『HiGH&LOW THE RED RAIN』山口雄大監督&脚本・平沼紀久氏インタビュー【前編】『珍遊記』監督と“ミスターHiGH&LOW”の絆

インタビュー
イベント/レジャー
2016.10.25
左から、平沼紀久プロデュ―サー、山口雄大監督

左から、平沼紀久プロデュ―サー、山口雄大監督

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公開中の『HiGH&LOW THE RED RAIN』(以下『THE RED RAIN』)は、EXILE HIROが総合プロデュースし、EXILE TRIBEや若手実力派俳優らが総出演する一大プロジェクト『HiGH&LOW』の映画第二弾だ。さまざまなチームが“SWORD地区”と呼ばれるエリアを舞台に激しい戦いを繰り広げた前作『HiGH&LOW THE MOVIE』をへて、今回はシリーズ屈指の人気キャラクター・雨宮兄弟(TAKAHIRO、登坂広臣、斎藤工)の知られざる過去と人物像が掘り下げられている。メガホンを撮ったのは、『珍遊記』の山口雄大監督だ。インディペンデント映画出身で、一風変わったテイストで知られる山口監督が、なぜ『HiGH&LOW』に携わることになったのか? そのカギを握るのは『THE RED RAIN』でプロデューサー・脚本をつとめる平沼紀久氏。脚本家集団・Team HI-AXを率い、シリーズの根幹を作り上げてきた平沼氏と山口監督には、実は意外な共通点があったのだ。今回のインタビューでは、山口監督と平沼氏に『THE RED RAIN』がめざしたものから、『HiGH&LOW』がジャンルを超えて愛される理由など、前・後編の2回にわたって事細かに語ってもらった。

 

‟ミスターHiGH&LOW”が果たした役割とは
 

(c)2016「HiGH&LOW」製作委員会

(c)2016「HiGH&LOW」製作委員会

 

――前作『HiGH&LOW THE MOVIE』(以下『THE MOVIE』)がお祭りのような映画だったのに対して、『HiGH&LOW THE RED RAIN』(以下『THE RED RAIN』)には王道アクション映画の印象を受けました。

山口:前作のテンションは久保(茂明)監督のものだし、違う広がりを持たせたいという思いもあったので。挑戦にはなるけれど、今までの『HiGH&LOW』の世界を引きずりつつも映画として体裁が整っていて、なおかつド直球の感動モノをやろうという狙いはありました。今後、鬼邪高校(編注:劇中で山田裕貴が率いるチーム)みたいなコミカルなものになるかもしれないし、達磨一家(編注:林遣都が率いるチーム)みたいなテイストになるかもしれないです。

――『THE MOVIE』は映画ではあるんですが、アルバムやライブにまで広がって、色んな意味で映画の枠を超えてしまっている。

山口:そうなんですよ。『THE MOVIE』の「映画を超える」というキャッチコピーは、普通に考えると、「えっ?」ていう感じですが、実際に映画を超えてしまっている部分もあるので。なかなか本質を言い当てているし、すごいと思います

――『THE RED RAIN』のキャッチコピー「強く、生きろ」も映画を観れば「確かにそのとおりだ」と思います。

 

(c)2016「HiGH&LOW」製作委員会

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山口:あれはHIROさんが「強く、生きろ」というキャッチコピーとビジュアルを見てから、尊龍が「強く、生きろ」と言うシーンを追加撮影してますからね。

――え!?

山口:「『強く、生きろ』っていいよね。もっと、『強く、生きろ』感出していこうよ」とおっしゃるので、HIROさん発信で追撮しています。なかなか、こういう映画作りはできないですよ。最近の映画は“出来てしまえばそれまで”ですよね。(『HiGH&LOW』は)色々と後から吸収して、追加する。当然お金はかかるんですが、「そこは出すからいいよ」と。『HiGH&LOW』には、そういう強みがあります。

――意思決定がはっきりしていて、いい意味でトップダウンがうまく働いていると。『HiGH&LOW』は製作委員会方式で作られてはいますが、基本的にHIROさんの大きなコンセプトからブレがないですよね。

山口:これまで映画を作ってきたなかで、プロデューサーからわけのわからないオーダーを受けたこともありますが、HIROさんの言うことは的確で「たしかにそうだよな」と思うことが非常に多い。もちろん、(実行に)手間はかかりますよ。もう一回撮影することになったら、プロダクションはなかなか大変です。でも、状況を整えてくれて、「だからやって」と言われると、説得力もある。映画製作としては素晴らしい枠組みだと思います。

