8人のワルキューレたちが語った~新国立劇場『ワルキューレ』上演に向けて【シリーズ『ワルキューレ』#1】
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ワルキューレの皆さん
まだ残暑厳しい9月上旬、『ワルキューレ』の二日目の稽古を終えた8人の歌手たちに新国立劇場のリハーサル室で取材した。ブリュンヒルデの姉妹であるワルキューレ(戦乙女)は8人。これを演じるのは、日本のオペラ・カンパニーで主役級のロールを歌っている一流の歌手たちなのだ。「肉体的にとてもハード」というフリードリヒ演出について、ワーグナーが見事に書き分けたワルキューレたちの個性について楽しく語っていただいた。
聞き手:小田島久恵
(左から)佐藤路子・増田弥生・小野美咲・日比野 幸・田村由貴絵・増田のり子・松浦 麗・金子美香
――お稽古の写真を拝見したのですが……(とプリントアウトしたばかりの稽古の画像を見せる)。
全員 「(前のめりになって)わあ! これ私たちね!」
――傾斜のある床に寝ている男性たちに馬乗りになっていますね。これは「ワルキューレの騎行」のシーンでしょうか?
全員 「そうです」
日比野幸(ヘルムヴィーゲ) 「男性たちは死体ですね」
田村由貴絵(ロスヴァイセ) 「本番では、男性は腰蓑をつけただけの裸になります」
――すごいですね……もしかして、ワルキューレも裸ですか?
増田弥生(ヴァルトラウテ) 「ワルキューレは少しフェミニンで、羽根がついた衣装になります」
ヴァルトラウテ役:増田弥生
――動きも相当ハードとお聴きしましたが、例えばどんな動作があるんですか?
松浦麗(ジークルーネ) 「……言えない(笑)」
日比野 「ヒップダンスをしたり」
佐藤路子(ゲルヒルデ) 「女性同士でからんだり……」
小野美咲(シュヴェルトライテ) 「姉妹同志だけどラヴァーズ(恋人)なんだ、という」
――なるほど。ワルキューレたちには両性具有的なイメージがあるのですね。
日比野 「男性にも行くし、バイセクシュアルですね」
増田のり子(オルトリンデ) 「姉妹同志も愛し合って……本当に愛にあふれている、という設定です」
オルトリンデ役:増田のり子
田村 「ジークムントとジークリンデが兄妹でありながら愛し合っているのと、少し関係があるのかなと思いました。私たちも姉妹だけど、愛し合っている」
金子美香(グリムゲルデ) 「ヒューマンビーイングではなく、神の子孫ですからね。なんでもありという」
――なるほど! すごい演出なのですね……声楽的な難しさは主にどんなところにありますか?
田村 「強い声を求められるのに、8人がアンサンブルとして高度に合っていないと、客席に届かないんです。細かい音もたくさんあるのでバラバラにならないよう、そこを今マエストロと詰めてお稽古させていただいているところですね」
ロスヴァイセ役:田村由貴絵
――ワルキューレの掛け声もユニークですよね。「ホヨートホー」「ハイヤー」などなど。
田村 「飯守先生からは、あれは歌にならないように、と言われています」
佐藤 「歌っているというより、語り合っているように……」
日比野 「色々な場面によって意味が違うけれど、同じ掛け声なんです」
ヘルムヴィーゲ役:日比野 幸
――『ワルキューレの騎行』はとてもハイテンションですが、あそこではやはり気分も上がりますか?
全員 「はい」
田村 「前奏が聴こえてきただけで、アドレナリンが上昇してくる感じです」
――楽しみです! ワルキューレ一人一人にはどんな個性があるのでしょう?
佐藤 「ゲルヒルデは槍を持った勇敢な戦士なんですけど、自分で歌っていると……『森で休みましょうよ』とのんびりしたがったり、意外と生真面目な気質ではないかなと思います」
ゲルヒルデ役:佐藤路子
増田のり子 「オルトリンデは、お姉さんに『見張ってきて!』と言われると率先して行くほうなので、結構お姉さんには従順なタイプだと思います」
全員 「オルトさん……(笑)」
――増田さんはジークルーネを歌われたこともありますが、今回のヴァルトラウテはだいぶキャラクターが違いますか?
増田弥生 「キャラは違うと思います。ソロで歌う量が増えましたし、音域も高くなりました。ジークルーネより力を感じます(力強いポーズをとる)」
――なるほど……シュヴェルトライテは?
