佐藤ひろ美が16年間のアーティスト活動に終止符を打つことを決めた理由とは? ラストライブ前の本人に直撃インタビュー
佐藤ひろ美
29歳でソロアーティストデビューを果たした佐藤ひろ美は、PCゲーム『カナリア~この想いを歌に乗せて〜』や『ギャラクシーエンジェルシリーズ』にて、ゲーム主題歌を担当しただけでなく、テレビアニメ『創聖のアクエリオン』ではリーナ・ルーン役として声優を務めた。株式会社Sの代表取締役として、所属アーティストのプロデュースを手掛けている彼女だが、2016年12月末日をもってアーティストとしての活動を終えることを発表している。12月23日(祝)開催の引退ライブに向け、アーティストとして歩んできた16年間は彼女にとってどのようなものだったのか。その軌跡と、引退後の目標について伺った。
――昨年、アーティストの引退を発表されていましたが、突然の出来事のように感じました。
実は、引退は5年くらい前から考えていたんです。私自身、すごく悩んで16年間のアーティスト活動を終えることを決めたので、ファンの皆さんが想っているよりはカラッとしているかもしれません。なんですが、引退ライブが近づくにつれて、様々なイベントに出演していると、今までのことを思い出して途中で泣いちゃうことがありました(笑)。特に、ステージを共にし、一緒に歌ってきたアーティストたちとデュエットをした瞬間は感極まりますね。
――引退に関してファンの方々からも色々な意見があると思うのですが。
お手紙をよくいただきます。あと2ヶ月で引退ライブということもあってか、皆さんのメッセージを読むとしんみりしてしまって……やっぱり寂しい気持ちはありますね。でも、ラストライブは『ハローグッバイ』というサブタイトルを付けていて、悲しいものではなく明るく、笑顔でステージから歌を届けたいと思っています。
――佐藤さんのアーティスト活動は非常に幅広く楽曲数も多いのですが、特に思い入れのある曲はありますか?
PCゲーム『みずいろ』の主題歌「みずいろ」ですね。この作品をキッカケに、多くの方に私を知ってもらうことができたので、私にとっては大きな1曲です。その後、2004年に『ギャラクシーエンジェル』の主題歌「Angelic Symphony」を歌わせていただいたことで、美少女ゲーム以外のユーザーにも私のことを知っていただけたんです。私にとってのターニングポイントになった2曲です。
――もしデビュー当時の自分に、自分がアーティストを引退することを伝えるとしたらどのようなメッセージを送りますか?
えー!! ……「あんた歌手やめるよ」って言いますかね(笑)。色々とつらいことも体験して29歳でデビューをしたので、絶対に歌手はやめないと思っていたんです。だから、当時の自分が聞いたら「えー!苦労してデビューしたのに歌手をやめるの!?」って、すごく驚くと思います。……実家が岩手県なんですけれど、両親には就職を理由に上京したんですよ。でもすぐに仕事を辞めてバンドを結成して音楽一本で生きて行く事を決めました(笑)。
その後、音楽活動の経歴を作り、ゲーム音楽のお仕事をいただくことができたんです。何年も苦労を重ねて、やっとの思いでアーティストとして活躍できるようになったので、引退を決断したなんて聞いたら驚きますよね!
――引退を決意された理由にもつながると思うのですが、今後どのような活動を?
現在、2007年に設立した株式会社Sの代表取締役をしていまして、所属アーティストのマネジメントも行っております。今後はこれまで培ってきたアーティストとしての経験を、若手のアーティストに伝えていき、よりプロデュースに専念していこうと思っています。
――声優としてご活躍された経歴もあり、マルチな活動であったからこそプロデューサーとして所属アーティストにアドバイスできることが沢山あると思います。
声優をやらせていただけたことで、歌とは違う表現力が身につきました。また、作家として楽曲提供を行っていき、声優さんやアーティストさんにディレクションを行うことが増え、客観的に歌を聞くことができるようになったんです。
私自身アーティストもしていましたので、歌手の人たちが陥ってしまうスランプや、大変さを汲み取ることができます。そして、代表として仕事をしていく中で、マネージャーやプロデューサーをはじめ、多くのスタッフさんたちの気持ちも理解することができました。アーティストとともに悩み、育成しつつも現場でのアーティストとスタッフの橋渡しができることが今までの自分の活動が活きている部分であり、一番の強みですね。
――アーティストとプロデュースの2つの視点から判断できることが、大きなステータスになっていることがわかりました。
アーティストって自分のこだわりがあるんですよね。“個性的”って素敵なんですけれど、それだけが強すぎるとほかに良いところがあっても見失って、マイナス要素が生まれてしまうんです。特にアニソンは、自分という個性も大切ですが、作品の世界観を歌で、しかも90秒という時間の中で伝えなければならない。作品がある以上“個性”だけが秀でても駄目なんです。バランスをとりながら、アーティスト本人が気づいていない魅力を引き出せるプロデュースをしてあげたいです! 妥協をしないで、現場にいる全員が納得して笑顔になれる環境が一番素敵ですよね。
――誰かのために、という強い気持ちを感じます。
私は、デビュー曲の「シールド」という楽曲の収録で、本当に周りの方にお世話になったんです。当時は記憶がなくなってしまうくらい緊張しながらレコーディングブースに入ったことを覚えています。あまりにも緊張してしまい、声が震えてレコーディングにならなかったんですよ。そんなとき、ゲームメーカー「フロントウィング」山川社長をはじめ、収録現場にいた制作スタッフの皆さん、楽曲を制作している上松範康さんから「がんばれ! がんばれ! 大丈夫だから!」と励まされて、レコーディングを終えたことがあるんです。
――制作スタッフの皆さんのおかげでデビュー曲を作り上げることができたんですね。
むしろ制作スタッフの皆さんが商品レベルにしてくれた楽曲です。そのときは自分の不甲斐なさに落ち込んでしまいましたが、もっと良い歌をうたいたいと思うようになりました。なので、アーティストさんとスタッフさんの関係って本当に大切なんですよね。私がそうしてもらったように、所属アーティストにも良い環境で活動してほしいと思っています。
――それでは最後に12月23日の『佐藤ひろ美 引退ライブ〜ハローグッバイ〜』に臨む意気込みをお願いします。
皆さんが聞きたい歌はうたいたいと思っています。時間の許す限り、歌いきることを目標に考えています。そして16年間の感謝の気持ちを歌声にのせて、また魂を込めてステージに立とうと思っています。ぜひ、皆さん聞きに来てくれたらうれしいです。
インタビュー・文=野島亮佑
日時:2016年12月23日(金・祝) 開場/17:00 開演/18:00
会場:豊洲PIT
主催:株式会社S
企画:株式会社S
制作:グランドスラム
協力:ひろみたち。/MUSIC GATE
料金:スタンディング 6,800円、指定席 7,000円
最速先行受付:2016年10月8日(土)12:00~10月16日(日)18:00
一般発売:2016年10月30日(日)10:00~12月19日(月)18:00
特設サイト:http://s-inc3.sakura.ne.jp/h-sato/