維新派『トワイライト』松本雄吉インタビュー到着!

インタビュー
舞台
2015.8.25
 撮影/井上嘉和

撮影/井上嘉和

「今回はすごい名作になるんちゃうかなあ」(松本)

大阪を拠点にしながらも、様々な場所で独特の野外劇を作っている劇団「維新派」。昨年上演した『透視図』では、大阪の街のど真ん中に幻の川を出現させるなど、相変わらずスケールの大きな世界を作り上げていた。そして今年は、その『透視図』の会場からは電車&バスで2時間半も離れた所にある奈良県・曽爾村(そにむら)の運動場で、新作『トワイライト』を上演する。劇団主宰で構成・演出の松本雄吉に、今回の会場の様子や作品の構想について話を聞いてきた。

松本雄吉 ©Clippin JAM

松本雄吉 ©Clippin JAM


■現実の土地なのに、現実感が希薄になる時がある場所。

──今回は『透視図』とはまったく対照的な場所ですね。

 大阪でやったら、次は(大阪と奈良の県境の)生駒山を超えたくなるんですよ。要所要所で奈良に行きたくなる(笑)。

──行きたくなる理由は何だと思いますか?

 古代とつながってる感じがするからかな。同じ古都でも京都は中世だけど、奈良は土の文化というか、古代のものが埋まってるという。そういう所をベースにして作品を作ると、すごく風景として奥行きを感じられると、直感的に感じとってるのかもしれない。あとね、奈良って誰を連れていっても「ホッとする」と言うんですよ。劇団員とかも奈良をそんなに知らんのに、下見に連れて行くとすごく喜ぶんです。知識じゃなくて、身体的な所で共感する所が大きい土地という気がします。

──確かに奈良の自然って、すごく手つかずで古代のままという雰囲気があります。

 特に曽爾村って、周辺に奇岩の山が多くてね。村長さんに言わせると、海底火山が爆発してできたから、海の記憶がある山だと。

──維新派の台詞に出てきそうな言葉が。

 でも山に行ったら、パアッと海を幻視するってみんなあると思うんですよ。今回の会場のグラウンドでも、それを感じる時があるんです。実際この場所を見た時に「絶対海のシーンをやろう」と、ストーリーを考える前から決めましたからね。たまに霧が降りてきたりして、現実の土地やのに現実感がごっつい希薄になる時があって、すごく架空の物語を作りやすい場所です。

──ストーリーテラー的な存在の人は出てくるんですか?

 (前々作の)『MAREBITO』にも出てきたワタル君が主役です。少年のワタル君と大人のワタル君が出てきて、今はどちらの時代なのかという。そこに女の子も1人加わって、さらに時間がややこしくなります(笑)。最近ね、山下澄人の小説にハマってるんですよ。突然過去に行ったり、記憶違いの世界に入ったりと、整合性のない書き方なんですけど、それがすごくしっくり来る。もしかしたら本当は、そんな混濁状態の方が人間はリアリティを持てるのかもしれないし、それを舞台でやったらどういうことになるんかなあと。だから今回、時間や空間の整合性はあまり考えずに話を作ってみようと思っています。整合性を付けるためにダラダラと話すんじゃなくて、飛んでみたり、あるいは落ちたりとかできたらなあと。

──先ほどの女の子は、整合性をひっかき回すような役になるんですか?

 それと、今回テーマにしているのが「自分の記憶の隅に追いやっている存在の人間」なんです。劇団員にも聞いてみたら、やっぱり結構おるんですね。そういう子はたいてい頭が悪いとか、ドン臭いとか…。でも人間って、そういう人を遠ざけたいと思いつつも引き付けられるという、矛盾した気持ちが働くんですよ。それってひょっとしたら、神様に近い存在とちゃうかな。ある時はすごく離れているけど、ある時には都合よくこっちに引き寄せるという。そう考えたら、猿田彦とか布袋様のような異形神って、何かそんな感じがあるでしょう? そういう存在を、主人公に絡ませたいと思ってるんです。

──『MAREBITO』でも異形神のヒルコが少女の姿で出てましたけど、松本さんの中ではそういう神様って少女のイメージが強いんですかね?

