『このマンガがすごい!』にもランクイン ヒトと機械の境界線が曖昧な未来を描く『AIの遺電子』
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Reader Storeコミック担当のカワチです。第4回の『マンガを掘りつくせ!Manga Diggin’』でお勧めするのは、“AI(人工知能)”を描いた作品。『このマンガがすごい!2017』オトコ編14位にランクインした『AIの遺電子』(山田胡瓜 / 秋田書店)です。わかりやすく言ってしまえば、“近未来版ブラック・ジャック”(幼女ではないけど、ピノコ的な助手の女の子も出てきます)でしょうか。
人工知能の専門医を訪ねるヒューマノイドたち
舞台は人間とヒューマノイド、産業AI(ロボット)が存在する近未来……。この作品で描かれる“ヒューマノイド”とは人間の脳を忠実に真似したAI(人工知能)のことで、彼らは人間と同じような権利を持ち、人間と共に暮らしています。鉄で作られたいわゆるステレオタイプのロボットではなく、彼らの多くは代謝機能を備えたバイオボディを持ち、外見だけでは人間とほとんど見分けがつきません。新しい技術の導入や事故や年月に伴うボディの変更などで、人工知能専門医・須堂を訪ねるヒューマノイドたちをオムニバス形式で描いています。
自我を持たない“道具”としてのロボット、人間に害をなす“脅威”としてのロボット、アトムやドラえもんなど困った人間を助けてくれる“スーパーヒーロー”としてのロボット……。ロボットやアンドロイドなどを題材にしたマンガはこれまで多く描かれてきました。私が子供の頃に好きだった『人形芝居』(高尾滋 / 白泉社)や『観用少女プランツ・ドール』(川原由美子 / 朝日新聞出版)には、寂しい人間を癒す“人形”が登場していました。彼らは人間と変わらない外見や人間と同等の立場で描かれることはあっても、何トンものトラックを軽々と持ち上げてしまうような特殊な力を持っていたり、困った時に使える未来の道具を出してくれたりと、特別な存在であることが大前提であったように思えます。
しかし、『AIの遺電子』では人間とヒューマノイドの境目がもっと曖昧で、ヒューマノイドがより人間に身近な存在として描かれているのです。彼らは暮らしの中で喜怒哀楽を感じ、怪我をすれば痛みを覚え、誰かに恋をしてはときめき、家族のことや人付き合いで悩み苦しむ、より“人間くさい”ヒューマノイドなんです。
ヒューマノイドにしか持ちえない悩み
このようなアンドロイドの存在は、まだまだ私たちの生活の中では非現実的に感じられますが、そう遠くはない未来に目の当たりにするかもしれない。そう考えるようになったのも、年末年始にAIに関するニュースを多く目にしたからです。
例えば、AI記者がデータを元に、1秒で天気予報の記事を書く」というニュース。私たちが頭を使い、捻り出している文章を、AI記者はものの1秒で書き上げます。文章だけではなく、音楽を自動で作るAIや絵を描くAIも登場しています。例えば、レンブラントの絵画すべてのデータをスキャンし、それを元に3Dスキャナーで“レンブラントの新作”をAIが描くというプロジェクト。油絵を使用しているため、さすがに数秒で描き上げることはできませんが、本物と比べてもどちらが本物かわからないほどのクオリティに驚きます。
『AIの遺電子』の中にも、売れない絵を描き続ける画家のヒューマノイドや、産業AIが書いた小説を編集するヒューマノイド、歌を生業としているヒューマノイドなどが登場します。彼らは自らの才能の限界に悩んだり、ボディの交換による歌声の微々たる変化などヒューマノイド独自の悩みに苦しむのです。人間の生活から手間や煩わしさを取り除く、便利なものとして生み出されたロボット。しかし、絵や小説などの芸術は人間が楽しむ娯楽であり、便利なものではありません。いわば“人間のテリトリー”であった芸術に、人工知能が足を踏み入れてきているのです。きっと『AIの遺電子』のヒューマノイドも絵や小説を楽しみ、マンガだって読んでいるのでしょう。作り出すだけではなく、楽しんで消費する側として……。 そう考えたとたん、ますますこの作品にリアルさが増してきて、鳥肌が立ちます。
今はまだ人間のコピー作品しか作れなくても、作中のヒューマノイドのようにAIが個性や感情を持ち、それぞれの個性を活かしたオリジナル作品を描くことも可能になるかもしれません。Pepper君が店頭にいることに街ゆく人々が少し慣れてきたように、ロボットの存在が当たり前になれば人間と同じような人格と権利を持ったヒューマノイドが現れ、「ヒューマノイドと人間が共存する未来」が来る――。子どもの頃に映画やアニメで見てきた「ロボットが人間の生活を便利にする近未来」は既に実現されつつあり、その先に「ロボットと人間の境目が曖昧な未来」が待っている。そんなことを考えながら、いつもは見なかったサイエンス系ニュースをチェックするようになりました。
「いつか自分の目で見るかもしれない未来」」覗いてみたい方は、是非ご一読あれ!
秋田書店/週刊少年チャンピオン
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