西本智実 念願のエルサレム交響楽団との共演を語る
撮影=塩澤秀樹
これまでに約30ヵ国で指揮者として招聘され、世界を舞台に活躍している西本智実が、イスラエル・エルサレム交響楽団の初来日公演で指揮を執る。ドヴォルザークのチェロ協奏曲や、映画『ベニスに死す』のテーマ曲「アダージェット」でおなじみのマーラー第5交響曲など予定されているプログラムは超豪華。ユダヤの名門楽団との共演への意気込み、作品への共感など、西本が語った。
「私自身はずっとこの道を見てきました。この共演はとても大きなことなのです。」
11月に実現するエルサレム交響楽団との初舞台について、西本智実はその特別な思いを強調した。日本公演に先立つ11月12日には、エルサレム響の本拠地ヘンリー・クラウン・シンフォニーホールを訪れ初の共演を行う。
「師匠をはじめ、多くのユダヤ系の名音楽家から、私は大きな影響を受けてきました。今まで約30カ国で指揮しましたが、その音楽の旅の中でイスラエルは常に“道しるべ”のような存在でした。そして今回ついに、初めてこの国を訪れ、イスラエルを代表するオーケストラとの共演が叶います。」
撮影=Akito Koyama
会場の近くには有名な世界遺産「岩のドーム」がそびえ立つ。首都エルサレムは、ユダヤ教、イスラム教、キリスト教全ての聖地としても知られている。
「ここは宗教的にも独特の場所で、その多様な影響をしっかり体験してくるつもりです。現地で感じる空気とか、風とか、そういった言葉にできないものを持ち帰って、日本で聴く人にもイスラエルへの旅を想像していただけるような演奏にしたいです。ちなみに、エルサレムの直後にはバチカン市国でも演奏する予定で、日本公演前に図らずも“聖地巡り”が実現します。」
記念すべき出会いに選ばれた作品は、マーラーの交響曲第5番。彼女が愛して止まない楽曲であると同時に、ユダヤ人マーラーはエルサレム響にとっても特別な存在である。
「お互いにとって本当に大切な作品。彼らの持ってる演奏上の“語法”の中で、ある部分では共有したり、逆に化学反応を起こしたりなど、予想を超える体験になりそうでとても楽しみです。」
今回の日本ツアーも、西本の強い意向で、全10公演のメイン曲は本作のみという。それだけマーラーへの思いは強い。
「マーラーの作品については、歌がない場面でも歌曲的というか、“無言歌”のようにも感じます。第5番の有名なアダージェット(第4楽章)は特に隠れたテキストを感じますね。ただ、綺麗だけでは片付けられないのもマーラー。とにかく感情の振り幅がものすごい。演奏者も心して取り組まないと、精神的にも肉体的にも参ってしまうほどです。」
撮影=Kunihiro Takuma
カラヤンがCDで取り上げてヒットし社会現象になったアダージェット。名作映画『ベニスに死す』でもメインテーマとして取り上げられている名曲は、このコンサートの一番の聴きどころの一つだろう。西本はさらに語る。
「同じものでも様々な面を内包していて、角度を変えると違って見えるということを感じていただければ。難しく考えなくても、録音ではなく目の前で楽員が出すリアルな音を実感してほしいし、実演ならではの面白さを体験できる格好の作品だとも思います。音楽というものは、演奏家だけでは完成せず、聴く人の中に届いて最終完成します。ぜひご来場いただき、一緒に音楽を作り上げましょう。」