永島敏行&斉藤とも子インタビュー~舞台『静かな海へ -MINAMATA-』水俣病の発見者・細川医師の苦悩と決断を描く

インタビュー
舞台
2016.10.5

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1950~70年代の日本。敗戦の焦土から立ち上がり、加速度的に経済が成長していく一方で、人々の暮らしには、ある“負の遺産”がもたらされた。それが、公害だ。工業の発展により、生活は便利になる反面、各地で健康被害が相次いだ。中でも「四大公害病」のひとつとして今なお多くの人の記憶にとどめられているのが、1956年に発生が確認された「水俣病」だ。

舞台『静かな海へ -MINAMATA-』は、次々と死者が発生する中、水俣病の原因追究に奔走した医師・細川一とその家族の戦いを描いたヒューマンドラマだ。水銀汚染の原因をつくった新日本窒素肥料株式会社の勤務医であった細川氏にとって、水俣病の真実を告発することは、自らの組織に刃を向けることでもあった。医師としての正義と、組織人としての倫理――その板挟みの中で苦悩と葛藤を繰り返した細川氏を支えたものは何だったのか。出演者の永島敏行、斉藤とも子に聞いた。

(左から)永島敏行、斉藤とも子

(左から)永島敏行、斉藤とも子

――水俣病公式発見から60年という節目の年での上演となりますが、おふたりはどんな想いを持って、この作品のオファーを受けられたのでしょうか?

永島:僕も今年でちょうど60歳。水俣病が発見された年に産まれたわけですから、当時のことはあまりよく覚えていないんです。ただ、東京湾近くの町で生まれた僕は、子どもの頃からよく潮干狩りなんかをして遊んでいました。それが、京葉工業地域の開発によって、どんどん海が埋め立てられて、工場がたくさん建てられて。僕は野球部だったんですけど、練習をしていると光化学スモッグのせいで呼吸をするのも苦しくなることがよくあったんです。だから、公害という意味では決して他人事ではないし、いつ自分が被害に遭ってもおかしくはなかった。一方で、経済的に豊かになった恩恵を受けているという点では、自分たちは加害者でもあったんだ、と。そんなことを改めて考えました。

斉藤:ありましたよね、光化学スモッグって。決して目に見えるわけではないんですけど、注意報が出たら外に出ちゃいけないってよく言われたりして。そういう見えない怖さというのは幼いなりに感じていました。非常に重いテーマの作品ですが、ただそれだけではなく、その中で生きる家族の話として、誰にでも起こり得る普遍性のあるものとして演じることができれば。そんな想いで、お引き受けしました。

――永島さんは秋田でお米をつくられたり、斉藤さんは原爆被爆者の方々との交流があったり、役者業の傍ら非常に社会性の高い活動をされている姿が印象的です。そんなおふたりが、この作品にキャスティングされたというのも何か特別な意味を感じますね。

斉藤:実は被爆者の方々と直接関わるまで、勝手に暗いマイナスイメージを持っていたんです。でも、私が出会った人たちは、みなさん明るくて面白くて。すごく苦労をされたり、どん底を味わった方たちって、きっと笑っていないと生きていけなかったんでしょうね。そういう強さと脆さの両方を抱えている人たちと出会うことで、私自身、何度も励まされました。実はこのお話をいただく前から、水俣病には関心があって、詳しい話を聞きに行ったこともあるんです。それも胎内被爆者の方たちと知り合ったのがきっかけ。そういう意味でも、このお話をいただけたのは、私にとってすごく嬉しいことでしたね。

――細川さんという人物については、これまでご存知でしたか?