――予算と環境をきちんと用意してくれるのが素晴らしいですね。

山口:アメリカ映画だと、スニークプレビュー(内覧試写)をやってから追撮するじゃないですか。本来はそれがユーザーにとってはいいはずなんです。日本映画は出来が悪いと、みんなが下を向いて試写室から出てきて、それで終わり。「下を向く前になんとかしろよ!世に出す前なんだからさ」と思いますよね。自分のブランドで出す以上は最高のものにしたいし、恥ずかしいものは出せないという思いが、HIROさんの中にはすごくあります。

――追加されるものも具現化していくのが、山口監督や脚本家のみなさんの仕事なわけですね。そして、“具現化”の根幹をなす脚本家集団・Team HI-AXを率いてらっしゃるのが、平沼さん。

山口:そうですね。“ミスターHiGH&LOW”ですから。

――平沼さんは10年ほど前にLDHに入られたんですよね。

平沼:その前にトップコートという事務所にいて、HIROさんとはトップコートにいる前から親睦というか交流がありまして。その流れでLDHに入りました。

――『HiGH&LOW』の企画段階から関わってらっしゃるわけですね。よくこんな、マーベル映画(『アベンジャーズ』など)のような巨大なプロジェクトを思いつかれましたね。キャラクターごとに物語があって、それが一つにまとまって、さらに広がっていく。これはHIROさんが最初から決めていたことなんですか?

平沼:HIROさんの中ではすでに決まっていました。ざっくりとしたイメージが最初にあって、その中でストーリーよりもキャラクターを重視する作り方をしていく。最初はカニ男(八木将康)から始まったんですが、キャラクターが増えていって、「このキャラクターのバックボーンはこうだよね」と、ストーリーが生まれていきました。その中で生まれたのが雨宮兄弟です。そこから、「二人の兄弟だったら、長男は絶対いるよね」とキャラクターを膨らませてストーリーを作っていきました。

――最初からTeam HI-AXで作っていったんですか?

平沼:最初はHIROさんとぼくが話をしていたものを、渡辺啓(編注:平沼氏とともにHystaric・D・Bandとして活動する脚本家)を入れて一緒に構築していく、という流れです。

――脚本家がチームなのも日本では珍しいですよね。海外ではよくありますが。

平沼:HIROさんが最初に「例えば脚本家をジョージ・スピルバーグっていう架空の名前にして、『誰なんだこいつは?』となると面白いよね」とおっしゃったので、Team HI-AXが決まりました。「作家集団って何なんだ?」と思わせたいというところから。

 

『珍遊記』監督が『HiGH&LOW』に参加するまで

 

(c)2016「HiGH&LOW」製作委員会

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――山口監督がドラマの『HiGH&LOW』から参加していたのは意外でした。きっかけは何だったのでしょう?

山口:ぼくはもともとはプロジェクトに入っていなくて、「こういうのやるんだ。凄そうだな」くらいに思っていました。去年の9月ごろ、日本映画学校の同級生で、『魁!!クロマティ高校』なんかを一緒に作った中林千賀子プロデューサーから連絡があったのがきっかけです。撮影スケジュールが押しすぎちゃって、久保監督が『THE MOVIE』の現場に入らなきゃいけなくなったので、シーズン1の9、10話(達磨一家の回)を撮れなくなってしまった。それで、「何とか(ドラマの監督を)やってくれないか?」という話があったんです。彼女は普段は大阪の肝っ玉おばちゃんみたいな人なんですが、弱々しい口調だったので、「助けてあげないといけないのかな」と思ったんです。

――ほんとにたまたまだったんですね。

山口:最初の電話では、作品が『HiGH&LOW』とは聞きそびれてしまって、軽い気持ちで現場に行ったんですけど、後からよくよく聞いたらこれで(笑)。なかなかのビックプロジェクトで途中から入るのはちょっとプレッシャーでしたし、すぐ撮影しなきゃいけない状況だった。その段階で3話くらいまでできていたんですけど、3話まで観ても、人物相関図をみても、脚本を読んでも、まったく頭に入ってこないんですよ。「どうしよう、どうしよう」と思いながらも、手探りでやるしかないと思いました。現場に入ったら、キャストのみんなのほうがぼくなんかよりキャラクターをわかっていたので、「(このキャラは)こういう時はどうするのかな?」と話を聞きながらやっていくうちに、わかっていったところはあります。ただ、達磨一家に関しては、ほとんどの部分を自分でやれたので、林遣都くんと「こうしてみようか」「ジョーカーみたいなのやらない?」と色々話しながら作れたので楽しかったです。

――参加されたころには、だいたいのキャラクターができあがっていたんですね。

山口:全部できあがっていて、それをまとめるのがぼくの役割でした。一からあれを考えろ、と言われたら絶対できないですね。ああいうセンスはぼくにはない。HIROさんもノリさん(平沼のこと)も、すごくキャッチーなセンスをもってるんです。ノリさんはみんなが言いたくなるようなセリフを書いてくるんですよ。結構まじめに書いちゃう脚本家が多いんですけど。

