舞台『フリック』出演のソニンにインタビュー!「セリフを、いえ台本を丸ごと頭に入れるような作品です!」
ソニン
10月13日(木)から新国立劇場にて舞台『フリック』が上演される。2014年にピュリッツァー賞を受賞したアニー・ベイカーの注目の戯曲。デジタル化の波に飲み込まれていくマサチューセッツの寂れた映画館を舞台に、そこで働く3人の若者たちが不器用ながらも必死に生きる姿をリアルかつ切実に描く。本作で映写技師ローズを演じるのはソニン。これまでに出演してきた多くの作品とは異なり、等身大のごく普通の女子を演じるソニンだが、稽古はなかなか一筋縄では行かない模様。その稽古の様子や、ミュージカル経験が豊富なソニンだからこそストレートプレイをやる上で感じている話など、たっぷり伺ってきた。
――この作品に出たいと思った魅力はどこにあったんですか?
台本を読んで純粋におもしろい! と思ったので。話の流れが普通で、派手な展開もドラマ性もなく、普通の日常会話が展開していく中で、この人たちの人生が変わっていく様子、お互いに影響され、影響していく様がおもしろいと思ったんです。また、描かれている時代がごく最近の話だし…『アバター』とか『パルプ・フィクション』とか映画の名前もたくさん出てきますしね。
――今回演じるローズですが、ソニンさんとしてはどんな女の子だととらえていますか?
それ、昨日ちょうど話が出たんですよ。それぞれの役についてみんなで深く話し込んでいたんです。まだ断言はできないんだけど、今まで私がやってきた役の中でもしかしたら自分から一番遠い役かも…って思っていて。(演出の)マキノノゾミさん曰く「人とのコミュニケーションが取りづらい人」。この作品の登場人物はみんなどこかその傾向があります。サム(菅原永二)はまだマシなほうですが、エイヴリー(木村了)はそのあたりがかなり苦手。ローズも気にしてないふりをしてますが、実は下手くそで不器用。どこかに闇があって、その闇を愛情で埋めきれてない人だなって思います。
エイヴリーは極めきってるぐらい映画が好きで、それだけを愛してる。例え何かが欠けていて精神的に不安定なことがあってもエイヴリーは映画がよりどころ。でもローズにはそういう存在がなくて、「でも、私ってこうだから」と思っているフシがあって、そこに寂しさを感じているんじゃないかな。
ローズにとってエイヴリーとの出会いはきっとすごく強烈で。コミュニケーションが下手くそだな、とか、自分とは育ってきた階級や環境が違うんだとか思っていたけれど、やがてエイヴリーの中に自分とは別の哲学・考え方を見出していって、それによってローズの視点や生き方も変わっていく……。
でも「地に足がついてない役」って感じで難しいですね。意外とこれまでそういう役がなかったような気がします。エイヴリーは20歳で、ローズは24歳。一番年上のサムだって35歳。危うさがあったり地に足ついてない年頃だからこそ魅力的。そういうところを出せたらいいなと思っています。なんだろう…何も考えないで発するセリフが、このローズに関してはあってもいいのかな? と思うんです。
ソニン
――これまでソニンさんが演じてきた役って、とにかく熱量を感じるキャラクターが多かったからローズのような役は意外ですね。演技のふり幅がさらに大きくなりそうです 。
自分の中にすでにある引き出しから演じていくのではなく、やったこともなくて、成功するかどうかもわからない、そういう引き出しをつくるのってとても怖いこと。新しいことに接したとき、どう対処していけばいいのか、ドキドキなんです。今までの経験の中でやっていければ安心ですけど、そうじゃなく毎回新しいことをしよう、と思ったほうが、イザというときの自分の「樽」にモノが増えていく……樽の容量が大きければ大きいほど役者としても育っていくし、次また新しい事をやるときに樽にためた経験が活きてくると思うんです。
――さて、今回の『フリック』、マキノノゾミさんからはどんな演出を受けていますか?
セリフを一語一句間違えないで、って言われています。すごくこだわって翻訳されている作品なので、脚本にある「ぇなんで?」という小さい「ぇ」も忠実にやってほしいと。「ぇ、なんで?」でもないんです。途中に「、」は入ってないから「ぇなんで?」と続けて言ってほしいって。「ぇマジで?」と「マジで?」と「マジ!?」も全て違うんですよ。そろそろ悪夢を見そう(笑)。
セリフだけでなくト書きにも忠実にと言われています。「間」も、長い「間」と短い「間」、気まずい「間」といろいろあり、全部忠実にやっています。セリフを、というより台本を丸ごと頭に入れるような作品です。また、ニュアンスもすごく大事にしていますね。「ここはどう言うんだろう?」とみんなでディスカッションをしたり。マキノさんの演出はすごくこだわりがあって、ご自身にビジョンもあってわかりやすいです。
ソニン
――共演者との関係性はいかがでしょうか?
(木村)了くん、すごいですね。最初の段階でセリフを全部覚えてきていたんです。いちばんセリフの量が多い役なんです。エイヴリーとローズの場面だけで30ページくらいセリフがあるんですよ。二人だけで30分ということです……恐ろしい! くたびれて酸欠になります(笑)
――三人の共通言語はありますか?
