夏代孝明 インタビュー アニメ『弱虫ペダル』OPテーマを歌い見えたもの 新シングル「ケイデンス」&楽曲制作について語る
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夏代孝明
シンガー・夏代孝明が2月15日にシングル「ケイデンス」をリリースする。表題曲「ケイデンス」は、現在放送中のTVアニメ『弱虫ペダル NEW GENERATION』のオープニングテーマとなっている。自身も昔から愛読していたという『弱虫ペダル』のオープニングテーマを担当することが決まった時の率直な感想、そして現在の想いとは? さらに、楽曲制作についてや今後シンガーとして目指すところなど、たっぷりと語ってもらった。
──2月15日に2ndシングル「ケイデンス」をリリースされます。タイトル曲は現在放送中のTVアニメ『弱虫ペダル NEW GENERATION』のオープニングテーマですが、今回のタイアップのお話が決まったときの感想はいかがでしたか?
一番最初は“えっ!? ホントに僕!?”っていう感じでした。これってドッキリなんじゃないかな……って思うぐらい驚いたんですけど、その2時間後ぐらいから1日中ずっとニコニコしてました(一同笑)。
──でもそうなりますよね(笑)。学生の頃から原作を愛読されていたわけですし。
単行本も全部持ってるのですが、電子書籍でも何巻か買っていて(笑)、パソコン上でも読めるようにしています。昔は(パソコンの)モニターを3枚使ってたんですけど、真ん中のモニターでDTMを起動して作曲しながら、エフェクター類を右のモニターに寄せて、左のモニターが『弱虫ペダル』という体制で作業していたこともありました。
──読みたいと思った瞬間に手元にないと嫌だ!っていう感じだったんですね。
本当にそうです(笑)。漫画もですけど、アニメも観させてもらっていて、これまでのオープニング曲もすごい好きだったんです。そこに作り手として参加させてもらえるというのはすごく光栄だなと思いましたし、やらせていただけるのならとにかく最高のものにしたいと思いました。
──ご自身の曲がテレビで流れているところはご覧になりました?
はい! 1回目の放送のときに、友達の家でみんなで観てたんですけど、「おおー! 流れてるやん!!」って(笑)。テンションが上がって、思わず写真をたくさん撮ってしまいました。
──テレビ画面の写真を?
はい(笑)。
──でも確かにテンション上がりますよね。夏代さんは『弱虫ペダル』のどんなところにハマったんですか?
『弱虫ペダル』はロードレースの漫画ですけど、ロードレースって“1位は絶対にひとりしかいない戦い”じゃないですか。それを決めるためにみんなが努力して……決してハッピーエンドなだけではないんですよね。
──1位になって笑う人もいれば、1位になる人のことを支える人もいて、そこに挑んでいって破れてしまう人もいるし。
かといって、負けていった人たちが決して努力をしていないわけではなくて。だけど、“1位は絶対にひとりしかいない”わけで、そこで必ず順位はつけられてしまう。そういった勝負の無情さとか残酷さも描かれているところにリアルを感じるし、ドラマ性があっていいなと思っていて。それに、“1位になれなかったけど、でも次は頑張ろう”って気持ちを切り替えていくキャラクターたちの心の動きとかは、自分が挫折したときに支えになるくらい深みがあって。そういったところから勇気をもらえるところも好きですね。
──実際に落ち込んだときに読んだりもしました?
しました。音楽をやっていると、やっぱりヘコむこともあるんですよ。うまくできなかったり、タイミングが掴めなかったり、そこにはいろんな要因がありますけど。そうやって落ち込んでるときに、インターハイのところは何回も読んだりしてましたね。
──ちなみに、好きなキャラクターは誰ですか?
巻島先輩が一番好きです。自分のやり方を最後まで貫く姿勢がかっこいいなと思って自分自身とも重ねていて。僕の歌声は特徴があるので、それが個性になっているのですが、一方では同じような声質の方、コラボ曲を制作するときに相性が良さそうな方を見つけることがなかなかできなくて、ずっとひとりでやっていたこともあって。でも、それをオリジナリティとして活用していく、それを自分にしかできないこととしてやっていこうって。巻島先輩が自分のスタイルを貫いているところを見ていて、僕もそうなれたらいいなって、作品を読みながら思っていました。
──すごく思い入れのある作品のオープニング曲「ケイデンス」。夏代さんは作詞を担当されていますけど、どういう流れで制作していったのでしょう。
まず曲をいただいて、そこから歌詞を考えていったんですけど、曲自体に“弱虫ペダル感”がすごくあったんです。『弱虫ペダル』って、透き通った青空が目にパっと浮かぶような作品ですけど、曲を聴いた段階でそのイメージが僕のなかでもパっと浮かんだし、今回の3期がどういうストーリーになるのかは漫画を読ませていただいて理解しているので、とにかく作品に沿っていこうと思いました。総北(高校)がインターハイで1位になり、先輩たちが卒業していくなかで、その意思を自分たちの世代がどう受け継いでいくのかというところを歌詞にできたと思います。
──でも、すごく思い入れがあるぶん、歌詞を書くのが難しかったりしませんでした?
