デビュー10周年を迎えたチェリスト・新倉瞳がカフェライブで”素の私”を見せる
新倉瞳(チェロ) 撮影=荒川 潤
デビュー10周年を迎えた新倉瞳選んだ「私が“ここ”で聴きたい曲」 第44回“サンデー・ブランチ・クラシック” 9.11ライブレポート
9月11日(日)、eplus LIVING ROOM CAFE&DININGは多くの人で賑わっていた。登場してくれたのは、5日後にサントリーホール ブルーローズでのデビュー10周年記念コンサートを控えていたチェリストの新倉瞳。『サンデー・ブランチ・クラシック』には、昨年12月以来2度目の出演となる。この日の演奏は、ホールでのコンサートとはまた違う雰囲気で、新倉のパーソナルな部分に触れられるものとなった。
黒いシックなワンピースに身を包み、ステージに一人登場した新倉は、まず、ソロでバッハ作曲「無伴奏チェロ組曲」第1番を披露。これは、10周年記念コンサートのプログラムにも用意されていたもので、一足先に堪能することができた。
演奏中の新倉 撮影=荒川 潤
演奏を終え、「本日は、ようこそお越しくださいました。短い時間ではございますが、演奏とお食事をお楽しみ頂きながら、素敵な時間を一緒に過ごせればと思っております」と挨拶した新倉。そして、傍に置かれたグランドピアノを見て「前回出演させて頂いた時は、木目調のアップライトピアノだったんですけど、なんとグランドピアノが入ったんですね!」とカフェの変化に目を輝かせていた。
そして早速、そのピアノを演奏するピアニストを呼び込む。この日、新倉と一緒にステージを作り上げてくれたのは、スイス在住で公私ともに仲が深いという櫻井さやか。前日に日本に帰ってきたばかりという強行スケジュールだったが、「時差ボケはないので大丈夫なんです」とニコニコとピアノに向き合った。
(左から)櫻井さやか、新倉瞳 撮影=荒川 潤
2人が揃ったところで、続いて演奏されたのは、サンサーンス作曲の「白鳥」。チェロの深い音色が、優しいピアノの伴奏に乗って大きく羽ばたいていく。なんとも心地よい瞬間の訪れだ。新倉は、前回の出演時のことを振り返りながら「お食事の音がする中での演奏は、普段はあまりないものですけど、皆さんと距離の近さを感じられてよいものですね」と語っていた。
カフェでの雰囲気を感じながら 撮影=荒川 潤
3曲目には、このカフェでの演奏することを意識して選んだというラフマニノフ作曲「チェロ・ソナタ ト短調」Op.19 より第3楽章を聴かせてくれた。新倉は、日本にいる時にプライベートでもこのカフェを時々訪れているそうで、「このアンティーク調の店内は、ジャンル問わず音楽を楽しむ空間に最適だなぁと、伺う度に感じます。きっと、この曲の持つジャジーな雰囲気も合うだろうなと思って選んでみました」と選曲の意図を明かした。曲名はチェロ・ソナタとしつつも、チェロとピアノのために書かれたこの曲は、確かに演奏者と観客がいいバランスで向き合うこの空間にぴったりだ。なお、この曲は新倉が5月に発売したライブ録音CD『新倉瞳 with 佐藤卓史 ~俊英たちの瞬間(とき)』の中にも収められている。
新倉瞳(チェロ) 撮影=荒川 潤
スイスに渡ってから、様々な経験を通して、音楽はもちろん、考え方や興味を持つ方向性なども変わったという新倉。櫻井も「空気感も違えば、言葉も生活習慣も違いますが、それを理解することでヨーロッパで生まれた音楽への理解も深まっているような気がしています」と語っていた。そんな話を象徴するように、最後は“日本では絶対に知ることのできなかったもの”として、前回の登場時にも紹介してくれたクレズマー音楽から1曲聴かせてくれた。
熱い拍手に応え、再びステージに舞い戻った2人。アンコールでは、エルガー作曲『愛の挨拶』を演奏、さらにダブルアンコールには歌を交えた演奏で応え、喝采を浴びた。
新倉瞳(チェロ) 撮影=荒川 潤