「セリフが大変だね」が共通言語です(笑) 。みんなセリフに追われています。菅原さんなんて急にいなくなるんですよ。エイヴリーとローズの場面をやっている間、一人でどこかにこもってセリフを覚えているんです。「ズルーイ!」って言っています(笑)。
今回は、台本の隙間も覚えないといけないからもうみんな大変!(笑) 先ほど話に出た「間」も計算して入れている、という段階にたどり着くまでが大変です。それがこの作品の醍醐味だと思っていますが。観ているほうも「え?この沈黙は『間』なの?」と思うくらい黙っている場面もあるんです。
アメリカで上演された『THE FLICK』では、その「間」があまりに退屈で、幕間で帰ってしまうお客さんもいたという評判を聞いたことがあります。でも私が見たオフブロードウェイの劇評だと「『間』が絶妙でたまらない。アドリブなのか計算なのかわからないくらい」と書いてあって……つまりいずれにせよ台本に忠実にやっているってことなんですよね。
英語の台本をパラパラと見たら「it's like...like some...」「こんな感じ?」って意味の「like」が多用されていて、そこにはごくシンプルなワードしか入ってないんです。日本語にするときは意味をもう少し足さないとわからないから言葉数が少し増えているんですけど、原文は本当にシンプル。語彙力の少なさが現代人を表しているようにも思ったり。日本語でもそこは感じ取れるような表現になっています。
ソニン
――稽古中の話も聞かせてください。
間違えたセリフはプロンプの方が全部ふせんに書いてくださるので自分の机にビッシリ貼ってあります。「ねえ、私これ全部覚えられるかなあ?」「役者って台本を一字一句間違えないで言える人っているのかなあ?」とか拗ねてます(笑)。ミュージカルの歌だとそれができるんですけどね。音で聴いているから。家だと台本を開けないんです、自分にスイッチが入らなくて。この前もベッドサイドに台本を置いて読もうとしたんですが、速攻で寝てしまい、朝起きて「ああああ」となったり。なので、私は朝早く起きて、カフェなどで覚えています。あとは、稽古後、みんなと残って自主練しています。
――今まで出演した作品で大変だった作品は? 「セリフ」「役作り」など、大変の内容もいろいろだと思いますが。
「セリフ」で大変だった舞台は……やはりシェイクスピアかな。普段使わない言葉ばかりだから。でも一度入るとあれもメロディみたいですしポエトリーですから、心地よかったりします。
演技としては『キンキーブーツ』。私にとってローレンは新しい役だった。初演だったし日本での前例もなかった。白人のブロンドガールで、日本人に「アメリカ人でこういう女性だ」ということをどうしたら伝えられるだろう、と。そこでNYでの経験が役に立ちましたね。こういう人いる!って知っていたから。でもそれを日本語で表現する難しさもあったし、ブロードウェイで観ていたからこそ、あの役のあの独特の雰囲気をどう伝えるかにこだわりました。キャラを自分に寄せるのではなく、あのキャラにどう自分で近づけるか、細かいところまで作り上げた役でしたね。
ソニン
――これまでの出演作をみるとミュージカルとストレートプレイとをいい感じで行ったり来たりされているように思うのですが、何か意図的に選んでいらっしゃいますか?
お話をいただいた順にやっているだけなんです。でも両方やり続けていきたいと思っているので配分は考えていますね。ミュージカルをやる上でストレートプレイはやったほうがいいですし、ストレートプレイをやる上でもミュージカルの経験がめちゃくちゃ役に立つんです。
――具体的にどういう点が役に立つんでしょうか?
「音」ってすごく大事なんです。「声色」もそうだし、リズム感、テンポ感……ミュージカルってテンポが存在するじゃないですか。音楽という意味での「音」だけでなく「音色」とか「声の高さ」「キー」とかテンポが止まる・変わる……は確実にストレートプレイに活かせるんです。普通のストレートプレイであってもセリフの途中でタメを入れたりするのが私には音楽と同じに感じるんです。嬉しいときはテンションが上がるし、落ち込んでいるときは低い声になったり吐息まじりになったり…それって「音」のバリエーションだと思うんです。私がストレートプレイをやるうえでミュージカルをやっていてよかったと思うのは、音だらけの中での芝居の感覚がわかるからこそ、芝居をするうえで音を操る方法が身についている事だと思います。
――そういうことにいつ頃から気が付いたんですか?
以前から気づいてはいたんですが、技術として使えるようになったのは最近かな。コメディをやるようになってから特に。周りがコメディをやっていても私だけシリアスな演技をする役が多かったんですが、『RENT』『三文オペラ』あたりから、技術が必要なコメディエンヌな役が続いて、その実感が増えてきましたね。
ソニン
■日時:2016年10月13日(木)~10月30日(日)
■会場:新国立劇場 小劇場 THE PIT
■作:アニー・ベイカー
■翻訳:平川大作
■演出:マキノノゾミ
■出演:木村 了 ソニン 村岡哲至 菅原永二
■公式サイト:http://www.nntt.jac.go.jp/play/performance/151225_007977.html