SHE'S・井上竜馬が初のフルアルバム制作で向き合った自身の記憶と滲むルーツとは
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SHE'S・井上竜馬 撮影=風間大洋
ついに完成した、SHE’Sのメジャー1stアルバム『プルーストと花束』。バンドにとって初のフルアルバムとなる本作では、瑞々しいポップネスや印象的に登場するピアノの音色、随所に香る洋楽のエッセンスといった彼ららしさはそのままに、ロックバンドとしての力強さやライブ感といった部分がグッと色濃くなった。また、歌詞の面においては、バンドのフロントマンにしてソングライターである井上竜馬が自身の記憶、いわば過去と深く向き合いながらの制作をおこなったという。2016年、音楽シーンの中で着実に存在感を増してきた彼らが、これから歩みだすデビュー2年目の一年を前に、何を思い、体現したのだろうか。じっくり聞いた。
――まず、1枚フルアルバムを完成させてみて、竜馬くんとしてはどんな作品になったと思っていますか。
いろんな感想はあるんですけど、まず個人的にすごく恥ずかしいというか。
――恥ずかしい?
すごい“自分な”アルバムになってしまったなぁということを思って(笑)。今回、自分の中の記憶を辿りながら曲を作っていったことで、今までよりパーソナルな1枚になったなぁというのは、改めて聴いて思いました。
――タイトルの“プルースト”の意味からして、そういう性格の作品ですしね。結果、普段隠してる部分までガバっと見せちゃって、丸見えみたいな。
そうですね(笑)。音楽的な部分でいうと、今までのミニアルバムと作り方そのものは変わってないんですけど、自分のできる範囲で楽曲のバリエーションを増やしていこうと思いながら書いた1枚やったんで、好きなこともできつつ、曲順とかも含め、綺麗にまとまったアルバムができたなと思いました。
――おさらいになりますが、以前のインタビューでは「シングル2枚で違った面を打ち出してからアルバムへ」という考えをお話しいただきましたけど、制作時期としてはいつごろから着手したんですか。
6月に2ndシングル「Tonight」のレコーディングを終えてから、すぐでした。曲の原型はもっと前からできていた曲もあって、「プルースト」とかはもう少し前からあったし、「Ghost」も元々、2ndシングルをバラードにしようって決まったときに5曲くらい書いたうちの一つなんですけど、これはアルバムに回そうとなった曲で。だから3~4月くらいにはできてたのかな? その他はわりと制作時期に入ってからの曲が多かったですね。
――サウンド的には、ロックバンドらしさがハッキリと前面に出ている気がしたんですよ。
そうですね、うん。
――SHE’Sはピアノロックバンドと謳われてきましたけど、特にその“ロック”の部分が聴こえてきて。その辺りはどんな意識だったんでしょう。
アルバムに着手しはじめたとき、やりたいことはめっちゃ多かったんですけど、その上でまず肉体的なアルバム、楽曲ではありたいという認識があって。多分それは、去年と比べるとメジャー盤をリリースしてからの半年間で、よりライブバンドであろうとしたしライブに重きを置いていたからで、そこが今の自分たちに足らない部分やなとも思っていたから。……一作品として作り込んだものをっていう考えも好きなんですけど、そこは一つの要素として、全体としてはライブで映える曲でロックバンド感みたいなものを出せたらなぁと思ってて。
僕のソロだったらロックバンド的でないものもやりたいですけど、この1枚目のフルアルバムで「SHE’Sってどんなバンドや?」っていう見られ方をするわけだから、聴いてわかりやすいアルバムではありたいという意識はしていました。
――それはメンバー間でも共通認識として。
はい。ライブっていうワードはみんな思ってたことやし、共有は出来てましたね。結果、自分で聴いてもロックアルバム的な作品になったと思います。
SHE'S・井上竜馬 撮影=風間大洋
――「Say No」なんかはライブでシンガロングが起きる様が容易に想像できるというか。
したいですね。今までも「ウォーウォー」みたいなシンガロングはしてたんですけど、「No」っていう強い意志を持った言葉をみんなで歌えたら、それぞれの中で何か救われたりスッキリするやろなぁと思って。
――ちなみに、心の推し曲はありますか。
心の推し曲……これムズいっすね、ほんまに。全部好きなんですけど……えぇー?(熟考) ……個人的に一番SHE’Sの中で美しいなと思ったのは「Ghost」ですかね。最後の2曲は自分でも「美しいなぁ」と思えてるんですけど、「プルースト」を書いたときには、「これを世に出すまで死ねねぇ」と思いました。
――世に出すまで死ねねぇって思ったということは、「プルースト」はアルバム曲のつもりで書いた曲なんですか?