気心の知れた櫻井との演奏ということもあり、終始リラックスした様子で、楽し気な演奏を聴かせてくれたこの日の新倉。この日のライブについては「前回はCDの発売に合わせたプログラムでしたが、今日は、自分がここで聴きたい曲はどんな曲かな?ということを考えながらプログラムを組みました。その結果、素の私が出せたんじゃないかなと思います」と、終演後のインタビューに答えてくれた。
櫻井も、「リハーサルよりお客様が入ってくださった時の方が全然演奏しやすかったです。お客様が入ることで、全体が完成するんですね。瞳さんと一緒ということもあって、とても楽しい時間でした」とカフェでの演奏を存分に楽しんだようだ。
インタビューの様子 撮影=荒川 潤
10周年を迎えたことについて聞くと、新倉は「あっという間で、いろいろあったなと(笑)。変わっていない部分や同じことで悩んでいると思うこともありますが、物事に対する見方がシンプルにできたというのが、この10年を歩んだ実感です」と話してくれた。
「人の耳に、音が入っていく瞬間が分かるような、聴いてくださる方の感受性や集中力をダイレクトに感じました。やっぱりステージって、演奏者だけではなく会場全体で作り上げていくものですね」と2度目のカフェライブを振り返った新倉。10周年を迎え、さらに磨きがかかる感性に、今後も期待したい。
終演後にはお客様と会話も 撮影=荒川 潤
なお、新倉と櫻井がこの日着ていた衣裳は、伊勢丹新宿店とのコラボで新倉自身がデザインしたものだと言う。「演奏家として着やすく、音楽に寄り添えるもの。そして、演奏会にお出かけになる方にも着やすいもの」というコンセプトの元デザインされた洋服なので、日頃、演奏会に足を運ぶ上で服装に迷いを感じられている方は、ぜひ参考にしてみてはいかがだろうか。
(左から)櫻井さやか、新倉瞳 撮影=荒川 潤
『サンデー・ブランチ・クラシック』次回もお楽しみに!
8歳よりチェロを始める。当時ドイツにて、ヤン・ヴィミスリッキー氏に師事。11歳で帰国後、毛利伯郎氏に師事。桐朋学園大学音楽学部を首席で卒業、卒業時には皇居桃華楽堂新人演奏会に出演。室内楽を徳永二男、原田幸一郎、毛利伯郎の各氏に、桐朋学園大学研究科において堤剛氏に師事。2003年、『いしかわミュージックアカデミー』IMA音楽賞を受賞し、アメリカ/アスペン音楽祭に奨学生として参加。宮崎国際音楽祭、鎌倉芸術館ゾリステン、プロジェクトQ等にも出演。桐朋学園大学在学中の2006年にはCDデビューし、以後様々なメディアに取り上げられTV、ラジオへの出演多数。2009年には森下仁丹ビフィーナのCMキャラクターにも抜擢された。2010年よりスイスに留学し、バーゼル音楽院にてトーマス・デメンガ氏に師事。2015年には、ポルトガル/リスボンで開催された『Internacional Verao Classico 2015』チェロ部門にて第1位受賞。また、カメラータ・チューリッヒのソロ首席チェリストに就任、室内楽奏者としての活躍も目覚ましい。今、一番目が離せない若手女流チェリストである。最新CDは、2016年5月に「新倉瞳with佐藤卓史 ~俊英たち瞬間(とき)」(WWCC7811)がリリースされている。現在、キットカットショコラトリープレミアムシアターにて、自身作曲の「NEXT STEP」を紹介中。(株)日本ヴァイオリンより名器特別貸与者としてC.F.Landolfiを貸与されている。
櫻井さやか(ピアノ)
バーゼルを拠点に欧州各地及び日本にてソリスト、室内楽奏者として活躍中。東京学芸大学芸術課程G類ピアノ科及び同大学院修了後、バーゼル音大にてピアニスト、R. ブッフビンダー氏のもとで更なる研鑽を積む。バーゼル音楽大学及びリースタル州立音楽学校講師。高崎市出身。
千葉清加/ヴァイオリン&坂本真由美/ピアノ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: 500円
11月13日
林美智子/メゾ・ソプラノ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: 500円
公式サイト:http://eplus.jp/sys/web/s/sbc/index.html