小野 「名前からも力強いイメージですので……8人の中でもかなりマッチョなタイプだと思います。シュヴェルトは『剣』を意味するので、そこから来ている名前なのかなと」
シュヴェルトライテ役:小野美咲
――深いです……! ヘルムヴィーゲはいかがですか?
日比野 「ヘルムヴィーゲの「ヘル」はヘルメットの意味で「兜の中に眠る人」という暗示があると思います。たぶん8人の中でも年下で、最初のほうでは先に歌うのですが、そのあとは後からついていく歌が多く、末っ子のイメージですね」
――楽譜にはそういうことも暗示されているのですね。ジークルーネさんは?
松浦 「ジークは「勝利」という意味があるのですが……演出でも色々と一人だけ変わったことをしているのです。私は今回が初役なのですが、他の演出でもジークルーネはちょっと変わった娘という設定が多い、と聞いたことがあります」
ジークルーネ役:松浦 麗
――そのあたり、素のご自分とは共通点が?
松浦 「はい……素の自分に近いのではないかと思います」
全員 「(爆笑)」
――グリムゲルデはどんな役ですか?
金子 「私はシュヴェルトライテも歌ったことがあるのですが、音域はグリムゲルデのほうが高いです。でも8人の中では低いほうですね。ブリュンヒルデから何かを尋ねられてもすぐに答えるほうなので、優しい人なのかと思っています。親切だな……と勝手に思ってるんですけど(笑)」
グリムゲルデ役:金子美香
――ワーグナーは全員の性格を書き分けていたのですね。ロスヴァイセの田村さんは?
田村 「白い馬を思わせる名前です。ブリュンヒルデがジークリンデを逃がすとき、みんなに馬を貸して、と頼むのですが、私は自慢の白馬を貸したくないのですぐに断るんですね。この演出でも「プイッ」ていう感じで。だから、そんなに優しくないと思います(笑)。ブリュンヒルデとはわりと距離感はあるのかなと」
――全員、本当に違うキャラなのですね。稽古が始まって二日目ということですが、相当ハードですか?
全員 「青あざが……」
――身体を張って準備をされている……。皆さんは、ふだん主役を歌われることが多く、ご自分にスポットライトが当たることが多い方々ですが、こうしたアンサンブルで見せていく演技は、どのような楽しさや遣り甲斐がありますか?
田村 「すごい重厚感のある声がすぐそばで聴こえてくるので、舞台にいても安心感がありますね。身体が楽になって、一人のときより緊張しないです」
金子 「細かい動きを身体で覚えていく体当たりの演技ですし、本当に力を合わせてやっていかなければならない役です。助け合って、音も合わせて……」
――まだまだ稽古は続くので、大きな怪我のないよう頑張ってください。
松浦 「今日もこれから、整理整頓の会なんです。教えてもらったことを話し合って、演技として完成されていきます」
――素晴らしいですね……! 本番が本当に楽しみです。
全員 「頑張ります!」
(取材・文:小田島久恵 | 写真&動画撮影:大野要介)
ワルキューレの皆さん&小田島久恵さん(聞き手)
リヒャルト・ワーグナー 楽劇『ニーベルングの指環』第1日『ワルキューレ』
<新制作>(全3幕/ドイツ語上演/字幕付)
2016年10月02日(日)14:00
2016年10月05日(水)17:00
2016年10月08日(土)14:00
2016年10月12日(水)14:00
2016年10月15日(土)14:00
2016年10月18日(火)17:00
【演出】ゲッツ・フリードリヒ
【美術・衣裳】ゴットフリート・ピルツ
【照明】キンモ・ルスケラ
【フンディング】アルベルト・ペーゼンドルファー
【ヴォータン】グリア・グリムスレイ
【ジークリンデ】ジョゼフィーネ・ウェーバー
【ブリュンヒルデ】イレーネ・テオリン
【フリッカ】エレナ・ツィトコーワ
【ゲルヒルデ】佐藤 路子
【オルトリンデ】増田 のり子
【ヴァルトラウテ】増田 弥生
【シュヴェルトライテ】小野美咲
【ヘルムヴィーゲ】日比野 幸
【ジークルーネ】松浦 麗
【グリムゲルデ】金子 美香
【ロスヴァイセ】田村由貴絵
本公演は、フィンランド国立歌劇場(ヘルシンキ)の協力により上演されます
■公式サイト:http://www.nntt.jac.go.jp/opera/walkure/index.html