ジュディ・ガーランドの晩年を描く『End of the RAINBOW』、彩吹真央、小西遼生、寺元健一郎、そして鈴木壮麻らの稽古場に潜入

レポート
舞台
2016.7.6
『End of the RAINBOW』稽古場より 小西遼生・彩吹真央(photo:原地達浩)

『End of the RAINBOW』稽古場より 小西遼生・彩吹真央(photo:原地達浩)

昨年2015年夏に好評を博した舞台『End of the RAINBOW』が、2016年今年の夏に早くも再演を決定。わずか1年で再演されるほどの熱烈人気の秘密は何か? その答えを探しに稽古場に潜入した。

物語の主人公は、アメリカ映画『オズの魔法使』(1939年)のドロシー役で一躍スターダムに駆け上がり、数々の名作映画に出演した希代の女優であり、ソウルフルな歌手でもある、アメリカが生んだ20世紀最高のエンタテイナー、ジュディ・ガーランド。酒とクスリに心身を蝕まれながらもダイナミックなパフォーマンスで観客を魅了し続け、47歳という若さで睡眠薬の過剰摂取によりこの世を去った。そんな彼女の晩年を描いたこの作品は、2005年オーストラリアで初演され、2012年にブロードウェイ進出。権威ある賞を数多く獲得し、2016年の現在もロンドンで上演が続く珠玉作品だ。

『End of the RAINBOW』稽古場より 彩吹真央・鈴木壮麻(photo:原地達浩)

『End of the RAINBOW』稽古場より 彩吹真央・鈴木壮麻(photo:原地達浩)

……と、書くと、なんだか敷居の高い作品のようにも聞こえてくる。翻訳劇で、アメリカの著名人が主人公で、薬漬けの歌手なんて日本では想像しにくいし、ジュディ・ガーランドを知らない!という人も今では少なくないかもしれない。

でも、彩吹真央、小西遼生、鈴木壮麻らが演じる日本版の魅力は、そうした躊躇を遙かに凌駕するところにあった! 「毎日必死にがんばってる私を誰かに癒してほしい!」「無償の愛に包まれたい!」「愛されるってこんなに素晴らしいことだったの!?」……そんなヒリヒリするような情感が、観ているうちにどんどん溢れ出してくる。心が揺さぶられる、とはよく言うけれど、これこそがその感覚だった! 日々の中で抑えてきた感情の蓋がどどっと開かれ、本番ではなく立ち稽古だというのに、気づけば涙が……。しかも、泣けた後の清々しさと言ったら。素晴らしい芸術を鑑賞しながら、同時に“涙活”もできるという、本作の魅力は計り知れない!

『End of the RAINBOW』稽古場より 彩吹真央(photo:原地達浩)

『End of the RAINBOW』稽古場より 彩吹真央(photo:原地達浩)

取材に入ったのは、第二幕の冒頭からラストまでの立ち稽古。稽古の再開時間を待つ、彩吹、小西、鈴木たちは、隅の椅子に座りながらなにやら話し込んでいた。「ここであのセリフを言うから、こういう気持ちなのでは?」「あ、そうか、それなら……」「いや、そこではもうわかっていると思うんですよ」。3人とも、昨年に引き続く再演の顔ぶれ。一年越しで同じ役に挑んでいる。つまり、一度は消化して演じきったはずの役にも関わらず、日々起こる新たな発見をぶつけあっているらしい。

『End of the RAINBOW』稽古場より 彩吹真央・鈴木壮麻(photo:原地達浩)

『End of the RAINBOW』稽古場より 彩吹真央・鈴木壮麻(photo:原地達浩)

彩吹演じるジュディは、すでにボロボロである。一時間後にライブを控えたメイクルームで、まだ支度が整っていない。そこへやって来たのは、鈴木が演じるアンソニー。アンソニーはジュディの歌のピアニストであり、無償の愛を献身的に注ぐホモセクシャルの男だ。ジュディを心から愛し、心配し、支えるが、ジュディをまっとうな道へ導こうとする厳しい慈悲もある。とにかく鈴木のゲイの演技は素晴らしい。ああ、こんな友だちがそばにいてくれたら! 多くの女性がそう憧れるのではないだろうか? そして、フィアンセでありマネージャー、ミッキー役の小西のイケメンぶりときたら。イケメンだが、ジュディを愛するがゆえの葛藤・苦悩、熱烈な愛の言葉と、ありとあらゆる罵詈雑言。愛と狂気のギリギリのところ……、そのヒリヒリ感がたまらないのだ。

『End of the RAINBOW』稽古場より 鈴木壮麻・彩吹真央(photo:原地達浩)

『End of the RAINBOW』稽古場より 鈴木壮麻・彩吹真央(photo:原地達浩)

『End of the RAINBOW』稽古場より 小西遼生(photo:原地達浩)

『End of the RAINBOW』稽古場より 小西遼生(photo:原地達浩)

話の流れや立ち位置を確認するためとして、「軽く流して」のはずだったが、彩吹の演技は徐々に熱を帯びていった。取り乱し、振り乱し、目を真っ赤に充血させて必死に訴える。ハグ、キス、びんたにケンカと、どんなシーンにも“やったふり”はなく本気。酒とクスリでハイテンションになったかと思えば、急下降して罵りをぶつけまくり、ジュディが彩吹にのりうつる瞬間を目撃する思いだ。途中、さすがの歌唱力を証明する歌のシーンもあった。気づけば、メモを取る手が止まっている。すっかり見入ってしまっていたらしい。鼻の奥がつんとして、泣きそう泣きそう……マズい! 稽古でこんなになってしまうなら、本番ではどこまで心を揺さぶってくるのだろう?

『End of the RAINBOW』稽古場より 小西遼生・彩吹真央(photo:原地達浩)

『End of the RAINBOW』稽古場より 小西遼生・彩吹真央(photo:原地達浩)

『End of the RAINBOW』稽古場より 小西遼生・鈴木壮麻(photo:原地達浩)

『End of the RAINBOW』稽古場より 小西遼生・鈴木壮麻(photo:原地達浩)

“愛されること”を知る舞台、『End of the RAINBOW』。

ジュディ・ガーランドと彼女の歌のファンはもちろん、“愛”を感じたいすべての女性に、特におすすめしたい。

『End of the RAINBOW』稽古場より (photo:原地達浩)

『End of the RAINBOW』稽古場より (photo:原地達浩)

『End of the RAINBOW』稽古場より 寺元健一郎(photo:原地達浩)

『End of the RAINBOW』稽古場より 寺元健一郎(photo:原地達浩)

(撮影=原地達浩 取材・文=丸古玲子)

公演情報
『End of the RAINBOW』

■日時・会場:
【東京公演】2016年7月9日(土)~24日(日)俳優座劇場
【大阪公演】2016年7月27日(水)サンケイホールブリーゼ
【水戸公演】2016年7月30(土)水戸芸術館ACM劇場
■作:ピーター・キルター
■演出:上田一豪
■上演台本・訳詞:高橋亜子
■音楽監督・ピアノ:岩崎廉
■ステージング・振付:TETSUHARU
■出演:彩吹真央、小西遼生、鈴木壮麻 寺元健一郎
■公式サイト:
https://www.stagegate.jp/stagegate/performance/2016/end_of_the_rainbow/

 

 

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