書き始めたときには、既にアルバムを出そうと思ってましたね。はじめから別にリードにするつもりでもなかったけど、これがすごく大事な曲になるんやろなぁって書きながら感じてて。やっぱり「プルースト」っていうタイトルがついて、アルバム全てのテーマとなる曲になりました。
――“記憶”というキーワードが出る前に、この曲が出来上がっていたわけですね。
そうです。で、この曲を書いてから、こういう風に昔のことを何かのきっかけで思い出すことってよくあるけど、その現象って名前はあるのかな?と思って調べたときに“プルースト効果”(※とあるきっかけで無意識下の記憶が蘇る経験を指す)っていうワードを知って。そこから「プルースト」っていう曲名をつけて、じゃあアルバム全体もそのテーマで書こう、っていう流れでした。
――過去にもプルースト効果で曲が生まれる経験はしてきたんですか?
ありましたね。でも以前はそういうことがあっても特に意識はしなかったし、浅いところで感じたり心に触れたことを書いていってたんですけど、今回は本当に奥の方まで記憶をほじくり返すというか。「プルースト」を書いたときみたいに、「あ、俺こうやって見逃したり、忘れようとして消してた記憶がいっぱいあるんやな」っていうこと、そこを洗いざらい清算しようっていうところからスタートしましたね。
――中には黒歴史みたいな記憶もあるわけですよね。
もちろん、いっぱいあります。そことも向き合いながら(笑)。
――それは曲になってるんですか。
ありますよ。「Say No」とか「グッド・ウェディング」なんかはそうですし、結構思い出したくないところから曲が出来ました。ずっと蓋をしてたんですけどねぇ(苦笑)。
SHE'S・井上竜馬 撮影=風間大洋
――いろいろ想像してしまいますが(笑)。ほかにも制作の上で、何か今までと変わってきたことはありますか?
個人としては、やっぱり作詞の面が一番変わっていってるなと思いますけど……楽曲制作に関しては全然俯瞰で見れないし、客観視もできないので、あまり変化を実感することは無いんですけど、制作する上での意志という点では、作っていた時もそうだし作り終えた今はもっと……曖昧な定義ですけど、洋楽感みたいな部分をもっと強くしたいなと思ってます。
――それはどういう部分で?
メロもそうですし、音響的な要素や音の入れ方、コード進行なんかも。そこはすごく思いますね。
――SHE'Sってもともと洋楽の香りのするバンドだと思うんですけど、洋楽にも色々あるじゃないですか。その中でどういう方向を見ているんですか。
えーと……俺の言っている洋楽感っていうものは結構ポップス寄りなんですね、アメリカとかの。そういうロックバンドもいますけど、わかりやすくてダイナミックなメロディの曲というか。UKの音楽はめっちゃ聴くけど、UKロックの音楽性をSHE’Sの主流としてやりたいとは思わないし、どちらかといえばUSのポップスとかのメロディの方が気持ち良くて、やりたいんですよ。
――そこでいえば、前回のインタビューで、「Tonight」のカップリングに入るはずだった“幻の曲”の話をしたじゃないですか。
あ、「グッド・ウェディング」。
――今回無事収録されましたけど。
(笑)。ほんま、無事にですよ。
――そのときにこの楽曲はダニエル・パウターみたいな雰囲気を意識したとおっしゃっていて、そういう意味ではモロに北米のポップスのニュアンスだし、かと思えば「Say No」なんかはアウル・シティあたりとも通ずる部分もありますし。
ああ! アウル・シティも好きです。やっぱり向こうのポップスが好きっていうことなんでしょうね。
SHE'S・井上竜馬 撮影=風間大洋
――そういう洋楽要素はもちろん感じつつ、僕には今作から竜馬くんのルーツである細美(武士)さんの姿も見えたんですが。
あぁ~(笑)、そう、そうなんですよ。結局激しめの曲とかになると、出ちゃうんです。
――僕はそこがすごく良いと思うし、嬉しくもあったんですよ。僕もエルレ(ELLEGARDEN)時代から好きで聴いてますけど、世代的に、僕は思春期に聴いて影響を受けたわけではない。でも竜馬くんくらいの世代はエルレが直撃したわけだから、そのDNAがどこかに表れるのは必然だし、すごく正しいことじゃないかって。上の年代のミュージシャンだって、さらに上のミュージシャンのエッセンスは出ているわけだし。
それは確かに。……英語の部分とか、どう足掻いても「細美さんだよね」ってめっちゃ言われるんですよ。
――「Running Out」とか、そうですね。
そう。なんかね、作ったり歌ったりしているときは全然、自分では思わないんですけど、さあミックス終わりました、で聴いてみたら「オイオイ!」みたいな(笑)。
――(笑)。「◯◯っぽい」っていう風に悪い意味で言われちゃうことが多いから、誤解は招きたくないんですけど、上の世代や海外の良い音楽を継承するという意味では大事なことです。
やっぱり一番好きやからこそ、一番意識して、メロディとかも似せないようにはしているはずなんですけどね。でもどこからか滲み出るんでしょうね……だから、この間細美さんにお会いしたときにCDは渡したんですけど、「恥ずかしいから聴かんといてくれ」「でも聴いてくれ」みたいな、複雑でしたね(笑)。
――それ、良い話じゃないですか。「好きでした」「聴いてました」っていう言葉より、ずっと説得力のある音源を渡すっていう。……で、この話、書いていいですか?(笑)
あ、全然大丈夫です!
