あのヒットMVたちを生み出した気鋭の監督2名が初顔合わせ! 加藤マニ×寿司くんトークイベントに潜入

レポート
音楽
2016.7.12
加藤マニ / 寿司くん

加藤マニ / 寿司くん

画像を全て表示(4件)

2016年6月9日(木)。高円寺クルーラカーンにて、インディーズシーンを中心に名を轟かせているMV監督の加藤マニと寿司くんによるトークイベントが開催された。

映像制作のかたわら、加藤はPILLS EMPIRE、lowtide、バレーボールズ、寿司くんは、ヤバイTシャツ屋さん(以下、ヤバT)と、それぞれバンドにも在籍しているというめずらしい共通点をもつこの二人。いったいどのようなトークセッションを繰り広げてくれるのだろうか。司会と来場した観客からの質問に答えていくという形で、イベントが幕を開けた。

過去制作MVについて、飛び交う裏話

司会:おふたりが初めて仕事として撮ったMVはなんですか?

加藤:2011年、MO'SOME TONEBENDERの「Hammmmer」っていう曲ですね。(寿司くんが監督をした)岡崎体育さんの「MUSIC VIDEO」の<もったいない、もったいない>ってところを見てこれを思い出したんですけど(笑)、友人的な繋がりではない仕事としてやったのは、これが最初だと思います。

寿司:僕は、みるきーうぇいの「カセットテープとカッターナイフ」ってやつがお金もらって依頼受けてやった最初の作品です。2014年の4月、2年くらい前ですね。

加藤:これわたし好きなんですよ。

寿司:これは、完全に一発撮りでやりました。撮影場所が前日まで見つからなかったっていうエピソードがあるんですよ。教室の後ろにある掲示物とかも全部自分たちで作りました。

司会:では、続いて、再生回数が一番多かったMVは?

加藤:わたしは、キュウソネコカミの「ファントムヴァイブレーション」ですね。

寿司:(モニターに、岡崎体育「MUSIC VIDEO」の映像を映す)

加藤:一か月でこれだけ再生回数いってるの、いやんなっちゃう……。これ、撮影何日くらいかかったんですか?

寿司:4日ですね。しかも、ロケでは岡崎さんが車運転してたんですよ。アーティストに運転させるっていう。

司会:(寿司くん、岡崎体育、マネージャーの)3人だけで撮ったんですよね?

寿司:そうです。マネージャーさんは、場を盛り上げてくれる…あと、撮影時に音楽を再生してくれるっていう感じでした。ずっとキャッキャ言ってたんで、あんまり仕事っぽくはなかったですね。

観客:「MUSIC VIDEO」って、ギャラを差し引いた制作コストはどれくらいかかったんですか?

寿司:僕はちゃんとは数えていなくて。岡崎さんがテレビ番組で「6万円」って言ってましたけど、たぶん6万円もかかってないですね。

加藤マニが明かす、寿司くんに対するジェラシー

司会:今回のイベントが初対面というふたりですが、それぞれの第一印象については?

加藤:小山さん(寿司くん)は、ヤバTでの印象とは違いますよね。静かで、思慮深い感じ。あと、たぶんちょっとゆがんでいるんだろうな、ちゃんと怒っているというか、いい意味で皮肉も持っているんだろうなという雰囲気があります。

司会:寿司くんさんは?

寿司:そうですね、なんか、マニさんは穏やかな人なのかなと思いましたね、穏やかですね。

司会:おふたりは似ていますよね。今回の対談企画のきっかけも、なんだかふたりは似ているなという印象があったのと、岡崎さんの「MUSIC VIDEO」の感想をマニさんがツイートしていた際に、なんだかいつもとちがうな……?という感じがして気になりました。

加藤:けっこう本当に悔しくて、寝られなかったんですよ!

加藤マニ(左)、寿司くん(中)

加藤マニ(左)、寿司くん(中)

司会:マニさんは、ほかの方の作品を語るときはわりといつもクールな印象だったのですが、寿司くんさんのときだけジェラシーというか、とても感情があふれていたので、この二人が対談をしたらおもしろいなと思いまして。

加藤:できるだけ飄々としていたかったんですけど、漏れたんですよね、ジェラシーが。

観客:ライバルや、勝ちたいという映像ディレクターはいますか?

加藤:わたしはこれまであんまりいなかったんですけど、わりと小山さんはまじ脅威!

寿司:でも、僕とマニさんだと作れる本数がちがうじゃないですか! 僕はこれまでライバルとか、恐れ多くてそんなふうに思ったことはないんですけど、マニさんとはやっていることが近いので、そうするとやっぱり比べてしまいますね。作業が早くてうらやましい…マニさんは“数の人”じゃないですか!

加藤:“数の人”は、徐々に嫌われていくんですよ。「またアイツか」ってなっていく。そうすると世の中の発注が「加藤マニとは違う感じでお願いします」みたいになっていき、淘汰されていく予感がしていたりもします。

寿司:今まで、一日で一番たくさん撮ったのは何本くらいですか?

加藤:撮るだけだと一日2本で、公開だと3本かな。

寿司:一日2本撮るってヤバいですよ!

ヒットしたら制作予算はアップする?これからのMV業界はどうなっていくのか

司会:これまでに、影響を受けたMVはなんですか?