平沼:本業は俳優ですから(笑)。

山口:そう、本業は俳優ね(笑)。俳優だからこそ“言いたいセリフ”みたいなものを書いてるのかな、と。なかなか日本の脚本家でこのセンスを持っている人はいないと思います。

――パワーワードがたくさん出てきますよね。スモーキー(窪田正孝)の「だったらお前は助からない」とか。

山口:広斗だと「よくもまあ群れやがって」とか。あのセンスは凄いですよ。

――独特のセリフは、平沼さんが考えられていたんですね。

平沼:「無名街はよく燃えますね」もぼくです(笑)。渡辺はそこをわかってくれていて、彼が「思いつかない」と言うセリフをぼくが書くことが多いです。脚本家の方はみなさん「役になりきって書く」と言いますが、ぼくは役になりきってセリフを言います。動きながら芝居もするんです。

 

(c)2016「HiGH&LOW」製作委員会

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――話は戻りますが、平沼さんは山口監督の『HiGH&LOW』への参加をどう思われました?

平沼:ドラマの監督候補はほかにもいたんですけど、久保監督以外では雄大さんが演出したエピソードはすごくよかったですよね。雄大さんは泥臭い部分、男っぽいイメージを出してくれてますし、『HiGH&LOW』の女の子が「キャー!」と言うだけじゃない、男のカッコよさというもの出してくれる。だから、雄大さんはいいな、とみんなが納得しました。

山口:でも、最初はLDHの社内がザワついたらしいですよ、マグニチュード6くらいで。山口事変というらしいですけど(笑)。やっぱり、最初は「大丈夫かこいつ?」と思ったらしいです。

――『珍遊記』の監督が『HiGH&LOW』を演出するとは思いませんからね(笑)。

山口:シーズン1が終わって、休む間もなくシーズン2に入りました。大晦日まで打ち合わせしていましたから。シーズン1を気に入っていただいて、「よかったな」と思っていたら、「シーズン2もやる?」という会話もないままスケジュールが入っていたんです(笑)。でも、それはすごくうれしかったです。シーズン2は、全10話の話を作っていくところから入れるので、広がりがあるじゃないですか。それぞれのチームの深い部分、「なんでこの人たちはこうなんだろう?」と探りながらやれたので、面白いな……と思っていたら、『THE RED RAIN』の話になっていて。『THE RED RAIN』では、ようやく「やる?」って訊かれました(笑)。

――何が決め手で山口監督が『THE RED RAIN』を担当することになったんですか?

平沼:雨宮兄弟は何もしなくてもカッコいい兄弟なので、内側から見える男を見せたいと思っていたからですね。あとは、ぼくが雄大さんの人間性がすごく好きだから。話しやすいし、一緒に作りやすい。

山口:なんだか恥ずかしいですね(笑)。

――通じ合ってますね。

山口:絆です。

平沼:「この絆、永遠」です(笑)。

 

(c)2016「HiGH&LOW」製作委員会

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次回、【後編】では、『HiGH&LOW』がジャンルを超えて愛される理由に迫る。

映画『HiGH&LOW THE RED RAIN』は上映中。


取材・文・撮影=藤本洋輔

作品情報
映画『HiGH&LOW THE RED RAIN』
 
(c)2016「HiGH&LOW」製作委員会

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出演:TAKAHIRO 登坂広臣 斎藤工 
企画プロデュース:EXILE HIRO 
監督:山口雄大  
脚本:松田裕子、牧野圭祐、平沼紀久、渡辺啓 
企画制作:HI-AX 
製作著作:「HiGH&LOW」製作委員会 
配給:松竹 
公式サイト:http://high-low.jp/

【あらすじ】
かつて、SWORD地区一帯を圧倒的な力で支配していたチーム・ムゲンと並び最強と称された兄弟がいた。雨宮雅貴(TAKAHIRO)と雨宮広斗(登坂広臣)、「雨宮兄弟」である。彼らは、一年前に突如姿を消した兄・雨宮尊龍(斎藤工)を探し続けている。幼い頃に両親を失くした三兄弟の絆は固く、尊龍は弟たちに「拳は、大事なもんを守るために使え」と言い聞かせていた。両親を亡くしてからずっと、支え合って生きてきた。両親の命日、参拝に訪れる雅貴と広斗。消えた尊龍が現れることを期待していたが、そこに現れたのは尊龍の行方の手がかりを知る人物だった・・・。尊龍は雅貴と広斗をおいて、なぜ突如姿を消したのか?ある目的を果たそうと目論む人々と、尊龍との関係が紐解かれるとき、雨宮兄弟の過去に隠された秘密が明かとなる。

(c)2016「HiGH&LOW」製作委員会

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