入江甚儀と秋元才加がクラシカルな心理サスペンス劇に挑戦! 河原雅彦演出『夜が私を待っている』
(左から)秋元才加・河原雅彦・入江甚儀
英国の劇作家、エムリン・ウィリアムズによる傑作戯曲『夜が私を待っている』は、今から約80年前に書かれた作品ながらいまだに世界各地で上演され続けている上質な心理サスペンス劇だ。日本では初上演となる今回は、演劇界の奇才、河原雅彦が演出を手がける。出演は入江甚儀、秋元才加、前田美波里のほか、明星真由美、久ヶ沢徹、岡部たかし、弘中麻紀、白勢未生といった新鮮かつ魅力的な顔合わせが実現。ロンドンから少し離れたエセックス州のとある森の中に建つ一軒家を舞台に、ひとりの女性の失踪事件を巡って猜疑心にさいなまれ絡まり合う人間模様がクラシカルなムードたっぷりに描かれていく。久しぶりに翻訳劇の演出に取り組む河原と、若手注目株としてメキメキ成長中の入江甚儀、AKB48卒業後は女優としても精力的に活動している秋元才加に、意気込みを語ってもらった。
――今回、河原さんはキャスティングにも関わっていらっしゃるんですか。
河原 関わらせていただきました。この脚本自体は、プロデューサーがずっとあたためていた作品だったらしくて。僕もおかげさまでいろいろなジャンルのお仕事をさせていただいていますが、ここまでストレートな翻訳劇というのは久しぶりです。こういうオーソドックスな作品は初心に帰る上でも良い機会ですし、このタイミングでとてもいい出会いに恵まれたなと思っています。
――入江さんと秋元さんは、この作品への出演が決まって最初はどう思われましたか。
入江 僕は、これまでわりと真っすぐな印象の役が多かったので、こういうちょっとひねくれていて、何を考えているかわからないような役もやってみたかったんです。しかもストレートプレイですから、身体ひとつだけで舞台に立ち皆さんとお芝居をするわけなので何もごまかしがきかないというか。シンプルがゆえにすごく難しいことだろうと思いますし、でもきっとそこに演じるということの醍醐味があるとも思いますし。なので、このお話をいただいた時には本当にうれしかったです。
入江甚儀
秋元 私もこういったキャラクターを演じたことはあまりなかったので、自分としては挑戦だなと思いました。ストレートプレイの翻訳劇というのも初めてなので、勉強させていただく気持ちでぜひ受けたいなと思ったんです。だけど最初に台本をいただいた時には「長い……!」って(笑)。これを実際に皆さんと一緒にやらせていただくとなったら、相当難しいんだろうなというのはすごく思いました。
――河原さんは、このお二人のどういうところに魅力を感じられていますか。
河原 僕にとっては初めてお仕事させていただくお二人ですからね。僕、スタッフワークでもキャスティングでも初めてご一緒する人、好きなんですよ。まあ、人にもよるので結果的には「会わなきゃよかった」とか「今後会うことはもうないだろうな」って人にもいっぱい出会いましたけど。(笑)。
入江・秋元 アハハハ。
河原 でも最初の本読みの段階で既に「いいじゃん、入江くん!」って感じさせてもらえたので、ダン役を引き受けていただいて本当に良かったなと思いました。秋元さんは『シャーロック・ホームズ2』(2015年)を拝見させていただいているんですが、華があって、実に堂々としていらっしゃって。今回のオリヴィアという役も、きっと魅力的に演じてもらえるんじゃないでしょうか。こういうストレートプレイの場合は特に人間力が必要になるというか、役柄にあった人に演じていただけないと成立させるのが難しくなってしまうんですが、今回は(前田)美波里さんを始め本当にいいキャスティングに恵まれました。
――前田美波里さんとお仕事するのも初めてですよね。
河原 バリバリにエネルギッシュな方ですよね。こんなことを言うのも恐縮ですけど、稽古場での居方からしてすごく魅力的な方なんです。われわれなんか足元にも及ばないようなキャリアをお持ちなのに、まったく大女優ぶるなんてこともないですし。大尊敬ですよ。
入江 そう、すごく優しいんです。カンパニー全体を見てくださっている感じもしますしね。僕はダンという役なんですけど愛称がダニーなので、昨日も「ハーイ、ダニー?」って声をかけてくださって。その一言だけで、とてもホッとできてありがたかったです。また誰よりも早くセリフも入っていらっしゃって、すごい!としか言いようがない方ですね。
秋元 もう、美波里さんがいらっしゃると、お花みたいにぱぁっとその場が華やかになるんですよね。すごく魅力的な方と今回ご一緒させていただけるんだな、という喜びをお稽古場でいつも感じています。
秋元才加
――お客様に向けて、お誘いのメッセージをいただけますか。
入江 とにかく、登場人物がそれぞれにとても個性的なんですよ。その個性と会話劇の面白さが入り混じっているというのが、たぶんこの作品の一番の見どころだと思います。そんな人々の中に、ダンがポンと入って来てうまく立ち回り、コミュニティをどうやって崩していくのか。ダンの計画がどう進行していくか、そしてダンとオリヴィアの関係は果たしてどうなるのか……、お客様にも一緒にゾクゾクしながら観ていただきたいです。
秋元 ひとりひとりのキャラクターであったり、心情、関係性に注目していただくのはもちろんなんですけれども。80年前のイギリスの戯曲で、結構当時のことを忠実に再現されているとも思うので、まるでタイムスリップしたかのような感覚も楽しんでいただきたいですね。あの時代はこういった作品を上演して、こんな感覚で楽しんでいたのかなとか。現代と照らし合わせてみたら、共感できる部分もあれば、これは一体どういう意味なんだろうと不思議に思うところもありそうですし。私自身は、このクラシックな世界観に忠実にお芝居することをまずは意識しながらやってみたいと思っています。
河原 こういう犯罪ものって僕も好きなほうだから、以前からいろいろやらせてもらっていますけど。昔からよくある話ではあるんですよね、他人の家にひょうひょうと入り込んで家族を取り込んでいくというようなものって。
河原雅彦
――なんだか、今もワイドショーで取り上げられていそうな事件ですよね。
河原 そう。しかも、このブラムソン家の人たちがみんなチョロいんです。
入江 アハハハ、本当に。
河原 こうやって田舎の森の中にぽつんと建っている家に住んでいて、なおかつすごくプライドが高かったりするような人のほうが丸め込みやすく、利用しやすいんです。ダンも、北九州のあの事件とか尼崎のあの事件の容疑者みたいな感じがいかにもしますし。出てくる人たちもみんな、めっちゃ脇が甘いんですよねえ(笑)。現代的なものとは少し違ってくる部分があるかもしれないけど、犯人役もとても興味深い犯人像として描かれていますし。まさに古き良きサスペンス劇なので、そんな部分もぜひ楽しんでいただきたいと思います。
(左から)秋元才加・河原雅彦・入江甚儀
(取材・文:田中里津子 撮影:荒川潤)
■演出:河原雅彦
■翻訳:常田景子
■出演:
入江甚儀/秋元才加
明星真由美/久ヶ沢徹/岡部たかし/弘中麻紀/白勢未生
前田美波里
■日程:2016年10月15日(土)~10月30(日)
■会場:紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA
■日程:2016年11月12日(土)
■会場:仙台電力ホール