――ありがとうございます。……と、壮大に脱線しましたけど、アルバムの話に戻しまして。僕は「パレードが終わる頃」が好きでして。
あ、僕も結構お気に入りです。イメージとしては軍歌系の行進曲というか、凱旋パレードみたいな。最初は祝祭感のある曲を書きたいと思ってサビができたものの、こういう軍歌っぽいリズムやサウンドが好きだし、そういう風にしたいなと思って、人生をパレードに置き換えて書きました。
なんというか、パレードの華やかな部分だけを見ているわけじゃなくて……それは意識したわけじゃなくて根暗やからそうなっただけなんですけど、大体パレードから連想する曲って華やかじゃないですか。それが“終わる頃”っていう曲だし、パレード=人生が続いていくうちの――Aメロの終わりとかもそうですけど――嫌な部分や裏側の部分、あまりみたくない部分にフォーカスを当てている曲なんです。
SHE'S・井上竜馬 撮影=風間大洋
――凱旋しているという観点でいっても、何かに勝ったわけで、そこには当然敗者もいて。
そうですね。なんかこう、十字路の行き先とかもそうですけど、人生は基本的に選び続けているものだから、「勝った」という言い方が正しいかはわからないですけど、その道を選べたこと自体がすごく正しさに繋がってるんじゃないか、と思うんですよ。
――決意表明的なテーマでもあるのかな?とも感じましたが。
決意表明であり、先が見えないものに対しての「こういうものなんやろな」っていう希望というか。「華やかなマーチを鳴らして見せるんだ!」っていうよりは、<風塵>とか<銃声>とか障害物があった中をなんとかやってこれて、選んでこれて、最後には笑えてるかな?とか、誰かの喜びとなる曲を残せてるかな?とか、そんなことをぼんやりと思いながら。
でも最終的に、もし音楽が途中で……バンドが無くなってしまったとか、俺が死んでしまったとかがあったとしても、表現者として作った作品は絶対に残り続けるんやっていう、当たり前のことに、改めて認識できたことの歓びも表していて。そのことを<歓喜の調べ>っていうフレーズ、ブラス隊が出てくるところで表現していたり。そういう曲ですね。
――今後の音楽活動に向けても、ここに一個こういう曲を置けたというのは意味が大きいかもしれませんね。あと曲単位で聞いておきたいのが、リード曲の「Freedom」。これはもう疾走するロックナンバーですが、どんな風に出来上がった曲なんですか。
このアルバムってDTMで作ったデモからできた曲がほとんどなんですけど、この曲だけ実際にスタジオで僕がギターを持って作っていきました。元々ギターを弾くつもりの曲だったし、ガーッと弾きながら「こんな感じで」っていうイメージをメンバーに伝えながら、アナログな感じで作曲をしたんです。
――セッションに近い感じですね。それはそうしたかったから?