永島:いや、このお話をいただいて初めて知りました。

――役名は星川ですが、勤務医という立場で、自分の属する会社の過失や不正を公にするという非常に葛藤の大きい役どころです。

永島:今の世の中って、みんな組織の中で生きているわけじゃないですか。その中にいれば、個人の正義感だけではままならないこともたくさんある。組織に属している以上、自分を押し殺さなきゃいけない場面は、みなさん大なり小なり経験されていると思うんです。時代は違えど、生きていくために清濁併せ呑まなきゃいけないという星川の葛藤は、現代の人たちにも共感していただけるんじゃないかという気がします。

――役づくりにおいて、今、どんなことを考えていますか?

永島:彼の抱えている矛盾や孤独を体現するというのは、やればやるほど難しいなと感じています。星川は戦争中はあのビルマにいたんですね。僕もインパール作戦を題材にした映画(『THWAY 血の絆』)の撮影で、ミャンマーに行ったことがあるので、実際に経験したわけではないけれど、戦地の様子を想像することはできる。きっと星川はあの戦争で相当の地獄を見たと思うんです。そしてまた今度は仕事でまったく別の地獄を見ることになった。そばにいる家族にさえ自分の想いを話すことのできなかった星川の孤独にどこまで迫れるかが、今の僕の課題です。

――そんな星川を支えるのが、斉藤さん演じる妻・美也子なんですね。

斉藤:苦労している夫をずっと見ているわけですから、妻側の立場で言えば、夫が組織との戦いに巻き込まれていくのを何とか食い止めたいというのが本音。もちろん応援したい気持ちもありますけど、特に夫が病気になって以降は心配で仕方ないですよね。その内面のせめぎ合いが、演じる上でのポイントかなと捉えています。

――台本の魅力はどんなところですか?

永島:すごくミステリー性があるんですよね。劇中に何か大きな事件が起きるわけじゃないんですけど、この先この人たちはどうなっていくんだろうと、つい興味が引っぱられてしまう。あと、決して何が正義で何が悪かを断じるのではなく、悪いところもあれば清いところもあるというふうに、台本そのものに清濁併せ呑む度量があるんです。そこは非常に面白いところだと感じました。

斉藤:私が可能性を感じたのは、星川のもとに湧井が訪ねてくるところ。涌井は、水俣病の問題を社会に提起した宇井純さんという方をモデルにしています。一度は水俣病から距離を置いた星川が、彼との出会いによって、もう一度動き出そうとする。たったひとりとの出会いが、何か大きなことにつながるというのは、私たちの人生の中でも起こり得ることですよね。涌井との出会いをきっかけに変わろうとする星川の背中を見て、ひとりの人が持つ可能性を感じてもらえたらいいなと思います。

――今、稽古の真っ最中だと思いますが、手応えはいかがでしょう?

永島:今ちょうど全体を荒く通したところで、ここからどれだけ陰影を織り込んでいけるかだと思っています。字面に書かれているだけじゃない、人間の深さをどれだけ探っていけるか。演出のふたくちさんも非常に柔軟な方なので、ここからが本当の意味でやりがいを感じる局面になっていくんだろうなと楽しみにしています。

斉藤:永島さんってすごく正直な方なんですね。自分が納得いくまで台詞は言わない。とりあえずやっちゃおうというところがまったくないんです。ひとつひとつのやりとりを細かく確認してくださるので、私も「だったらこの方がいいかな」って自分の演技プランを整理できる。ふたくちさんもダメ出しの後、必ず「僕の方からはこうですけど、そちらは何かありますか」って聞いてくださるんです。生理的に言いにくい台詞を誤魔化しながら演じるのは嫌なので、そんなふうに話し合いの機会を常に持たせてもらえるのは、とってもありがたいですね。

永島:気をつけなきゃいけないのが、題材が題材だけにどうしても暗くなってしまいがちなんですよね。でも終始重苦しいと、見る側も演じる側もつらくなってしまう。どうエンターテイメントとして楽しめるものにするか、さじ加減が非常に重要です。派手な動きのある芝居ではないけれど、その分、見る人の心がジェットコースターみたいにグルグルと動くものになればと心がけています。

