ダイアモンド☆ユカイにインタビュー! 「『ミス・サイゴン』には俺が好きなロックがすべて詰まっているんです」
ダイアモンド☆ユカイ
1992年の初演から25年間、戦争が引き起こす悲劇と究極の愛を描き続けるミュージカル『ミス・サイゴン』。本作が10月15日(土)のプレビュー公演を皮切りに東京、岩手、鹿児島、福岡、大阪、名古屋にて上演される。
本作の狂言回し的存在・エンジニア役を、ロック・ミュージシャンのダイアモンド☆ユカイが演じることが発表されると、ミュージカル界・音楽界ともに騒然となった。実際ダイアモンド☆ユカイが、どのようないきさつで演じることとなったのか、そしてロック・ミュージシャンだからこそ感じる『ミス・サイゴン』の魅力について、本人に直接話を伺ってきた。
――今回の『ミス・サイゴン』は、全キャストオーディションということで始まりましたが、ユカイさんにはどのように参加されたんですか?
「オーディション、受けませんか?」って声をかけられて。『ミス・サイゴン』は、本田美奈子.さんの時代から知ってはいたんだけど、実際の舞台を観たことがなかったんです。『レ・ミゼラブル』など観に行ったこともあるんですが、それは自分とは別世界のエンターテイメントを勉強する、という意味で観ていました。
以前、『ミス・サイゴン』を観に行って、目が点になるくらいの衝撃を受けましてね。一言で言うと「ロック」でね!エンジニアが歌う「ダイ・イン・ベッド」と「アメリカン・ドリーム」が特に。ダイアモンド☆ユカイがロックで表現したかった世界が、この『ミス・サイゴン』の中に100%詰まっていたんです。
舞台の最後で、エンジニアが「アメリカン・ドリーム」を歌う姿を観て雷に打たれたようでした。俺のロックの根本に流れるのは「歌」。しかもエンジニアが歌う「歌」は自分が歌いたい「歌」そのものなんだ! って。それで「(エンジニアを)やりたい」って思って。正しくは「やりたい! でもできるのか?」そこからのスタートでしたね。
――ユカイさんがやりたい「ロック」が『ミス・サイゴン』に詰まっている…その点をもう少し教えてください。
「ベトナム戦争」の時代ってロックとは切り離せないんです。自分が憧れたロックはベトナム戦争の影響で作られてきたものばかり。ロックがいちばんロックらしい輝きを放っていた時代だったと思うんです。ジミ・ヘンドリックスと「ドアーズ」のジム・モリソンとジャニス・ジョップリンがいた時代の音楽。彼らだけではなく、みんなが反戦を唱えていた時代。フラワー・ムーブメントやヒッピーが生まれて。ロックが「濃い」時代だよね。ロック音楽はその後の時代にも続いているけど、この時代のロックは「精神」もロックだった。俺はそのロックに影響を受けてこの道に進んだ。自分が好きなのはこの時代の音楽であることは間違いないですね。
ダイアモンド☆ユカイ
――その熱い想いもあって、オーディションを受けられて…ちなみにどんなオーディションだったんですか?
この「ダイ・イン・ベッド」「アメリカン・ドリーム」の2曲を歌うんです。歌う際に演出家さんから「こうして、ああして…」と指示を受けます。
昔、オーディションという…「審査」は何度か受けたんだけど、俺、全部失格になってるんだよ(笑) 「ポプコン(ヤマハポピュラーソングコンテスト)」とか「EastWest」とか。当時は「RED WARRIORS」の前身みたいなバンドだったんですが、そのバンドで出てオーディションで悪態ついちゃったりしてね。だいたいロックをなんで「審査」しないといけないんだよ! って言ったら全部「失格」になりました(笑)ついそういうことをいっちゃうんですよね。そういうお年頃だったし。だからオーディションというものにいいイメージがなかった。
――そんな時代からはや…年、まさかにオーディションに挑戦することになるとは思わなかったですよね?
