【SPICE単独連載】「プロ野球死亡遊戯」の中溝康隆がWBCを語る<第1回「WBCの2006年日本代表チームを振り返る」>

コラム
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2016.12.26
WBC第1回大会

WBC第1回大会

第1回WBCの日本代表チームを振り返る【バック・トゥ・ザ・WBC 第1話】

青木宣親が日本代表に帰ってきた。

09年の第2回大会以来の日本代表メンバー選出。06年の第1回大会では24歳だったヤクルトの若手選手が、35歳のメジャーリーガーとなり迎える自身3度目のWBC。第1回大会ではチームの主力のほとんどは70年代生まれだったが、すでに発表済みの第4回大会メンバー19名中6名は90年代生まれの選手だ。たかが10年、されど10年。初めてのWBCが開催された2006年のスポーツ界では、トリノ冬季五輪でフィギュアスケート荒川静香がイナバウアーで金メダル獲得。サッカードイツW杯のジーコジャパンは崩壊して大会後に中田英寿が29歳の若さで現役引退。任天堂からWiiが発売され、グラビアアイドル界はほしのあきが全盛期を迎え、忘年会のカラオケでは修二と彰の「青春アミーゴ」が歌われまくった近いようで遠い10年前の記憶。今回は2006年に開催された第1回WBCの日本代表チームを振り返ってみよう。

船出は前途多難だった。16の国と地域が参加して世界一を争う野球版W杯『ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)』。もちろん日本代表の指揮官は王貞治。そんな夢溢れるコンセプトも、3月という開催期間の問題もあり選手選考は難航。各国代表の中心選手たちがシーズン優先で続々と出場辞退する中、日本でもメジャーリーガーの松井秀喜と井口資仁が辞退。WBC後に発売された『王の道』(飯田絵美著)によると、第2ラウンドが行われたアメリカでの食事はミールクーポン(食券)が1人100ドル支給されたのみ。独立リーグの話ではなく、国を背負って戦う代表チームの悲しいリアルだ。アテネ五輪では現地に日本の食材を大量に輸送し、同行した一流シェフ達が和食を作ったことを考えると、10年前のWBCの微妙な立ち位置がよく分かる。それでも、指揮官の王には「決勝リーグからはミールクーポンも150ドルに上がったんだよ」と笑い飛ばす器のデカさがあった。選手の決起集会では当時32歳のイチローが自腹を切って焼肉をふるまいチームを鼓舞。第1回WBCの日本代表は、名実ともに世界中の野球関係者からリスペクトを受ける「世界の王」と「天才イチロー」を中心に回っていたと言っても過言ではないだろう。

東京ドームで行われたアジアラウンドでは、中国と台湾にコールド勝ちするも3戦目に韓国に敗れて2位通過。戦前、イチローが「相手に30年は勝てないと思わせるような戦い方をしたい」とシュートマッチ発言で不穏な雰囲気になるが、皮肉にもこのコメントにより世の中のWBCに対する注目度は上がった。アメリカに舞台を移した第2ラウンド、初戦のアメリカ戦で国際大会に無類の強さを見せる先発・上原浩治が好投するも、西岡剛のタッチアップを巡り、デービッドソン球審は離塁が早かったとしてアウトの宣告。この世紀の誤審にたまらずベンチを飛び出す王監督。ちなみに某巨大電気屋のテレビ売り場のコーナーで観ていた客たち(俺)もこのシーンには1億総突っ込み。いつの時代も人は理不尽な何かに怒った時に団結する。もちろん判定は覆らず試合にも3対4で敗れたものの、この事件がチームに一体感をもたらした。

続くメキシコ戦に先発・松坂大輔の好投もあり勝利すると、第2ラウンド3戦目はまたもや韓国戦。しかし、8回裏に藤川球児が決勝タイムリーを浴び1対2で競り負ける。勝利直後、マウンドに突き刺した韓国国旗が物議を醸した屈辱の敗戦。これで終わりか……。誰もがそう思った翌日、なんとすでに敗退が決まり前日はディズニーランド観光していたメキシコ代表がアメリカ代表に競り勝ち、失点率でアメリカを0.01上回った日本代表は奇跡の決勝トーナメント進出。こうなると、勢いに乗った王ジャパンは準決勝で三度対峙した韓国を破り、決勝でキューバを圧倒して、最後はクローザー大塚晶則が締めて第1回大会の優勝を決めた。準決勝の韓国戦で見せた福留孝介の代打ホームランや、決勝戦でキューバを驚かせた川崎宗則の神の手スライディングは今でも語り草だ。

イチローにとってもこの大会は大きな意味を持つものになった。MVPこそ3勝を挙げた松坂大輔に譲ったものの、33打数12安打の打率.364、1本塁打、5打点、5盗塁、7得点という堂々たる成績で外野ベストナインに選出。これまでその圧倒的な実力から野球の求道者イメージの強かった男が、時に感情を露わにチームを鼓舞する人間くさい姿は日本のファンの51番像を大きく変えた。まさにキャリアの分岐点。「孤高の天才バッター」から、「新時代のリーダー」へ。

そして、第2回大会でイチローはあの伝説のヒットを放つことになる。
to be continued……

(参考資料)
『王の道』(飯田絵美著/メディアファクトリー)
『週刊プロ野球 セ・パ誕生60年 2006-07』(ベースボール・マガジン社)

イベント情報
World Baseball Classic 2017(ワールドベースボールクラシック2017)

WBC強化試合
開催日:2017年3月3日(金)~3月6日(月)
会場:京セラドーム大阪

WBC 1次ラウンド
開催日:2017年3月7日(火)~3月11日(土)
会場:東京ドーム

WBC 2次ラウンド
開催日:2017年3月12日(日)~3月16日(木)
会場:東京ドーム

 

プロフィール
中溝康隆(なかみぞやすたか)

1979年埼玉県生まれ。大阪芸術大学映像学科卒。
デザイナーとして活動する傍ら、2010年よりブログ「プロ野球死亡遊戯」を開始。累計6900万PVを記録し話題に。
昨年は初の単行本「プロ野球死亡遊戯 そのブログ、凶暴につき」(ユーキャン)を上梓。
3月25日には著書「プロ野球死亡遊戯 さらば昭和のプロ野球」(ユーキャン)と「隣のアイツは年俸1億 巨人2軍のリアル」(白泉社)が2冊同時発売された。

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>>ベースボールチャンネルにてコラム連載中(毎週金曜日更新)
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ほぼ日刊イトイ新聞主催「野球で遊ぼう。」にライターとして参加。

 

2006 WORLD BASEBALL CLASSIC 日本代表メンバー/個人成績
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