すごく難しかったです。やりたいことがいっぱいありすぎて。やっぱり“作品を大事にしたい”“ペダルファンの方が聴いて納得できるものにしたい”という思いがまずあったんです。それで、(小野田)坂道くんの名前を借りてみたり、坂道くんがピンチになったときに歌を歌うこととか、必殺技じゃないですけど、ハイケイデンスで坂を登っていく感じとかを歌詞に活かしたくて。でも、「ケイデンス」ってあまり日常で使わない言葉だから、それをどう書いていくのか?というところで悩みました。
──「ケイデンス」は自転車用語で「ペダルの毎分回転数」という意味ですけど、作品内でよく出てくるワードなのもあり、むしろ絶対に使いたいところもあったんですか?
サビの最後にある<ケイデンスあげて>は、曲を聴いたときに、なんとなくですがこれでいこうかなって思ったんですよ。そこからその説明を他のところで足しつつ、いろいろ調整していった感じで。そうなると、やっぱりタイトルは「ケイデンス」かなって。
──自分の大好きな作品の世界に没入して歌詞を書いていく作業はやはり楽しかったですか?
楽しかったです。少し話がずれるかもしれないんですけど、僕、パズルゲームが好きなんですよ。それと感覚が似ていて。自分が入れたい要素を紙に書き出していって、それをどういう風に、どういう順番で組み合わせたら成立するかって考えながら書いていたので、ワクワクしました。ここは順番を逆にしたほうがいいんじゃないかとか、そうやって書き進めていくのがすごく楽しくて。ライブのセットリストも結構似たような感じで組んでいくんですよね。
──カップリングの「ユニバース」と「ふたつの物語」は夏代さんが作詞作曲をされていますけど、それとは作業方法が違ったりします?
そうですね。「ケイデンス」はパズルだったりクイズ感覚で、自分が入れたいものはコレとコレとコレで、それらをどう組み合わせるのか?っていう感じなんですけど、一方、作曲作業から自由に書くときは、伝えたいテーマが漠然とあって。そこから、そのフレーズは言葉にするとこうかな?って前後をつなげていくことが多いんですよ。だから作り方は違うんですけど、どっちもすごく好きですし、楽しいですね。
──ちなみに、「ユニバース」はどういうところから作り始めたんですか?
僕、友達と一緒に上京してきたんですけど、土日になるとみんなで集まるんですよ。で、友達が“俺、いつ結婚しようかな……”というようなことを話し始めて、“マジ!?”というやりとりをしているうちに、将来の話になったりするんです。僕は最終的にこういう音楽がやっていけたらいいなとか、そういう話をしているときに、そういえば高校生のときもこんな感じで話していたし、いつの時代もこうやって“こんなことがしてみたい”っていうのを、なんとなく話すのってすごく楽しいなって。“この夢は絶対に叶える!”という感じというよりは、“こうなったらおもしろいよね?”みたいな、フラッシュアイディアに近い想像を話したりして、ワイワイする時間って大事だなって思ったんです。そこからサビの<叶わない夢ばっかならべては 矛盾だらけの生命体>が出てきて。
──なるほど、実体験がもとになって。そこからメロディーをつけていく?
作り方としてはいろいろあるんですけど、僕がよくやるのは、思いついた歌詞とメロディーをそれぞれストックしておいて、その中から噛み合うものを選んでいくやり方ですね。<叶わない夢ばっかり>っていう言葉は、その言葉だけだとマイナスなイメージが強いから、明るいメロディーと組み合わせたいと思ったんですけど、サビのメロディーは、たしか去年の春ぐらいに思いついてたのかな。それとすごく噛み合うなと思ったので、引っ張ってきて当てはめたっていう感じです。
──元々お題があるのか、漠然とした思いから始まるのかっていうスタートの差はありますけど、楽曲の作り方としては、組み立てていくイメージが強いんですかね。
そうかもしれないですね。紐づけていくのが僕の作り方かもしれないです。歌詞とメロディーが同時に湧いてくるときもあるんですけど、それってほとんどラッキーというか、本当にたまにしかないんですよ。でも、ストックを紐づけていくやり方なら数も作れるし、かつ自分の言いたいことも言えていいなと思って。特に最近は曲をいっぱい作りたかったから、このやり方が一番いいのかなって思っています。
──でも、最近はなぜ曲をたくさん作ろうと思ったんですか?