まさか、この歳になって「失格」はないだろうと(笑)「うるせー、このやろう!」とかもう言わないしさ。受けさせてもらっている立場なので謙虚になりました。むしろ緊張しちゃったりしてね(笑)
とはいえ、エンジニアって重要な役だし、ベテランの人たちが務める役だから、その中で自分が合格するなんて思っても見なかった。でもオーディションに向けてやっていることが苦しかったけど楽しかったんだよね。踊れないから一生懸命自分なりに踊りの練習もして、練習用のビデオをストップモーションで少しずつ見ながらやってました。経験がある方なら何も困らずにやるんだろうけど。でもそんな一生懸命挑戦している自分が楽しくて。例えダメでもいい経験になると思ってやりました。
――そして合格。どなたに報告されましたか?
家族には話しました。でも妻くらいですね。だって子どもはまだ6歳と、4歳の双子だから言ってもわからない(笑) 妻はミュージカルが好きなんです。昔から『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』『エリザベート』など観ているんです。でもそんな妻もまさか俺が帝国劇場に立つなんて予想してなかっただろうね(笑)
こういう場に立たせてもらえるということは、「運」があり「縁」があったんだろうね。この運命に感謝してできる限りのことをやりたいですね。
――ミュージシャンという立場から観て、『ミス・サイゴン』という舞台の楽曲はどう思われますか?
すばらしい楽曲だと思ったね。メロディも素晴らしいし、美しい。「ブイ・ドイ」はグッとくるよねー。メロディだけでもすばらしいのに、魂にずしんと来る歌詞で。この時代を表現している歌だからこそ、って感じを受けました。
これらを歌うのは難しいだろうね。プログレみたいな変拍子とかもあり、「ロック的なクラシカル」という表現が近いかな。ジジの歌はブルージーなカッコよさもあるしね。
噛めば噛むほど味が出てくる楽曲。メロディ、楽曲、アレンジ…。シビれるよねー!
俺はものすごく不器用なので、何をするにしても人より倍の時間がかかるし、ましてやミュージカルの勉強を何十年もしている彼らのようにはなれない。だから、俺は俺なりの表現をしようと思います。
――同じエンジニア役を演じる市村正親さんと駒田一さんからはどんな声をかけられましたか?
市村さんからは「ユカイちゃんはさ! うまくなろうとか演技しようと思うなよ! エンジニアになればいいだけだから」って言ってくださいましたね。駒田さんは年齢が近いのもあってあたたかく見守ってくださっている感じ。ベテランの二人に囲まれてありがたいよね。
製作発表のステージに立っているときに、市村さんに言われたんだけど。「ユカイちゃんさぁ、舞台に立つときは、俺、いないからな!」って。そうだった!そうでした!「おまえ、自分で(エンジニアを)やるんだぞ!」って言われたんですよね。二人に頼り切っちゃってて、なんだか楽だなあって一瞬思ってました(笑)
ダイアモンド☆ユカイ
――エンジニアもトリプルキャストですが、相手役も日替わりですよね。
共演者の息遣いによってその都度、演技も変わってくるからね。楽しみでもあるんだけど。
俺の場合、右も左もわからないから、相手との相性の良し悪しすら気が付かないんじゃないかな。何度かやっていくうちにわかるかもしれないけど。
でも最後まで付いていく、という謙虚な気持ちで行きたいと思います。
不器用だし、ふてぶてしく見えますし、言葉もうまく使えないから誤解されるタイプなんです。でもそういうのが苦手だからこういう商売をやっている。歌で表現できる喜びを感じています。
「足りないものがあるから私は歌っているのよ」と、ジャニス・ジョップリンも言ってたしね(笑)
■オリジナル・プロダクション製作:キャメロン・マッキントッシュ
■作:アラン・ブーブリル/クロード=ミッシェル・シェーンベルク
■製作:東宝
■日時・会場:
2016年10月19日(水)~11月23日(水・祝) 帝国劇場 ※10月15日(土)~18日(火)プレビュー公演
2016年12月10日(土)~12月11日(日) 岩手県民会館 大ホール
2016年12月17日(土)~12月18日(日) 鹿児島市民文化ホール(第1)
2016年12月23日(金・祝)~12月25日(日)久留米シティプラザ ザ・グランドホール
2016年12月30日(金)~2017年1月15日(水・祝) 梅田芸術劇場メインホール
2017年1月19日(木)~1月22日(日)愛知県芸術劇場 大ホール
■公式サイト:http://www.tohostage.com/miss_saigon/