――重い題材だからこそ、何気ない日常の場面とのコントラストが大事になってくるわけですね。

永島:実際、劇中の半分以上が家族との場面ですから、そこをどう演じるかが鍵ですよね。湧井の存在ももちろん大きいですが、星川を突き動かした決定打は、娘の和子。家族の生活を守るために口をつぐむ父に対し、まだ若い娘はその若さゆえの正義感でぶつかってくる。きっと和子の台詞は子どもじゃないと言えないと思うんですよ。僕も父であり、かつては子どもだったからよくわかるんですが、親子にはいつか親と子の関係が逆転するときがやってくる。ずっと親の言いなりだった子どもが、いつか親の矛盾を突くときが来るんです。そうした親子関係もこの作品の大きな見どころだと思います。

斉藤:ある年齢までですよね、和子のような台詞が言えるのって。もう少し大人になると、今度は親を傷つけるから言うのはよそうっていう配慮が生まれる。和子は、そのギリギリの年齢だったからこそ、ああやって父親にぶつかれたんだと思います。

永島:若い人たちにはぜひこのお芝居を見て「お父さんがお酒を飲むのも仕方ないんだね」って思ってもらえたら(笑)。組織の中で働くというのはそれくらいストレスのたまることなんだ、と。だからお酒を飲んで発散するくらいは仕方ないんだなって(笑)。

――水俣病と聞くと若い世代は馴染みが薄いと思うかもしれませんが、そんなふうに家族のドラマとして、あるいは組織で働く人間のドラマとして見ると、自分を投影できそうなところはいっぱいありそうですね。

永島:組織に属する人なら働く中で矛盾を感じることは誰しもあるはず。なかなか劇場に来る時間をつくるのは難しいかもしれませんが、ぜひそんな働きざかりの方に見てほしいですね。水俣病が題材ですが、あくまで人間ドラマ。見終わった後、夫婦でお酒を飲んだりとか、そういうきっかけにしてもらえれば。

斉藤:結末は、次の世代へとつながる余韻が感じられるものになっていると思います。ぜひそんなところも感じて楽しんでもらえたら嬉しいですね。

プロフィール
永島 敏行(ながしま・としゆき)
1956年10月21日生まれ。千葉県出身。77年、映画『ドカベン』で俳優デビュー。78年、映画『サード』で主演を務め、第16回 ゴールデン・アロー賞 映画賞 新人賞をはじめ、多数の賞を受賞。映画『遠雷』では、第6回 報知映画賞 主演男優賞、第3回 ヨコハマ映画賞 主演男優賞などを獲得。数々の映画・テレビドラマ・舞台に出演する他、93年からはじめた秋田十文字町での米づくりや、04年にスタートした青空市場マルシェなど、農業に関する取り組みでも広く知られている。

斉藤 とも子(さいとう・ともこ)
1961年3月14日生まれ。兵庫県出身。76年、NHK『明日への追跡』で女優デビュー。『青春ド真中』『ゆうひが丘の総理大臣』などの学園ドラマで活躍し、人気を博す。99年、
東洋大学社会学部社会福祉学科に入学。また、舞台『父と暮せば』の出演を機に、原爆被爆者との交流を深めるように。05年、原爆小頭症患者と家族の会「きのこ会」と出会ったことから、『きのこ雲の下から,明日へ』を出版した。近年の主な舞台出演作に、『痕跡』などがある。
 
公演情報
トム・プロジェクトプロデュース 『静かな海へ -MINAMATA-』


■日時:2016年10月14日(金)~10月20日(木)
■会場:紀伊國屋ホール
料金:一般前売/5000円 当日/5500円 U-25(25歳以下)/2500円 シニア(60歳以上)/4500円
※U-25・シニア券はトム・プロジェクトのみで販売。要身分証明書。前売当日とも同料金

■作・演出:ふたくち つよし
■出演:永島敏行、斉藤とも子、朝倉伸二、藤澤志帆、カゴシマジロー
■公式サイト:http://www.tomproject.com/

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