作曲家・菅野祐悟インタビュー 映画・アニメ・ドラマの音楽を数多く手掛ける彼が抱く、ファンとの交流にかける想いとは
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菅野祐悟
2004年放送の月9ドラマ『ラストクリスマス』の音楽担当に抜擢されて以降、業界の第一線を走り続ける作曲家、菅野祐悟。これまで、NHK大河ドラマ『軍師官兵衛』、テレビドラマ『MOZU』『ガリレオ』、アニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズなど、人気作品のサントラを数多く担当してきた。2016年10月10日に開催される『菅野祐悟シンフォニック・コンサート2016』では、自らもステージに立ち、フルオーケストラをバックに自身の名曲たちを披露する。
今回のインタビューでは、劇伴作曲を手がける上で重要視している"ある感覚"への意識を明かしてくれた。さらに、劇伴を多く手掛ける彼だからこそ抱く、コンサートへの熱き想いについても語っている。
そもそも劇伴はどうやって生み出される? 音楽界で第一線を走り続けるための秘訣とは
――ドラマやアニメといった映像作品の伴奏音楽を指す、「劇伴」。そもそも、この劇伴を作曲する過程とは、どういったものなのでしょうか?
ドラマの場合は、まず事前に脚本と企画書をいただいて、それを見て自分なりのイメージを膨らませます。その後の打ち合わせで、作品に対するコンセプトとか、どういう演出をしたいか、などをいろいろ聞いて、イメージを詰めていく感じです。シーンに合わせて音楽をつけていくんですけど、ドラマはオンエア直前に映像があがるので、作曲時に映像を見ることができません。映画は完成した映像に合わせて音楽を作るから、映画とドラマの劇伴で異なる点はそこかな。事前に映像を見られるか見られないかっていうのは結構大きな違いですね。また、アニメの場合には曲のオーダー表のようなものがあります。たとえば、「主人公のテーマ」とか、「敵の大ボスのテーマ」とか。40〜50曲くらいのオーダー表に合わせて曲を作っていきます。
――それぞれのメディアで作り方が違うんですね。その中でも、自分に合っていると感じるものはありますか?
それぞれに違ったおもしろさがあるから「どれが好き」ということはないんです。でも、映画は完全に画に合わせて作っていくので、音楽的なことだけを考えて作れないんですよね。主人公が突然絶望的なことに直面するシーンでは、曲も突然絶望的な展開に変わるように作っていく必要がある。でも、ドラマの場合は、後から選曲専門スタッフが映像に合うように音楽をはめていくんですよ。そういう意味では、映画の劇伴は当然画に合わせてますので15秒や30秒の曲が入ることがありますから、音楽単体としてはドラマやアニメの劇伴の方が聴きやすいかもしれませんね。
――菅野さんの楽曲には、やはり菅野さんの個性がにじみ出ているような印象を受けます。作曲において"自分らしさ"を入れるさじ加減については、どのようにお考えでしょうか。
僕は、個人的には自分の色を出していくつもりはなくて、相手となる作品に合わせる、というスタンスで常に作っているんです。でも、やっぱり同じ人間がたくさん作ってるから、どうしても似てきちゃうっていうか。「自分はこういう音楽を作る人だ」ってアピールするために個性を押し出してるわけではないんですけど、結果的にそうなっちゃってる感じはありますね。
――「菅野さんらしい曲でお願いします」という依頼もあるそうですね。
みんなそう言ってくれるんですけど、「また同じ感じかよ」とはなるべくは思われないようにしたいですね。でも、個性が出ちゃうことは悪いことだとは思ってないですし、今更しょうがないかなという気もしています。
――長年、作曲家として第一線で活躍するための秘訣のようなものはありますか?
10月から、Hey!Say!JUMPの山田涼介くん主演の月9ドラマ『カインとアベル』の音楽を担当することになったんです。月9ドラマの場合、視聴者の多くは若い女の人じゃないですか。僕は今39歳なんですけど、39歳の僕が、10代や20代の女の子が胸キュンする音楽を作らないといけない。そのためには、自分もそういう感性でいないと需要に応えていけないと思うんですよね。逆に、大河ドラマの音楽をやる場合は、見てる方の年齢層が高いので、そういう方たちの需要に応えた音楽を作らないといけないと思うんです。そう考えると、常にいろいろな年齢層が触れているものに触れて、自分の感性や感情の引き出しをたくさん持っておくっていうのはすごく大事なことかなと思います。
――純粋な作曲の技術以外にも、マーケット感覚も重要ということでしょうか?