要因はいろいろあるんですけど、一番大きいのは自分の言いたいことを自分で言いたいと思ったんですよ。今までは、自分が共感したものを一生懸命歌わせていただくことが多かったんですけど、自分が本当に言いたいことと完全にマッチしている作品って、たくさんあるわけではなくて。そういう曲をただ待っているだけだと活動の頻度が落ちてしまうかもしれないし、健康的じゃないなと思って。それに、1stシングルを出したり、いろんな環境でやっていくことで、自分の言いたいことを自分で言うことがどれぐらい大切なのかをより実感したんですよね。だから最近は、作詞作曲をしっかりやっていきたくて。あと、自分で作詞作曲した曲をボーカロイドで投稿したりもしていて。
──「ユニバース」は、ボーカロイドでの投稿もされてましたよね。
はい。そこは“ボーカロイド”とか“歌ってみた”に貢献したい気持ちがあって。僕自身、そこで夢を描きながら音源を投稿していて、それがすごい楽しかったし、今まで歌わせていただいていた側だったんですけど、もうひとつ何か貢献できることがあるとすれば、作詞作曲でみんなにメッセージを届けることもできるんじゃないかと思って。
――なるほど。
自分がカバーした歌を好きと言ってもらえることが嬉しかったんですけど、作詞作曲したオリジナル曲自体を気に入って頂けるのはまた別の感慨があるんです。夏代孝明の歌っていうものを一旦抜いて、ボーカロイドに挑戦したのはそのような意図がありました。
──夏代孝明という人間を表に出さずに、曲そのものを届けることで、なにか伝えられるものがあるんじゃないかと。
そうです。ユニバースは、シンガーソングライターとしてではなく、作家という意識で制作しました。公開後、誰かが歌ってくれるっていうことが嬉しくて。それらを聴くと、まるで自分に楽曲のメッセージが返ってきたような気持ちになり、新鮮な発見がありました。というのは、僕はこれまで誰かを励ましたいと思って歌詞を書いていて。でも、それはもしかしたら視点が逆で、誰かのためにと思っていたことは、自分のためだったのかもしれないと。
──そういう意味では、すごく正直な気持ちを書かれているんでしょうね。自分が書いている言葉が、自分が求めていた言葉だったのであれば。
深層心理なのかもしれないですね。僕、普段はひねくれ者なので(笑)、作品として表面化したものが意外と素直で驚いているところもちょっとあるんです。でも、音楽ってそういうところがおもしろいなと思います。曲と人間性が必ずしも一致しないというか。すごく暗い曲を書いている人が、会ってみたらすごく明るくておもしろい人だったりとかしますし。僕としても、歌詞に書いているような明るい人間になりたいですね(笑)。
──でも、今お話している感じからは、そういう暗い雰囲気をあまり感じないですよ?
外に出て、稼働や取材のときは普通なんですけど、制作期間に家で作業をしてにいるときは一言もしゃべらない日もあるし、ずっと画面を見てるだけの日とかもあって。それで、“これはやばい……外に出よう……”って街を一周して、帰ってきたり(苦笑)。結構内省的なんですよね。
──となると、今年の目標としては、曲をたくさん作り、明るい人間になろうと(笑)。
そうですね!(笑) あと、優しい人間になりたい気持ちもすごくあって……音楽って衣食住とは関係のないものじゃないですか。そういった娯楽に意識や時間をさいてくださる方々のリアルな生活のプラスになるようなものを作っていきたいと思っていて。なので、最終目標としては、明るくて優しい人間になりたいです(笑)。
取材・文=山口哲生
2017年2月15日(水)発売
夏代孝明「ケイデンス」アニメ盤
アニメ描き下ろしジャケット
夏代孝明「ケイデンス」アーティスト盤
深町なかオリジナル描き下ろしジャケット
夏代孝明「ケイデンス」通常盤
深町なかオリジナル描き下ろしジャケット
収録曲
1.「ケイデンス」
2.「ユニバース」
3.「ふたつの物語」
4.「ケイデンス」(Instrumental)
5.「ユニバース」(Instrumental)
6.「ふたつの物語」(Instrumental)
【アニメ盤】TVアニメ『弱虫ペダル NEW GENERATION』
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【アーティスト盤】DVD[「ケイデンス」ミュージックビデオ/「ユニバース」オリジナルアニメミュージックビデオ]