英国ロイヤル・オペラ・ハウス16/17シネマシーズン/あらゆる“愛”に溢れた伝統の夢舞台、ロイヤル・バレエの『くるみ割り人形』上映

レポート
2017.2.10
くるみ割り人形 ©ROH.2017

くるみ割り人形 ©ROH.2017


英国ロイヤル・オペラ・ハウス最新のオペラやバレエを映画館で鑑賞できる「英国ロイヤル・オペラ・ハウス 2016/17シネマシーズン」では、いよいよ英国ロイヤル・バレエの人気作品『くるみ割り人形』が上映される。今年90歳を迎えてまだまだ矍鑠としたピーター・ライト卿の振り付けによる、"ライト版"だ。ストーリー性豊かでドラマティックな舞台が、豪華な舞台セットや華麗な衣装、ROHの誇るダンサー達、さらにロイヤル・バレエスクールの子供達もパーティーの客や兵隊などで出演する。ROHがこの公演のために一丸となり、バレエへや作品への愛もたっぷりとこもった、夢と幸福感あふれる世界が展開される。

鑑賞後の感動とあたたかな気分に包まれる、満足感いっぱいの作品だ。

くるみ割り人形 ⒸTristram Kenton, 2013

くるみ割り人形 ⒸTristram Kenton, 2013

■すべてに隙のない豪華絢爛な舞台

このライト版『くるみ割り人形』の面白さはやはりまずは、隙のないストーリーにあるだろう。

このライト版にはネズミの王様によってくるみ割り人形に変えられてしまったドロッセルマイヤーの甥(ハンス・ペーター)が登場する。ドロッセルマイヤーは甥の呪いを解くため、クララにくるみ割り人形を託す。夜、ネズミたちが襲ってくるなか、果敢に戦うくるみ割り人形を助けようと、クララはネズミの王様をスリッパで撃退。呪いは解け、青年の姿に戻ったハンス・ペーターとクララはドロッセルマイヤーに導かれ、おとぎの国へ。そこでは2人は金平糖の女王と王に迎えられ、楽しい時を過ごし……という展開だ。

ⒸTristram Kenton, 2013

ⒸTristram Kenton, 2013

クララとハンス・ペーターの若い2人、そしてドロッセルマイヤーを通して伝わってくるクライマックスに満ち溢れる幸福感は、まるで見る者に希望を与えてくれるかのようでもある。

登場人物もクララ役のフランチェスカ・ヘイワード、ハンス・ペーター役のアレクサンダー・キャンベルに加え、ストーリーの軸となるドロッセルマイヤー役のギャリー・エイヴィスと、それぞれが実に表情豊かで踊りもマイムも雄弁だ。しかも映画ならではの大スクリーンで、その表情や目線、指先や身体の動きなどが細部にわたりしっかりと見えるため、登場人物の思いや感情はより、リアリティを伴って伝わってくる。
これは映画ならではの醍醐味だろう。

舞台セットや衣装も同様で、中世の板絵から抜け出してきたような天使のヨーロッパらしい重厚感のある色彩が、物語にしっかりとした色を加える。パーティーには舞台がドイツ圏であることを意識したのか、子供達にお菓子を配る聖ニクラウスとそのお供のクランプス(西洋のなまはげ)まで登場する。

実はこの作品はDVDで何度も見ているのだが、それでも新たな発見や気付きがあり、細部に至るまで隙がなく、本当に見応えがあると唸らされる。

くるみ割り人形 ギャリー・エイヴィス ⒸROH, Bill Cooper, 2013

くるみ割り人形 ギャリー・エイヴィス ⒸROH, Bill Cooper, 2013

■ダンサーの個性もそれぞれに輝くキャスティング

クララ、ハンス・ペーター、ドロッセルマイヤーに加えて金平糖の精役のローレン・カスバートソン、王子のフェデリコ・ボネッリをはじめ、登場するダンサーたちもそれぞれがそれぞれの役目をきっちりとこなし、物語をつくりあげている。舞台は隅々に至るまで人が生きてこそだと、改めて思う。

このライト版の金平糖の精と王子はおとぎの国の主として、最後のパドドゥを踊るのみだが、カスバートソンとボネッリは、だからこその絶対的な輝きと存在感を放つ。

「花のワルツ」の“主役”であるローズ・フェアリーを踊る崔由姫(チェ・ユフィ)は可憐で清楚で透明感に溢れてまさに妖精。アラビアにプリンシパルの平野亮一が登場しているのも日本人にはうれしく、同じく期待の若手、アクリ瑠嘉も1幕のドロッセルマイヤーのアシスタント、2幕の中国の踊りで成長を見せてくれて頼もしい。

現役の若手ダンサーからヴェテラン、バレエスクールの子供達までが隅々まで重厚な夢と愛あふれる物語を作り上げているROHの『くるみ割り人形』。映画ならではの特典ともいえる幕間のインタビューやバックステージの様子からは、引退したダンサーも含め作品や踊りの技術や演技が大切に伝承されている様子も伺える。「伝統を育む」というのは、これまでバレエ団や作品に関わった者すべてを含めた「人」を財産としっかり認識し、その人の技術や経験を伝承していくことなのだと改めて思わされ、またその作品一つひとつを未来を担うダンサー達が新しい息吹を加えて上演することで、我々聴衆の心を打ち、さらに次代へと繋がっていくのだろう。

「ロイヤル」、いわば「国」の名を冠する責任と誇りも伝わってくる。一流であるとはこういうことかと、改めて感じいる舞台でもある。ぜひ目にしていただきたい。

くるみ割り人形 ローレン・カスバートソン ⒸTristram Kenton, 2015

くるみ割り人形 ローレン・カスバートソン ⒸTristram Kenton, 2015

上映情報
英国ロイヤル・オペラ・ハウス 2016/17シネマシーズン 『くるみ割り人形』

会場・日程:
北海道/札幌シネマフロンティア/2017/2/18(土) ~2017/2/24(金)
宮城/MOVIX仙台/2017/2/18(土) ~2017/2/24(金)
東京/TOHOシネマズ日本橋/2017/2/10(金) ~2017/2/16(木)
東京/TOHOシネマズ六本木ヒルズ/2017/2/10(金) ~2017/2/16(木)
千葉/TOHOシネマズ流山おおたかの森/2017/2/10(金) ~2017/2/16(木)
神奈川/TOHOシネマズららぽーと横浜/2017/2/10(金) ~2017/2/16(木)
愛知/TOHOシネマズ名古屋ベイシティ/2017/2/10(金) ~2017/2/16(木)
大阪/大阪ステーションシティシネマ/2017/2/10(金) ~2017/2/16(木)
神戸/TOHOシネマズ西宮OS/2017/2/10(金) ~2017/2/16(木)
福岡/中洲大洋映画劇場/2017/2/11(土) ~2017/2/17(金)
※上映時刻等の詳細は公式サイトからご確認を

■振付:ピーター・ライト/レフ・イワノフ
■音楽:ピョートル・チャイコフスキー
■指揮:ボリス・グルージン
■出演:フランチェスカ・ヘイワード(クララ)、ローレン・カスバートソン(こんぺいとうの妖精)、ギャリー・エイヴィス(ドロッセルマイヤー)、フェデリコ・ボネッリ(王子)、アレクサンダー・キャンベル(ハンス・ペーター/くるみ割り人形)、平野亮一(アラビアン・ダンサー) ほか
■上映時間:2時間39分

■公式サイト:http://tohotowa.co.jp/roh/​
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