そうですね。作曲家でもどんなジャンルでもそうだと思いますが、長く一線で活躍されてる方というのは、その時代時代をきちんと捉えていってる方だと思うんですよね。僕も今の時代をちゃんと切り取れる作曲家でいるように心掛けています。
「会いにいける作曲家」!? ファンとの交流を大切にする菅野の、コンサートにかける想い
――続いて、10月10日に開催されるコンサートについてお伺いします。作曲をする時と、ステージに立ってお客さんの前で演奏する時とでは、どのような意識の違いがありますか?
僕の仕事は映像のために音楽を作ることではありますが、そうは言っても「映像から離れて、音楽単体としてちゃんと記憶に残る、感動できる音楽を作れてるのかなあ」という問いはあって。それは、コンサートをやることですごくわかるんです。映画がヒットしてサントラが評判になっても、そこからお客さんが
あとは、自分が作った音楽を自分が演奏して、それをお客さんに同じ空間で共有してもらってハッピーな空気が生まれることも、音楽の醍醐味だと思うんです。写真などの芸術は、切り取られて出来上がったものを後でみんなで共有しますよね。でも、音楽のコンサートって、音を紡いだ瞬間の感動、直接の音の振動みたいなものをその場で味わえる。そういう喜びが得られる、貴重な芸術だと思います。
――菅野さんにとって、コンサートはファンとの交流の場でもあるんですね。
僕はかならず、舞台が終わった後に写真撮影と握手会みたいなのをやってて。半分冗談で「おさわりタイム」って言ってるんですけど(笑)。公演時間と同じくらいの時間を握手会と写真会に毎回割いています。感動を共有したいし、直接お客さんとふれあうというか、近い距離でいたらよりハッピーだなあと思って毎回やっています。
――「会いにいける作曲家」なんですね……! ファンからすれば「おさわりタイム」も魅力的ですが、10月10日のその他の見どころ、聴きどころについて教えてください。
サントラの曲であっても、コンサート用により楽しんでもらえるように、フルオーケストラで多少アレンジも加えているので、そういうものを生で臨場感をもって聴いてもらえるというのは、見どころかと思います。それから、10月のコンサートでは、先日書いた交響曲第1番の第3楽章も演奏します。ベートーベンとかブラームスとかが書いている、クラシックスタイルの交響曲というジャンルにチャレンジしてみたんです。映像がまったく関係ないフィールドで、純粋に音楽だけで勝負している作品なので、それはぜひ聴いてもらいたいなあと思いますね。
――コンサート後もいろいろとお仕事は決まっているかと思いますが、今後チャレンジしてみたいことはありますか?
これがなかなかおもしろいもので、大河ドラマをやっていない時は「大河ドラマやりたいな」と思ってたし、「ガンダムをやりたい」と思っていた時はガンダムの音楽をやらせていただいて、結構夢が叶ってきたんです。「次はこういう監督さんとやってみたいな」と思ってた方とも、今ちょうどお仕事させていただいていて。もちろん目標もあるし、どんどん頑張ってこれからも曲を書き続けていきたいとは思うんですけど、ありがたいことに、運と縁に恵まれて、今までやりたかった仕事をすごくやらせていただきました。今後もこの運と縁が続くんだったら、自分を必要としてくれた人と出会った時にちゃんと準備ができている状態でありたいですね。実力が伴っていて、感性も古くなっていない、時代の最先端を生きている作曲家でい続けられるように、これからも努力していきたいなと思います。
取材・文=まにょ
日時:2016年10月10日(月・祝)14:30
会場:東京芸術劇場 コンサートホール
料金:全席指定5,500円(当日券6,000円)
【イベント詳細】
指揮:曽我大介
ピアノ:菅野祐悟
演奏:東京ニューシティ管弦楽団
【予定演奏曲目】
NHK大河ドラマ「軍師官兵衛」より~ 『軍師官兵衛 メイン・テーマ』
ドラマ「昼顔~平日午後3時の恋人たち~」より~ 『Never Again』
ドラマ「花咲舞が黙ってない」より~ 『花咲舞が黙ってない』
アニメ「ガンダム Gのレコンギスタ」より~ 『ガンダム Gのレコンギスタ』
アニメ「サイコパス」より~ 『PSYCHO-PASS Symphony』他
※上記予定曲目は変更する場合もございますので、予めご了承ください