバロのための協奏曲 第1番 ハ短調 BWV1060 (I.渡邊 II.大塚)

【リサイタル 第3回 渡邊順生&大塚直哉デュオ・リサイタル~チェンバロ二重奏の愉しみ~】​
 日時:2016年7月3日(日) 13:00開演
 会場:浜離宮朝日ホール
 出演者:渡邊順生、大塚直哉(チェンバロ)
曲目・演目>
 
F.クープラン:《諸国の人々》より 組曲「フランス人」(チェンバロ二重奏版) 
 ラモー:クラヴサン・コンセール 第5番(チェンバロ二重奏版) 
 J.S.バッハ:ブランデンブルク協奏曲 第6番 変ロ長調 BWV1051(チェンバロ二重奏版) 他

【J.S.バッハ チェンバロ協奏曲全曲演奏会 第2回】​
 日時:2016年7月3日(日) 16:00開演
 会場:浜離宮朝日ホール
<出演者>
 
大塚直哉、鈴木優人、曽根麻矢子、渡邊順生(チェンバロ)
 チェンバロ・フェスティバル・アンサンブル 
 
(ヴァイオリン:戸田薫、ポール・エレラ ヴィオラ:森田芳子、チェロ:武澤秀平
  コントラバス:長谷川順子 リコーダー:宇治川朝政、
水内謙一 オーボエ:三宮正満)
<曲目・演目>
 
3台のチェンバロのための協奏曲 第1番 二短調 BWV1063 (I.鈴木 II.渡邊 III.曽根) 
 チェンバロ協奏曲 第2番 ホ長調 BWV1053 (渡邊) 
 チェンバロ協奏曲 第1番 ニ短調 BWV1052 (曽根) 
 2台のチェンバロのための協奏曲 第3番 ハ短調 BWV1062 (I.大塚 II.曽根) 
 チェンバロ協奏曲 第6番 ヘ長調 BWV1057 (鈴木) 
 チェンバロ協奏曲 第5番 ヘ短調 BWV1056 (曽根) 
 3台のチェンバロのための協奏曲 第2番 ハ長調 BWV1064 (I.渡邊 II.大塚 III.鈴木)
 

 

 

サンデーブランチクラシック情報
6月19日(日)
ザ・フレッシュメン(ピアノ・トリオ)
第1部 13:00~13:30 / 第2部 15:00~15:30
会場:LIVING ROOM CAFE(リビングルームカフェ)by eplus
MUSIC CHARGE:500円

6月26日(日)

加藤昌則(作曲・ピアノ)
第1部 13:00~13:30 / 第2部 15:00~15:30
会場:LIVING ROOM CAFE(リビングルームカフェ)by eplus
MUSIC CHARGE:500円

公式サイト:http://eplus.jp/sys/web/s/sbc/index.html​
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