寿司:Sportsの「Super Sonic」というMVで。

加藤これ、さっき開演前に話してたんですけど、わたしも好きなんですよ。

寿司:ひたすら頭で皿を割り続けるだけという、かなりセンセーショナルなMVで。曲の内容とまったく関係ないことをするみたいなところが、僕はわりと好きですね。こういうのやりたいですね。

加藤:やりたいですね。

観客:こういったMVを制作するにあたって、何か障壁みたいなものってあるんですか?

寿司:予算と……

加藤:お金ですね。……意味おんなじですね(笑)。

観客:今後、MV自体の地位はもっとあがっていくと思いますか?

加藤:たぶん、あがらないと思いますね。これから、MVはタダで、スマホで見られるというところに落ち着いていくんじゃないのかな。

寿司:スぺシャのMVA(※スペースシャワーTVが開催していたミュージックビデオ賞「Music Video Awards」)もなくなっちゃったじゃないですか? 僕、それを目指してたのに。あれを一年以内に取るぞって意気込んで、岡崎体育の「MUSIC VIDEO」も作ったんですよ。でも、去年からなくなっちゃいましたね…。

観客:そういったことから、MV業界が縮小していくことはあるのでしょうか?たとえば、製作費を削られたりだとか…。

加藤二極化されていくと思います。製作費が高いところは、とにかく高くなっていって、逆に、低予算の場合はいかに安くて楽しいものを作っていくかという。たとえば、この三代目のMV は、この年に作られたどんな邦画よりもお金がかかってるってんじゃないか説があったりして。億単位な気がする。……全然ちがったら恥ずかしいけど。わたしや小山さんのようなタイプの監督は低予算で作ったとしても、じゃあ浮いた分の予算を次回の制作にまわそうとか、そういうふうにはなりにくい感じがします。

観客:今後、高い予算をかけてMVを撮りたいと思いますか?

加藤:わたしは、『ミスター味っ子』という漫画…ごくごく普通の定食屋の料理人がフレンチやイタリアンの達人たちに、高級食材を使わずに工夫をこらした料理対決で倒していくストーリーなんですけど、そういうリーズナブルな定食屋であることに喜びを見出し始めていますね。危険な状態だと思います(笑)

寿司:予算をかけたいとは思うけど、いざお金があったとしても、ああいう(先ほどの三代目のMV)使い方をしようとは、まず思いつかないので……。どう使おうかとは思いますね。

観客:映像以外だと、どんなものから制作のアイディアを得ていますか?

加藤:わたしは、漫画です。藤子不二雄の短編集や、手塚治虫の昔の作品とか。キュウソネコカミの「GALAXY」で、宇宙人が登場して最終的には星へとかえっていくというストーリーは、わりとドラえもん的なプロットを意識しています。

寿司:僕はやっぱり映像が多いです。子どものときに見ていたものとか。『オー!マイキ―』っていう、マネキンが登場するバラエティ番組が小学生のときから好きで、僕の自主制作アニメである『寿司くん』も、いま考えるとここからめちゃくちゃ影響を受けてると思いますね。

加藤マニ / 寿司くん

加藤マニ / 寿司くん

観客:おふたりとも音楽(バンド)もやっていますが、どういうときに曲を作っているんですか?

寿司:PCで映像を書き出してるときに曲作ってますね。

加藤:わたしも。でも、わたしも小山さんも「音楽はレジャー」っていう感覚でやってますよね。

寿司:音楽だけだと楽しめないなと思うんですよ。だから、ほかのメンバーにも「絶対にバンドだけでやっていこうと思わんとこな」って言ってます。ほかのメンバーもちゃんと仕事してます。

観客:おふたりは、会社員になろうとは思わなかったんですか?

加藤:わたしはもともと会社に入っていたんですけど、20日で辞めました。

寿司:会社員は向かないですねぇ。でも、フリーって逆に休みがなくないですか? 自分で休みを作るのはむずかしい。

加藤わたしは、酒飲む時間と寝る時間はしっかり確保したいです!

寿司:僕、お酒も飲まないし、タバコも吸わないし、とにかくお金を使わないんですよ。

司会:では、そろそろ終わりの時間が。

寿司:みなさん、何か質問ありますか?…ないですか? じゃあ僕から。マニさんはなんのためにMVを作っていますか? 僕は、編集してるときなんかはひとりで孤独ですけど、公開した時に反応があると"ああこのためにやってたんだな"っていつも思います。

加藤:うんうん。いまではTwitterとかがあって、そういったところで反応を見ることができると、励みになりますよね。

寿司:……と、こんな感じで大丈夫ですかね? まとまりました?(笑) では、今日はありがとうございました。

加藤:ありがとうございました。

加藤マニ / 寿司くん

加藤マニ / 寿司くん

およそ3時間にわたって繰り広げられた今回のトークイベント。この日が初対面というふたりであったが、終始なごやかな雰囲気で、会場に足を運んだ観客らも交えて、和気あいあいとした表情を見せてくれた。それぞれ現在制作中のMV作品もあるそうなので、今後彼らがMVシーンをどのように盛り上げてくれるのか、新作の発表を楽しみに待つこととしよう。


取材協力=FaB レポート・文=まにょ

シェア / 保存先を選択