 ああ、そうですね。やっぱり女は、俺の中では神様やから(笑)。

『MAREBITO』(2013年) 撮影/井上嘉和

『MAREBITO』(2013年) 撮影/井上嘉和



■様々な地図を幻視することで、自分の頭の中の「地図」を探る

──今回は「地図」もメインテーマの一つだそうですが。

 この公演の後に、林(慎一郎/極東退屈道場)君と芝居を作るんですけど、それが「(大阪府)豊中市を地図的に見る」というテーマで。それについて考えていたら、曽爾村もそっちの目で見るようになってきて、広いグラウンドにいろんな地図を描くという発想で作ってみたくなりました。日本列島の地図やヨーロッパの地図、世界の難民の地図や政治犯の地図とかを、とりとめもなく描いていきます。あるいは地図の図形美…たとえば津軽湾は鳥のような形をしているとか、世界中のいろんな場所を図形としてとらえながら見ていく。そういった地図のあれこれを、役者の身体を使って、お客さんに幻視してもらおうと思っています。でもこれ、地図に興味がある人とない人で、楽しみ方違ってくるやろうなあ。最近はみんな、あまり地図見ないでしょう?

──見たとしても、スマートフォンの画面上の切り取られた地図とかですかね。

 大局的に見ないよね。でもそれも、一種の地図感覚なんです。すごく断片的な地図を、人間は一番持ってるんとちゃうかなあ。引っかかる物がそれぞれ違う…電柱に貼ってるポスターとか、赤提灯の店とか、そういう要素で「自分だけの地図」というのを持ってると思うんです。地図そのものは虚構性というか、架空なんですよ。その架空性を目の前に出した時に、お客さんがその先に何を見てくれるか? という。

──様々な地図を改めて見ることで、自分の脳内の地図を確認するというか。

 そうやね。人間ってやっぱり、頭の中に浮かんだ断片的な事象とか、風景とか、そういうものを組み立てて自分の世界を作ってるんかなと思う。現実の地図と自分の地図の曖昧さを感じ取るというか…揺れる地図、境界の危うい地図が描かれるんやろうなと思います。

──この会場ならではという仕掛けや演出は、何か考えてますか?

 場所がまさに運動場やから、前回に続いて役者は走ってばっかりです。「走る」と「歩く」はキーワード。あとは実距離を実距離としてやる感覚と、実距離を虚構距離みたいにやれる楽しさがあると思います。「ここは曽爾村の運動場ですよ」と言うのと「ここは月ですよ」と言うのと、そのどっちの言葉にもリアリティが持てるんやろうなあっていう。さっきの整合性の話で言うと、日本の地図が急に宇宙地図に飛ぶ、というようなことができるんじゃないかと。芝居の内容自体も、2つの時間が二層に重なる感じになるやろうから、その虚構と現実の往復関係がどうなるのかが、今から楽しみです。あと、空を見るための時間は絶対に作ります。せっかく星がよう見える場所やからね。

──それこそ曽爾村まで行かないと、決して見られない世界になりそうですね。

 でも今回の芝居、ひょっとしてすごい名作になるんちゃうかなあという気がしてるんですよ(笑)。今までとやり方とか書き方を、ごっつい変えてやりますから。

『透視図』(2014年) 撮影/井上嘉和

『透視図』(2014年) 撮影/井上嘉和

イベント情報

維新派『トワイライト』​

日時:9月19日(土)~27日(日) 午後6時
会場:奈良・曽爾村健民運動場
料金:一般5,000円 学生・25歳以下4,500円
構成・演出:松本雄吉
音楽・演奏:内橋和久
公式サイト:http://ishinha.com/

※雨天決行。荒天の場合中止。
※屋台村あり。午後5時から開場。

シェア / 保存先を選択