そうしたかったし、確か制作時間もあまり無かったと思うんですね。この曲を作ってる時期って「Stars」を急遽書き下ろすことになってバッタバタだった時期で……しかも、この曲って一回ボツになった曲なんですよ。それがレコーディング中、プリプロでディレクターとこのアルバムの収録曲をチェックしているときに、一応聴いてみてもらったら(指を鳴らしながら)「いいじゃん、それ!」って(笑)。
その翌日、「Stars」の件が決まった日に、「昨日やってたアップテンポの曲、どう? 合うんじゃない?」「あ、じゃあ作りこんでみますか」っていう話になって、「Running Out」と「海岸の煌めき」のレコーディングの合間にレコスタ内でセッションしながら作り始めたんです。でも一旦「ここですぐには出来ないので持ち帰って良いですか」っていうことになって、改めてスタジオに入って録り直しました。
――「Stars」も書かなきゃいけない上に……
そう、本来やるはずじゃなかった曲まで録ることになったし、どうしよう?っていう状態で作って(笑)。
――でもそれがリード曲、つまりアルバムの顔にまでなったわけです。
そうなんですよねぇ。敗者復活でM1優勝したトレンディエンジェルみたいな感じですよ(笑)。
――まさに(笑)。でもひときわロック感が強めだし、キャッチーだし、このアルバムのリードに相応しい曲ですよね。MVもまたすごくシンプルで……良かったですよ、映像に関しても今までのソフトフォーカスな感じから雰囲気が変わって。
監督にパキッとさせたいっていうことを話したし、シチュエーションとしても自然の中というよりは室内で撮りたいっていうことは伝えて。それに合わせて用意してくれたんですけど、実際、曲と映像が合っているなぁと思います。
最初から、MVは半ドキュメンタリーというか、ライブ映像みたいな感じでも良いんじゃないか?っていう曲だなと思っていたので、その雰囲気も残しつつ、勢いが出せましたね。
――そう考えると、作品全体がライブを意識していたところから、この曲がリードになり、こういうMVが出来上がり……っていう流れは一貫してますし、やはり“ロックバンド・SHE’S”っていう1stアルバムになった、この認識でいいですか。
はい!
――この作品とともに2017年の活動も本格化していきますけど、せっかくなので、年始の決意表明をひとつ。
お! そうですね……前年は転機に恵まれたし、転機にあふれた一年やったと思うんです。それを今年は、変化にあふれた一年にしたいです……します(小声)。
楽曲にしてもライブにしても、次のツアーからガラッと変えていきたいですし、実際、決まっているものの中にも今までやったことないことがあったり楽しみなので、まずはそこへ向かって。
――周りの状況や力による“転機”から、自ら“変化”を起こしていくと。
そう、起こしたいんですよ。もっと変化を恐れず飛び込んでいきたいし……怖いんですけど(笑)、その辺りを今後の活動で見せていけたらと思います。
取材・文・撮影=風間大洋
SHE'S・井上竜馬 撮影=風間大洋
2017.1.25 Release
※初回限定盤バンドルDVD:Acoustic Live in Tokyo and Osaka
収録楽曲:東京と大阪で行われた購入者限定招待ライブの模様を収録。
インディーズ時代の名曲を中心に、全曲アコースティックアレンジで演奏された貴重なステージ!
(収録時間:約40分予定)
収録楽曲:メジャーデビューシングル「Morning Glow」、セカンドシングル「Tonight」「Stars」を含む全11曲収録
2.海岸の煌めき
3.Stars ※MBS/TBSドラマ「拝啓、民泊様。」オープニングテーマ
4.Say No
5.Tonight
6.グッド・ウェディング
7.パレードが終わる頃
8.Freedom ※テレビ朝日系全国放送「Break out」1月度エンディング・トラック &SPACE SHOWER TV 2017年1月度POWER PUSH!
9.Running Out
10.Ghost
11.プルースト
OPEN/17:30 START/18:00
問い合わせ:夢番地(広島)082-249-3571(月~金/11:00~19:00)
■2017年03月05日(日)@岡山・イマージュ
OPEN/17:00 START/17:30
問い合わせ:夢番地(岡山)086-231-3531(月~金/11:00~19:00)
OPEN/17:30 START/18:00
問い合わせ:キョードー西日本 092-714-0159
OPEN/18:30 START/19:00
問い合わせ:WESS 011-614-9999(月~金11:00~18:00)
OPEN/17:30 START/18:00
問い合わせ:ノースロードミュージック 022-256-1000
OPEN/17:00 START/17:30
問い合わせ:キョードー北陸
OPEN/18:30 START/19:00
問い合わせ:キョードー北陸
OPEN/18:00 START/19:00
問い合わせ:サウンドクリエーター 06-6357-4400
OPEN/17:30 START/18:00
問い合わせ:SUNDAY FOLK PROMOTION 052-320-9100
OPEN/16:15 START/17:00
問い合わせ:HOT STUFF PROMOTION 03-5720-9999